はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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Party?

 

 

 

 

 

 

 絢爛豪華。

 

「いやはやお似合いでござるよレイリー殿」

 

 荘厳美麗。

 

「で…」

 

 金碧輝煌。

 

 果てしなく明るくて、嫌味なほど豪奢。

 広間という言葉に相応しい大きさの広間は、私に似つかわしくない程キラキラ光っていて、その天井にはシャンデリア。地面には花より赤く、火よりも紅いカーペット。そこかしこにあるテーブルは、私の髪色と同じ白を被っている。

 

「何このパーティ…」

「ははは、お召し物。よくお似合いでござるよぉ」

 

 私もまた、場に相応しいように綺羅びやかなドレスを着ている。

 うーん。この忍者マンはどうにも私の疑問に答える気は無いらしい。ちょっとした頼みという触れ込みだったけれど、こうなるのは予想の範疇から大きく外れていた。

 

 

 

 さて、何がどうしてこんな事になったのかというと。

 

 

 

 先日のグラウンドハチャメチャ事件の後日。

 …事件とは言うものの、結構ありふれた出来事だから日常の一コマの方が相応しいかもしれない。天変地異にも慣れてきた、そんな事実に一人戦慄を覚えた今日この頃。

 

 じっとりとした暑さが抜けない放課後に、本日はお日柄も良く、アルバイトも無いので特段することも無いなぁと思って廊下を歩いていると、見た目の怪しい同級生がこちらに猛然と近寄ってきた。

 

「レイリー殿! レイリー殿ォォ!」

「うわ…」

「あれれー? 某ってば何かしたでござろうか。初対面の時に下着の色を当てたくらいでござるよね。そんなに引かれるようなことをした覚えは無いでござるが」

 

 人、それをドン引きの所業。というのではないでしょうか、彼の中では普通の事なのかな? 

 それとも一般的には普通だったりする? 

 

「何か用事?」

「先日の所要についてお話したく候。アッ! 何も怪しい話ではないので、何卒警戒をば召されぬよう」

「面頬を着けてる時点で怪しいよ」

「むむむっ鋭い指摘でござるな、しかしこれも某のちゃあむぽいんつ。滲み出る個性をひた隠しにする神秘性が大人気でござるよ」

 

 ただの不審者じゃない? 

 そもそも誰に人気なの、という言葉はぐっとこらえて。先日の、のんちゃんに蹴り飛ばされる前に言っていた事の続きだろうか。

 私に出来る事なら手伝うけれど、何でもできるって訳じゃないのは火を見るよりも明らかで。身体能力が物を言う類の頼みごとなら、私以外に頼んだ方が確実だと思う。

 

「まあまあ、そんなに不安そうな顔をせずとも。レイリー殿にはとっても簡単で、某達には難しい事でござる」

「……」

 

 皆には難しくて、私には簡単なこと…? 

 それってトンチ的な話だろうか。

 

「では次の休日に、少々お時間を拝借したく候。ご安心召されよ、後に支障が出ぬよう、當真殿にはこちらから説明しておくでござるよ!」

 

 まさかとは思うけど…。

 

「もしかして太陽くんに断られて」

「ござござ〜」

 

 それは誤魔化しの笑いとかなんでしょうか。

 太陽くんは派手な見た目に反して、中々の堅実派。怪しい話にはほとんど飛び付かず、日々修練を絶やさないタイプです。あの見た目で。大事なことだから二回言及しました。

 

「一寸ばかり宴会に同席を願うだけでござる。

 えっ? そんな礼服なんて無いですと? 

