はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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今回はちょっと短いです。


Dance Party?

 

 

 

 

「………」

 

 悲鳴は上がらない。

 誰も叫ばない。

 

 全員覚悟が決まっているとか、日常的に死と隣り合わせだからだとかの理由ではない。これは…。

 

「…あっと、そういえば前回の選挙戦で…」

「エルフの方々って皆そうなのかしら…」

「いやまさか、大阪や川崎では…」

 

 取り留めのない会話が静寂を侵す。

 これは、傍観者効果というモノのはず。

 要因は複数あるが、一つは責任分散。多くの人が居ると、何を目の前にしようとも自分だけの責任ではないと思う。二つ目は多元的無知。人が恐慌に陥っていない様子を見て、自分も落ち着いていようと判断を修正し、事態は切迫していないと認識してしまう。3つ目が聴衆抑制。他者からネガティブな評価を得るのが枷となり、行動が抑制される。

 

 なるほど、イジメの傍観もこれによって引き起こされると本で読んだ事がある。自分が動いても仕方がない、きっと誰かが助ける? 

 で、それが何だっていうんだろう。

 

「…ッ! こころさ…!」

 

 気付けば群衆の列から抜け出していた。

 首の骨が折れたとて、第一頸髄や第二頸髄といった頭の付け根付近でも無ければ即死はしないはず。だとしても呼吸が不可能で脳に血液が行かなければ…。時間は一刻を争う、一刻どころか数秒すら惜しい。先程言われた言葉を信じて名前を叫んだ。

 

「任せて!!」

 

 すぐ近くから舞台のスポットライトに向かって影が飛び出す、私が声掛けなんてしなくとも、既に動いていたのだろう。こういう時こそ、人に頼れる心強さを実感する。特に今必要な治療なんて最たるもの、一般的な応急処置は覚えがあっても、奇跡や魔法の医療は心得なんてある筈がない。

 

「………」

「…チッ…!」

 

 一気に舞台へ登り詰めると無機質な白が、表情の無い能面がこちらを見る。瞳にあたる部分も無いのに見るというのも変な話だ。でも人間の知覚に相当するセンサーは、私を見つめている気配を滲ませていた。それも、よりによって複数ある介護ロボット全機から。下手人と成り果てた機体を除いた数は三の合計四。

 助けるなら私も殺すと、虫が獲物に向ける殺意に近い気配が肌を撫でる。

 

 同じ舞台でも、何らかの主役で。というのならまだ歓迎出来たと思う。いややっぱり目立つのはダメかな、後が怖い。衆目ではなく機械の観客、人じゃないから緊張しないかも。

 

 冗談を頭に巡らせて。脳の冷たい部分であの殺人機械を人間からどうすれば引き剥がせるかを考える。

 使える武器には限りがある。

 固そうな表面を貫通・破壊出来そう且つ遠距離から一方的に攻撃可能な手段、無し。こんな事ならお父さんに借りてくれば良かった。

 爆発物、ある。でもこれはいわゆるスタングレネード、機械相手に通用はしないだろう。もっとも、破片手榴弾があっても人を巻き込みかねないので使えないのは同じ。

 近接武器、ある。刃物は乙女の嗜み。お母さんが言ってました。女の子はハートを射止める武器が必要だって。まさか機械の動力を停める為に使うとは思わなかったけれども。

 

「飛び入り参加…」

「乱入者を発見、鎮圧します」

「アドリブで踊れる? ロボットさん」

 

 こういう時だけ口が軽い。

 ぶっつけ本番、命の灯火が消えるまでに即興劇を繋げられるかな? 

