はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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日常的ランダマイザー

 

 

 

 

 

 

 

春の時期に見るものといえば、冬を耐えた花々が咲く色とりどりの景色とか、夜なら酔っ払った人が凍死の心配をせずに路上で寝てたりとか。今も昔もそんなに変わらないんじゃないか。

 

自分の登校中に横断歩道に視線を移せば、クチバシも黄色でタマゴの殻代わりの帽子もランドセルも黄色か蛍光色。旗で誘導する青黒ピッチリスーツとマントを着た謎のマッチョ、小学校一年生と書いてヒヨコと読む児童たち。長閑な風景だぜ。

 

 

いやなんか混ざったな?

しかもだいぶ危ない感じの存在が。

 

 

「やめろ宇宙人! 春が台無しじゃねえか!!」

「む…? 貴様か…」

「なんだよそのやれやれって感じの反応は…」

 

今にもため息を吐き出しそうな顔をしているコイツは自称『悪の地球侵略宇宙人』ことタイター・E。今日もアンテナみたいな髭が重力に逆らっている。

何で自称って付けるのかって?

 

「何で交通整理員みたいなことやってんだよ、悪の宇宙人なら…もっとこう…子供を攫うとかあるじゃん…」

「フン! 浅はかなり地球人ッ!」

「えぇ〜?」

「この国ならずとも、子供は宝と言うのであろう。ならばそれは、いずれこの星を手中に収める我輩の宝も同然であァるッ!

言うなれば先行投資よ。貴様も未だ子供の身であるが故、日々壮健を心掛けるが良いッ!」

 

カ…カッコイイ…!

 

この自称悪の宇宙人のおっさんは、どうにも人類に優しい。東にゴミのポイ捨てする奴がいれば、ゴミを拾った後に諭し。西に喧嘩する連中がいれば、宇宙船で乗り込んで指一本で仲裁する。しかも指先一つで物理的に地面とか割って。

北に雨に濡れる捨て猫あれば傘と餌をやり、立派に生き抜けるようになるまで面倒を見て。南に足が悪くて困る老人がいれば宇宙船で病院なんかに送り届ける。

 

こういう漢に、俺もなりたい。

 

いや違う違う、宮沢賢治じゃなくて。

とにかくこの宇宙人は悪い事をほぼしない。たまに勢い余って道路をぶち壊したりするけど、謎の技術でそれも直している。どうでもいいかもしれないが、大気汚染とか放射能もどうにか出来るらしい。

こいつ本当に悪の宇宙人か? そう疑ったのは一度や二度じゃ済まないけどさ。

 

「わるおじちゃん! またねー!」

「うむ、車と妙な輩には気をつけるが良い!」

 

あだ名まで付けられてんのは馴染み過ぎじゃない? 俺がおかしいのかな??

 

「貴様も呆けていないで学校へ行き、勉学に励むが良い。くれぐれも遅刻などせぬようにな!」

「お、おう…!?」

 

将来食うに困ったら何かしらの形で雇ってくれないかな…。たぶん並み居るブラック企業も浄化できる圧倒的なパワーを感じるぜ。

言われんでも特待を維持する為に勉強はきっちり真面目にやってると少しばかり反論しようとした矢先。

「…むっ!」

「ん? …クソッ!」

 

反応したのは宇宙人が早かった。明らかに車線を無視してこっちに迫ってくるトラック。俺は訳のわかんねえ転生なんてまっぴら御免だぞチクショウ!

 

「おっさん、子供を!」

「馬鹿者ッ!!」

 

よく見ればトラックは斜めに傾いてる、前輪っぽい所は火花を散らして、半ば蛇行して来やがる。

 

───後ろに任せるか?

宇宙人が受け止めても近くの児童は破片に巻き込まれるかもしれない。

 

──避ける?

俺だけは確実に助かるだろうよ。お断りだ。

 

─じゃあどうする?

