はい!こちら『愛に溢れる探偵事務所』です! 作:枯華院 清日
オートメーション、つまりは自動化。
最小限の人的作業のみを必要とし、およそをプログラムやロボットといったテクノロジーで代替・自動化していくこと。
「と、すれば聞こえはグッドだ。
何より人間がワークする必要がない。それはまるで人類全体が古代ローマの貴族階級になり、ロボット達を奴隷階級に貶めるようだね」
「思索や哲学でもしてろっていうんですか、俺は御免だなぁ。暇でしょ、絶対」
ここはいつものバイト先じゃない。都庁の中、四十四階という不吉も不吉の階層に追いやられた窓際系部署。部署って言うのはおかしいか。正式名称『日本政府直属組織 統制機関』通称『機関』の本部だよ長ったらしいんで大体の人は『機関』としか呼ばないけどさ。
「暇だったのは間違いないだろう。衣食足りてマナーを知る、更に労働まで無くなれば、残るは享楽にしかユーズ出来ない。ライフの余暇を持て余す」
「ソクラテスとかプラトンとかを否定はしねぇですけどね、さっきも言ったけど俺は御免です。何だかんだ働くってのは楽しい時もありますよ」
「少年は社畜のタレントがあるな」
「それ褒めてないっすよね?」
そこのお前! 社畜の才能があるぜ!
そう言われて喜ぶヤツ居る?
これもう単なる侮蔑だろ、どこぞの都会熊みたいにそこら辺にぶん投げてやろうか。流石に四十四階はマズいからダメか…。
「将来有望な社畜少年とのお喋りはここまでにして」
「やっぱり馬鹿にしてんじゃん!」
「シャラップ。かのアーバンベア捕獲作戦では大いに役に立ってくれてサンキュー、次はもっとシンプルで、それでいてハードかつコンプリケイテッドだ」
「あー…難しくて複雑?」
「そうだとも。
では、オシゴトの説明をしよう」
なーんかニタァって感じの嫌な笑顔してるな…。
「さてさて…次に君が襲撃する…ああ…」
「襲撃って言った??」
「ぅおっほん。んー気のせいだよ、ロウには触れない」
「俺ってひょっとして前科を積み上げられてない?」
「ははは」
やっぱりさぁ、大人って怖いよね。特に悪知恵というかあくどいタイプの人はマジで怖い、千々石さんが騙されてないか心配だよ。ほら、あの人って善良な一般人そのものな感性してるから…。
「とりあえず、ある工場の襲撃と大型のトレーラーをデストロイしてほしい。話はそれからだ」
「公務員?? それマジで言ってんの??」
「ウップス、少年。前に言った事を忘れたのかな」
「犯罪契約はした覚えがねぇなぁ…」
「国家ぐるみなら犯罪にはナッシングだ」
「道徳の問題じゃーん…!」
俺…胸を張ってシャバに出られるかなぁ!?
──太陽くん…太陽くん…。
これは…内なるレイリー!
──大丈夫だよ、ヒモでも…。
断固拒否だよ!!
んで。
そんな脳内茶番劇は置いといて、だ。そもそも茶番っていうか、現実でヒモでもいいって本人から言われた事あるしな。前提として誰とも付き合ってないうえに、俺は真っ当に生きたいから絶対にノウだけどね?
穏やかな加減速で、目的地まで進む車両。運転手は一見にこやかかつ温和でほんのりひ弱そうな成人男性。
「やぁ〜…太陽くんが一緒だと頼もしいなぁ」
「……巻き込まないでくださいよ? 千々石さん、手加減出来ねぇんだから」
「ど、努力はしてるんだけどね…」
今ね、俺の隣にやる気満々の反物質マンが居るの。怖すぎるだろ、起爆寸前の地球破壊爆弾と仲良く出来るか? いや出来ない、してたまるか。
冗談冗談、千々石さんは真っ当なお兄さんだぞ。
「安房さんから説明はしてもらった?」
「とりあえず突っ込んでこいとしか言われてませんけど。あと、上手く事故って事にしておくから安心しろって…何かメチャクチャ過激じゃないです?」
「…確かにそうかも。安房さんの代わりに一応補足説明しておくと、今から壊す工場はちょっとよくない施設なんだ」
「よくない施設?」
言葉のオブラートが分厚過ぎて全容が掴めないぜ!
