はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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今回は短いです。
来週は長いです。

バランスが取れてますね。


下 準備の前段階

 

 

 

 

 

 

「…それで、話とは何だ?」

 

 犬というより狼の顔を隠さず、所長が来客に話を促す。驚かせないように、という配慮が必要の無い人員しかいないからこそ出来る状態。

 

「はぇ〜…」

 

 黄瀬さんは来客、つまり千々石さんに渡された名刺を持っては、しきりに裏返したりじっくり見たり室内灯にかざしたりしながら間の抜けた声を出している。

 

「何か…ご立派な感じっスね!?」

 

 感想がそれかよ、もっと何かないのか社会人。

 大人の小難しい会話から抜け出て、俺とレイリーの所に混ざってくる元社会人。大人、大人ってなんだ。

 

「ところで太陽くん、千々石さんって今フリーなんスか? ひょっとして確保できれば玉の輿?」

「嘘だろ…」

 

 何考えてんだコイツ…。出会って一日で入籍と玉の輿を狙いに行くつもりか。一般的には見た目の話から入ったりするんじゃないのか? まぁ千々石さんはヒョロくて不健康そうな見た目の優男だけどさ。

 

 くっ…誰だ! 千々石さんは気遣いの出来る良い人なんだぜ!? それをヒョロくて不健康な優男だなんて、失礼なんじゃないか!? 

 

「いやほらぁ…うちってばもう身寄りも無いし、戸籍も無くなってるっぽいし、職も無くなって…自分で言ってて辛くなってきたっスね? 

 とにかく、そんなだから身元のしっかりしたいい感じの人を捕まえるのはいいんじゃないかなーって。そう考えると、所長さんはナシじゃないっスか、姉御にぶっ殺されそうっス」

「ノータイムで首撥ねられるでしょうよ」

「でしょ!? だからぁ、あのおにーさんならいいんじゃないかなーって思うんスよ。

 あっ太陽くんはダメっスよ。いくらセクシーひよりちゃんの魅力(みりき)にやられたとしても、今は同い年ぐらいの娘と仲良くした方がいいっス。青春、青春って良いっスよねぇ」

 

 めっちゃ喋るなコイツゥー…。しかも何だよセクシーひよりちゃんって。確かに黄瀬さんの見た目とスタイルだけなら一般的男子高校生が飛び付くかもしれねぇけど、俺はその程度じゃ屈しない男だぜ。内面が大事なんだよ、わかるか? 

 魅力をミリキって言うような大人には負けないぜ。

 

「まぁ? どうしても一晩の思い出を作りたいって言うなら、おねーさんとしてもやぶさかじゃ…」

「黄瀬さん…」

「何スかレイリーちゃん。男はまずソープへ行けって作家さんも言うらしいっスよ? ならうちが太陽くんの童貞を貰ってあげるのも」

「こう、ですよ」

「……太陽くん、やっぱナシで」

 

 レイリーが先端の尖った十字架を握り締めつつ振り下ろすジェスチャーで黄瀬さんを威嚇している。

 結果、黄瀬さんは顔面を青くして、俺は勝手にフラれた恰好に。なんだこれ…。

 

 しかし、あんまり頭の緩い会話を始めるのはやめてほしいもんだ。

 ただでさえ巷じゃあ明る目の髪色をしてる人間は、やれヤンキーだのバカだのって偏見が酷いんだから。

 一番酷い風評被害はピンク髪だけどな、何だよピンクは淫乱って。人を見た目で判断しちゃダメじゃんね。

 

 そんな物を信じてたら、この探偵事務所は黒髪比率からして不良極まりない感じになる。

 

 まず、よく不良扱いされる俺! 金髪っぽい茶色! 

 レイリー! 白髪! 

 フォンセルランドさん! 金髪! 

 タマさん! 黒髪! 

 おやっさん! 銀混じりの黒髪! 

 そして千々石さん! 黒髪! 

 黄瀬さん! 真っ黄色! 

 

 どこの国だよ、ここ日本だぞ。まぁ、なんか日本ってみんなの地毛が矢鱈とカラフルになったから仕方ないんだよ。髪色占いとかあるし。でもやっぱりソレに対するパブリックイメージが変わってくれる訳もなく。今日も今日とて、こんなに真面目な俺なのに不良っぽく見えるとさ。やってらんねぇ…! 

