はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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to be or not to be

 

 

 

 

 

 

 

 流星群。

 

 彗星の散りばめる物質が地球に降り注ぐ現象。

 有名な物はペルセウス座流星群や獅子座流星群。春の終わりに近しいものでは、こと座流星群がある。

 

 時折一際大きな一粒が火球とも呼ばれ、暗い夜空を一条の線で明るく照らす事もある。

 

 人はその光に願いを込めた。

 

 しかし。

 

 流れ星が叶える願いは、善なるものだけだろうか。

 何をもって、善とするのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざっと通り過ぎる大きな雨粒、咲いている花に嫉妬しているように、か弱い花弁を叩く。

 探偵事務所の二階の窓から目視出来る程に激しい。

 

「春驟雨ってヤツか、桜も見納めだな」

「しゅう…?」

「春のにわか雨の事ですよ、見た目と違って太陽くんは生意気にも季語とかを知っていて博識ですからね。見た目と違って」

「確かに…」

「俺の見た目に言及する必要あった? てか何で二回言ったの? 特待生っすよ俺」

 

 雨に対しての所感、風流だねぇ。何て言おうとしたら、小首を傾げて知らない言葉を聞き返そうとしたレイリーに先んじて相槌を返すフォンセルランドさん。

 

 いや何気ない日常会話の中で不意に傷付けてくるじゃん、俺の頭は地毛だよ。おかしいな…これも怪異ってヤツの仕業か? 

 

 この謂れのない暴言に対して冷静になって考えてみるとだ。我らが探偵事務所に在席していた・している魑魅魍魎と人類、その毛髪の色は中々カラフル。

 

 純黒は黒猫のタマさんと人間兵器な千々石さんだけ。

 フォンセルランドさんは金髪で、俺は金髪っぽい茶色。所長は灰色と黒。レイリーは真っ白。

 

 …やっぱり俺だけ誹謗中傷を浴びるのはお門違いじゃねぇの!?

 

「っていうか、それを言ったらフォンセルランドさんなんて俺より金髪じゃないっすか。しかも俺の場合は地毛っすよ、わかる? ナチュラルなんすよ」

「私も同じですが? むしろ全身金髪金毛です、見てみますか。ディテールに拘られた証である下の…」

「見ねぇよ! まだ昼間で健全な女子高生もそこに居るのに変な話してんじゃねーよ!」

 

 何で頭の毛から下の話に行くんだろうね。

 何気ない日常会話から、こうなっちまうとはな…これも怪異の仕業だな? 間違いなくそうだよ。

 

「それって…私が居なくて夜だったら見てたの?」

「違うよ?」

「えっ!? 見ますか!!?」

「見ないよォ??」

 

 三人寄れば文殊の知恵、そんな言葉もあるが。この状況はただの二対一、レイリーがそっち側だとは思わなかったぜ。

 

「うぃーす、アタシのおかえりだぞーもてなせ人類」

「あら…おかえりなさい。タマキ」

 

 よく油を差してある事務所の扉、そのまた下部にある小さな出入り口から。黒い猫が物音を立てずに、しかしそこそこの声量で帰宅を宣言した。

 

 猫用玄関から助け舟、ナイスタイミング。猫の手も借りたい数的不利をひっくり返すチャンス到来。これぞまさしく所長代理だ、サンキュータマさん。

 

「タマえもーん! 女子がイジメるよォ!」

「は? ウザ…」

 

 あれ!? 

 反応が露骨に冷たいぞ!? 

 

 取り付く島もないというか、機嫌が悪い訳でもなさそうなのに。こちらの言葉をシャットアウト、これじゃあご機嫌斜めでバッドキャット。

 

 たぶんアレだな、急にテンション高め、大声マシマシですり寄ったからイラッとしたんだろうな。代理ってば騒がしいの苦手だし、つまりこれは俺の凡ミス。どうにかして失点を取り返していこう、しまっていこーぜ! 

