はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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遅れました、何卒ご容赦を…。

ちなみに朝とは午前の十時までらしいですよ、つまりセーフです。
…申し訳ありませんでした。


てけてけ春の乱闘騒ぎ

 

 

 

 

 

 四月の末日。

 

 しぶとく残る春の残滓から梅雨に移る合間。

 ソメイヨシノは残らず散っても、八重桜がそこに。

 

「───う流…」

 

 桜吹雪も凍りつく、冷え切った呟き。

 

『ギャー!?』

「オワー!?」

 

 砕けず折れない鋒が、歯向かう者を砕き散らす。

 跡に残るは淡紅の塵。

 

「……何かわかんねぇけど流石っす、と言いてぇけど…」

「許せ、當真後輩。これで一件落着だ」

「巻き込んどいてそれは無くない!? 俺に当たって死んだらどうすんだよ!!」

「はっはっは!」

「何が面白くて笑ってんだよォ!」

 

 さっきオワーって叫んだのは俺ね。

 思いっきり巻き込んでくれやがったのはこの人、俺等の学校の生徒会長。宮河 巴先輩ね。

 

 何が起きてるかわからないって? 

 話を巻き戻そうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 花見、大方は桜というかソメイヨシノを愛でる行事。大昔の元々は梅の方がメジャーだったりしたらしいけど、そんな事は些細な事。

 

 結局のところ、花を見るより人の顔を見て、酒をかっ喰らってのどんちゃん騒ぎ。花見というものはつまり、人が集まって騒ぐ口実って事だ。

 だから花の種類なんてのは些末事、梅だろうと桃だろうと桜であっても同じ同じ。

 

 ま、何だかんだ言っても。俺はそんな喧しいだけの催事が嫌いじゃないぜ、風流じゃなくても楽しければそれで一興ってモンだ。

 

 近くでパソコンのキーボードを指一本で打つ、同級生兼同僚となった女子に会話のキャッチボールを試みる。

 俺が暇って話じゃないからね? か、勘違いしないでよね! これはその日のアイスブレイクとして必要だと思っただけなんだからねっ! 

 

「レイリーは花見とか行った?」

「行くような友達が太陽くん以外居ないけど」

「….…」

 

 これね、空気が冷たくなる音。

 

 桜が散る音は春が死ぬ音、そんな喩え話も転がってそうな昨今。見事なカウンターを貰って空気が死んだよ、どうしてくれんだ。

 

 現在地、俺等がバイトとして働いている探偵事務所の一室だけ冬に戻った気がする。空調の効いた室内で凍死しかける珍しい心持ちだな! 

 

 いやいや待てよ、そうじゃなくて。

 レイリーの友達といえば…。

 

「野上とは行かな……」

「のんちゃんは自分のご家族の知り合いとか、陸上部の人達と行くらしいよ」

「…じゃ、じゃあ颯とか…」

「モデルさんを引き連れて行けると思う?」

「………」

 

 これね、助け舟が転覆した音。

 怖くてレイリーの顔が見れないよ。

 

「ふふ…」

「…!」

 

 溺れる者は藁をも掴むッ! 

 今がチャンスだ、盤面ひっくり返して気不味さをふっ飛ばしてやるぜッ!! 

 

「何笑ってんすかゴーイング・マイ・ウェイ・メリーさんよォ…失礼だと思わねぇのか!?」

「ふふ、ふ…中々の空回りっぷりでしたよ…」

 

 何をずっと笑ってやがるんだ、このパペットポンコッツ。ありがとう! これでいたたまれない空気を換気出来そうじゃねぇの!? 

 

 空回りという図星を指摘されても、滅気る俺じゃないって所を見せていこう。誰にアピールしてんのかって? そりゃあもう……なんだ…け、健気に咲いてる花とかに? 

