はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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corpse party

 

 

 フードファイトに情けは無用…という事ではなく。誰であろうと、顔を真っ青にして唸りながら倒れ込みそうな人を見れば、何かしら助けにはなれないかと思うのは人の性。

 というか、たぶん食あたりですよね。食べ過ぎには気をつけよう。もしくは急に大量の食べ物を胃に叩き込んだから、胃がびっくりしてるとかかな。

 

「ぬううう…」

「うーん…」

「……」

「どうするんですか?」

 

 みょんみょんと揺れ動くアンテナ髭のおじさんを心配そうに見る三人。私、こころさん、朝倉さん。

 流石に胃薬の用意は無い。あるのはポーチの中に入っている携帯電話とか、確実にこの場で役に立たない物だけ。

 

「えっと…失礼しますね?」

「ぬう…な、何をすオフッ!!」

 

 た、叩いた!? 

 しかも胃袋があるであろう腹部を!? 

 

「ぬ…?」

「効きました?」

「これは…どういう事だ…」

 

 ボディはじわじわ効くとかそういった話でしょうか。もしそうなら、とんだサディストですね。

 淋代くんのお姉さんは天使のような顔をした、弱っている人にトドメを刺すタイプの悪魔だったりする? 

 

 あっ…不躾極まりない発想はどうやら違いそう、顔色が見る間見る間に青から普通の血色に戻っていく。もしかして人に叩かれると興奮するタイプの人だったりするんだろうか。それはそれで近付きたくない。

 

「我輩の腹具合が、治った…!?」

「えっ」

「良かったぁ」

 

 叩いて治る? 

 人が?? 

 

「淋代さんが人を叩くと、怪我などが治るそうです」

「えぇ…?」

 

 涼しい顔で、さも普通のことのように朝倉さんが説明してくれる。いやいや説明になってない。人は叩いても治らないんです、普通は。

 

 あれ、でも聞いたことがあるような? 

 即死さえしなければ、どんな人の、どんな怪我でも治してしまう。そんな奇跡を起こす人が居るって。

 

「ぬ、う…見事なり地球人!」

「地球人??」

「我輩こそ、世に燦然と輝く悪そのもの! 悪の侵略宇宙人であり、名をタイター! タイター・Eでぁぁぁるッ!!」

 

 ………。

 

「……」

「……」

「……」

「感極まって言葉も出ぬかッ! 

 それとも臆したか地球人、我輩こそ巨悪であるぞ!!」

 

 あぁ、えっと、うん……。

 凄い人が出て来ちゃったなぁ…。

 

「東京に居る『魔法使い』みたいなお医者さんって、こころさんのことだったんですね」

「そんな風に呼ばれてたのは知らなかったけど…普通のお医者さんだよ。でも怪我なら任せてね、大体治せちゃうから!」

 

 むん、と細腕を見せびらかすこころさん。なるほど可愛い。負ける気はしないけれど、それはさておき可愛い。なんというか無邪気な感じがある。私に足りないものが足りている風格がひしひしと伝わります。

 

「地球人? 我輩が自己紹介しておるのだが??」

「怪我はしないようにしますけど、もし何かあった時は一安心ですね」

「もちろん任せてって言いたいけど…太陽くんみたいに無茶はしちゃダメだからね?」

「地球人??」

「彼みたいな無茶は出来ないです…」

 

 比較対象がおかしい。どう逆立ちしても太陽くんと同じ行動は出来ないのだから、私は私なりの精一杯で努力する所存。

 

 というか、そうか。巨大ワニ騒動の時にわかった事だけれど、淋代くんの身体能力も大概だった。そんな人ばかりに囲まれているから、こころさんの中の普通像は何かおかしいのかもしれない。

 

 少なくとも私は普通。そのことに誇りを持って生きたいと思っています。

 

「地球人よ…我輩、無視はよくないと思うッ!」

「…いやその…」

 

 おっと、スルーに耐えかねた自称悪の…何だっけ…悪の宇宙人でいいか。が、しょんぼりと意気消沈した様子で話しかけてきた。

 

 改めて観察すると、いまにもはち切れそうな黒いスーツ。じゃなくて燕尾服? と胸元にはキラリと光る『悪』の一文字が書いてあるブローチ。ちょっとアレなセンスしてますね。