 

「違うんすよ代理。事務所内で行われる、いともたやすく行われるえげつない行為こと見た目の話と年功序列や性別ヒエラルキーを駆使したイジメってヤツがですね…」

「いや知らんし…やり返せにゃきゃお前の負けだろ」

「ぐぅ…!」

 

 困ったな、ぐうの音も出ねぇや。

 ぐぅって言ってるけど。

 

「まぁマジの殺し合いでもにゃければ、ただのじゃれ合いだろ? どうせお互い本気でもねーんだから。んにゃ事より仕事をしてきたアタシを労え、すぐ、ニャウ」

 

 代理は冷静だなぁ。

 

 たしか、所長の送迎で出払ってたんだっけか。今日俺とレイリーが事務所に来てからというもの、異様に慌ただしく外出して行ったもんな。なんの用事なのかはフォンセルランドさんも知らなかったようで、とにかく緊急事態…らしい。

 

 もしかしなくても、所長と離れるってストレスで苛立ってるのかもしれない。タマさんってそういう所あるよね、仕事をなんだと思ってるんだ。

 

「しゃーないっすね…じゃあこのカリカリを」

「タマキさん、ちゅうるです」

「っはー! 気が利くにゃあ!」

 

 や、やられた…ッ! レイリーめ、タマさんの好物を先に用意しておくとは。この事務所での立ち回りってヤツがわかってるようだな。

 

 じゃあ俺もちゅうるを持っておけば良かったんじゃないかって? それはダメなんだよ、所長からタマさんに渡していいオヤツは週に幾つかって言われてるんだ。

 

 どうにもその…少しずつふくよかになられて来ているらしくて、な! 面と向かって言うのもはばかられる事情ってヤツさ。

 ちなみにレイリーが渡してるのはダイエット用、自費で買ってたよ。これって賄賂じゃないか? 

 

「ま、それは置いといて…全員、今日はもう休みだ」

「えっ」

「…?」

「唐突ですね」

「事務所閉めたらメリーはアタシと飲みに行くぞ」

 

 ちょっと自由過ぎるな、猫だとしても限度があるんじゃないかと言わざるを得ない。何より理由が気になる、所長が完全に居ない状態、更に仕事もまだ残っているはず。これで事務所を閉めるっていうのは正気の沙汰とは思えないが。

 

「代理、まだ仕事があるんじゃ…」

「それは明日に回せ、主人がそう言ってんだから休みと言ったら休み、いいにゃ?」

「えぇ…? うぅーん…」

「本当に、いいんですか?」

「所長の判断ですから、それに従いましょう。それにしても…この昼間から飲酒とは、中々インモラルな気がしますね。それに妙齢の女性が二人、アルコール。何も起きないはずが無く…ワクワクします」

「にゃんも起きねーよ! アタシにそっちの気は無し!」

「チッ…」

 

 フォンセルランドさんの冗談って時々怖いよね、本気で言ってるのかわからなくなるもん。

 …冗談だよな? 

 

 うん…ま、まぁそれはいいか。主な被害者はタマさんだから何とかなるだろ。

 

 それにしても本当に急に休みが言い渡されたな。決してワーカーホリックって訳じゃないと自分では思ってるが、凄まじい手持ち無沙汰が襲いかかってきたぜ。

 

「…どうすっかな」

「ねぇ」

 

 料理は…作り置きを作ってあるから、別に腕によりをかけて何か作るって必要もないし。学校の課題も特に無し、読みたい本も無いしな。や…やる事がねぇ…。

 

「ねぇ…!」

「…どうした?」

 

 服を引っ張られつつ呼びかけられてるんだけれども、レイリーとの彼我の身長差も相まって子供に話しかけられた気分だ。これを言ったら殴られるな。

 

「星、見に行かない?」

「星ィ?」

 

 星? 

 頭上に広がるアレか、英語で言うとスター? 

 錦野とは無関係な? 