よくない施設って…なんだ、兵器とか違法薬物の密造
とか? それなら確かにぶっ潰したほうが世の為人の為っていうのも頷ける。
「う〜ん…まぁ男性陣しか居ないからいいか…」
「ど、どういうことです?」
「最近の事なんだけど、すごく人間みたいな動きをするロボットが完成したらしいんだ」
「はぁ…ロボットねぇ…」
ちなみに男性陣という言い方でお察しかもしれないが、服部さんも居るよ。運転席には千々石さん、助手席に俺、後部座席に服部さんがそれぞれ居る。服部さんはかなり寡黙なモンだから、俺と千々石さんだけが喋ってる。君って空気みたいな存在だったんだね、って感じだ。
「もしもロボットが人間そっくりに動いたら、何に使うと思う?」
「んんー…?」
千々石さんは結構こういう問い掛けをしてくるぞ!
意外と教職とかに向いてたのかもわからんね、幼稚園教員とか。結構アリなんじゃないか、物腰柔らかいし…やっぱ駄目だ、たぶん体力が保たない。
じゃなくて…ロボットが人間そっくりな動きか…。
身近な所だとフォンセルランドさんが近いか? 近いってだけでロボットと怪奇人形じゃあ別物だけどな、しかもただの人形扱いするには人間味があり過ぎる。喜怒哀楽だってあるし、不平不満には声を上げる。
強いてパッと思いつくのは…。
「重労働とか精神的負担を任せるっていうと…介護とか、気味が悪くなければ受付みたいな仕事に使う? あとは戦場で使うとかもアリっすね」
「うん、半分は当たってる。一つの目的はそれだね、つまり労働そのものを代替させること。災害現場でも二次災害を引き起こさないからいいよね」
「おっし正解…半分?」
「半分だよ。もう一つはちょっと難しいかも」
「えぇー…?」
難しいと言われて怯むようじゃあ男が廃るぜ!
労働を任せるのは当たり、じゃあもう一つ。意気込んだはいいが、なんだ…ロボットにしか出来ない事か…。危険な作業も労働に含まれるとすれば、他に何かあるか? 単純作業とかは違うだろうし…開発とかか? これも違いそうだな。あー…人間の代替…?
「ちょっと下世話だから答えが出ないかも…」
下世話!? なるほど、そっちのアプローチか。フォンセルランドさんの見た目は良いけど、下世話で下品的な話ね。下世話な機械……ジョークを考えてくれる…のは無いな。個々人によって好みが違うし、その日の気分によって変わるような問題はシステム的に構築し難いだろう。
いや待てよ? 機械といえばソフトウェアとハードウェア、頭脳と肉体だ。これを変幻自在に変えられるとすれば…。
「あぁー…その、アレっすか。性産業的な…」
「そう。それで当たってる。見た目から体つき、しかも反応まで変えられるんだから、個人好みのモノをいくらでも瞬時に作れるし変えられる。僕たち機械以外には絶対に出来ない芸当だ」
たまに人形だって忘れちゃうけど、フォンセルランドさんも絶対やらないから、そういう意味ではあの人も人間みたいだよね。
なんて補足もしてくる。
確かにフォンセルランドさんは人間くさい。いやもう面倒くさいと言って過言じゃない。
具体的に何がって言うとだ。あの人の趣味はカワイイ小物集め、これはいい。至って普通だろう。
しかし実はもう一個の趣味がある。
それは映像作品鑑賞だ。
要は映画とかアニメとかドラマを見るのが好きなんだって思うだろ? 違うんだよ、それは合ってるけど違うんだよ…!
あの人は自分の寿命にモノを言わせて、いわゆるクソ映画から消化するんだよ…!
