はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です!   作:枯華院 清日

89 / 114
きょうのてんきは はれ ときどき くま

 

 

 

 

 

 みんな、世の中には熟慮しなきゃいけないことがある。それも一つや二つじゃない、結構な数だ。星の数ほどっていうのは大袈裟だが、中々の数だよ。

 

 有名どころだと借金の連帯保証人とかな。あれって凄いんだぜ、取り立ての拒否とか破産申請とか出来ないんだもん。まさしく一蓮托生のつもりでやらないとお先真っ暗ってワケ。

 

 あんまり現実的で説教臭い話をしてもダメか? 

 じゃあ最も身近なものを紹介しよう。

 

「太陽少年!」

「あれ安房さんじゃないっすか、ここ学校ですよ」

「先日の借りをリターンしてもらうぞ」

「放課後でいいです? これから移動教室で」

「せいっ」

「ウッ」

「よし、運びましょう服部さん」

「…うむ…しかしこれでは拉致…」

「これはあくまでコオペレイション、いいですね?」

「うむぅ…」

 

 怪しい人には着いていかないこと。

 同じように、怪しい人には借りを作らないこと。

 

 うん。わかっちゃいるよ、でもさ、流石にこれは無理だって。っていうかどう考えても拉致じゃんね。信じられねぇよ、これが公務員のすることか? 

 

 

 

 で。

 

 

 

 車がガタゴト動いている、そんな不愉快な振動は安眠のゆりかごにはならなかった。パッと目を覚ませば、割と最近も乗ったデカイ車の中。

 

 寝てる間に移動した距離は大したものでもないのか、見覚えのある変な女性…というか英語混じりの変人。安房さんが車酔いにやられる事もなく、至って普通の顔色でこちらを覗き込んでいる。酔い止めが効いてんのかな。にしても寝起きにキレイなお姉さんと対面だなんて、いやぁ恵まれてる恵まれてる…じゃなくて! 

 

「これは…拉致じゃねぇか!!」

「人聞きがバッドだぞ太陽少年。つい先日、少年は私に借りを作ったな。あまりに長く借りをホールドしておくというのも心苦しいかと思っての事だ、つまり優しさだよ、アンダスタン?」

「善意からの拉致とかある!? こんなの公務員じゃなくてヤの付く自由業の方々の手口じゃん!」

「全く違う。あくまで公務に協力してもらう訳だから、君は公欠という扱いにしてもらった。与田さんにサンクスなさい」

「教員もグルってコト!?」

「だいたいそう、概ねそう。理解がスピーディーで助かるよ。何より、シンプルにシンクしてごらん。国ぐるみでやれば犯罪にはならない、わかるね?」

「社会の黒い面って意味ならヤ○ザと同じじゃんか!」

「はっはっは」

「笑い事じゃねぇだろ!?」

 

 大人って汚いぜ…未成年略取だぞコレ。信じられねぇよ、どうなってんだこの国は。俺は決めたね、社会の不正ってモンは直すべきだ。哀れな被害者を生まないためにも俺が社会を変えてやる…! 

 冗談だぞ。

 

 ひとしきりカラカラと笑い終わった後、ほんの少しだけ真面目な顔をして安房さんが話始める。シリアス装ってももう無理だよ、どう考えても愉快犯にしか見えないって。

 

「さて…太陽少年が私達に作った借りは厳密には二つ。

 一つはあのレイリー嬢を助ける為に、私にわざわざ頼み込んだ事だ。もう一つはそれに付随しての証拠の隠蔽と周囲への説明。

 いやぁボーンがブレイクするかと思ったよ。特に彼女の両親はソゥデンジャラス、詳しくは話さないが、死ぬかと思った、マジで」

 

 レイリーが『猿夢』に襲われた一件。

 あれは、この愉快な喋り方をするヤバい女性こと安房さんの協力が必要だった。

 

 他人の夢というものに入り込む。言葉にすれば簡単だが、一般的には当然無理だ。

 

 そこで。あの保健教諭、与田さんの話に乗った訳だ。今にして思えば、人の善意につけ込む狡猾な罠だったと言わざるを得ない、大人って汚いぜ。

 

 夢や睡眠の専門家。

 それこそが目の前に居る女性の正体。

 

「ま、私に協力を仰いだのは正解だ」

 

 あっけらかんとして、事も無げに満足気な顔をキメる安房さん。彼女もまた『噂』に取り憑かれている。

 

 

 

 

『首筋を叩くと気絶する』

 

 あまりに物理的な話。

 人体の首。それは確かに各神経繊維や重要な血管、何より心臓と脳とを繋ぐ重要な部位。確かに強く殴打すれば気を失うに説得力のある部位。

 しかし奇妙には思わないだろうか、様々な作品において、首や後頭部に軽く手刀で一撃を加えるだけで人が昏倒をする? 