 重力に逆らう元気だったおヒゲは、その持ち主と同じように悄気げている。ちょっとかわいそう。

 髪型も重力に逆らう形で尖っていて、それと比較して更に眼光は鋭い。身体も大きいし、黙っていればとんでもない威圧感だっただろう。

 

「ほら、急に大声を出すのもダメですよ? 食べ過ぎだって良くないんですから、腹八分目です」

「む…うむぅ…」

 

 ただしそれも、こころさんに指一本で静止させられていなければの話。悪の宇宙人ことタイターさんの身長は2メートル以上ありそうなのに、それをモノともしない。肝が座ってるなぁ、流石お医者さん。

 

「で、結局…」

「む?」

「なんの集まりなんですか、これ」

「えっ」

「………」

 

 そんな気はしていたけれど、やっぱり知らないのは私だけのようです。

 

「風間から説明は」

「無いです」

「………」

 

 これは…報連相が足りてないと見た。

 風間くんは説明無しで私を誘って、朝倉さんにはテキトウな事を言って私が承諾したと言ってあると見ましたよ。大問題だ、後でぶっ叩くのもやむ無し。

 

「え、えーっとね…このパーティはロボットのお披露目会らしいよ?」

「正確には医療用・自立式看護ロボットの、だな。故にそこな娘の親御、製薬企業の長も居る。

 フン、全く下らぬ。地球人どもの言う政治家や有力者どもが多いのはそういう理由であろう。販路拡大や資金提供を受けたいが為の宣伝、それがこの集まりの本義とな」

 

 なるほど? 

 

「直に披露の時間も来よう。努々気を抜かぬ事だ、弱味を見せれば惰弱な連中が利用せんと近寄ろう。

 我輩は先に如何なるものか確認したが、大した技術でもない。正しく興醒めよ。さらばだ地球人、恩義は必ず報いようぞ」

「まずは身体に優しいものから食べてくださいね」

「う、うぬぅ…」

 

 少し情けない感じを醸し出しつつ、そのまま宇宙人さんは悠然と去っていった。最後にこころさんに何も言われていなければ、様になっていたと思う。たぶん。

 

 それにしても、うーん…ようやく多少の合点がいった。

 つまりこのパーティは、大掛かりなパフォーマンスありきでの宣伝会という訳で。

 

 宇宙人さんが私達に注意してきた事、それは。何かを作るには相応の資材・人員・資金が必要、なら当然一人では成し得ない。ということは、その成果物のみ横取りしたい人や、嫉妬のようなドロドロとした暗い感情も入ってくるのだろう。

 

 じゃあどうするのか? 

 答えはとてもシンプル、有無を言わせないほど滅茶苦茶な状態にしてしまえばいい。

 誰からも見捨てられた成果物を優しい顔で拾うも良し、全てを壊してほくそ笑むも良し。

 考えておいて何ですが、人の嫌な部分を熟考するのは精神衛生上よろしくない。同じくらい自分の思い出したくもない事を掘り下げてしまうようだ。

 

 でもロボット…ロボットかぁ…。ロボットの新作お披露目会をご破算にするなんて、配線を切ったり、プログラムを弄ったりしか想像出来ないけれど…。

 

「……あれ?」

 

 無言で思考を走らせていると、ふと気付いた。

 周囲の照明が先程よりも暗い。

 

「やぁ淋代さん、朝倉さん、レイリーちゃん」

「あっ、院長先生の…!」

「…ご機嫌よう」

「……え、えっと、こんばんは先輩」

 

 広がる暗がりの中から、気配もなく出て来た人。

 確か吸血鬼の…えー…せ、先輩なのは覚えてるんですよ。ただちょっと、名前を失念しているだけで。

 そう、あの、黄瀬さんと会う前の、というか吸血鬼事件の時に会って…。

 

「院長先生の、って付けるのはあまり心情的によろしくないですよ。しかし父上が実質的な上司みたいなものなのは事実。ですが普通に名字で呼んでください、ボクは普通の高校生でしかない。

 そして貴女は立派なレディであり社会的には高名な医師の一人。遠慮は不要というものです」

「じゃあ…枝蔵さん?」

「さん、は不要ですって」

 

 そうしてクスリと笑う…そう、枝蔵先輩。

 さっきの燕尾服パンパンな宇宙人とは違って、こちらは黒い礼服をサラリと着こなしていて。髪型が金髪のウェーブヘアなのも組み合わさってサラり、フワり。しかも爽やかに慣れ親しんだ様子で髪をかき上げるのだから、サラ、フワ、パサって。

 ひょっとして出身は西洋絵画の世界だったりします? 