使用制限のあるインターネットを、監視の目から掻い潜り。よりによって過去のレビューサイトを掘り起こしては、評価の低い順からリストアップして作品をレンタルしに行くんだよ。良いものは後に残しておくんだとさ。
狂気を感じずにはいられないぜ、以前フォンセルランドの家に招かれた時はそれはもう酷かった。実写の悪魔マンとかさ、同じく実写の龍玉とか見るんだもん。
しかも感想が…。
「悪魔マンの方は、俳優がカッコイイのでまぁそこそこですね。予算がそこで尽きたんでしょう。龍玉の方は…まぁ笑えるので良し、何も知らないで作ったそうですが、笑えるだけエンタメですね」
「…フォンセルランドさんってアレです? 料理がキレイに盛り付けてあるだけで、味が酷くてもいいとかそういうタイプ?」
「見た目は大事ですよ?」
「じゃあ写真でも食ってろや!!」
うん…。
おっと、話が逸れたな。これだから寿命を気にしないヤツは困るって話じゃない。みんなは良い映画もちゃんと見ような。あの人はマジでたまにしか見ないぞ。
「んで、何でその話が工場をぶっ壊すって話に繋がるんです? 製造拠点なのは察しますけど、自由市場なら普通は放っておきません?」
「太陽くん、人って欲が深いんだ」
「え? あぁ…まぁそうっすね」
何を当たり前の事を、とは思う。知的探究心だの平和を願うとかも欲望と言えば欲望だ。精神的な原動力にもなり得るから、一概に欲深で悪いとは言えないだろうけどさ。
「そろそろ近くなって来たから、簡単に言うとね。上の人たちは、もしも完璧な異性がいたら大多数はそっちに行くって考えてるんだ。
しかも、その完璧な異性は子供を作れない。じゃあ安価に量産されたそれらを、誰もが手に入れたら…」
「人口減少、っていうか場合によっては国家の消滅って事ですか。だから先に潰しておくと」
「そういうことだね。規制をかけるには時間が足りないからっ…ていうこと。あっ見えてきたよ!」
なるほどねぇ、やる事が強引な気もするが。一社の工場を先んじて潰して待ったをかけるのと、技術やロボットが氾濫してからじゃあ天秤で量るまでも無いってコトか。
面白い話だったな、個人的には。車が止まったこの瞬間までの時間が有意義に消えた気がしたぜ。
「んじゃあ俺がする事は?」
「避難勧告は出してあるんだ、説明もね。それでも出て行く気は無いの一点張り…だから、出来るだけ速く、なおかつ人的被害が出ないように、働いてる人たちを外に出してほしい」
「了解っす……クマの次はヒトかぁ…」
「ご、ごめんね? 太陽くんより力持ちで頼りになる人が居なくてさ!」
「いや冗談ですって、千々石さんも大変って話でしょ。事務所の後輩も、たまには頼ってくださいよ」
「ありがとう…!」
まったくゥ、千々石さんったらお人好しなんだからさぁ。数年前の『英雄』サマに頼られてるんだから、無碍にも出来ねぇってな。
急に『英雄』って何の話かって?
ハハハ…何でこのバケモノ怪物魑魅魍魎がウヨウヨ居る日本で、怪獣って奴らがいないのかわかるか?
───カチッ…。
世の中、改造人間のバケモノを始めとして、山よりデカい怪獣くらいじゃ勝てない人間も居るって事だ。
さぁ、やるぜ!
