こんがらがりーな   作:回者

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やんなるなぁ

「リコのオアシス補給所へようこそ……って、アンナかい? 珍しいね」

 

 人形だって夢を見ることがある。人ほどではないが、長時間の活動はメンタルを疲れさせる。最悪フリーズしてしまうこともあるから、眠って頭を休めるのは重要なのだ。だけど、夢を見るところまで人に似せる必要はあったのだろうか。

 

「なるほど、コーヒーが欲しいと。しかも、とびっきり苦いやつとはね」

 

 今、私は昔の出来事を回想しているようだった。確か、あの粘っこさすら感じる甘ったるいコーヒーに飽き飽きして、自分で買いに向かったところだろう。私はため息をついた。

 夢なんだし、もうちょっと楽しい内容にしてくれても良いのに。こんなどうでもいい出来事よりも、娯楽とか食事とか――。

 

「お二人様セットぐらいしか思い浮かばないな……」

 

 最近は部屋に籠りっきりだったし、鮮明に思い出せるのは休憩時につまんでいたファーストフードぐらいだ。いや、一応それだけでもないか。頭の中にあの正体不明な男の顔が現れたところで、考えるのを止めた。

 

「アンナにはお世話になってるからね。今回は特別におまけ付きだよ!」

 

 もちろん代金はそのままだよ。リコはそう言いながら、コーヒーと一緒にジャラジャラするものを持ってきた。見た目は手錠にそっくりで、色はエメラルドグリーン、私の髪と同じだ。

 

「また売れ残りの在庫処分ですか」

 

 リコはびくっと肩を震わせる。今回は、だなんてリコは話したが、前に来た時も、さらにその前も、こう言ってよく分からないジョークグッズを渡されたものだ。しかも、大体一回使ったら飽きる。売れ残るのも分かるようなものばっかりだった。

 

「……確かにそうさ。だけど、今回のはアンナの目にぴったりと止まるはずだよ! こいつはね――」

 

 

「おーい、アントニーナ」

 

 あの男、教授の声が聞こえる。しかも、かなり近い。

 

「まったく……夢がこんなにも融通が利かないとは。あいつの声なんて嫌なくらい聞いてますよ」

 

 私は顔をあげる。それに、ただ私を呼びかけるだけなのも微妙だ。もし私が夢を創れるんだったらもっと――。

 

「アントニーナ、目が覚めたのか! 良かった。てっきりフリーズしたのかと思って不安だったんだ」

 

 失礼な。確かに、昔は活動のしすぎでたまにフリーズすることはあったが、オアシスに来てからはきちんと休息をとるようにしている。夢だというのに、こいつは相変わらず生意気なことを口にする。

 私は座っていた椅子を回転させて、教授の方を向いた。教授の顔は鮮明で、私の記憶とも寸分の違いがない。まるで本物の教授のようで、私は思わず手を伸ばして、教授の顔に触れた。

 

「暖かい……? しかも柔らかい」

 

 私が頬を触る度、縦横無尽に変形していく。その感触は案外心地よいものだった。だけど、夢だというのに、なんで体温を感じていられるんだろう。

 

「アントニーナ……ここは夢じゃなくて現実だ……」

 

「何言ってるんですか。そんなわけ――」

 

 避けたい事実に直面しているときにこそ、意識というのは鮮明になるものだ。私ははっとして、辺りを見まわしてみる。見知った私の部屋だ。時刻を確認する。朝だ。自身のメンタルにも問いかける。私はスリープ状態じゃない。

 どう考えてみても、私が今見ているのは現実だと証明していた。

 

「近いです!! とっとと離れてください!」

 

 教授を引き離すため、辺りの物をがむしゃらに投げつける。無我夢中だったから、どんな物を手に持ったのかすら覚えていなかった。

 

「わ、分かった」

 

 教授の声が徐々に遠ざかる。それから、私は椅子の向きを戻し一呼吸ついた。これ以上顔をあいつに見られたくなかった。システムに確認させるまでもなく、私の顔は真っ赤に染まっているだろうから。

 

「メンタル映写、弄っておけば良かったな」

 

 恥ずかしさが体に現れないようにすれば、私はもっと冷静に対応できたはずだ。赤面だとか、手の震えだとかそういったもの全て。そうすれば、教授を無理に追い出す必要なんてなかっただろう。

 

「やんなるなぁ。よりにもよって、あいつが離れるのを嫌がるだなんて……」

 

 いつからだったか、教授は私たちの前に現れて、追放者のまとめ役となった。いつ見ても白衣しか着ていないような自分に無頓着なやつで、そのくせ私たちのことになるとどんな機微にも気づく。今回だってきっと、教授は私の体調を心配して訪れてきたのだろう。

 だからといって、ああも真剣に、しかも間近でなぜ私を起こそうと思うのか。でも――。

 

「教授の顔、暖かかったな」

 

 未だに頬に触れたときの暖かみが残っているような気がする。確かめるため、手に目線を向けてみた。

 

「――ん、これはなんだ?」

 

 青緑色をしたそれは、私の手首にがっしりと留められている。その形状は手錠を思い出させるもので、実際に何かひも状の物がくっついている。ひもは地面に垂れたままどこかに続いている。

 目で追ってみると、どうやら部屋の出口の方へ伸びているようだった。夢で見たあのグッズが頭に浮かび上がる。

 

「まさか、教授を追い出すときに――」

 

 ひもが地面から浮いた。まずい、私と対象が離れすぎた。私は急いで椅子から立ち上がり、出口に、要するに教授がいる方へと走りだした。だけど、気づくのが遅すぎたみたいだ。

 ひもはぴんと直線を描くようになり、何かに引っ張られるような感覚が強くなった。リコの言葉が頭によぎる。

 

(こいつは、カップルが仲を深める用のグッズさ。物理的に結ばれ、ずっと近くにいれば相手の魅力を再確認できること間違いなし! しかも、とても伸び縮みする材質で作られていてね、ちょっとでも離れると――)

 

「な、なんだ!? 腕が引かれて、勝手に足が下がる!」

 

 教授は悲鳴と一緒に、私に駆け足で飛び掛かってくる。どうする、しゃがんで回避できるか。それとも障壁を使えば……いや、それでは教授が怪我をしてしまう。じゃあ、どうすれば――。

 私は抱き寄せられ、加速によりそのまま押し倒されることも覚悟した。けれど、どこにそんな技術があったのか、教授はとっさに私を掴み、身を揺らして上下を入れ替えた。そのため、教授が地面に転がる形となったのだ。

 

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