 まぁ、やれる事は全力でやりましょう。

 

 

 

 

 

 ───☆

 

 

 

 

 

 純白の無機が淀み無く動く。

『仮面』が如き、人間の顔に形だけ似た部品がセンサーを向けていた。

 本来は暴漢制圧用として、この輝かしい発表会で披露される筈だった機構が駆動する。

 

「イレギュラー認識完了」

「正規の来賓だよ…お供だけど」

 

 白朱が牙を剥く。柔らかなドレスは舞台の光を受けて更に煌めく。白い猛禽を思わせる吶喊が、機械に向けて一陣の風になる。

 

 太腿に隠されていたナイフが一回、二回、三回を超えて旋風。殺人機構の緩慢な動きとは比べようのない速度で表面を傷付けた。機械の動きは手を伸ばし、捕獲を目的としているのは明白だった。

 

「……」

「抵抗を確認」

 

 鋼の風なぞ微風として、しかしこれは反抗でもあると機械が動き続ける。決して素早くない、だが異様に力強い動きが止むことはない。

 そう、一分にさえ満たない猛攻なれど損傷出来たのは機械の表面のみ。人間の表皮に相当する部分は柔らかなシリコン合成素材、これを切り分けた先の鋼鉄は引っ掻き傷は付けども、行動不能になるような撓みは一切しない。

 

「…くっ…!」

「レイリーちゃん!」

「こころさんは下がっててください…!」

 

 つまり、決定打が無い。埒が明かないのである。

 奇跡のように治療する医師を遠ざけるのも、自身の身一つでは非戦闘員を怪我人に近付けさせたとて。機械との体格・重量差を鑑みれば弾き飛ばすのも無理であり、被害が及んだ場合は恐らくみすみす共倒れになるからだ。

 

 それらを考慮しても尚、捕獲覚悟で懐に飛び込もうものなら、先刻の再演、力加減を間違えた子供が玩具を壊すよりも容易く四肢を折られる。はたして本当にそこまでされるかは疑問に思わなくもないが、間違いなく悲惨な状態にされるといった嫌な予感がレイリーの頭の片隅から警鐘を鳴らしていた。

 何よりも事態として拙いのは横たわる人が死ぬまでの時間が幾許も無いこと、そして…。

 

「拘束します」

「離れてください」

「拘束、実行」

「数が…!」

 

 機構に刻まれているかは不明だが、単独での暴徒鎮圧は難しいと判断されたのか。意志無き機械に加勢が。

 通常、対人間であれど複数を一度に相手取るは悪手そのものである。理由は単純明快。

 

「大人しくしてください」

「大人しくしてください」

「この…っ」

 

 前方から伸ばされる腕を切り払えば横から、横からの手を蹴り上げれば、いつの間にやら背後から魔手が伸び。壇上で舞う花弁を捕獲した。

 

「……成功」

「して、ないっ!」

 

 …かに見えた。

 幸いにして掴まれたのはイブニングドレスの裾、手に持つナイフで切り裂くは容易であった。

 されど一向に好転しない状況が、レイリーの内心を焦燥させる。

 

 次こそ掴まれれば逃げようが無い。

 まだ間に合うのか。

 次はどこから来る。

 光明が見えない。

 

 事態は一転せず防戦一方。巻き込まれないように舞台袖にいる淋代 こころからの支援は期待出来ない。そも荒事に平然と立ち向かえる技術を持っているか不明、というより何らかのアドバンテージがあれば、一目散に共闘してくれるだろう。

 

「きゃあああ!」

「う、うわぁぁ!!」

 

 様々な場所から悲鳴が聞こえる。やっと事態を飲み込めたのだろう、あまりの拙速に溜息が出そうだ。それはいい、考えろ。

 何か、何か手は。

 

 諦めてはいない。彼に助けられたあの時から、諦めることはしないと決めている。

 

 ふと、壇上に霧煙る。

 霧? 

 

 演出用のスモークではない。まして、自然に発生したものでもない。ここは室内なのだから当然だ。そしてなにより。

 霧にしては、あまりに自在に動き過ぎていた。

 

「遅れてごめん、レイリーちゃん」

「あぁ全くだ、遅れてすまない…我が校の者を痛め付けんとするとは。機械にしては悪趣味千万、プログラマの顔が見てみたいものだ。

 なぁ枝蔵の」

「そこに転がっているのがそうじゃないのかい? 