 

「いいじゃないっすか、花見。このコンクリートジャングルにある、限られた自然の息吹ってモンが。どうせだったら事務所でやったりします?」

「私は賛成ですが、環が嫌がりますよ。クッソうるせーからアタシは嫌だにゃ、どうせにゃら人気の無い所で主人と二人で花見酒がいい。とか言うでしょうね」

「た、たしかに…!」

 

 タマさんは確かにそう言うだろう。何だかんだ騒がしい場所が苦手な、猫らしい猫だもん。ところで結構似てましたね、タマさんのモノマネ。隠し芸でも磨いてるのか。

 

 ちなみに電車移動とかするとキレそうになるんだよあの人。雑多な臭いと人の多さ、ついでに人の声が聞こえるから。この世で最も嫌いな乗り物トップスリーには入るそうだ、一番嫌なのは飛行機だとか。

 

「どうしても。というのなら、所長に相談すれば良いと思いますよ。環も所長が決めたなら着いてきます」

「ですよね〜」

 

 やっぱりそうだよな。何だかんだ言おうとも、まずは所長に相談。ホウレンソウってヤツね。

 しかしまぁ、こういったふとした思いつきを通す為に相談が不可欠なのはそうなんだが。

 

「所長たちが居ないっすから、一時保留って事で」

 

 今日は所長も代理も揃って出かけている。何でも千々石さんに呼ばれたとかで、都庁に行ってるんだよ。

 

「気長に待ちましょう、桜もまだ散りきらないでしょうから。事務所総出がダメだとした場合、折角ですから仕事終わりに二人で行っても良いんじゃないですか?」

「!!」

「まぁ…そう…うーん…」

「歯切れが悪いですね、どうせ家に帰っても一人でシコシコと勉強するか、シコシコと料理をするか、それともシコシ…」

「やかましィー!!」

 

 そのシコシコって要る? 

 絶対いらないじゃんね。

 

 家に帰っても一人、これは事実。その後の予定もシコシコはさておき、概ねその通り。

 …枯れてんな、俺。

 

 俺の枯れ具合はいいんだよ、今は。そうじゃなくて、個人的にレイリーと二人っきりっていうのがね。あんまり気が進まないんですよ。

 

 何でかっていうと…まぁ負い目だな。レイリーは普通の甘酸っぱい恋愛をした方がいいと思うぜ! 

 

「んーじゃあ…そうなりゃまた来年にでも」

「ねぇ」

 

 アッ、嫌な予感がする!! 

 レイリーさんが何か言いたそうにこちらを見て…言いたそうじゃなくて話しかけてきてる! 

 

 藪蛇だったぜ俺、鬼が出るか蛇が出るか、じゃなくて人形がアシスト決めてくるとは思わなかった。やってくれたなオイ。話しかけたのは自分だから悪いのは俺か。墓穴を掘るってのはこの事だな? 

 

「私と…」

「失礼する」

 

 と、ここで会話がバッサリと切断。

 

 予定に無かった来客が、颯爽と、あるいは唐突に侵入してきた。扉をノックしたその直後に返事も聞かず入ってきた人影。空気は読んでいないが、これは僥倖だ。丁重におもてなしを…。

 

「…宮河会長?」

「……」

「疑問符は不要だ、當真 太陽後輩」

 

 人をフルネームでわざわざ呼ぶ人。長く真っ直ぐな黒髪が、この人の人柄を表しているようだ。

 

 実直で、染まらず、曲がらない。

 ウチの高校の生徒会長。

 完璧で、面倒臭くて、厳しくて、優しい。

 ちょっと苦手な先輩。

 

 くるりと静かに戸を閉めて、この空間で唯一の大人に向かい直す。代理も所長も居ない事に気付いているんだろう、気配察知とか出来ますもんね。

 

「突然の訪問、お許しいただきたく思います。メリー・フォンセルランドさん。少々急を要するので…自己紹介に時間をかけられません。こちら、学生証です」

「あら、ご丁寧に…名刺をどうぞお受け取りください。それでご用件は何でしょうか?」

 

