はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
本日は曇天、しかもいつ雨が降り出してもおかしくない程度には、重苦しい黒い雲が垂れ込めて日光の蓋になっている。さながら天然の日除けか日傘、こういう時にこそ…。
「枝蔵くゥーん! 枝! 蔵! くゥーん!!」
「……」
「聞こえてるよ!!」
元気よくいこうぜ!
巷を騒がせる吸血鬼騒動。幸運にも知り合いにいる吸血鬼、ここで一発インタビューしよう。
質問者は俺、されるのはヴァンパイア。これがインタビューウィズ…やめておこうかな!
場所を三年生の教室から移して、人気の無い空き教室。暗幕があるから丁度いい。決して人目につかない所で変な事をするって訳じゃあないぜ? 曇りでも日傘を手放せない先輩に対する配慮と、他の先輩方に見つかると面倒だからってワケ。
具体例としては、我らが生徒会長サマと釈先輩、俺が一方的に苦手ってだけだけどな。剣道部の長我部先輩もちょっとアレだな、身構えちまうな。
こう思い起こすと…先輩方に苦手な人が多いな?
ま、それはいいんだ。
「悪いな枝蔵くん、同級生と友情を育んで…育んでるか? ちょっと心配だぜ、もしかしたら枝蔵くんに友達がいないんじゃないかって…」
「余計なお世話だ! ボクにも友達くらいいるよ!」
「……」
「そりゃあ良かった…後で菓子折りとか持って行った方が良かったりするゥ? いつも枝蔵くんがお世話になってますって」
「両親だってそこまでやらないぞ!?
…いや、こんなバカみたいな話が目的じゃないだろ、何が聞きたくてわざわざ三年の教室まで呼びに来たんだ? それと、そっちのお嬢さんは?」
枝蔵くんの端正かつ、お耽美な顔がどうにも怪訝そうな表情を浮かべる。いいじゃん、馬鹿話。
実は同行していたレイリーに向けての目線なのはわかっちゃいるが、あんまり遠慮無しに女の子を見るもんじゃないと思うね。
「ぇ、あ、私…レイリー・ケイスって言います」
「ウチの探偵事務所の…後輩? で、同級生、しかも転校生。あんまり値踏みするように見るのは良くないぜ」
「あぁごめん、ボクは枝蔵。このクッソ生意気なヤツの知り合いなんだ、よろしく、レイリーさん」
「は、はい…」
クソ生意気? 誰が?
「枝蔵くゥん…誰がナーマイキーなんだい!?」
「なんだその言い方…お前以外に居ないだろ」
「なんだとぉ…!」
…俺が!?
な、生意気!?
聞き捨てならねぇ…こんなにフレンドリーで可愛い後輩に向かって、言うに事欠いて生意気だとォ!?
自分で可愛いとか宣うヤツにロクなのはいないって?
確かに…。
「信じらんねぇよ枝蔵くん…俺は長幼の差だけじゃなくて、枝蔵くんの事をこんなに尊敬してるってのに。
あっ、そうだ。先月の後輩料金まだ貰ってねぇな、しめて一万ドル、ローンも可だぜ」
「後輩である事に料金が必要なんて初耳だよ、しかも値段が法外過ぎるだろ。出世払いにでも勘定しておいてくれ、絶対払わないけど」
「借金の踏み倒しなんてサイテーだぞ!」
「合意の無い支払い契約ならクーリング・オフに決まってる、これだからバカは…」
「バ、バ、バカだとォ!? 否定はしねーぞ!!」
「そこはしておけよ…」
勉強は出来るんだけどね、でも皆口を揃えてバカバカ言ってくるんだよ。事実だとしても酷いぜ…泣きそう。本当の事でも名誉毀損に当たるって教えてやろうか。
「仲…良いんだね」
「あ、悪い」
「レディを放っておくなんて、紳士の風上にも置けないな…そんなだから馬鹿にされるんだぞ」
ごもっとも過ぎてぐうの音も出ねぇ…!