決まってんだろ!!

 

 

「ふぅっ…おォらァ!!!」

 

覚悟を決めて、全力でトラックを殴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「太陽くん、また危ないことしたの…?」

「いやそのぉ…忍者のせいでトラックが突っ込んできたんで…それを止めに…」

 

俺・イン・病院。メン・イン・ブラックみたいだね!ウフフ!

 

ウフフじゃねぇよ、メン・イン・ブラックの皆さんは仕事中だよ。宇宙人が絡んだ事件って事でタイターのおっさんが事情聴取されてるよ。

 

さて、トラックを殴り止めた俺は現在病院にいる。腕が折れたのでその治療をしてもらいに来た。治療費はどうすりゃいいんだろうね、これ。

元はと言えば。どうやら忍者どもが戦闘中で、正義の忍者に追われていた悪の忍者が非人道武器のマキビシを使い、そこに不運にも通りがかってしまったトラックは見事にタイヤがパンクして…ってことらしい。

もっと言うとご丁寧に油まで撒いてたので確実に止まれなかったそうだ。山とか森の中で戦えよ忍者…。

 

金の請求先は忍者かトラックの運転手か、難しいところだな。個人的には忍者が悪いと思うんだけど、悪の忍者が払ってくれるのか?

幸いにして運転手は軽傷だけどさぁ。

 

「なんでまた危ないことしたの…?」

「へ? あぁ…か、身体が勝手に動いちゃって?」

 

あれ、俺の女神様がなんかキレてない?

チワワもかくやってぐらいに震えてらっしゃるよ、チワワよりラブリーだからこれで規模と震度を掛けて破壊力二倍だな。心の震源地は俺、震えるぜハート!

 

「太陽くんが死んじゃったら、悲しくなる人はたくさんいるよ…わたしも、颯だって悲しいよ…」

「…ごめんなさいこころさん、気をつけますから…」

 

ふざけてる場合じゃなかったな。今にも泣きそうな顔で真っ直ぐ俺を見てくるこの人の名前はこころさん。名字は淋代、年齢は二十二歳。つまり颯の姉だ。

大学にいた時も卒業してからも、ずっと医師として病院に勤めている。

医大に行っているはずなら年齢が合わないのも当然で、こころさんは正確には医者ではない。

 

彼女は噂、俗説に既に巻き込まれている。

そうなってから長いし、どうにかしようとも思っていないらしいが。その噂は『叩けば直る』というもの。

機械を叩いて直すっていうローテクな発想の極地が、一人の女性に取り憑いてるって訳だ。

 

噂を使いこなしてる点では千々石さんと同じ。機械が故障しても叩けば直り、動物でも人間でも叩けば外傷は綺麗に治る。病気はダメだが、欠損や即死するような怪我でもなければ治せてしまう。

 

だから特例措置として、外科とか緊急救命の医師扱いで働けているってこと。本来なら何時間もかかる手術が、この人が間に合えば数秒で済むんだからそうもなる。

イメージし難かったら、某漫画の四部の、主人公が使うスタ…能力を思い浮かべてほしい。こんなに便利なら国でもなんでも放っとくわけないだろ?

 

「次は治してあげないからね」

「勘弁してくださ、イッ!?」

「もうっ…!」

 

バチンといい音がしたかと思えば、ひしゃげた腕が怖いくらいの速さで元に戻っていく。相変わらずとんでもない光景だ。

ところでいつもより結構な強さで叩きましたよね?