 

 このありふれた現象への医学的な解答は一つ。

 手刀程度では、人間は気絶・昏倒しない。

 もしもそれを可能とする程の衝撃を頸部に与えるならば、先に頸部骨折や近くの後頭部への衝撃で脳挫傷しかねない。

 ということ。

 つまり、あまりに早い手刀を見逃そうとも見逃すまいと、人は気絶し得ない。

 

 これは、フィクションにありふれた話。

 

 

 

 

 人間は自分勝手にいつでも入眠するのは、ある程度の訓練を要する。だから与田先生の紹介で、ルー語を嗜む変人、安房さんに協力してもらったってワケ。

 レイリーの写真を撮ったのも個人的にどうこうしようって話じゃなくて、安房さんから撮って来いって言われたから。

 

 睡眠(気絶)と、どんな夢でも選り好み出来る。更に写真が必要と来れば、この人が更にもう一つ『噂』に憑かれているっていうのは想像に難くない。流石、国のお抱えだ。人型殲滅兵器に人間昏睡装置、気持ち悪いくらい怪我の治るヨダレを出す人に手練のニンジャ。ひょっとしてトンデモ人材しか居ないんじゃないか? 

 

「私に協力させた恩を返してもらう為に今回、君に協力してもらう訳だが。私達ではどうにもハードなんだよ」

「めっっっちゃ嫌なんですけど…」

「そう言うな少年、若いうちのハードワークはバイしてでもドゥイットって言うだろう?」

「混ざり過ぎてて訳がわからねぇ…!」

 

 若いうちの苦労は買ってでもしろって事か? 

 自分からそう言ってくるヤツに碌なのいねぇっていうのが世の常だぜ。

 

「少年、私達『機関』のウィークポイントは何だと思う」

「弱点? んー……」

 

 急に話が変わるじゃん。弱点…弱点ねぇ。そりゃあ一切の齟齬が無い、完璧な意思疎通でも取れてない限り。組織という存在は情報戦には弱いだろう。でもこれは一般論、人数が多い組織じゃないから連絡の緊密さに連携の速さは折り紙付きだろうから…。

 

「ヒントは個々人のタレントだ」

「あー…才能? それは憑かれてる『噂』の事です?」

「エサクタ!」

「そこは英語じゃねーのかよ…」

 

 何だよエサクタって、スペイン語かよ。

 えーっと…千々石さんが反物質マンだろ? 与田さんは回復役…回復薬? で、安房さんは眠らせてくるやべー奴。服部さんはニンジャ。

 

 迷宮に挑んでる馬鹿野郎どもと比較して考えると、バランスは悪くないように思える。

 …いや、待てよ。

 

「安房さんと服部さんって、走ってる車だけを止める事とか出来ます?」

「無理に決まってるじゃないか。私達の事をビックリヒューマンショウの出演者だと思っているのかな?」

「あぁ…なるほどォ…」

 

 合点がいったぜ。

 つまるところ『機関』に所属している人間たちだと、タンク役が居ないんだな。言い方を変えると、暴徒鎮圧とかを純粋な腕っ節でどうにか出来る人が居ない。

 周囲への被害を気にせず全てを吹っ飛ばしていいなら千々石さんが解決するが、確実に苦情が来る。というか最悪周辺一帯が更地になる。

 服部さんはニンジャだが、今聞いてみた感じからして諜報活動が主で、荒事は得意分野じゃなさそうだ。とはいってもマキビシだの火遁だので多人数相手も出来なくはないだろう。

 

「推理は済んだようだねディテクティブ。つまりはそう、私達は大規模な破壊を齎す怪獣や、危険な国家転覆を企む敵国の集団程度ならブレックファスト前。でもちょっと手強い武装集団や、散り散りに襲ってくるような相手には分が悪い。

 そう、千々石さんが対処したら民間への被害甚大どころか更地になりかねないのでダメ、与田さんはそもそも非戦闘員、服部さんは正面切ってのバトルは不向き、そして私はか弱いレディだ。わかるね少年、いい感じの肉盾をウチは欲しているんだ」

「こ、コイツ…高校生を鉄火場にぶち込む事に罪悪感を持ってない…! っていうか肉盾って言い切りやがった! 倫理観とかどうなってんだよ!?」

「で、君に頼むワークだが…」

「無視!?」

 

 大人ってヤツは…! 