やるぜ、と意気揚々と行ってみたものの。
事はあっさり済んで肩透かしもいいとこだ。そりゃあねぇ、熊より軽い一般の方々を運ぶだけだもん。暴れる隙も無いしな。
外に運ぶ時は最短距離、どうせ後で壊すんだからって壁を壊し放題。どこぞの男むさい塾の名物、直進し過ぎな行軍みたいにやった訳だ。
事後処理も完璧、寡黙な忍者の服部さんが記憶を弄くるあのペンライト型装置で、流れ作業かくあるべしって感じで捕まえては消し、捕まえては消し。
そうそう、安心してほしい。どんな内容かは知らないが、公的な支援もあるそうなので完全な壊され損にはならないそうだ。良かった良かった。
そんで、だ。
「この…トレーラーですっけ?」
「そうだよー」
おいおい軽いな千々石さん。怪獣のどんちゃん騒ぎよりは楽だろうけども。
空を見ればもう日が傾いて大体夜だ、普通だったら今頃学校を出て放課後まっしぐら、バイト先にいるはずの時間。公欠扱いとはいえ、なんか後ろめたいよな。
まぁいいか、というより結果オーライだろう。我がクラスのスケベニンジャこと、風間が頼みごとをしたいって言ってたけど体良く断れた訳だし。
「学生には縁もゆかりも無い場所っすねぇ…」
「庶民には中々ね…僕も入る度に緊張しちゃってさ」
ここは都内の有名な、そりゃもう御高級な御ホテルの駐車場の外れ。そもそもこんなお高いホテルなんざ仕事で来る事が無ければ一生機会の無さそうな場所だぜ。っていうか千々石さんは何回か来てるのかよ、すげぇな公務員。あんまり羨ましくないけどな! だって肩肘張りそうだし、とんでもない金額になりそうだし…ま、負け惜しみじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!!
「広くて助かりましたね、マジで」
「練習はしてるんだよ本当に!」
庶民感覚の是非はさておき、目の前にはトレーラーだった物が辺り一面に散乱している。
何があったのかというとだ。
俺がトレーラーの扉を壊して、運転席に側にあるサイドブレーキ? を解除。運転手は居なかったよ、トイレにでも行ってたのかね。
そして外れまで運んで大爆発だ。運んだのは俺だよ、熊より重いじゃねーか! しかも千々石さんの反物質パワーが引き起こす爆発に巻き込まれるかと思ったわ!
広くて助かったよ高級ホテル! 俺もトレーラーも仲良くスクラップにするつもりか!?
「……」
「が、がんばってるから…!」
頑張ってるから何だってんだと口から出そうになった。しかしここで抑えるのも人の情け、俺は今日一つ大人になった。
「で、この哀れなスクラップは何で壊されたんです?」
「さっきのロボットの話は覚えてるよね」
「まぁ大体は」
ロボットを作る目的…みたいな話だったよな。一つは性産業で、そっちの工場は壊した。じゃあもう一つは労働…でもそれトレーラーに何の繋がりがあるんだ?
「ホテルの会場で、今介護用ロボットのお披露目会をやってるんだ。人を運んだりするようなパフォーマンスをして、企業からの入札をしてもらいたいんだろうね。このトレーラーは、それを妨害する信号を発信する拠点だったんだ」
「うへぇ…足の引っ張り合いっすか、ドロドロしてますね。介護ロボだっていうなら、協力して発展させる方が生産的なもんですけど」
「……発表されるロボットは軍事転用も可能らしくてね」
「うわぁ…じゃあ妨害ってそれ、中で暴れさせたりする気だって意味じゃないっすか」
「でも安心してほしい、中には万が一の時の為にボディガードの人も多くいるそうだよ」
…安心できるか?
まぁ、元凶は鉄屑になったから平気か…。
「じゃあ、帰ろうか! 遅くなっちゃったから、ご飯でも食べに行こう、勿論僕の奢りで。その後送るよ」
「マジで!?」
我ながらチョロいなぁ! 結構な重労働でも、飯の一食分で釣られるんだもん!
まあでも。一つ言っておくと、だ。
「千々石さん、次は普通に頼んでくださいね。安房さんのは脅迫っすよ、脅迫」
「ごめんね…本当に…!」
割に合わない借りなんて作らない方が良いって事だ。
みんなも気をつけような!
「んあ?」
「ん…なんだろう?」
そうして踵を返して、乗ってきた車に向かう途中。金属製のパーツ? というか、エンブレムが地面に突き刺さっていた。やっぱり爆発って怖いな、千々石さんはマジで手加減を全力で覚えてくれよ。
「…鷹?」
「かな? 見たことが無いなぁ」
鷹のマークのエンブレム。
そんなのを自社の物にしている車の会社なんてあったか? あんまり詳しくないんだよなぁ…。
ま、いいか。
今は目先の食事の事でも考えておこう。