 初対面のはずだっていうのに、まぁテキパキと社交辞令をこなすもんだね。本当に学生なのか? この人。

 

 用事があるそうだが、ここは至って普通の探偵事務所。一介の女子高生が何の為に来たのやら。

 

「単刀直入に、當真くんをお貸しいただきたく…」

「いいですよ」

「えっ??」

 

 えっ、待って。何の用事か聞き終えて無いのに、そんな食い気味に許可出すの? っていうか俺に訊くんじゃないのかそういうのって。拒否権って言葉を知らねぇのかな? 

 

「いやいやいや待ってくださいよ…何をさせたいのか知らねぇけど、こういうのは保護者の許可ってモンが必要でしょうよ。第一さぁ…」

「ならば問題無いよ、こちらの事務所の所長である犬飼 歩所長と、その代理の環さんには許可を貰ってある。ついでに言うと、これは千々石さんからの指示だ」

「はぁ!?」

 

 話について行けねぇよ。何がどうなって所長たちと話して許可まで取って、それでそれが千々石さんの指示だっていうんだよ。

 

「積もる話は移動中にしてやろう。行くぞ、當真後輩。外に車を待たせてある」

「いや納得いかねぇって…や、やめろォ! 引っ張るな! 服千切れたらどうすんだよ!」

「いってらっしゃ~い、事故に気をつけるんですよ〜」

「何普通に見送ってんだよ! これもう拉致だぜ!?」

 

 ダメだこの年長者ども、一切合切こっちの都合はお構いなしだぜ。人権とかってご存知でない? 授業でやるよね、おかしいじゃん。

 

「あ、あの!!」

「どうかしたかな、レイリー・ケイス転校生」

「わ…私も付いていきます!」

 

 えっ何で? 

 レイリーってば、俺が拉致される一部始終とか見たい人なの? すごい感性してんねぇ、将来が心配だよ。

 

 じゃなくてさ、ここは止めろよフォンセルランドさん。俺が必要な用事なんて、確実に危険なんだから。親御さんに申し訳が立たないじゃん? 

 

「…如何ですか?」

「んー…了承!」

「アホ人形かよオメー!?」

 

 了承! じゃなくて、少しは悩めよ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 景色が数秒で後ろへ追いやられる。

 コンクリートの灰色が流れては、また同じような灰色が視界から消えていく。

 

 一般的に生身の人間では出せない速度で運ばれる。

 つまるところ、これは車内。

 向かう先は、上野公園。

 

「…で、何で俺が?」

「この時期の風物詩には色々あるな? 當真後輩」

「回りくどいっすねぇ…」

「移動中の会話くらい楽しむと良い、それとも私では役者が足りないか?」

 

 面倒なんだよ…とは言えないな。

 春風よりも唐突な事態にうんざりしている訳だが。どうも察してくれたのか、咳払いが聞こえる。

 

「んん…四月の四日といえばあんぱんの日でもあるが、二十四節気では清明。春の訪れ。それが過ぎて、桜花散る頃。しかしそれでも人は集まる、そう…」

「花見でしょ? でも、何だって今更。てけてけ大行進はこの前解決したし、取り締まりだってやってたじゃないっすか」

「可愛げが無いな…まったく」

 

 この花見の時期といえば、だ。

『てけてけ』

 こいつらが幅を利かせる厄介な時期でもある。

 

 

 

『てけてけ』

 

 下半身の無い妖怪、あるいは亡霊。

 

 日本のとある雪国で、人が線路に落下した。

 足を挫いたのか、それとも動けなくなってしまったのか。それとも身体が恐怖に凍ったのか。その人はそのまま、猛然と迫る電車に轢かれ…結果上半身と下半身が両断されてしまった。

 