 どうか御安心召されよ、それはこちらでご用意させていただくでござる。そうつまり新手の灰かぶり、レイリー殿には大船に乗った気分で請け負っていただきたく候。

 意中の太陽殿も、本日は所要があるとかで早々に何処かに行かれましたし。おっと当然ながら報酬もあるでござるよ、現物支給でござるが。いわゆるお召し物一式、今なら装飾品だって付けちゃう! うーん気前が良い話、さぁ受けるなら今!!」

「………」

 

 めちゃくちゃ喋るね、風間くん。ところで嘘をつく人の中には、口数が多くなる人も居るって話だよ。

 

「おまけに當真殿の個人情報も…」

「受けるよ」

 

 汚いな流石忍者きたない。

 

 

 

 と、こんな話がありましたとさ。

 

 

 

 いやいやいや違う、違うんです。決して風間くんの提示したおまけ部分に心が惹かれた訳ではなくて、困った人を見過ごせないという私の良心が承諾を決めたんです。

 あと、そう、お召し物なんて言われるような仰々しい服に興味があって。しかも宴の席っていうことはパーティですよ。そんな知的好奇心がくすぐられる事にはいざ飛び込んでみたいと思うのが人の情、ただの女子高生が経験し得ないであろう事に興味津々だった、というだけのことです。

 

 話が長くなってるって? 

 それはいいんです、もっと本質的な意義についての話だから。さっき嘘をついている人は早口になるって思ってなかったかって? 好奇心は猫を殺すらしいですよ。まぁバイト先で所長代理を務めている環さんなら、逆に首とか取ると思いますけれど。それだと猫が殺す、ですね。スレイヤーキャット、殺猫。

 

「レイリー殿?」

「あ、うん。なんでもないよ」

 

 おっとしっかり見られていました。何だか気恥ずかしいね、たとえそれが誰に宛てでもない脳内での言い訳時間だったとしても。

 

「そうでござるか? 

 では某は天井裏に参るでござる、くれぐれも姫様の事をお頼み申し上げますぞ。あっ、そうそう。退屈でござったら周囲の方々と談笑するも可でござる、というか姫様とお話とかね、うん、某ってばしてほしいでござる、是非に。では!」

「うん」

 

 そう言って煙の様に掻き消える風間くん。実は忍者だという事を隠す気は無いのかもしれない。

 …普通に受け入れてしまったけれど、天井裏に行くっておかしくない? もしかして私の知らない都会のスタンダードだったりするのかな。

 

「ま…いっか…」

 

 とにかくやるべき事をやりましょう。

 風間くんからの依頼…というほど大それた話じゃないか、彼からのお願い事は二つ。

 

 一つ。

 彼の言う姫様、つまり朝倉さんの近くに出来るだけいること。

 

 二つ。

 そして、出来るだけ目を離さないこと。

 

 単純明快ですね。

 …これって言い方を変えただけで、護衛とかそういった類の話じゃないかな。ちなみにさっきから、というかずっと、朝倉さんは近くに居ます。

 

「………」

「………」

 

 でもね、わかりますか。まるで会話が無いんです。

 当然の事として事前に挨拶くらいはしたよ、はい、しましたとも。でも…。

 

「朝倉 妃咲蘭と申します。何卒よしなに」

「え、あ、はじめまして…レ、レイリー・ケイスです。よろしく…」

「はい」

「……」

「……」

 

 これが本日最初の会話。

 以上です。そしてこれ以外無いんです。

 

 これ会話って言わないんじゃないですかと思った人、私もそう思います。はい、ただ名乗っただけで終わりですね。

 それはそうだとしても、ちょっと待ってほしい。私はそれはもう口下手で、初対面の他人と仲良く話すなんて至難の業。相手から距離を詰められればまた別ですが、そもそも普通はこうなるんじゃないでしょうか。

 

 同じ学校だとしても、小中と持ち上がりの中で見知った間柄でもなければ、そもそも私は転校生。赤の他人そのものじゃないですか。それがどうしてきゃあきゃあと場を盛り立てられるんですか。無理難題ですよ無理難題。他者と真っ当なコミュニケーションをした回数のほうが、無視されてきた回数よりずっと少ないんですよ? 