「それで? 結局何の用なんだ、わざわざ同僚を連れてきてまで、絡みに来たって訳じゃないだろ」
痛い所を突いてきたと思いきや、一転して助け舟。
枝蔵くんは真面目だなぁ。
「そりゃまぁそうだ。用件っつーか聞き込みだよ」
「聞き込み…?」
本題に切り込むと、気難しそうな顔つきの、眉間のシワが一層深まった。もっと笑顔じゃなきゃダメだぜ?
「最近、ここらで変死体が見つかってるらしくてさ。被害者は女性で、ミイラになってるんだとか」
「血でも抜かれたのか? …ああ、そういうことか。その変死体の犯人が、吸血鬼じゃないかって話があって、それで本物に聴きに来たって」
「そーそー…何か知ってる?」
「ん……」
思い当たる事でもないかと考えてくれているのか、眉間のシワはそのまま、目を細めて床を見つめている。
枝蔵くんってば、何だかんだ言っても、割と協力的なんだよね。これがツンデレってヤツか!?
数十秒の逡巡の末、思考の整理がついたのか、ふとこちらへ向き直した。
「まず言っておくけど、万が一同胞…犯人が同じ吸血鬼だったとして。そんな血を吸い殺すような事はしないし、何より、遺体を放置するなんて下劣な事もしない。
…疑うのは仕方ないかもしれないが。ボクに聞く前に先に逆の立場で考えてみろ。同じような事件があって、犯罪者が同じ人間で、出身地もたまたま同じで近場に住んでいたとして、目星がついたりするか?」
「…そりゃ無理だ」
「だろ?」
うん、まぁ…うん…。
「父上たちも吸血鬼の全数を把握してる訳じゃない。もし本当に吸血鬼の仕業だったとしても、あくまで気をつけろとしか言えないよ。
ボクたちは穏やかに過ごしてるんだから、和を乱すようなヤツが居て、こっちにまで嫌疑の目が掛かるなら迷惑ってだけだ」
ですよね!
学校の同級生だとしても、私生活の全容が把握出来やしないんだから当たり前の事。まして枝蔵くん一家がやった訳じゃないないなら、疑われるのは本当にいい迷惑だろう。
でも黙って被害が拡大していく様を、指を咥えて見てるだけってのも居心地が悪い。そもそも、そんな事を許容出来るなら知り合いの吸血鬼にインタビューなんかしない。
「…あの、何か…狙われやすい人とかそういう…」
なるほど? 吸血鬼的な見地ってヤツ?
いい感じの質問じゃねぇのレイリー、緊張してないでもっと自信を持とうぜ!
「そうだな……強いて言うなら、有名なものが…あるにはあるけど…」
「あるんですか?」
ゴニョゴニョと言葉を濁す枝蔵くん。
うーん、吸血鬼の有名なものといえば…。
まずは、血を吸う事。更に日光が苦手で流水は渡れない。鏡に写らない。ニンニクが苦手だったり、細かい物の数を数えないと気が済まないとか?
蝙蝠に姿を変えたり、よくわからない催眠が出来たりもするらしいな。
滅ぼす方法で言えば、白木の杭で心臓を貫く、銀の弾丸を叩き込む等々。そんな事されれば誰でも死ぬんじゃねぇかなと思わざるを得ない。
何だろうか、ざっと思い浮かべてみても、言い淀むような何か、言い難い事でも……あっ。
「オッケー、わかった、そこまでだ。これ以上は枝蔵くんが困っちゃうぜ」
「…なんで?」
「なんでもォ!」
苦手な物とか対抗策じゃなくて、吸血鬼の有名な好物といえば、あるじゃんね。
えっとォ…その…き、清らかな乙女の生き血って。うん、配慮すればこの言い方。配慮無しなら処女の血、ジョジョじゃねーぞ。これは女性に対して言い難いよ…面と向かって言えないよ…。
「當真は気付いたみたいでよかったよ…」
「いや…うん…何かゴメンな…!」
「…?」
この番組は多方面に配慮しています、たぶん。
「…あっ、私みたいに処女かどうかって事?」
「ゲェーッ!?」
「ぶふっ…」
レイリーさァん!?