 

 

 

 

 ───☆

 

 

 

 

 都心、特にビル群の密集する所謂オフィス街。

 そこ行く人々は襟元を正し、スーツにネクタイ身につけては、勤勉であると銘打っている調子で所狭しと急ぐ企業戦士が闊歩していた。

 人によっては交渉、打ち合わせといった商談。進まぬ会議に踊る会社員。機能が制限されたパソコンでのデータの管理や、記入・記帳等々。多様な戦場が繰り広げられる。

 

「ですから、人と動物の共生をですね…」

 

 ここはオフィス街のビル、その一室。地上から少しばかり高さのある至って普通の場所。人一人が扱うには大きな机が立ち並ぶ部屋で、置き型電話はしきりに鳴り、口角に泡を飛ばして喧々諤々の嵐がそこにあった。

 

 当然ながら、仕事というものは多岐に渡る。サラリーマンは給与を得るもの、そこには利益の分配があって、これもまた当たり前である。

 一方で利益の分配を行わない組織も存在する。

 

「こちらNPO団体『野生動物文化協会』ですぅ」

 

 NPO、ノン・プロフィット・オーガナイゼーション。非営利団体の事である。

 

 これらに所属する者もまた胸襟を締めて。会社への利益ではなく、社会貢献活動に邁進する。

 

 それにしても、不思議に思わないだろうか。

 誰も彼もが真っ当な人間であると主張するが為に正装をするならば。人を騙す者もまた、正装をするのではないかと。

 

「首尾はどうだ?」

「ビラの届く範囲は我等に同情的な意見が目立つようになりました…クマ」

「クマクマ…では次は別の区に手を広げるとしよう」

 

 不穏な会話をしている。

 その姿は毛にまみれた茶色と黒。丸い耳はぴょっこりと頭頂部付近にあり、鋭い爪を器用に隠し。人を超える筋力に背丈。この者たちはつまり…。

 

「クーマッマッマ…人間どもの思想扇動はチョロいベアーねぇ…!」

 

 熊である。熊用の規格が無いが故に、人用の非常に大きなサイズのスーツにパッツンパッツンになりながらも身を通し、ネクタイに眼鏡までもかけている。完璧な企業系熊だ。どこの動物園に出しても恥ずかしくないだろう。ちなみに人間サイズでは足りない革靴は特注品である。衣服で隠されていない部分の毛艶も良く、いい暮らしをしているのだろうと物語っている。食事がいいのかもしれない。

 彼ら企業熊の食事は、契約農家の季節のフルーツに、旬の川魚や鮭、そして食後に蜂蜜。なんとも贅沢なワガママグルメベアーである。

 

「我等アーバンベアの侵略に気付きもしないとは、愚かな人間が多くて助かるクマ」

「こんな都心じゃあ猟銃も持てやしないクマ! あるのは軟弱なヒトの爪、食ってくれって言ってるようなものクマ!」

「クーマッマッマ!」

「クーマッマッマ!」

 

 笑い方はさておき。彼等都心に住まい活動を行う熊達の活動、それはつまり静かなる侵略であった。

 野に身を置く熊達にも権利が有ると喧伝するロビー活動。そして、結果的に熊の個体数を増やす事。これこそが目的である。

 

「それにしても、人間も馬鹿ばかりクマ。野生のクマが増えれば、人間の生息域は減るというのに」

「あのナントカ会? の小賢しい人間連中の考えることクマ。我等熊同盟への資金援助で資金洗浄を行い、理性的でない同胞が増えることによって近隣地域では合法的な地上げも出来る。

 我等としては資金も入るし生息域も増える、これ程ウィンウィンという言葉が相応しい関係も無いクマ」

「向こうは最後にこちらを始末すればいいとでも思ってるクマ?」

「そこが甘い、甘過ぎるクマ。メープルシロップや民家の柿より激甘クマ。貧弱な人間どもの武装なんてたかがしれてるクマ、ここは日本クマ…連中が持っていても拳銃程度なのは自明の理。一張羅のスーツはダメにされても我等の毛皮を貫けはしないクマ! しかも武器を持てば銃刀法で捕まるクマ!」

「間抜けクマ!」

「クーマッマッマ!」

 

 知恵比べに勝ったつもりか人類と、嘲笑う数匹の熊達。このまま事が進めば都市を占領し、最後に笑うは我等であるとそれぞれが呵呵大笑だ。

 