 

「お三方とも、きょうの装いは完璧ですね。こころさんのスーツ姿は普段の医師用制服よりも、本来の毅然とした所が強調されていてよくお似合いだ。

 朝倉さんのドレスも素晴らしい、黒髪と白肌に合う暗い夜色の紺。その首飾りと調和していて、一輪の華も恥じらいそうだね。

 レイリーちゃんは明るい朱色の。血色もよく見えるし、君という花束にさえ見えるよ」

 

 えっ、怖い…。

 こういう場にも慣れていないし、この手の社交辞令にも慣れていないんですが。ひょっとして丁寧なナンパテクニックだったり? それはちょっと…心に決めた人がいるので…! 

 

「莫迦者」

「あ痛ぁ!?」

「枝蔵の…お前と言う奴は油断も隙も無いな。下手に婦女へと毒牙を伸ばそうものなら、仕置も考慮に入れて良いとお前の父上から言われているが」

「誤解、誤解だって! これはただの挨拶だし、ボクは変な事なんてしてない! それに」

「それに?」

「美しい花々を褒めるのは義務だ! そうだろ!?」

「戯け、向こうで壁の花ならぬ磔刑にするぞ。阿呆な軟派なら父親の代理としての仕事を全うしてからにしろ」

「引っ張るな! 引っ張るなって!! トモエ! ちょ、待てって普通に歩くから、生徒会長何だから生徒を大切にしなきゃダメだろう!」

 

 …何だか嵐みたいな一瞬の出来事。

 

「何だか凄かったねぇ」

「…ですね。ところで朝倉さん」

「なんでしょう」

「今の、うちの学校の生徒会長ですよね」

「然様です」

 

 やっぱりかぁ…。

 

 

 

 

 

 さて、それからの話。

 

 

 

 

 

 徐々に暗くなるパーティ会場と反比例して、いわゆるワイワイガヤガヤとした明るい語気の喧騒の中。私レイリー・ケイスと朝倉 姫咲蘭さんの二人はというと。

 え、何で二人かって? 

 こころさんは料理画追加され次第、またも食事に行ったからです。まだ入るんだ…。

 それはいいんですよ。目下の大事はこの状況。

 

「………」

「………」

 

 沈黙、再び。

 

 いやまさか、まさかね。さっきほんの少しだけでも打ち解けたかと思ったんです。思ったんです、が。それは私が思っていただけ! 

 

 結局コミュ症×コミュ症、ブッチギリのコミュニケーション不全、地球で一番静かなヤツら。という愉快なレッテル貼りも仕方のない二人が揃えば、これって新たなフュージョンかな? 

 

 フュージョンは絶対しないですね。だってもう二人の間には絶対零度の空気か、そもそもの空気の代わりに希ガスが充満してそうですからね。希ガスって他の原子と結合し難いから、化学的に安定しているんですって。安定してる場合じゃないよぉ…。ヘリウムでも突っ込んでフワフワしてほしいよ、これで本当の不和不和…不和はダメでしょ。

 

 ちなみに私に話しかけてくる方もいらっしゃいませんよ。私みたいな庶民オブ庶民は、全くの無名だから話しかける人も数少ない知り合いだけというのは当然。

 一方の朝倉さんに話しかけてくる人は何人か居ます、流石お嬢様。

 ですが! 

 

「貴社におかれましては、益々の御多幸をと父は常々申しております」

「確かお嬢さんは高校生でしたな…いやはや朝倉さんの所は御息女もきっちり、しっかりとしているようだ…」

「有難う存じます」

 

 こんな感じの社交辞令に次ぐ社交辞令。

 しかもどれもこれも、数分と保たずに会話終了。

 本音を言うと息が詰まることこの上ない。

 

「そちらのお嬢さんもですが、退屈ではありませんかな」

「お気遣い有難う存じます、ですがこのような貴重な場においては退屈等は感じません。日々是学びと浅学菲才の我が身の糧にする次第です」

「それはそれは!」

 

 何を言っているかはわかる、けれどもこれって楽しいかな。すぐ側で格式高そうなご挨拶をこなす朝倉さんに合わせるように、出来るだけ無様じゃない程度に会釈をするのに精一杯な私です。

 早くパーティよ終われ、もしくはこの手持ち無沙汰を終わらせる何かよ始まれ…! 