 言ってて悲しくなってきた。人当たりの良い人って貴重だね。ありがとう太陽くん、淋代くん、のんちゃん。貴方たちのお陰でアイスブレイクが済んでクラスに馴染めましたと言っても過言じゃありません。

 

「………」

「………」

 

 …き、気まずい…!! 

 沢山喋れないんですよ、頭の中以外では! 

 見つめ合わなくても素直におしゃべりできないんです! これで出来れば姫と話してほしいって、風間くんはだいぶ無茶ぶりをしてくれる。

 

 ううん、ここは恨みっこなし。そう、折角話せる人も増えた訳で、携帯電話の電話帳だって家族以外の名前が増えた。ということは、きっと私の対人経験値も上昇してレベルアップしてるに違いない。やるなら今、男は度胸、女も度胸。

 

「あの…」

「何か」

「ネックレス、似合ってましゅね」

「……」

「……」

 

 噛んでる!! 噛んでる!! 

 動け私の舌、いざって時にカツレツがモロモロになってる場合じゃないでしょ!? 

 しかも何で装飾品を褒めだすかなぁ! 

 もっとこう…天気の話をするとか…? いやダメっぽいですね、天気の話を最初に切り出すとか事実上の敗北宣言じゃないですか。詰みです、出直してきます。

 

「有難う存じます」

「えっ」

「これは…大事な物ですので」

 

 えっ…グッドコミュニケーション? 

 本当に? 

 って呆けてる場合じゃない、今こそ一気呵成に攻める時。たぶんそう、きっとそう。

 

「誰かからの贈り物だったり?」

「はい。正確にはこの石が、ですが。価値のつけられぬ程に」

 

 朝倉さんはそう言って慈しむように首元を飾る石を撫でる。心なしか表情も柔らかい。

 壁の花という言葉もあるけれど。この横顔からは本当に壁に鎮座する花じゃなくて、固く結んだ蕾が、春先にふと綻んだような。そんな、気付かないで通り過ぎてしまうような微笑だったと思う。

 

 きっと家族とか、それに類する親密な人に貰った物なんだろう。ほんの少し、誇らしげにも見えた。

 

「いい思い出があるんですね」

「…はい」

 

 それが誰かは聞かない。

 でもそれでいいと思った。

 

 朝倉さんは、私よりも浮いている。それは私のクラスメイトの八月朔日さんみたいに、物理的に浮いているという意味じゃない。

 

 近寄り難い雰囲気、凛としていて反感すら買いかねないそれ。風間くんから聞く限り、更に実家が製薬会社の創業者一族。誰がどう見てもおいそれと話しかけるには難しい人。

『噂』すら立たない程隔絶した存在。

 同じ学校に通っている事が不可解な女子生徒。

 

 だとしても、話してみれば笑いもするし返事もする。他人が嫌いだから壁の花に甘んじている訳ではなく、自然とそうなってしまっただけなのだろう。

 

 これからだって機会はある。性急に距離を詰めるのではなく、少しずつ知っていけば友達にだってなれると思うのは、自惚れじゃないと信じよう。

 

 私の氷を砕いて溶かした彼みたいに。

 そうなれればいいなと思う。

 

「ぬぅぅぅぅ!!」

「えぇ…?」

「うわ、なにあれ…」

 

 もう少し人と仲良くする努力を決めたところで、周囲の人達がざわついている事に気付いた。

 

 ちなみに、このパーティ会場では私達が最年少だと思われます。周りには四十歳以上の恰幅の良い男性とか、毛の長い猫とかを可愛がってそうな身なりのいいマダム。他には胸元に菊を模したバッジ付けている方もチラホラ見られる。

 …確か国会議員のバッジだよね、あれ。ただのパーティじゃないと何となく察してはいたけれど、いわゆる政財界の舞踏会だったとは。まぁ、たぶん金輪際縁がないから気にしないでおこう。

 

 それはともかく。なんだろう、あの人集り。しかもぬぅぅーって野太い声も聞こえる。

 

「……」

「……」

 

