はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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ストライブ

 

 

 

 

 

 

 奇妙な出来事が過ぎ去ってから。

 

 私ことレイリー・ケイスと、太陽くん。そして淋代くんとのんちゃんの、いつもの面子あるいはメンバー、略していつメンの四人で登校をしています。

 中々…いやかなり感慨深い、もしくは趣深い。万年ボッチ、行く末は孤独死が見えていた私にも友人が出来たんですよ。これは人類が月に到達したかのような達成感がある。私はアポロ、貴方は月。名前は太陽だけれども。

 

「そういえばさレイリー…ちょっと聞くの怖いんだけど」

「なに?」

 

 朝日を受けておよそ金髪と言って過言ではない頭髪を、歩いているから上下に揺らしつつ。太陽くんが気不味そうな表情を浮かばせて訊いてくる。

 

 何だろう、好きなタイプとか? 本人にも伝えている通りキミのことなんだけれど。それともご趣味は? とか? 恋人の過程を飛ばしてお見合いかな。やぶさかじゃないよ、かかってきなさい。

 スリーサイズとか身長に準ずる事を訊いてきたらぶっ飛ばしてあげよう。太陽を撃ち落とすのは私です。恋愛的にも……ね!! 

 

「急にドヤ顔してるの…」

「レイリーさんは意外と顔に出るな」

 

 あらやだ私ったらはしたない。というか、そんなに顔に出てた? 無表情とはよく言われるけど。

 

「いや、結構顔に出るぞお前」

「えっ」

 

 えっ。

 

「じゃあなくって。流れでぶっ飛ばした、あの仮面を着けてたおっさん…もしかして知り合いだったり…」

「しないよ」

「良かったァー…」

 

 もしも知り合いだとしても。仮面を被りつつ、気味の悪い仮面を片手に持って話し掛けてくる人は知り合いになりたくないかな。

 

 それよりもですよ、そんなに顔に出るんだ。当然だけれど、自分という存在とは生まれてこの方ずっと過ごしています。それが意外な新発見。ちょっと恥ずかしいね、責任取ってもらおうか。

 

「なんだ、また揉め事でも起こしたのか?」

「またって何だよ。今日はたまたまだし、何よりいたいけな女子高生が変な輩に絡まれてたのを助けちゃいけねーのか?」

「いつか補導されるか捕まるのん、阿呆が極まってるの」

「アレだね、野上はマジで俺に厳しいよね」

「あまり否定は出来ないだろう。レイリーさんもそうだが、先ずは警察を呼んだりといった手順を踏む必要性を気にするべきだ。そうでなくては正当性が…」

「緊急だったんだよォ! なんだってんだお前その小言は、どこぞの生徒会長によく似ていらっしゃるじゃねーの。会長サマとくっつき過ぎて移ったか!?」

「死ぬがいいの」

「なんでっ…痛え!?」

 

 デリカシー無し男だね、太陽くん。

 それはともかくとして、確かに緊急だった、それは事実。だとしても釈然としない。

 

 私はどう見ても一般的な女子高生、それはもう誰が何と言おうと。私自身の自覚がそうだし、そこらの人が見ても、ちょっと目立つ程度の差はあれど同じような感想を抱くだろう。

 

 だとしたら、何故あんな事が起きたのか…。偶然、おそらくこれが一番手っ取り早い結論だ。だとしても、あのよくわからない仮面の人は、あの道端にずっと居たのだろうか。

 それこそ不思議だ。例えばあの人が寝ていたとしたら、通報されて警察官の一人や二人が来て職務質問されるものじゃないだろうか。

 

「…ま、あんまり考えても仕方ねぇぞ。誰かが突然トチ狂うだなんて、よくあって欲しくねぇけど、よくある事ってヤツだ」

「うん…」

 

 どうやら本当に顔に出ているらしい。それともあれかな、もしかするとアルミホイル製の帽子でも本当に被ったほうがいいのかな。

 

「危なくなったら呼べよ、助けられる所に居たら助けるぜ?」

「……」

 

 そこは普通に、絶対助けるとか言えばいいのに。

 

「そのギャグみたいなたんこぶを頭に付けていなかったら中々決まっていたかもな」

「野上ってマジで俺に厳しいよね…これさっきも言ったな…いや本当に厳しいぜ」

 

 ちょっと締まらないよね。うん。

 頭のたんこぶで、かなり台無しだよ。

 

「當真の暴行容疑は一先ず置いておこう。さっきの話だが…レイリーさん、相手は知り合いではなかったそうだが、どんな風貌だった?」

「…うーん…普通の会社員みたいな人だったよ、変な仮面を着けてたけど」

「同じような仮面を手にも持ってやがったな、そんでレイリーに被せようとしてたから、俺がぶん殴ったってワケ」

「ふむ…」

「何か心当たりがあるのん?」

 