 当然、即死してしまう筈だった。

 だが不幸な事に、その日の気温がそれを許さなかった。血も凍る外気温が血管を止血し、ゆっくりと、長い苦痛を味わい。緩慢な死を遂げた。

 

 この話の結末は二つある。とはいえ、どちらも救いようの無い話であるのは変わらない。

 

 これは下半身を…。

 

「ただの『てけてけ』なら、前に千々石さんとふっ飛ばしたりもしましたしィ? そもそもの花見は許諾性になって、飲酒も大っぴらには出来ないから、酔っぱらいが『てけてけ』になるってのも無いでしょうよ」

「それはその通り、しかし今回は別の『てけてけ』だ」

「…まさか」

「普通の『てけてけ』は下半身を探して危害を加える。だが今回の『てけてけ』は違う。

 ひたすらに、人間を殺す事を目的としている」

 

 否、誰かの命を奪う噂話。

 

 

 

 

「…じゃあ、そんな命の危険満載の鉄火場に。なんでただの高校生である宮河センパイが向かってるんです?」

「それが、レイリー転校生と私達の車を分けた理由だよ」

 

 車が止まる。目的地はまだ先、赤信号だろう。

 

「少しだけ血生臭く、他の生徒には聞かせられない話をしよう。口外してくれるなよ、當真後輩」

「いいっすよ、口の固さは折り紙付きなもんでね」

「安心したよ…じゃあ、私の身分から話そうか」

「生徒会会長で、神職の資格を取ろうと大学まで決めてる優等生。しかも颯が気になるお年頃…っ痛え!?」

「茶化すな、バカ者。

 …私は、この日本国のある機関に所属している」

 

 へー…人を叩いた割には大した秘密でもねぇな。

 大体そういう事を言い出したら、千々石さんだって政府直属機関の室長だから同じで、俺は身体が大概マトモじゃない。

 

「正しく秘密機関だ、名前も早々明かせない。

 あの千々石さんの所属とは別の存在で、今回のような事態にのみ表に出る。誰の記憶にも残らないのは、記憶消去装置が貸与されているからだ。諜報能力も大したものだぞ?」

「そこらへんも千々石さんと一緒なんすね」

 

 怪異・妖怪・都市伝説。全てひっくるめて噂話。

 それらの対処法は、俺が殴るだけじゃない。

 

 誰かが噂をして出来上がる存在なら、その噂をした誰かの記憶を、関係している部分だけ消せばいい。もちろん、本人も含めてだ。

 

 基本的に規模が大きくなり過ぎたり、どうしようもない状態にならなければ使われることの無い悪用し放題な機械がある。それが記憶消去装置。

 ちょっとしたボールペンみたいなサイズのクセに、どう考えても危険な代物。

 

 当たり前だが、悪用・濫用があり得る。なので事前に使用申請なりをパスしないとダメだって千々石さんが言ってたぜ。

 

 会長が言ってる秘密機関ってのも、そう考えるとやっぱり大した事ないんじゃねぇか。あの無害系人間兵器こと千々石さんの所と同じって事じゃん? 

 

「まぁどう捉えようと構わないがな…。

 これは意趣返しだが。その身体が最早人間と言えるかどうか怪しいのも知っているよ」

「……そーですか」

 

 何の意趣返しだよ。人に言って良い事と悪い事の区別が付いてないのかこの人は。

 こちとら多感なお年頃だぜ、化物扱いされたら、全くその通りって傷付くじゃねぇか。

 

「気を悪くするな。こちらの組織の方が色々と上なのだという事だけは、しっかりと教えておかねばならないというだけだ。ちなみに…」

「話が長いっすよ…ほら、もうそろそろ着きそうっすよ」

「當真後輩の希望進路、渋谷か…いや率直に言って國學院だな? 私と同じだぞ。

 しかもそのままだとこちらの機関にスカウトされてしまう。つまりずっと大学から就職先まで一緒になる」

「え゛」

 

 待て待て待て待ってェ! 