 

 ──コン、コン。

 

 

 侵略を企む熊達が笑うビルの一室、不意に来客を報せるノック音が扉から発せられる。

 

「クマッ?」

「来客クマ?」

「アポイントは無いはずクマ…」

 

 これは如何に? 来客は無い筈である。さもなくば侵略計画を大声で話し合いはしない。別のオフィスからの苦情か、はたまたビルの管理会社か。

 

 

 ──バギ…。

 

 

「こんちわー!」

「クマ…!?」

 

 熊たちの視線が一点を向く。

 ドアには鍵を施錠してあった筈だ。それがどうしたことだ、ドアノブそのものが周りごとねじ切られて、ドアだったものは蝶番の付いた板切れと化している。

 

「おぉ…マジで熊さんじゃん…」

 

 室内の照明の当たり様によっては金色にも見える髪をした少年が、熊たちを見て感嘆の声を上げた。

 ただ者ではない。

 数匹の熊は、野生の勘から嫌な気配を感じ取っている。彼等の鋭敏な鼻は、少年から発せられるニオイが、純粋な人間のニオイではない事を教えている。

 

「ぼうや、ここはクマたちのオフィスクマ」

「そうクマ。何か用事があるならまずはアポイントメントを取るのが礼儀ってものクマ」

「いやスンマセンね、マジでデカい熊がスーツ着て喋ってるなんて思わなかったもんで。

 んで…ここが、えー…っと…なんだ? NPOの『野生動物文化協会』? の本部で合ってます?」

 

 如何にも生意気という感じを醸し出しているのは、髪色だけが原因ではないようだ。言葉の端々からも所詮熊だと、相対する熊たちを下に見ている不愉快さを出している。

 

「合ってるクマ、次はアポを取るクマよ……つまみ出すクマ。お子さまのお帰りクマ」

 

 リーダー格の熊は憮然とした対応で、周囲の熊達に侵入者の退席を促すように声を発する。

 

「あっ、そう。突然で悪いんだけどさ…おとなしく森に帰ってくんないかな? 人間の危ない連中から、カネが流れてるって証拠が漏れてんだよね」

「クマ…?」

 

 数匹の熊たちの毛が逆立つ。

 

「…何のことかわからんクマ、我らは清廉潔白な啓蒙活動を行っているだけで…」

「ツキノワだかヒグマだか知らねぇけど、その毛皮で白っていうならシロクマさんに怒られるぜ。

 それはともかく、弁明なら法的な場か、地元の森でやってくれよ。じゃなきゃここら辺と、東北と北海道の森まで何割か更地になる。

 ちなみに証拠のレコーダーはコレね、再生しようか?」

「クマ……」

 

 どうやら目の前の小僧は生意気なだけでなく、またこちらを強請るでもなく。あくまで立ち退きを要求しているようだ。

 

 まさか自らが地上げに近い事をされるとは思ってもみなかったのだろう。しかし、ここで熊たちにある考えが過る。

 

 あの人間たちが自分たちを売ったのではないか? 

 

 行き着く先は命の取り合いならば、ある程度の結果が出ている今のうちに後顧の憂いを取り除かんと、それこそ猿知恵を働かせたのではないだろうか。

 であれば、事は単純だ。

 

「お前ら、お客様は帰りたくないらしいクマ。

 丁重におもてなしをするクマ」

 

 証拠の一つを持参したのなら運の尽き、この場で始末してしまえば公権力の及ばぬ内に片付く。まずはこの人間で次は協力者だった連中。

 相手は子供一人、たとえ成人であろうと問題無いが、赤子の手をひねるよりも容易く、時間も掛からない。

 

 少年の周囲を取り囲む獣。体躯は無論、体重差から筋肉の質も量も、霊長類と嘯く猿どもとは比べるべくもない。その自負を持っていた。

 

「そういや動物園に空き出たってよ、無職熊になっても安心だな、赤いシャツでも着てれば大人気じゃん。差し入れに黄色いペンキが必要なら言ってくれよ、お代ならタダでいいぜ」

「グマー!!」

「治療費って事にしておくからさッ!!」

 

 

 ───パリンッ! 