 気になる。でも離れるわけにもいかない。

 どうにかして角度を変えれば見えないかな。

 

「……あっ」

「もっ…もっ…」

「お、おのれ地球人…負けるというのかッ…我輩が…!? このような地球人ごときにィ…!」

 

 あまりの筋骨隆々っぷりに、今にも弾けそうなスーツと化した服装の男性。この人はまったく見覚えはない。二人称が地球人って人も居るんだなぁという程度。そんなピッチリスーツの人は青褪めていた。

 

「もっもっ…」

「淋代くんの…お姉さん…!」

「……」

「もっ?」

 

 そう、フードファイターとは次元の違う何か。

 ブラックホールもかくやというトンデモ圧縮・消化吸収機関を内蔵したお医者さん。

 

「もう…は、入らぬ…ッ!!」

「もっもっ…あっ、レイリーちゃん?」

 

 淋代 こころさんとの戦いに敗北を喫したからだ。

 も、物を…食べてる…! 

 普通のことじゃないですか、でも量がね。立食形式って大変ですね、今頃厨房は阿鼻叫喚の様相じゃないでしょうか。会場の運営側とあのアンテナ髭の筋肉おじさんも大変。でも相手を侮ってはいけない、そんな教訓を味わった事でしょう。

 

 …いや、そんな真剣な話じゃないでしょ。

 私の声と名前を覚えていたのか、手にしていた皿の上を空気だけにしてから、淋代くんのお姉さんが近付いてくる。齧られないよね、頭とか。

 

「わぁ、妃咲蘭ちゃんも。二人ともどうして?」

 

 それは私の台詞ですけれども。あれ、でも私みたいなただの学生がいる方が場違いか。朝倉さんみたいに名の知れた一家出身でもないんだから。

 

「えーっと…」

「お久しぶりです淋代さん。風間が手を離せないので、レイリーさんに協力していただくことになったそうです。淋代さんは医師会の代表ですか」

 

 そうそう、そうなんです。社交場での挨拶なんてものは朝倉さんにとっては日常茶飯事といった感じ。私が口を出す前に、テキパキと済ませてしまった。

 …って…。

 

「淋代くんのお姉さんってお医者さんだったんですか?」

「うん、そうだよ。そういえば言ってなかったね。淋代 こころ、病院で医師として勤務してます。改めてよろしくねレイリーちゃん、こころさんって呼んでいいからね?」

 

 ええぇぇ…なにそれ…。

 姉弟揃って見た目が良くて優しくて色々ハイスペックって…。世の中の不公平を具現化したみたいな存在なんだ、淋代家って。天は二物を与えてるよ、もう少し手加減とかして分配しようよ。

 

「それと医師会の代表って訳じゃないんだぁ。他の先生方が最近休めてるからって、折角だから淋代さんがパーティに出て美味しいものを食べて羽休めしてくればいいんじゃないかって。院長先生も、大した話も無いだろうからそれでいいって」

「……」

「…こころさん、食べますもんね」

「普通じゃないかな…?」

「……」

 

 たぶん善意でパーティに送り込んだのも事実だろうけれど。それなら労いの意思を込めて食事に誘って休ませるなりした方が…と一瞬考えて、目の前の惨状が無理だと判断させた。

 自分にとっては普通でも、一般的には普通じゃない事もあるんですよ、こころさん。

 

「う…む…うっぷ…」

「そ、それよりあの…あの人大丈夫なんですか?」

「救護を呼びましょうか」

 

 それよりも、片膝を着いてグロッキー状態でダウン直前のフードファイター男性。朝倉さんは顔色を変えていないけれど、救護の人を呼ぼうかと提案している。この男性は残念なことに相手が悪かったんです、相手は胃に宇宙が広がってるんですよ…たぶん。

 

「たまたま隣で食べてただけなのに、何だか急に調子が悪くなったみたいで…何でだろう」

 

 何ででしょうね。

 

 

 





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や、優しくしてね…!
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