 特に目立つ特徴を伝えると、そのまま思案顔を浮かべる淋代くん。様になってますね。

 のんちゃんが言うとおり、何か引っかかる点でもあったんだろうか。

 

「心当たり…いや…もう一つ聞いておきたいんだが、その会社員の人は、當真が仮面を壊した後どうなった?」

「気絶してたよ」

「普通に叩いても起きねぇから、救急車は呼んでおいたぜ。相手は不審者でも野ざらしってのは良くねぇからな。それが何かあったか?」

「そうか…」

「んだよハッキリしねぇなぁ…」

「憶測でしかない事を言うのは苦手でね」

 

 憶測、というと。何か知っているんだろうか。

 

「最近姉さんの病院で、同じように気絶した人が複数人運ばれるらしい。しかも、意識が回復したと思ったら皆口を揃えて何も覚えていないと言うそうだ。つまり」

「今回のも?」

「そう。同じじゃないのか、と思ったのさ。仮面を持っていたり着けていたり、という話は出なかったが…」

 

 ふむ…? 

 これはまた不可解な話。気絶した急患が出るのはさして珍しくないだろう、でもその運ばれた人達がみんな何も覚えていないと言うのはおかしな事だ。普通は気絶したならしたで、その前の事はほんの少しでも覚えているはず。なるほど、淋代くんが何か引っかかると思ったのも頷ける。

 

「なるほどォ…じゃあここは一丁俺が病院で聞き込みでもしてこようかなァ!」

「ダメだ」

「バカなのん」

「ダメ」

「オイオイオイ。いくら民主主義の国とはいえ人の自由な行動を止めようだなんてのは…それはちょっと横暴じゃん? 溢れる思いは流線型で止められないって皆さんご存じない!?」

「数の暴力に訴えるよ」

「きょ、脅迫…!?」

 

 気絶すると記憶が飛ぶ。なら、ここで太陽くんも気絶させれば記憶が飛ぶかな? 

 というかさぁ…すぐそばに告白を振った相手がいるのに、よくも溢れる思いはどうとかって事を言えたものですね。馬鹿は死ななきゃ治らないって言うけど、試してみようか? 

 

「冗談だよ…半分くらい」

「ふんっ」

「へっ、遅いぜ野上ィ痛え!?」

「……」

「今のはお前が悪いぞ」

 

 昔は壊れかけた電化製品を叩いて直してたって言うよね、だからこれはセーフ。ちょっと小突いただけだもん。可愛げの範疇だよ。ところで可愛げって、ひらがなで書くと不思議と妖怪の名前みたいだね。漢字にしたら川井毛、怖い怖い。

 

「ち、ちくしょう…四面楚歌ってこういう事か?」

「………」

「待て待て待ってくれレイリー…キュートでポップな冗談だから、その懐に手を伸ばすのはマジで怖いからやめてくれ。な? 

 朝にふさわしい爽やかな俺のジョークはさておき、だ」

「爽やかだったか?」

「俺が爽やかって言ったら爽やかなのォ! 話の腰を折らないでよねッ! それはさておき、本当にちょっと調べてみるか。今回のオッサンも含めて、病院に運ばれてる連中も…どうにも変だってんなら足を使って調査する。伊達に探偵事務所でバイトしてねーぜ!」

 

 太陽くんの言う事ももっともだろう。

 モンデンなんとかも関わっていないとは限らない。そしてもしも関わっていたら、彼はこちらが止めても止まらない気がする。

 

 人の事を顔に出やすいと言う彼も、人の事が言えない程度には顔に出る。それならいっそ、私や探偵事務所の人達が先に解決してしまえばいい。

 

 まぁでも、なにも無ければそれが一番いいけど。

 

 

 

 

 ───☆

 

 

 

 

 ある館。都心から少々外れた所にある、鬱蒼とした木々に囲まれた建築物。

 最初の館の持ち主は今は亡く、その所有権は長らく宙に浮いていた。相続する人も居らず、欲しがる人も長らく現れることはなかったからだ。

 しかし、そんな打ち捨てられたに等しい館を改めて買い取った者がいる。

 

「首尾は」

 

 館の主が広間の壇上から虚空へ向けて厳粛に問う。

 薄暗い館の中、時間は昼間だというのに光が薄くしか差し込まない。館の主の表情が伺い知れないのは、室内を照らす灯りが今にもかき消えそうなか細さが手伝っていた。

 

「思わしくありませんなぁ…どうも。奴だけでなく、この都市は非常に厄介な者で溢れかえっております」

「アンタ失敗ばっかじゃない…」

「ぬぬぬ…失礼な! ワタクシが立案した『ドキッ春のテケテケ祭り(首の)ポロリもあるよ!』が成功していれば、こうはならなかったのですが!? おのれぃ女子高生…女子というだけでそんなに偉いのですか!?」