 

「おーおー…デートしてこい若者ども」

「流星群の極大期でしたか。ふむ…あっ! いけません二人とも! 日の落ちた深夜に、うら若き男女がする事なんて一つ! 二つの星がドッキングして新しい星が産まれてしまいます!!」

「なんの話してんの? アホなの?」

「それはもうセッ」

「ほら解散!! やめろバカタレ!」

 

 隙あらば下の話に行くフォンセルランドさん。なるほどね、星が落ちるって話だけにシモの話ね。

 …なるほどじゃねぇよ、天文学者に謝った方がいいな! 

 

「行こう?」

「えっ…いやほら、門限とかさ…な?」

「じゃあ夜に迎えに行くから」

「レイリーって意外と話聞いてくれねぇよな」

「聞いてるよ?」

 

 それは聞いてるうちに入らねぇよ。聞こえてるって話じゃないんだよ、このホワイト座敷童子め…! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流星群とは言っても、流石に都心の汚れた空気の中では見えたもんじゃない。

 そもそも普通の星空だって、有名な一等星が偶に見える程度で星空って言葉が虚しく感じる。

 

「っくし…」

「おいおい…」

 

 春だとしても、夜は冷える。花冷えという程でなくとも寒いものは寒い。こっちは風邪を引くような身体じゃないが、普通の女の子は気をつけなきゃダメだろ。

 

 こんな事もあろうかと、そう思って持ってきた携帯式カイロを手渡した。

 

「ありがと…」

「俺はバカだから風邪引かねぇからいいけど、お前が風邪引いたら御両親に面目が立たないじゃん?」

 

 今は人工の光が少ない場所、河川敷を目指して歩いている。時間が経つごとに人通りがまばらに、満天の星空が近付くに比例して人の気配が薄くなる。

 

「んー…何か新鮮だな」

「そうなの?」

「そうなんだよ」

 

 夜の街を出歩くのは慣れている。でもそれは仕事の為であって、こういったイベント目当てじゃない。

 特に、星を見に行くなんて。まぁ小洒落てるというか、ロマンチックな目的は縁がほぼない訳だ。彼女とか居ないからな、うるせぇはっ倒すぞ! 

 

 少しばかり正直な事を言うと、彼女とか、それに類する存在は作る気が無い。理由は至ってシンプル、採点するなら赤点スレスレ、存在がギリギリ人間に付き合わせるのはお互い幸せになれないだろ? 

 

 こころさんへのアプローチだって、恩返しの一環。

 …いや、結婚を申し込むのはアリだな…! 

 

「…むぅ」

「おふッ…えっ、何で小突いたのォ?」

「…変な事考えてたでしょ」

 

 ここ最近理解してきたが、どうやらレイリーは鋭いようだ。勘がいいんだな、うん。

 あと、無口だったり言葉数が少ない感じを醸し出しているけれども、本当は頭の中では言葉が渦巻いてるタイプ。そのせいで会話がほんのワンテンポズレているように思われる。

 思った事をそのまま喋れば楽だと思うんだけどな、本人もそれが出来れば苦労はしないか。

 

「んで、何でまた天体観測なんだ?」

 

 見えないものでも見ようとしてるのかいお嬢さん。今という箒星でも追いかけたく…やめとくか。

 

「お願い、叶うんでしょ」

 

 …まさか、そんな都合のいい事は起こりはしない。

 

 そもそも人間にとって有益な『噂』は数が少ない。どいつもこいつも、大きな力を手に入れればロクな事をしないか。それとも勘違いして面倒事を引き起こす。俺も含めてそんなもんだ。

 

 もしも願い事が叶うっていうなら、世の中もうちょっとだけマトモなんじゃないか? 

 

「その是非はともかく。何か星にお願いするような大それた夢とか希望でもあんのか? …今をときめく女子高生ならまぁあるか」

「うん、あるよ」

 

 平和的でいいもんだな。レイリーが何を考えてるのか知らねぇけど、きっと穏やかな願い事だろうと思う。

 

「…何を、ってのは聞かないぜ。ついヒトに言っちまうと叶わねぇってよく言うしな」

「でもお願いはしないよ」

「なんだそりゃ」

 

 横を歩いていた白い人影が前に出る。

 それはまるで。

 

「自力で叶えるから」

 