 

「大変お待たせしましたぁ! これより新作の説明を…」

「おや、始まりましたな。では私はこれで、お父様にもどうぞよろしく」

「はい」

 

 終わった…! そして始まった…! 

 実に素晴らしいタイミングです。はぁー…あと十分間は遅かったら窒息しかけていたかもしれない。パーティ会場で何も無いのに窒息したら、それこそミステリー的。私のアルバイト先の人達の出番になってしまう、探偵事務所より警察が先か。

 

「先ずはですね、この発表の運びとなる前に、生体工学的見地と機械駆動系のアドバイスで尽力くださった榊原教授に感謝を述べさせていただきたく思います! 教授! 是非壇上に!」

「ん、いや。いい、いい、いいって。私は大した事はしてないんだから。んまぁず何て言ってないで、時間も押してるんだからねぇ…」

 

 壇上でスポットライトに当たっている人は、どうにも腰が低いようだ。遠目にはわかりにくいけれど、スーツはくたびれていて、頬もこけているように見える。苦労が偲ばれる人、というのが第一印象。勝手な老婆心というか、援助した事も無いのに苦労が実を結んで良かったねと言いたくなる感じがある。

 

 そしてもう一人。壇上に上がることを勧められた、榊原教授という人。この人は…。

 

「……!」

「どうかなさいましたか」

 

 無意識に身震いをしてしまった。それと同時に息も呑んだと思う。何故かはわからない。朝倉さんが私の様子を見て何事かと訊いてきたのだから、明らかに身構えたか、何かしらのリアクションをしたのだと、自分のことなのにわからなかった。

 

 壇上以外はとうに薄暗くなっていて、声のする方を見ても鮮明に容姿を観察出来はいない。だというのに、周囲よりももっと暗く、壇上の光を受けて輝く眼鏡の奥にある瞳が恐ろしいモノと思えた。それはまるで、人を、人と思っていないような…。

 

「───で、この動作を実現させたアクチュエータこそがこの機体の──これにより、人よりも力強く靭やかな───」

「…レイリーさん?」

「あっ! いや、何でも…何でもないです…」

「…然様ですか」

 

 そう、何でもない。何でもないはずだ。

 第一自分のことなのに意味がわからない。恐らく壮年の男性の、何が恐ろしいのか。あの榊原教授と呼ばれた人と私の間には何も無い訳だし。何かが気になるとしても、私達の周りにある暗がりと同じ。薄ぼんやりとして正体が掴めはしない。

 

「それでは本日の目玉! 

 この数体のロボット達が人と同じ滑らかさで、入浴から就寝までの介助を。それはもう手軽にこなしてしまう様子をご覧ください! あっ、えっと、アシスタントは居ないのでロボが私を運ぶんですけども」

 

 …今は異様な違和感というか、首筋に伝う一滴の冷水みたいな嫌悪感については置いておこう。意識出来ていないだけで、幽霊とかが見えてしまったのかもしれない。それはそれで嫌だけれど。

 

 それよりもあのステージ上のお兄さんとロボット達だ。声高に宣伝している事は間違いなく凄いと思う。実用化して医療や介護の現場に届けば、人間の肉体的な負担が減って、他の仕事に労力が回る。

 

 うーん未来的。人を運ぶという意外と繊細な動作を完璧に出来たとしたら、残るは愛嬌の問題じゃないだろうか。ステージで照明を受ける、白いのっぺらぼうみたいなマネキンもどきじゃなくて。青いタヌキみたいな猫型ロボットなら言う事なし。

 

「では、ベッドの上でもいいんですが。このように硬い床の上でも、人間をこうして持ち上げ…げ…え…!」

 

 

 

 ──ゴギ。

 

 

 

「…え?」

 

 スポットライトの鮮烈な光の先。

 朗々と喋っていた人の身体、いや首が。

 

 

 

 ───ゴギン…。

 

 

 

 怖いくらい優しい手付きで、元にあった位置から逆方向に折り曲げられていた。ただそれだけ、誰が見ても一目瞭然。

 

 まるで、特筆することなど何事もなかったかのように。寸分の狂いもない精密さと、あまりに自然な動作による静けさを伴った紛れもない殺人が、壇上で淡々と繰り広げられていた。

 

 

 

 






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や、優しくしてね…!
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