「たった一人の女子高生にメチャクチャにされて頓挫する方が駄目でしょ…っていうか何その名前?」

「んくぃぎぎぎ…! ぐやじい!!」

 

 館の主に対しての話し声が二つ、一つは男とも女ともつかない声。もう一つは女の声。大袈裟に悔しがって、半ばふざけているほうが前者である。

 

「…して、次の手はどうする」

「ワタシが行きましょうか? だってほら、傷も治ってきたし。そこのは役に立たないし?」

「はぁー? 立ちますぅ〜、ワタクシ達は紅屋ちゃんと違ってオシッコ漏らしながら逃げ帰ったりしてないんですぅ〜。えっ放尿プレイ!?」

「一匹くらいぶち殺しても変わらないんだっけ? とりあえず死んどく?」

「日光浴が恋しいならそう言っては如何ですかな?」

 

 売り言葉に買い言葉、館の近くにいる鴉の方がまだ静かに鳴くだろう程に二人が騒ぎ立てる。一触即発の空気が広間に蔓延しかけた時。

 

「静かに」

「は、はい」

「…むぅ。これは失礼をば…」

 

 館の主が発する静止の声に逆らうことなく、水を打ったような静けさが取り戻された。

 同時に、複数の足音が館の一室に飛び込む。

 

「ん失礼、ちょーっと遅れてしまいました。データ入力が佳境だったもので」

「同じく、大変失礼しました閣下。しかし御安心ください、これで御身に相応しい乗物が完成いたします」

「あっグレイくんもそうなの? こちらも次の実験が終わって、実戦投入出来そうなんだよ」

 

 一人は頭全体を被り物で覆った白衣の男。

 もう一人はグレイと呼ばれた少年。

 どちらにも恭しく壇上へ頭を垂れては視線を向ける。

 

「…チッ」

「おーやおや…実験体…じゃなくて、紅屋くん。もう傷は治ったのかい? 結構短期間に治療に再改造にとしたんだから、大人しくしてないとダメだよ」

「大きなお世話だ、クソジジイ」

「ん元気だねぇ…でも、折角ほとんど対等な立場になったんだ。私のことは博士と呼ぶように。閣下の手を煩わせちゃあいけないよ?」

 

 またも剣呑な雰囲気が立ち込める。博士とのみ名乗る男は飄々と紅屋という女吸血鬼を窘めるが、それすらも紅屋にとっては神経を逆撫でされる心境なのだろう。怒気、あるいは敵意の一切を隠そうともしていない。

 

 紅屋が周囲を無闇に敵視し過ぎていると言ってしまえば、まさしくその通りである。しかしながら、館の主に見下ろされる四人は、その全員が互いに仲良くしようなどとは考えていないのだ。

 一人は機会があれば全員野垂れ死ねと思っているし、もう一人は他者を実験動物か何かとしか思っていない。他はそもそも壇上の館の主意外に興味が希薄。まとまりが無いようにしか見えない。

 だがそれは違う。

 

「それぞれ首尾は整っているようだな」

 

 厳かな声が静かに行き渡る。その瞬間、場の空気は何事もなかったかのように凪いだ。

 つまるところ。この一見まとまりの無い集団は、おおよそが館の主への信仰、または敬意で結束している。

 

「そのようですな。ですが閣下、次こそはワタクシとっても自信作! 名付けて! 『あの子のハートを狙い撃ち! 夏といえば…』」

「おーっと待った。ここは私が行かせて貰うよ、次の予定がわかっているなら尚更。ん素晴らしくお誂え向きのが出せるんだ」

「ムムムー…でも、博士ってば前回失敗したではないですか。だからここは他の誰かに譲るのが筋ってものじゃァあーりませんかっ!? もしくは多数決。多数決ならワタクシ達が絶対勝てますし!」

「アホくさ…」

「多数決とは烏滸がましい。当然、僕たちは十全の備えをするのみ。紅屋さんが出られないのは勿論ですが、それは兎も角として。閣下がお決めになられる事です」

「んグレイくんは良いこと言うなぁ」

「あっ! 博士ズルい! はーい! ワタクシもそう思いまーす!」

 

 ふざけているのか、そうではないのか。

 わからないまま、何かの決定は館の主に委ねられる。

 

「では…博士、あの巨大鰐では歯痒い思いをしただろう。その雪辱を果たす機会、そして完遂の暁には栄誉を与える…励めよ」

「ん畏まりました! おまかせください…()()

 

 その決定に異議を唱える者はいない。

 彼らの思考は一つ。

 

「全ては総統閣下の為に」

月の子(モンデンキント)に安寧と、次こそは勝利を」

 

 

 

 

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