きゅ、急に何を言い出すのこの子ってば!
何で女子ってこういう時に平然とブッ込んで来るのかなァ! 言わないようにしてた俺がバカみたいじゃん! 女子っていつもそうですよね! 男子の純情をなんだと思ってるんですか!?
「なるほど…そっか…」
「何がなるほど!? 少しは隠せよ!」
「レイリーちゃん、レディたるもの當真の言う通りもうちょっと隠した方が…」
あのね、世間的一般には慎みってもんがあるじゃん。これじゃあヤバい人だぜレイリー。というか恥らいって言葉とか無いのか? お前の恥ずかしいって感情は、人見知りの時だけにしか機能しなくなってるのか?
「二人とも、私はこの高校に転校するまで。高校に入ってから友達どころか、まともな知り合いすら出来なかったのに、彼氏とか居たと思いますか?」
「……」
「……」
「ね?」
ね?
じゃあなくって…その…急に悲しい話題をあえてぶち込む事無いじゃん…。しかも真顔で話す事でも無いし、第一それを聞かされてどうしろってんだよ…。ちょっと小首をかしげてるけど、何も和らげねぇよ。この状況でカワイイ感じを出しても無理だろ。
「その……」
「……」
ほら、どうしてくれんだこの空気。初対面の枝蔵くんと巻き込まれた俺が、過去の友達ゼロ宣言でいたたまれない気持ちで一杯だよ。
話を聞きに来てレイリーを連れてきた俺が言うのもおかしいけど、枝蔵くん、本当にゴメン。この娘が着いて行くって聞かないもんだから…!
「吸血鬼の人って、処女かどうかっていうのはニオイでわかるんですか? それとも若くてそれっぽい人を襲ってるだけ?」
「えっあぁ…え?」
「お前マジで…? チャレンジャーかよ…」
枝蔵くん は 混乱 している !
俺もか。
この如何ともし難い空気感に晒しちまうとは、さっき冗談で言った菓子折りは、枝蔵くんに御詫びとして持っていくとしよう、マジで。
しかしレイリーちゃんよォ、結構ハートがお強くていらっしゃいますね。俺はお前が怖くなってきたよ。
「まぁその、わかる、よ?」
「へぇ…」
「わかるのかよ…」
「いやでも! ヒトが言う所の、そう! 道を歩いてたらカレーの匂いがするとかみたいな一般的な話でね!? あっちょっと美味しそうだなぁって感じであって、決して変な意味じゃないんだよ!」
カレーの匂い!?
アレか、夕方の路地をふらついてる時にふわっと漂う感じの、あっこの家、今日の晩メシカレーにするんだなぁ、何か腹減ってきた。
みたいな?
そう考えると吸血鬼って結構不便だな?
だってさぁ、人口密度が高い所とか。こういう学校も含めて、集団生活を送っているだけで腹の減る匂いがするんだろ? 年中腹ペコって事にならないか?
枝蔵くん…お前、腹ペコキャラだったのか…。吸血鬼で腹ペコで、見た目はお耽美なツッコミキャラとか大丈夫か。その線の細い身体が折れちゃうんじゃないか。
「…うん、そっか。わかりました」
「わかってくれたかい!?」
「はい。これで大丈夫そうです、お時間いただいてありがとうございました、枝蔵先輩。失礼します」
「えっ、あっ、うん…? また、ね…?」
「ちょっ、レイリー!? レイリーさァん!?」
レイリーは聞きたい事は聞き終わったと足早に空き教室から出ていく。そういう所だぞお前!
どこで、一体何に対して合点がいったのか知らないが。こちらの困惑を他所に、友達出来ない理由がわかる行動をとるおチビさんを追いかけようとすると。
「…當真!」
混乱から脱した吸血鬼の先輩に呼び止められる。
「何だい、枝蔵くんよ」
レイリーって結構足速いんだよね、早く追いかけないと置いていかれちゃうんだよ。ミニ四駆かな?
