はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

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Party in!

 

 

 

 

 

 

 油断、あるいは盲点。

 

 ──急げ。

 

 まさか、そんな筈は。

 

 ──走れ! 

 

 言われたことが出来ずに三流、ならばこれはその通り。自らの失態を認め、ただひた走る。

 

「ふっ…ふっ…!」

 

 吸気・排気。皮膚は冷たく汗をかき、心臓は熱く速く。それにしても間怠っこしいと思えども、それは運動に適した服装でないのだから当然。

 とうにドレスの丈は半分近く自らの手で切り裂いており、動き難く窮屈で痛みさえ覚えたハイヒールはそこら辺に放置していた。

 

 こんなにも急ぐ理由は何か。

 

 音も無く、些細に軋みもしない鋼鉄の足が、可能な限り手荷物を揺らさずにただ早く交差する。

 その手荷物がどこに運ばれるのか、知りもしなくとも。それは頼まれた事そのものを怠った、目を離した隙に行われた犯行。

 

 つまりは簡単な話。

 

 誘拐、これが本当の目的に他ならない。

 

 

 

 

 ───☆

 

 

 

 人に危害を加え、それを陽動に人を攫う。

 性格が悪いどころの騒ぎじゃない。そのまま罵倒するのであれば、性根が腐ってるとかヒトデナシが相応しいと思う。

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

 ああ、それにしても暑い。

 むしろ熱い。夜を迎えたというのに、アスファルトは熱を篭もらせていて。それに温められたじっとりとした空気だけが周りに沈殿している。新鮮で冷えた空気を求める肺からのリクエストに応えられそうもない。

 あと痛い、足が。特に足の裏が。

 現在進行系で私にとっての全力疾走を披露している、素足で。つまりそういう事です。

 

 あまり気にしないようにしていたけれど、ハイヒールって走り難いし足のつま先は痛いし。サイズが合ってなければ靴擦れも併発していたと思う。もしかしてハイヒールって動くのに向いていないし、そもそも人間が履くのに向いてないんじゃないの。

 

 ドレスもそうだ、ヒラヒラヒラヒラと…素早く動かせば布地が引っ張られるし。冷房の効いた室内ならまだしも、通気性が悪いから汗で貼りつく感触が不快で不快で…。掴まり掛けたときに、はしたない丈にリメイクした事がこうもプラスに働くとは。

 お陰で見た目は野生児そのものじゃないでしょうか、セットした髪は風に晒されて乱れているし。ハイヒールは脱ぎ捨てて素足、ドレスはボロボロ。後でプレゼントしてくれるらしいけれど、これはいらない。燃えるゴミの袋が肥え太るだけになるから。

 

「………」

「ぜっ…はっ…!」

 

 やっと近付いてきた。ガシャガシャと無遠慮な機械らしさを響かせて、その肩に同級生を運んでいるマナー違反の介護ロボット。

 顔はないけれど、きっと顔があったら小憎たらしくて涼しい顔をしていたに違いない。息一つ上がってないもんね、ロボットだから当たり前か。

 

 さて、ここで問題が一つ。

 人の同級生を米俵みたいに運んでいるマナー違反ロボ、その足は速い。決して追い付けない訳じゃないけれど、持久力勝負では生身の人間に勝ち目は無いだろう。自慢じゃありませんが、体力は無い方ですよ私。

 

 しかも誘拐ロボの目的地がわからない。もしかしたら残り数十メートルで、そこには車でも待機しているのかもしれない。最悪の場合は一キロ以上の距離があるかもしれない時、素足で数キロマラソンは新手の拷問では? そう思っても、パーティー会場から百メートル以上は既に走ってますけどね。

 

 そもそも遠いんですよ、パーティー会場から市街に出るまで。有名ホテルの会場だか知りませんけどね、利便性ってものを考えて然るべきじゃないでしょうか、福利厚生とか…何か…そういったモノを気にしましょうよ。

 

 さて、思考の洪水はここまで。

 手には無残にも切り取られた、綺麗なドレスだったボロ切れ。長さだけなら私の胴回りよりも長く、これを一つの紐状に折り畳んだ物。片方だけ中指に結び付けて用意は良し。

 そこにもう一つ。お外ならどこにでもある、手のひらサイズの石。卵型に近いのもまた良い。準備良し。

 

 走りながら、距離を詰めながら、石を包んで勢い良く振り回す。次第にふおんふおんと振り回されるだけの低い音からヒュンヒュンと高い風切音に。頭上で振り回すオーバースローではなく、側面で加速させるアンダースロー。

 

「……当てる…ッ!」

 

 一瞬だけ呼吸を呑み込んだ。身体のブレを止める。

 これぞ人類の古代兵器の一つ、スリングショット。

 有効射程距離は百メートル以上。

 彼我の距離は数十メートル程度。

 ガチャガチャと喧しい機械人形の足。

 

 外す理由がない。

 

 

 

 ───ヒュン…カッ。

 

 

 

「命中…」

 

 狙い? 