 会長サン」

「言葉の綾だ」

「生徒会長に…枝蔵先輩?」

 

 霧の中から忽然と姿を現した二人。

 場の緊張感に似合わない軽口が二つ。

 レイリーを庇うようにして、機械共の眼前に立ち塞がる。

 

「暴れないでください」

「不審物を確認」

「捕縛を続行。職員は速やかに離れてください」

「さて」

「手早く済ませるか」

「こっちは運ぶから、任せたよ」

「乙女に重労働を課すとはなぁ」

「意識の無い人間って重いんだぞ!?」

「ふん…」

「あの、危ないですよ…」

「心配は無用だ。レイリー・ケイス二年生こそ下がっていなさい…よく頑張った」

「あとは任せてね」

 

 片や無手、片や日本刀と思しきもの。

 されど手早くの言葉に互い違わず。

 

「さ、そこをどきなよ出来損ないの人形、命は大事にって教わるべきだったね」

「一豆流…」

「言ってる場合じゃない!?」

 

 所々赤茶色をした剣閃が霧を撹拌した。

 新たな乱入者を捕まえようと延展する腕は、角度の緩い九十九折の出来損ないに似た角度が付けられた。

 何が起きたか、至極単純な解。

 

「全殺し」

「お前さぁ!?」

 

 縦横無尽の滅多打ち。

 ナイフのような金属でさえ歯が立たない装甲が相手ならば、殻を砕き、挽き潰すように矢鱈と打ちのめす。一度で砕けぬならば二度、角度が悪ければ別角度から、一体二体、否、壇上に存在する全機体を。

 砕き、壊し、破砕し、圧壊し、原型を留めるを許さない。万感の静かな怒りにて破壊の嵐が吹き荒れた。

 

「幾分か溜飲は下がったか」

「何で巻き込む訳!? 間に合わなかったらどうするんだ!」

「間に合っただろう、そら、さっさと運べ」

「これだから野蛮な巫女は…」

「は?」

「退いて!!」

 

 生徒会長、宮河 巴の細腕からは想像し難い蛮行が瞬く間に介護用ロボットを蹂躙した。その直後、軽口から売り言葉に買い言葉となりそうな時、飛び込んで来た人影。一分一秒を惜しむ医師の姿。

 

「お願い…間に合って…!」

「…何をしてるかはわかるけど…」

「言うな…」

 

 言わずもがな、叩いている。退いてと言うが早いか颯爽と駆け寄っては、バシバシと折れ曲がった首を叩いているのである。間に合うどころか手遅れにしそうなトドメを刺そうとしているようにしか見えない。

 行っている彼女からすれば歴とした医療行為であるが、傍目から見れば追い打ちであった。関節の嵌め直しも似たような絵面と思えば問題は無い…と思う方がいいだろう。

 

「ひゅ…う…!? げ、げほっ!」

「大丈夫ですか!?」

「あ、え…? あれ…?」

「…まぁ間に合ったならいいか」

「さてこれにて一件落着…と言いたいが」

「あの馬鹿後輩は何してるんだか…」

「その馬鹿者はさておき、レイリー後輩は?」

「ン? 下がってくれたんじゃないのか」

「壇上から降りたが…見えないのか? 先に言っておくが私は見えないぞ、ただの人間に期待し過ぎるなよ吸血鬼」

「いちいちイヤミっぽいよなぁ、美人が台無しだぞ……」

「余計なお世話だ…どうだ?」

 

 怪我人は命を落とさず、四肢を現代アートのように曲げられたロボット達は床に転がっている。

 ステージ上には枝蔵が変じた薄霧が視界を遮り、それよりも濃い暗闇がステージ外を塗り潰していた。

 およそ騒動は幕を閉じただろう。

 しかし果敢にも先んじて立ち向かった後輩の姿が無い。それも…。

 

「……」

「見えないのか?」

「いいや…見えてるよ…」

「じゃあハッキリ言え」

「どこにも、いない」

「…なんだと?」

「…朝倉さんも、居ないぞ…!?」

「クソッ!」

 

 もう一人と共に姿を消していた。

 

「陽動か…!」

 

 さて。ステージ上で行われる手品には、種も仕掛けもあるものである。それが、どんなに稚拙なものであろうとも。

 

 

 

 





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や、優しくしてね…!

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