 

 

「クマ!?」

「次はどの熊だ?」

 

 野生の動体視力を持ってしても追いつけない速度で、人間に襲いかかった内の一頭が窓ガラスから外へ、まるで交通事故にでも遭ったように弾き出された。

 

 何が起きた。

 降って湧いた疑問、窓から降る羽目になった同胞の原因。その疑問の答えに辿り着く者はいない。

 

「熊と互角以上に相撲を取るのは、歌の中の金太郎だけじゃないって目の前のクソガキが教えてやるよ。それと…次は変な事すんなよな!」

 

 

 

 

 ──カチッ…。

 

 

 

 

「はっはっは、見事見事にマーベラス。

 期待以上の成果だよ太陽少年」

「そーすか…」

 

 なに笑とんねん…。

 そもそもだ、どこの世界に人語を話す熊公に喧嘩吹っ掛けて、向こうから手を出させてから外に叩き出せって無理難題を押し付けてくる人がいるんだよ。

 

「役に立っただろう、その空のレコーダー」

「役に立ったかどうかは分かんないっすね。野生動物から殺意を感じたのは始めてなもんで、こちとら都会っ子ですよ…はぁ」

 

 ちなみに俺のテンションが低いのは、この悪びれもしない大人に振り回されたからじゃあない。

 純粋に疲れたんだよ、熊を車内に詰め込むのに。

 

 今回の一部始終を説明しよう。

 まず俺が熊どもに喧嘩を売る。おっと勘違いしないでほしい、熊は熊でもヤの字の方々と繋がっている社会派ベアーどもだ。社会派というより反社会派だな。

 その反社熊達は厄介な事に、安全圏から人間を侵略しようとしていたらしい。人権ならぬ熊権があるってな。でも実際のところ、人と話せるだけの知能がある熊なんざそう多くない。

 そのロビー活動のお陰で地方都市じゃあ熊が出ても駆除も出来ないし、農作物は荒らされるし人も襲われて地価も下がるって寸法。この新型アーバンベアとヤーさんが手を組んでいて、その資金の流れを掴んだと。

 ただ、それだけだと排除理由には弱い。

 

 そこで哀れな被害者が必要だったってワケだ。下手に手を出してくれたら計算通り、あとは事情聴取なり何なりして排除可能ってな。

 これには当然問題点がある、普通の人間は熊と戦えないって問題だ。

 …問題じゃねぇよ常識だよ。

 

 はぁー…本当に、まさか熊と戦わせられるとはおもわなかったぜ。そんで窓から外に投げ落とした後、落下の衝撃で身動きが取れなくなった熊を安房さんが気絶させた訳だ。

 その後服部さんが檻付のクソデカ車両で現行犯熊を運ぶってんだから…寝ている熊を無理矢理運ぶしかないんだぞ。数百キロの熊をだよ、疲れるに決まってるだろ。先に重機でも持ってきておいてくれよ。

 むしろオートメーション化してくれ、気絶した熊を自動で出荷、手作業でやるもんじゃないって。

 

「これにて一件パーフェクト、無辜のピープルも夜にはグッスリ。どうした、胸を張り給え少年」

「そういうのいいんで、もう事務所行っていいです? 完全に遅刻だぜ、この時間…」

 

 すっかり自分たちの影も伸びて、辺りは夕焼けでオレンジ色だ。いつものバイト開始時間は過ぎている。かといってサボりもバックレも無しだ、無断欠勤はよくない。代理がキレ散らかすからな。

 

「オゥ、心配はナッシング。そちらの事務所には連絡済みだ、犬飼さんは快く…でもないが、許可をくれたよ。今日のところはこのまま帰宅するといい」

「おやっさん…!」

 

 快諾ではないってあたりに情を感じるぜ。そうだ、おやっさんはいい大人。我らが探偵事務所の頼れる所長様だ。あまりナメてんじゃないよルー語公務員、なめ猫はウチの所長代理だぞ! 

 ナメられたら殺す猫、略してなめ猫。怖いぜ! 

 

「…ん?」

「何か引っかかる事が?」

 

 待てよ? 

 サラッと流す所だったが、この人。今日のところは、って言わなかったか?? 

 

「安房さん、今日のところってのは…」

「ん、ああ…アイシー、アイシー。聞き間違いではないよ、今日のところは、で合ってる。」

「どういうつもりで?」

「また別の日にもう一件手伝ってもらうつもりだが?」

「………はぁ〜?」

 

 みんな! 

 熊を見かけても絶対に近寄ったり戦ったりしないようにな! 

 俺は未成年略取とか就労の闇と戦うぜ!! 

 

 





※野生動物を見かけても、無闇に近寄らないようにしましょう。というかどうにかして逃げましょう。

御意見・御感想・御評価。質問疑問、誤字脱字等々ありましたら御指摘賜りたく存じます。
や、優しくしてね…!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。