 

「では、そのように進めよう。地図や人員については」

「太陽くんと…補佐の誰かが良いですね」

「あぁ、では俺が出よう。こちらから三人、そちらは一人でどうだ」

「大丈夫です…。ありがとうございます、所長」

「この程度で一々頭を下げるな。国の機関の長ともなれば、礼を尽くす相手も選べ。こちらは所詮しがない探偵事務所だ」

「いえ、昔からずっとお世話になりっぱなしですから…」

 

 大人達の会話は纏まったようだ。

 緊張感がほぐれて、千々石さんの腰の低さが全面に出た話になっている。

 

 千々石さんは基本的に丁寧で腰が低い。ともすれば弱腰にすら見える。けど、本当はちょっと違う。

 小さい子供相手には、必ず屈んで目線を合わせるし。お年寄りが困っていれば声をかける。普通の人が困っていても必ず助ける。そんな善良そのものな人。

 だから、悪そうな奴に絡まれている人が居れば率先して助ける。本当に気弱って訳じゃないんだ。単純に物腰が柔らかいってヤツ。

 

 もうちょっと強気に出てもいい気がしないでもないが、余計なお世話って物かね。それが良いところと言えば間違いなくそうだしな。

 

「太陽」

「はーい!」

「急な事だが、明後日の未明に仕事が出来た。何か用事があるのなら…」

「いやぁ平気平気、まったく、これっぽっちも用事なんて無いっすよ」

「そうか…ならいいが。ついでに明後日までに買い物をしてもらおう、領収書もしっかりな。買う物はこれだ、リストにまとめておいた」

「わっかりましたー……酸素ボンベ…?」

 

 悲しいね、特に用事の思い浮かばない寂しさってのが肌に染み渡る気がするよ。

 それは置いといて。所長から渡されたお買い物リストには、明らかに日常生活で使わない物があった。

 

「気は進まないかもしれないが…次の仕事の場所は上下水道そのものだ。酸素濃度によっては無事では済まない。

 仕事の簡単な概要を話そう。現在都内の水道で謎の巨大生物が確認されている、俺達のやるべき事はその何かを鎮静させて確保か、そのまま処分する事だ」

「謎の巨大生物ゥ?」

 

 謎のってアンタ…今日日ホラー映画でもそんな謳い文句はないぜ。どっちかというとホラーじゃなくてパニック映画だな、クソでかいヘビとかのヤツ。

 

「地上に揺れが伝わる程の体重。そして上下水道、特に下水道の地面と壁面に、何かが通った痕跡が認められるようだ。

 足跡らしきものの大きさからして体長十メートルを越える何か…類似した物であれば、ワニが一番近いらしいが…」

「目撃者が居るんなら、謎じゃないですよね〜…」

「そういう事だ。既に数人行方不明になっている。人を襲う何者か、これの対処。それが今回の仕事だ」

 

 気楽な水道のお散歩とは行きそうに無いな。っていうか、絶対人食い生物じゃん。サメとかヘビとかのアレじゃん。

 うーん、事実は小説より奇なり。この場合は映画か。

 

「酸素ボンベ等の細々した準備は、喜八の所に行けばおよそ揃うだろう」

「あの河童のおっちゃん、何でも売ってんなぁ…」

 

 かっぱ橋に居る本物の河童、そして河童労働組合の長であり手広い事業を扱う会社の社長さんでもある。

 その内の事業の一つに漁業もあったから、その繋がりで酸素ボンベの取り扱いがあるんだろう。

 

「じゃあ明日早速買いに行きますかァ!」

「先に現金を渡しておこう、無駄遣いはしないようにな」

「そりゃあもう、任せてくださいよ」

 

 十代のガキに現金を渡すと何に使うかわからない。だが俺は違うぜ、なにせ無駄遣いの宛も無いからな! 

 …言ってて悲しくなるな! 

 

「あっ! 足りない時の為に僕も着いていくよ」

「千々石さん…! 大人だァ…!」

 

 ほら見ろ! めっちゃ優しいんだぞ千々石さんは! 

 でもこれって親戚とかに向けての優しさって感じがするな、や、優しいおじさん…! 

 あんまりお金を渡すような事はしちゃあダメだぞ! 

 

「太陽くん、私も着いていくから」

「えっレイリーもォ…?」

 

 なんだ何だい、何なんだ。

 別に色気のある買い物でもないってのに、着いてくるってのはどういう事だ。レイリーは明日休みのハズだし、普通に野上とでも過ごしていれば良いんじゃねぇのか。

 

「着いてくから」

「……おう」

 

 自分で自分の事を俯瞰して見るとさ、俺ってば結構押しに弱いんじゃないかと思うんだよ。

 

 

 






御意見・御感想・御評価。質問疑問、誤字脱字等々ありましたら御指摘賜りたく存じます。
や、優しくしてね…!
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