 

「足底部に異物が認められます、転倒・故障の恐れがありま、す」

「アンド成功! 

 …っはぁー…疲れた…」

 

 ダンスは出来なくても、ハントは得意です。一対一ならこんなもんですよ、サンキューお母さん。娘は今日も絶好調。百発百中ストライクって感じ。走っている時の足が着地する瞬間、石ころを滑り込ませる事が出来ました。こうなれば機械でも人間でも、不意に変な着地をすれば転倒するのは目に見えている。

 うん、今日はちょっとお転婆でも許してほしい。

 

「ギキ…貨物落下。再取得後に運搬を再開…」

「結構おしゃべりなんだね」

 

 人に見紛う滑らかな動きで、倒れた状態から復帰するや否や、溢れ落とした朝倉さんを手早く拾い上げようとするお喋りロボ。

 

 のっぺらぼうの頭はたぶんセンサー群、ここを傷付けても部分的に破損するだけだろう。更に、先程の舞台所での事を思い出せばツルリとした表面は文字通り刃を通さない強度がある。

 片腕片足も…ダメそう、関節を一つ壊してもどうにか運びそうだもん。胴体はどう見ても無理。

 

 小さなポーチには化粧品。それなら…よし、やってみようか。男は度胸、女も度胸。

 口紅を取り出して、まさに今誘拐を再開しようとした不届き者に覆い被さった。はしたないですね。

 

「危険です、離れてください。危険です、離れ」

「次は人に優しくするように、ね」

 

 

 

 ──パンッ! 

 

 

 

 これは割と最近の、人類の発明品。

 リップスティックピストル、いわゆる口紅型拳銃(キス・オブ・デス)

 

 射程も貧弱で威力も弱め。

 でも所謂ゼロ距離射撃ならどうかな? 

 

「エラー発、生、メーカ、ァに連……」

「…さて」

「………」

 

 うん、クリティカルヒット。介護ロボットは基盤的な物が壊れたのか、キリキリと油の切れた人形のように緩慢な動きになってから完全に動きを停止させた。

 押し当て狙って引き金を引いたのは首の付け根、人間でいう所の鎖骨部分。肩と首の可動域を広げる為に、機械でも、そのポイントは隙間が作られていたから。

 この攻撃をステージ上でやらなかったのは、銃弾が一発分しかないのと、人目があるからです。銃刀法って怖いよね。

 

 さ、静かになったロボットを看取るように観察してから、私が置かれている現状を整理と参りましょう。

 動かなくなったロボット! これは放置! 

 動かない人! 息があるから、たぶん寝てる! 

 これを見つめるのは非力な少女、私! 

 

 …運べない…! 安全な場所に運ぶとかが出来ない…! 

 だって箸より重い物を持ったことがないタイプのお嬢様だから! 私!! 

 本当にどうしよう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話が変わって後日談。

 

 介護ロボットから殺人ロボ、治療が間に合って殺人未遂ロボ達は、誤作動が起きた原因を特定して改善出来るまで電源を抜いて保管するらしい。

 

 本当に運良く凄腕のお医者さんがいたから結果的にどうにかなったものの、非常に危険な事を仕出かしたのも事実。ロボットに反省も何も無いけれど、次は無いと肝に銘じてほしい。プログラマーさんが。

 あ、そういえば被害者の一人である、壇上で解説をしていた人。恐ろしい生命の危機に瀕していながらも。

 

「いやぁ良い経験だぁ…! 