 何で俺の進路希望知ってんの!? プライバシーはどうしたプライバシーは! 

 それどころか就職先までレールが引かれてるとかおかしいじゃん! 職業選択の自由はどこに行った!? 

 

「はっはっは! その顔が見たかった、當真後輩は愉快だな! はっはっは!」

 

 豪快に笑ってないでさぁ! 後輩さんは愉快だな〜って日曜日夕方のアニメじゃねぇんだよ、何が面白いのォ? 人の人生をエンタメにしだしたらダメだろ、倫理観とかどうなってんのこの人。

 

「先に言っておくが、勧誘を拒否しても無駄だぞ? 根回しをして、その選択肢以外無くなるように…おっと、着きそうだな」

「か、会長! そこを何とか!?」

「はっはっは! この機関に所属すると大変だぞ。切った張ったは日常茶飯事、生傷は増えるし。最悪の場合は命のやり取りもある…あぁ、それもよくある話だった」

 

 ダメだ! 倫理観に期待できねぇ!! 

 普通の女子高生が命のやり取りとか言ってんじゃないよ! だからレイリーには聞かせられねぇのか、そりゃそうだ、どう聞いても頭おかしい事しか言ってねぇもんな! 

 

「今回の『てけてけ』を相手取る前に…発生理由の調査を千々石さんとそちらの所長達にお願いしている。色々と不可解な点が多い一件なので、あの人が吹き飛ばしてはコトだ」

「いやなんで話を普通に進めてんの? 俺の将来の話は?」

「私が大多数を始末するが、何分数が多い。當真後輩がするのは漏れた奴を殴るだけの簡単なお仕事だ」

「耳付いてねぇのか??」

「足が付いてない奴を処理しに行くんだ…ほら、着くぞ」

 

 やっぱり苦手だわこの人。

 

 

 

 

 

 

 

 車が止まる。今度は、信号と関係ない。

 

 場面は冒頭の方に近づく。

 

「さて…」

「会長、銃刀法って知ってます?」

 

 扉を開け放ち、そのまま車のトランクから明らかに法に触れる長物を取り出している。

 

 一メートル近い木製らしき鞘。反りがあって、普段はお目にかかれない危険物。

 

 どう見ても日本刀です。しかも大太刀ってヤツ。

 

「安心しなさい。これは法に触れない」

「どう見ても日本刀じゃん!? 白昼堂々振ったら捕まるって! お、おまわりさーん!!」

「あまり騒ぐと危ない連中が来るぞ?」

「アンタが一番危ねぇんだよ!」

 

 制服女子高生には刀が似合うとか、そんな与太話をしてる場合じゃない。これは捕まる、マジで。というより滅茶苦茶怖い。何だかんだ危ない目には遭ってきたけれども、明確な刃物が直接視覚に訴える怖さってのは格別だな! 

 

「ほら、當真後輩が騒ぐから来てしまった」

「俺のせいかなァ!?」

 

 虫の大群より悍ましい、上半身だけの怪物がこちらを血眼で見つつ迫る。てけてけと言う存在は、その腕を使って移動する時の音から名前が付いたらしい。

 

 だがそれも、数十と移動してくれば。てけてけなんて可愛げのある音では済まない。

 

「手早く済ませるが…ちゃんと避けるように」

「マジで人の話聞かないっすね? こうなりゃやるしかねぇだろうけどさ…こっち近寄らないでくださいよ? ってあれ、避ける? 俺が?」

 

 大量の殺意が迫る。

 

『死ね! お前も!』

『仲間、仲間に』

『足、足、足、足足足足』

「…っふぅー…」

 

 大仰に息を吸い、吐く。

 鞘から刀身が顔を出す。

 

「………一豆流」

「会長、それって…」

「半殺し」

「えっ?」

 

 永久凍土の冷たさが、公園を全てを斬り、咲いた。

 

『ギャー!?』

「オワー!?」

 

