はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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 初の登校日、ただしそれには。

 新学期では、という言葉が付く。

 

 今日から高校二年生。

 これといって緊張するでもなく。去年の暮れか、それともつい先月くらいの登校日を引き摺った気持ちで、あくまで普通に、悠々と登校する。

 

 前言撤回。やっぱり少し緊張する。

 

 通っている高校は都心部の公立校にも関わらず、非常に敷地が広い。しかも中高一貫校で偏差値は高め。

 部活動も都大会出場常連の一般的な運動部から、名前を出すだけで警戒される程度には危険な文化部に非公認の活動もあったりと豊富。

 委員会活動は…部活動の奇々怪々っぷりを考えれば普通だろう、ただ、冗談みたいに完璧な人が率いる生徒会はあったりもする。

 ちなみに、この学校。制服も可愛いと実は女子からの人気が高い。

 

 教員の方々も皆一様に変人…失礼。個性豊かで、素晴らしい方々です。誤解の無いように各教科を受け持っている先生方を紹介しよう。

 

 地歴公民はレプティリアンの教師が地下世界の話を織り交ぜて愉快に解説してくれる。好物は長野県名産、イナゴの佃煮。職員室に行くと、たまに食べてるよ。でも、その様子をじっと見つめると恥ずかしがるから遠巻きに見るくらいにしよう、かわいいね。

 

 科学は自称悪魔先生、名古屋弁全開の面白先生。たまに何を言ってるのかわかり難いけれど。授業自体はわかりやすく、どこからともなく実演用器材を持ってきては、いわゆる体験型授業で皆を楽しませてくれる。個人的に科学は楽しいと思えるのは、この人のお陰なんだろうと確信できる…けど、テスラコイルを持ち出すのは止めておいた方がいいと思う。

 親しみやすい一方で、素顔と声をブリキの仮面、体格と素肌を長いローブで隠した、性別すら不明の不思議な科学担当教員。

 

 国語・古典・漢文と眠くなりそうな科目はクラス担任でもあるアイちゃん先生こと、真中 愛之助先生。見た目はアイドル顔負けの美少女、中身はかなり…その…おじさん。タバコも吸うし飲酒もバッチリ、言動もちょっとね、うん。いつもはすぐにジャージに着替えるから、スーツ姿の方が珍しい国語教員。

 

 本人に対してアイちゃん先生と呼ぶと、本人はバレてないと思ってそうだけれど不機嫌になる。そんなところも可愛いと評判で。自分は男だし、同性愛はちょっとなぁ…と本人は言うが、そんなところもイイと更に人を狂わせる。ガワが美少女ならなんでもいいのか? いいんです。

 

 そんなガワだけ美少女のアイちゃん先生の牙城を崩そうと攻勢に出るのが、音楽教員の坂本先生。学年主任でもある。

 体育教師さえ凌駕する声量と勢いで、今日も今日とてアイちゃん先生にアタックする奇人。

 

 じゃなくて…えーっと…良い人です。何だかんだ言おうとも、生徒に対して親身に、丁寧に接してくれるイケメンですよ。ただ、アイちゃん先生以外の女子には興味が無いからこそ、平等に扱うのかもしれない。

 

 ちなみにアイちゃん先生が元男性、坂本先生が元女性。なるほど…倒錯している。もう、さっさと付き合っちゃえと思わないでもない。

 でも心のどこかでは、ずっとくっつきそうな空気感でヤキモキして欲しいとも考えている。

 

 教員が見せる一抹の甘酸っぱい空間に対して。男子は面倒だからとっとと付き合え、女子はもっと濃厚なラブコメをして栄養になれという意見が多い。栄養とは一体…? 

 

 何でこんな愉快な教員達についての感想を、つらつらと考えているのかというと。

 

「生徒の皆さんっ! 

 春の足音たる桜は散れども香りを残し、残春の候と言うに近付いてきたこの日!! 

 一年生の皆は素敵な先輩達に心を揺らし、二年生は先達として背筋を伸ばし、三年生は覚悟を決める時期です! 

 ちなみに私としては、さる素晴らしい同僚の方から帰省土産をいただきましたのでどのように味わおうかと悩みが生れ出づる日々です!」

 

 新学期といえば、教員方の長い話は付き物。

 この学校でこういう時に一番話が長い人は、坂本先生。だからついつい考え事をしてしまう。

 

 要約すれば、皆新学期だけれど気を引き締めて行こう。そんな程度の話も坂本先生に掛かれば歌劇の一節みたいになってしまう。

 …さる素晴らしい同僚の方、それってつまりアイちゃん先生の事だと嫌でも察する。全校生徒の前で惚気話をするとは中々公私混同が激しい。

 

 他には危ない事に首を突っ込まないように、とか。アイちゃん先生のジャージがほつれかけていたとか。困った事があれば教員に相談してほしいとか。アイちゃん先生がコーヒーを飲んでは顔を顰めていたけどそれもまた良い、とか。

 

 半分くらい横路に逸れてます。

 気にしてはいけない。

 

「坂本先生…そこまでで…!」

「…アッ! 失礼しました!!」

 

 とうとう怒涛の私生活漏洩と褒め殺しに顔を筆舌に尽くしがたい表情豊かにしたアイちゃん先生が止めに入った。もしも止めなかったら一時限目は潰れていたのに…ちょっと惜しい。

 

「いやはや失礼致しました…。

 忘れてはいけない御報告が一つあります! 