「女の子に怪我させるなよ、後輩」
…何を言う為に呼び止めたかと思えば。
「…当然。任せとけよ、先輩」
たとえ馬鹿だなんだと言われようと、男の子には意地ってもんがあるんだぜ。
さて、それからは何事も無かったようにさっさと下校するレイリーを追うようにして、いつものバイト先に到着しましたとさ。
もちろん何回か色々と尋ねようとも、おおよそスルー。まさか変な事考えてないよね、何考えてるのかさっぱりわからない系女子だよレイリーは。表情もほとんど変わらないし。
「こんにちはっすー」
「こんにちは」
「今日も二人揃ってですか。なるほど、これが同伴出勤」
「何かいかがわしい感じにするのやめられないっすか?」
学校もクラスも同じなんだから普通だろ、わざわざ同伴出勤とか言う事じゃないじゃん。これだからデリカシーの無い人形さんはよ、まったく困ったもんだ。
「言葉としては間違ってませんよ、強いていうなら、ここがクラブの類でないというだけで。至って健全極まりないです。それともぉ? 太陽くんは何かやらしい意味に聞こえたって言うんですかぁ?」
「ち、違ぇよ! 普通に二人で一緒に出勤して仲良しですね、とか言えばいいじゃんか!」
「フフフ…ナ・カ・○・シ♡」
「どうやってんのそれ!? セルフでピー音出してんじゃねーよ!」
「出すのはピー音ではなくて」
「やめろやめろやめろォ!」
藪蛇。
藪をつついて蛇を出す。の事。
余計な真似をして、自分に悪い結果をもたらすこと。
まさしく今、この事だよ。
いや言葉のキャッチボールかと思いきや、何でもデッドボールで返してくるフォンセルランドさんが悪いんじゃないか。もしかして俺が勘違いしていただけで、会話のドッヂボールだったんじゃなかろうか。
「メリーさん」
「はい、何でしょうか?」
レイリーの完璧なスルースキル、惚れ惚れするね。
俺も見習おう。…無理か…!
「今起きてる吸血鬼事件の、遺体が見つかった場所ってわかりますか?」
「えぇ。それぞれまとめてありますから…地図を印刷して、マーキングしておきましょうか。でも一人で危ない事はしちゃダメですよ、どこぞのおバカさんみたいになります」
「今日はなんか…皆して俺の事バカバカ言うよね?」
「大丈夫です、お願いします」
「えっ無視??」
ちょっとスルースキルが高まり過ぎてない? ていうか、これはもうただの無視でしかなくない??
俺って空気みたいな存在だったんだね!?
これが本物の
「じゃあ親に連絡してきます」
「あん? 何かすんの?」
「こちらからしておきます、いいですか? くれぐれも怪我をしたらダメですからね」
「聞いてる? ってか聞こえてる?」
「気をつけます…荷物取りに戻りますね」
無視…!
圧倒的空気…!
なんだい…この…胸に去来する、スースーとした、荒涼した大地を思わせる悲しい空気は。こんな、あんまりにもあんまりな何かで胸が満たされると、しょっぱい水分が頬を伝いそうになるじゃん。
「……お、俺はここにいるよォー!」
「確かに触れるね。…メリーさん、いざって時は守って貰いますから、大丈夫です」
「何ィ!? 何なのォ!?」
急に触る事ないじゃん!!
しかも何だ、守って貰うだ何だって。話の唐突っぷりに俺の小さなハートが爆発したら責任取ってくれんのか!? …取ってくれそうだな!? 俺は嫌だぞ!
「うるさいですね…元気に頑張りなさい」
「う、うす…」
たまに思うんだけどさ。タマさん筆頭に事務所での俺の扱いって雑じゃない? これってパワハラとかに当たらない?
御意見・御感想・御評価。質問疑問、誤字脱字等々ありましたら御指摘賜りたく存じます。
や、優しくしてね…!