…そうか! これこそが愛のムチ…なるほどね、俺ってばMの気があるのかもしれん。

 

「安心してください。俺はほら、そう簡単に死なないでしょ?」

「もっと体を大事にしてって言ってるの!」

「はい…」

 

もしかしてあれかな? こころさんって性根も叩けば直せるのかな? ついつい反省しちゃうぜ。

いざって時にはわからないけど、出来るだけ死なないようにしなくちゃな。

 

「むー…!」

 

ってあれぇ!? たぶん考え事がバレてんなこれ! 俺ってそんなにわかりやすいかな。

しかし、むーってなんだよ、めっちゃカワイイな。淋代一家って皆揃って顔もスタイルも良いんだよね、しかも性格まで良い、オイオイオイこれじゃあ完璧な天使だよ。

こうなりゃ責任取って結婚するか? でもそうなると颯が義弟か…なんか嫌だな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天使様…じゃなくて、こころさんをなんとか宥めてから病院を出た、今度何かお土産を持っていこう。は〜結婚しよ…。

ちなみに治療費は正義の忍者が建て替えてくれた、後で捕まえた悪の忍者に払わせるらしい。ありがとう正義の忍者、でも次は人の居ない所でやってくれよな。

 

「うーわ…」

 

大きめの日陰の中に入って、無事だった携帯電話で時間を確認すると、昼近くであることに気づいた。これはどうしたもんかね。

病院から学校に連絡は行ってるから、普通に向かってもいいんだが。これで着いてもどっかで遅めの昼飯食べて一コマだけ授業受けて帰るってのもな。

 

「そこな地球人ッ!」

「あぁ?」

 

誰だよ地球人、範囲広過ぎだろ。

いや待てよ? この妙ちきりんかつ威圧感のある声は!?

 

「貴様は格別の勇気を我輩に示したッ! 故に我が船に特別に乗せてやろうッ!」

「宇宙人…いや、タイターのおっさん!」

「おっさんは余計であァるッ!!」

 

電柱の上に立ち、煌めくマントをはためかせるその姿はまさしく変質者。これは通報モンだな。

ん?

 

「えっマジで!? UFO乗せてくれんの!?」

「此度だけであるぞ?」

「やったー!」

 

怪我の功名か人間万事塞翁が馬ってヤツか、いつもは絶対には乗せてくれない宇宙船に乗せてくれるようだ。

内装とかどうなってんのかな、滅茶苦茶ワクワクしてきたぜ。あっでも本当に? 嘘じゃないよな? 俺学校で自慢しちゃうよ??

 

「では、その光を浴びるがいいッ!」

 

選手入場の掛け声みたいな声量と共に指し示されるのはスポットライト感のある光。

もしかして、やたらとデカい日陰だと思ってたけどこれUFOの影だったのか。日常に摩訶不思議があり過ぎるだろ、毎日がアドベンチャーだよ…。

 

「お、お邪魔します…?」

「飲み物を持ってくるが故、座して待つが良い」

 

光に連れ去られた先は宇宙船の中であった、雪国感ゼロだよ。どうなってんだこれ。

光に照らされた直後、自分の体がフワーッ!っと浮いて宇宙船に飲み込まれた。浮遊感与えられちゃったな? ありゃ傍目から見れば、どう見てもキャトルミューティレーションの映像だったが大丈夫なのか。

 

着席を促された椅子もなんかすげぇツルツルした光沢の椅子だし、テーブルも角が無い。宇宙船の中は光源もわからないが、真っ白い光で照らされてる。外の景色が見える窓も丸っこい。

何が表示されてるんだかわからないモニターもあれば、妙にカラフルなスイッチ群もあって、これは実にレトロフューチャーだな?

 

めっっっちゃくちゃワクワクする…。どうしよう、そこらへんにあるスイッチ押しちゃダメかな。こんなに沢山あるんだから一個ぐらい押してもいいんじゃないか? 自爆スイッチとかないよな?

 

「不用意に船内のものに触るでない」

「うぉあ!?」

 

継ぎ目も見えないドア? から入ってきたタイターに注意されちまった。宇宙人の技術って凄えな、ドアの稼働音が本当にバシューって空気が抜けた音がするんだもん。往年のSFモノ感がたまんねぇなオイ!