 どうぞ壇上へお上がりください!」

 

 よく通る声。静まり返った筈の講堂に火が入る。

 周囲がざわつく。

 

 壇上へ上がった人は、不思議な髪色をしていた。

 くっきり別れた銀色のような白と黒髪。

 

「保健教諭として勤務する事になりました、与田 つばさです。保健室に居る時間は少ないと思うケド、よろしくね。ちゅっちゅ! あっ、それとぉ、あたしに会いに怪我なんてしちゃダメよ? つばさ先生って呼んでね!」

 

 また…濃いなぁ…! 

 

「えぇ? 与田さんじゃん…」

 

 おやおやおや…? 

 

 

 

 長ったらしい…まぁ、それは坂本先生のせいでという注釈が付く始業式。私のクラスでは終わり際に紹介された、妙齢の女性に話は持ち切り。

 

「何かこう…胡散臭い感じがしたのん。アホ一号に淋代くんとも知り合いみたいだし、レイリーちゃんは知ってる人なの?」

「全然」

 

 どうにも訝しげな表情で私に話しかけるのんちゃんこと、野上ちゃん。実は始業式に遅刻していて、あの与田先生の挨拶しか見ていないらしい。相変わらずのんびりしています、流石のんびりのんちゃん。

 たまにとんでもない早口と目にも留まらぬ速度を誇る、私の素敵な友人です。

 

 申し遅れました。私、レイリー・ケイスと申します。

 

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「さらっと俺の悪口言わなかった?」

「うるせーの、あっち行ってるの」

「与田さんねぇ…俺は名前くらいしか知らねぇんだよな。颯の方が詳しいと思うんだけど」

「コイツ…っ、スルースキルを鍛えやがったのん…!」

 

 アホの子扱いされて我慢が出来ずにひょっこりと近寄って来たのは、當真 太陽くん。今日もお日さまみたいな髪が素敵だね、これが初日の出ってコト!? 

 

 冗談は置いて…いや、彼は私にとって太陽みたいな存在でもあるけれど。それはさておき。彼には聞くも涙、語るも涙…というか、ほんのりR-18Gな過去がある。

 

 彼は『改造人間』だ。

 

 努めて隠すようにしているけど、異様な身体能力、異常な頑健さ、そして異形を混ぜられたヒト。

 親兄弟のような血縁者もいない、彼と同じ、近しい存在はどこにも居なくなってしまった。

 

 私は彼の口から言われた事だけしか知らないので全てを知っている訳じゃない。それでも、そんな事は関係ない。ある時から、あの時から…。

 彼は、私の好きな人なのだから。

 

「で、太陽くんはどうなの?」

「えっ何が??」

「他の男子みたいに、ああいう人が好みなの」

「えっ?」

「レイリーちゃん?」

 

 これは嫉妬じゃないです! 

 リサーチ! 調査! 訊ねただけです! 

 

 そんな心配そうに見つめないでよのんちゃん。大丈夫、全然、まったく、毛先から刃物の切っ先ほど気にしてないよ。

 

「ボクはお世話になりそうだ。土屋は?」

「俺に限らず運動部は世話になるんじゃね、課外系の授業でもないからあんま関係ないと思…」

「しかしィ! やはり色香のある保健教諭は男子の憧憬でもあるのでござるぅ! 

 何なんでござろうな、あの白衣というものは。斯様な装束に身を包むだけでオトナのチャームパゥワーが三割ほど増して感じられ候。此れは大会で禁止されるもやむを得ない禁忌の装備では? 

 特に素晴らしいのは、シルエットを隠す筈の上着だというのにも関わらずそれを押し上げる双丘の存在でござるな、更に更にタイトスカートにストッキングも着用して、白衣がもたらす白と艶めいた黒のコントラストッ! おいおい全く、あまりのよくばりセットに最早脱帽でござる。

 そうと見れば某達男子一同、一度は擦り傷でも作ってご挨拶に参らねばと思うのでござるが如何か!? そしてあわよくば保健の個人レッスンでハッスルを」

 

 ちょっと男子ぃ! 

 静かにしてよ! 

 私がお話してるでしょうが!! 