 後に残ったのは数の少ない花びらと。

 

「……何かわかんねぇけど流石っす、と言いてぇけど…」

「許せ、當真後輩。これで一件落着だ」

「巻き込んどいてそれは無くない!? 俺に当たって死んだらどうすんだよ!!」

「はっはっは!」

「何が面白くて笑ってんだよォ!」

 

 異常を極めた斬撃から逃れた俺のみ。

 じゃねぇんだよ、何なんだよ。今日は何かこればっかりだな俺。

 

 さっき言われた俺の役割なんて気にも留めていない、完璧に襲い来る全てを斬り伏せていた。

 しかも…。

 

「刀かと思ったらあずきバーじゃねぇか!!」

「法に触れないと言っただろう」

「食べ物で物を斬ったらいけません!!」

 

 日本刀かと思いきやあずきバーで。

 周りに散在する赤っぽい塵は、血肉と骨じゃなくて削れた小豆ね。めっちゃ甘い匂いするもん。いやぁスプラッタじゃなくて一安心だな。

 

 …訳がわからないだろ? 俺もだ。

 

「…それは兎も角」

「ともかくもねぇよ、人をあずきバーでしばいちゃダメだって。凶暴なてけてけの皆さんが死んだらどうすんだよ…」

「無論、峰打ちだが?」

「あずきバーに峰ってあんの??」

 

 そもそも武器があずきバーって前代未聞じゃない? 

 冷静に話しているようでいて、結構しっかり混乱してるんだぜ? もうね、何が何だかだよ。

 

 生徒会長様がどこぞの秘密機関所属なのも、自分の進路がハチャメチャになりそうなのも。よりによって武器があずきバーのくせに、漫画みたいな範囲を攻撃したのも。全部訳がわからん! 

 

「…兎も角、だ」

「こ、コイツ…!」

 

 ガン無視を決め込むつもりだな? 

 

 こんな人を苦手にならないでいられようか、いや、なる。一応フォローしておくと。会長がここまで心情を無視したり、からかってるんだか攻撃してるんだかわからない事をするのは俺と颯にだけだ。

 

 あぁ、俺に好意がある訳じゃないぞ。俺のことは何かいい感じのサンドバッグ程度にしか思ってないよこの人。少しだけ飴も寄越してくれるけどね、釣り合ってないんだよ、人の心はどうした。

 そんなんだから颯に告白の一つも…。

 

「いっってえ!?」

「人の恋路にとやかく口出しするな、馬に蹴られるぞ」

「食い物で殴ってるじゃん…」

「ふん…地獄に落ちないだけありがたく思うといい。まだてけてけが残っているかもしれない、するべき事はわかるな?」

「哨戒でもしろってんです?」

「察しが早くて助かる、私も手伝うが…残っていて一・二体程度だな。そこで、だ、當真後輩」

 

 何か、悪そうな顔してますね会長。

 結構似合ってるけど、人前ではやらない方がいいですよ、イメージが崩れちゃうぜ? 

 

「レイリー転校生と、二人で見回りをしてもらおう。彼女はその為に連れてきたと言っても過言ではない」

「…会長、地獄に落ちるぜ?」

「これも意趣返しだ、ありがたく受け取りなさい」

 

 こういうのは、ありがた迷惑って言うんじゃないか? 

 

「お礼に、会長が颯とデートしたがってるって教え」

「余計なお世話だ」

「痛え!?」

 

 春の馬鹿陽気の前に、そんなに殴られたら俺が馬鹿になっちまうよ。名前としてはちょうどいいってか? こっちは馬鹿にならないように努力してるんだよォ! 

 

「ほら、さっさとエスコートしてきなさい」

「気が進まねぇ…」

 

 お花見日和。そうだとしても、個人的にはもうちょっと多人数がいいと思うんだよね。

 

 人の喧騒の中で花を見るのも、案外悪くないさ。

 

 






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