 というかね? 個人的には我が子みたいなロボットに殺されるなら、それはそれでアリな気がするんだよね。だってカワイイしロマンチックじゃないか! テンション上がるぜぇ、フッフゥー!!」

 

 だそうです。

 フッフゥーって何。

 

 全部一人で作ったって物じゃないけれど、それでもああも動ける機械を作れるだけの、凄い技術と才能を持っているのは事実。

 しかし日本では馬鹿と天才は紙一重という言葉もある。これはたぶん馬鹿です、もしくは天才の馬鹿。そんなお馬鹿さんは。

 

「馬鹿は死ななきゃ治らないって言うよねぇ…はぁ。いいですか? 死んでもいいなんて言葉は医療従事者の前では口が裂けても…」

「はい…はい、すみません…ご迷惑おかけしました…」

 

 こんな感じで後遺症が無いかの経過観察中にお説教されていましたとさ。当然過ぎる。

 ところで、こころさんって雰囲気はポヤポヤお姉さんなのに結構芯が強い人みたい。首がちょっと明後日の方向を向いてしまった人を直視もすれば治す為に危険そうな場所に飛び込みもするし。こうして語気を強めて叱ることもするんだから。

 まぁ負ける気はしませんけどね。

 何の勝負かは言いませんけど。

 

 もう一人の被害者、誘拐されそうな所だった人。朝倉さんについて。

 

 これはもうシンプルに無事、やり遂げましたとも。

 僅かな擦過傷はあったけれど、そこはこころさんが優しく叩いて治しました。そうですね、玉のような乙女の柔肌に傷があるのは良くないですね。

 

 明確に誘拐のソレだったにも関わらず。身代金要求や犯行声明的な物は一切無かったそうで、未然に防げてハッピーエンドか、はたまた未遂だから身元がバレないように隠れたのか。

 

 結局、風間くんが発端のパーティーの一件は。その目的も不明、ロボのプログラムに細工を仕込んだのは誰なのか、何故誘拐されそうになったのは朝倉さんだったのかも不明。わからない事ばかりで、人生に似てるね。ちょっと哲学的。

 

 私がとてもじゃないけれども運べなかった朝倉さんについてはですね。凄く簡単でしたよ。

 

「…風間くん!!」

「呼ばれて飛び出てやって来た、某こそが風間にござるよ。こちらの用事も今し方おわったでござる。む、ややや無事でござるか、ううむ何と面妖な絡繰。厄介に厄介を重ねておりましょうにも、流石レイリー殿。八面六臂の大活躍でござるなぁ。

 アッ! お待ちくだされ! 某もね!? ちょっと大変な! そう火急の大事があったのでござる! いや本当に! 故に姫を守れるようにレイリー殿をお誘いしたのでござる! 本当に手が足りなかったのでござる! 

 や、やめて! ナイフを振りかぶらないで! 

 ええい何くそ! こうなれば弓矢すら指で挟んで止める奥義二指真空…刃が横向いてる!? ギエー!」

 

 呼べば来るんですよ、ニンジャって凄い。

 それはともかく八つ当たりはします、しました。そしてその後安全な場所に運ばせました。反省してね。

 

 それで…これは余談。

 

「学食行こ」

「ん〜? あれ、レイリーちゃんも今日はお弁当なのん。じゃあクラスで食べても…」

「一緒に食べるの、誘いたい人がいるんだけど…」

「わお…これは吉報なのん…よぅ〜し、頑張るの。レイリーちゃんが誘えば誰でもイチコロなのん、友だちは多過ぎても困るけどやっぱりいた方がいいの〜。

 で〜…誰を誘うのん?」

「朝倉さん」

「なぁ!?」

 

 ちょっと距離の詰め方が急過ぎたかな? 

 でも話を聞く限りでは、朝倉さんはいつも一人でお昼ご飯を食べているそうだ。これもきっと何かの縁、食卓を囲もうじゃありませんか。

 

「え、え、え。本気なのんレイリーちゃん…流石に難しいんじゃないかな〜って思うの…」

「たぶん大丈夫だよ」

 

 ふふ…私の時にはとんでもない距離の詰め方をしてきたのんちゃんが怯えてるよ。かわいいね。

 さて、やりましょう。

 他クラスの扉をスパッと開けて、困惑する人達を尻目にいざ直進。こういうのは緊張を振り切る速さが大事、のんちゃんがそんな事を言ってた気がする。

 吸って、吐いて。

 …よし。

 

「朝倉さん」

「…はい、如何なされましたか」

「学食でご飯食べよう、一緒に。三人で」

 

 間。

 周囲からはざわつき。

 答えは如何に! 

 

「……」

「……」

「ひょえ〜…」

 

 のんちゃん、ひょえ〜って…。

 

「…かしこまりました。風間、支度を」

「御意に」

「マジぃ〜…!?」

「ではレイリーさん、野上さん。どうぞよしなに」

「うん、よろしく」

 

 私に友だち(たぶん)が増えました。

 いえーい。

 

 







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や、優しくしてね…!
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