 

「お、俺は…そう! こころさんが…」

「そういうのいらないから」

「うぇ!? あ…いや、別に…って感じ…?」

「…そっか」

「そこは何とも思わないって言い切らないのがダメなの」

「野上は何で俺に辛辣なのォ?」

 

 眼中にない、そう言ってほしかったのは事実。でも良いんです、これ以上恋敵が増えないならそれで一安心。ほっと胸を撫で下ろす所ですね。

 

「當真は意外と気にしいだからな」

「わっ」

 

 薄く焦げ茶色の髪が視界に飛び込んできた。クラス委員長兼生徒会副委員長の好青年、淋代くんだ。広告モデルもやっているらしく、無闇に容姿が整っている。そのうえ気遣いも出来れば距離感も近い。

 あの生徒会長と揃って並ぶ美男美女、そりゃあおモテになられるでしょうね。

 

 妬みがましくなってしまった。それにしても、いつから居たのだろうか。あまりに静か過ぎて気付かなかった。

 

「失礼レイリーさん、驚かせてしまった。それよりも當真、席に戻ろう…真中先生が来る。今日はとびきり機嫌が悪いぞ」

「あぁ…そういう事ね、おっけおっけ」

 

 どういう事? 

 

「おらぁ全員席に戻れー…」

 

 そういう事かぁ…。

 

 力無く扉を開いて入って来たのは件のアイちゃん先生、ただ、顔色が悪い。もとより白い顔色が白を通り越して青褪めている。しかも服装もヨレヨレ、溌剌さの欠片もない。しかもこの臭い…。

 

「アイちゃん先…真中先生、顔色が…」

「いや平気だよ…平気だからあんまり大声出すな…頭に響く…号令も無しでいい…」

 

 この桃色吐息ならぬ青色吐息なアルコール臭に、青空と白い雲を合わせた顔面蒼白の様相。

 どう見ても二日酔いですね。

 さっき坂本先生の口上に耐えかねたのは、羞恥心だけがそうさせた訳でもないご様子。

 

「日直は日誌だけちゃんと書いとけ…今日は連絡事項も特に無し、授業もほぼ無いから…んじゃ終わり…」

 

 か細い声で終わりを告げて、どんよりと覇気の無いまま職員室に戻って行ってしまった。

 おいたわしい…。

 

「うーん…社会人的にアレはヤバいのん」

「そうだね」

 

 しかし大人としてあるべき姿かどうか。

 うん、擁護出来ません。流石に満場一致でダメだと思います。

 一担任の社会人としての是非はひとまず無視しよう。

 

 新学期早々に大した授業も無いだろうと思案はしていたし、そこはアイちゃん先生の言う通り。特筆して愉快な出来事もなく、至って緩やかに昼が訪れて、直後に放課後になった。

 

 

 

 

 私と彼…太陽くんは、自宅には帰らない。

 そのままある場所へ足を運ぶ。

 

 入る事を躊躇させる派手な看板、名前も…これは良くない気がする。ちょっといかがわしい気がするよね。

 

【愛に溢れる探偵事務所】

 

 ちょっとじゃ足りないかもしれない。

 

「こんちわー!」

「こんにちは、代理」

「おう…あれ? 学校じゃにゃいの? サボりか?」

 

 二人連れ添って歩いた目的地は、私達のアルバイト先でした。人前で言うのは憚られる気配がする名前は気にしないでほしいです。

 

 出迎えてくれたのは黒猫で化猫の環所長代理。今日も素敵な毛並みでキュートアンドクールですね。

 でも代理と書いてある席で堂々と丸くなっていると、この事務所って猫を店長にするタイプの所と勘違いされると思います。

 

「んなワケ無いじゃないっすか。登校初日なんてこんなもんですよ…って、あぁそっか」

「わかる訳ねーだろ、アタシもメリーも学校行ってにゃいんだから。ま、大検だのは取ったけどにゃ」

「あの、太陽くんも悪気があったんじゃ…」

「それはわかってるわかってる、レイリーがフォローしにゃくてもいいって。オバケには学校も。そのテストも無いって話だから気にすんにゃって」

 

 少しだけ無神経だった一連の話を、どこかニヒルな笑いと共に返された。

 代理は大人ですね…正しくは成猫…? 

 

 普段の猫モードも素敵なお猫様だけれど、この方は人の姿にもなれる、しかもクールビューティーって感じの。そしてその姿で昼間からビールを飲む。

 

 念の為に補足しておくと、ちゃんと予定された仕事は終わらせた上での事なのでセーフだと思う。朝からじゃなければセーフだよね、たぶん。

 

「フォンセルランドさんは? あの人が居ないのって珍しくないですか」

「朱肉とシールを買いに行った、ついでに文房具屋でかわいい物を見つけに行くんだってよ」

「メリーさん、そういうの好きですよね」

「趣味と実益を兼ねてるって事だにゃ。あぁそうだ、今は主人も出掛けてるから、仕事の準備でもしときにゃ」

「うっす」

「はい」

 

 さぁ、こうして普通の時間はいつもの様に。

 

 …あんまり変な仕事じゃないといいなぁ。

 

 





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