 小さい姿で堂々と。こちらの顔を射竦めるように。

 宣戦布告でも言い渡したかのような格好だ。

 

「お前…カッコイイぜ」

「えっ」

 

 これは今日知った事。

 目の前に立ち塞がるような、この小さな同級生は。意外なほどカッコイイ。

 

「おっ川辺が見えてきたじゃーん」

「…他の人も、いる?」

 

 ちょっとばかし誤魔化すように目的地が見えたと言った訳だが。どうやら先客がいたようだ。これも今日初めて知ったんだけど、夜目が効くなレイリー。しかもめっちゃ視力いいじゃん。

 

 こんな時間に人が…と考えても、およそ目的は一緒だろう。都会で天体ショーを味わうなら、こんな場所でもなければ明る過ぎる。

 

「……ん?」

「どうしたの?」

「悪い、レイリー。ちょっとここで待っててくれ」

 

 出来るだけ、冷たい声にならないようにした。

 

「…なんで?」

「いいから、なんでも、だ。五分くらいで戻るから、気にしないでくれよな」

 

 河原にいる人影。

 俺はレイリーよりも目が良い、常人より夜目も効く。

 

 当たり前だ、そうなっちまったんだから。

 

 だから、アレが見えた。

 

 

 

 人の身体を弄くり回したイカレ野郎と、同じ仮面が。

 

 

 

 早足になっている、こちらとしても気配を隠す気はない。もしかしたら人違いの可能性だってある。

 あと一歩、声を掛けるにも自然な間合い。

 そして必殺の距離。

 

「…ふむ…これは…」

「突然すいませぇん、天体観測っすか? いやぁ手持ちの懐中電灯の電池が切れちゃって…今の時間ってわかりますゥ?」

 

 怪しまれないように、フランクに。そしてちょっと困っている人を装う。

 

「流星…正確には彗星にまつわる話だ」

「は?」

 

 返ってきた声は、しわがれていて枯れ木のようだ。

 見れば服装も奇妙、全身を覆うローブかコートのような物からはみ出る手はミイラのように細い。

 

「昔、ある彗星が毒を運び。その毒によって全生命は死に絶える、そんな話があった」

「……」

 

 仮面が歌う。

 

「誰も彼もがその噂を鵜呑みにして、自身の身を守ろうと、か細い管にさえ縋った。

 結果としては、そう、今。命が滅んでいない、その事実が答え合わせだろう。

 だが現在、流星群が迫る。噂が現実になればどうなるか。わかるだろうか。

 當真 太陽」

「…なんで人の名前を知ってんだ?」

 

 そよ風が吹く、衣ははためけども仮面は揺れない。

 コイツは何だ。

 

「無知は罪だと言う。知らぬが仏とも言う。

 知らず知らずのうちに誰かが奔走すれど、止めようのないものがある。

 それは、願いだ。

 明日を望むは人間だとすれば、明日を望まぬも人間だ。お前が何をしようと、何も止まりはしない」

 

 自分の背後から、何かが崩れ落ちる音を耳が拾った。

 

 何が? 

 決まっている、そこにいたのは彼女だけだ。

 

「レイリー!?」

「只人は死に絶える。

 そうだ、これがひとの願い。

 一人では寂しい。独りでは死にたくない。

 明日なんてこなくていい、その結集」

「何をしやが……ぁ?」

 

 景色が回る。

 

「一つ…お前に教えよう。

 阻止出来る時に悪役が姿を現す、そのような都合の良いものは物語の中だけだ。そも、我等は悪ではない。

 ただ、ヒトの願いを叶えただけだ」

 

 無感動に無感情に、枯れ木が続ける。

 

「こうして、世界は滅びる」

 

 そして、例外なく。あまりに唐突に。

 彗星が毒を齎すという『噂』を以て。地球上の生命は一晩のうちに、眠るように息絶えた。

 

 

 

 

 




※まだ続きます、打ち切りエンドではありません。


御意見・御感想・御評価。質問疑問、誤字脱字等々ありましたら御指摘賜りたく存じます。
や、優しくしてね…!
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