 

「大人しく座らぬか、ほれ飲み物だ」

「…あんがと」

 

渋々座る俺に差し出されたのは、たぶんオレンジジュース。普通にコップに入ってるのがどことなくシュールだな、ところで用意してあったの? オレンジジュース常備してんのか? 可愛いところがあるな宇宙人。

 

「我輩はとやかく言わぬ。されど、自らの命を軽々しく蔑ろにするのは止すがいい」

「宇宙人、お前もか」

「む?」

「なんでもねーよ」

 

似たような事を病院で言われたばかりだ。日本、いや世界広しといえど、宇宙人から説教をもらう高校生なんてそうは居ないんじゃねえかな。

見た目だけなら宇宙人っていうより変質者の方が相応しい気もするけど、それは置いといて。本当に優しい宇宙人だ。こんな優しい連中ばかりなら日本も平和なんだけどなぁ。

 

「貴様もまだ子供だ。他の地球人より些か頑強とはいえ、その命の価値は変わらぬ。貴様の身を案じる者も多かろうことを努々忘れるな」

「わかっちゃいるよ、今回は体が勝手に動いたってことで大目に見てくれ」

「フン…」

 

宇宙人にも内心がバレてんなこれ、地球人に詳し過ぎるぞこの宇宙人。

そこまで自分を粗末に扱ってる気はないが。もう一度同じような場面に出会したとしても、俺は同じ事をするだろう。

 

だってさ、後味悪いじゃん? もしも子供に一生物の傷がついたら、親御さんだって悲しいだろうよ。何よりこのおっさんは知らないのかもしれないけど、頭にトラックの破片が当たったり、転んで頭を打って死んじまうなんてのもあるんだぜ。

だから万が一にもそんな事がないようにってだけだ。俺に何かあっても悲しんでくれる人たちはいるんだろうけど、他人といえば他人だ。すぐに忘れて普通に生活を続けてくれるだろう。

 

でも、俺じゃなくて。普通に両親がいて、普通に愛されて育っている子供ならそうはいかないんじゃないか。親御さんはずっと自分と加害者を責めて生きていくんだろう。そんなのは後味悪くて俺は御免だね。

まぁ、俺に普通の両親はもういないんですけどね! 死んじゃってるからな! わははは!

 

「間もなく貴様の学校に着く、出立の用意をせよ!」

「うぉぉ、速えな…十分も経って無いんじゃねえの」

「地球の軟弱な乗り物と同じにするでない! 我が宇宙船であるこの『蘇民祭』はワープ航行も可能である!」

「マジか…」

 

とんでもないな宇宙人、技術だけじゃなくて、そのネーミングセンスも。地球人に発音不可能な言語とかじゃなくて、思いっきり日本名じゃん。しかも岩手で有名な裸祭りって何なんだよ。

 

「じゃあな宇宙人、ありがとさん」

「身体を厭えよ地球人…さらばだッ!!」

 

学校の屋上で宇宙船から降ろしてもらった。校庭に降り立つよりは目立たないと思ったんだが、ここまでくるとあんまり関係ないな。

高度を上げて船に飲み込まれていくおっさんを見ると、なんだか言いようのない感覚がしてくるぜ。

珍しく背中のマントが翻って背中が見える、軽い物から浮くんだな…いっそ神秘的な光景な気も…ん?

 

【悪】

 

その一文字が背中に大きく描かれていた。

 

悪の地球侵略宇宙人ってそういうことか? いや絶対間違ってるって宇宙人! 誰か変な知識吹き込んだんじゃねえだろうな!?

 

なんかどっと疲れたな、今日は普通に昼飯を食べて普通に勉強するとしよう。

友人達への話の種は決まってる。俺がトラックを止めた所は省いて、宇宙人の船に乗せてもらったことだ。

 

アンビリーバボーな奇跡体験は共有しなくちゃ損だぜ。あれ、でもお年寄りは乗せてもらってるらしいからそんなに珍しくないのか…?

 

 

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