「ほら……司令室って人がよく行き来するし、毎回閉まってたら面倒じゃないか。追放者のことをよりよく知るためにも、いつでも受け入れる姿勢というのが大事だと思うね」
教授を騙っている癖に、こいつはセキュリティが何なのか分かっていなかったらしい。私の提案の後に教授が発したことは、鍵がどこにあるのか知らないというものだった。
そのときはウィロウと共に言葉を失ったが、説教する時間も残されていなかったから、結局協力して鍵を探すことになったのだ。
「口よりも先に体を動かしてください。セキュリティが分からなくても鍵の形は覚えているでしょう――おっと」
教授と対極にいたから、紐に引っ張られて転んでしまいそうになった。
「むぅ……事故チューを誘発するためといわれるその伸縮性が、今目の前に現れているというのに。体さえ動かせたらなー」
「やっぱり、ろくでもないグッズですね」
教授と物理的に結ばれている現場を見られるだけでも恥ずかしいというのに、キスとなるとフリーズどころじゃすまない。兵器といっても良い恐ろしいグッズだ。
「――ッ! 教授、急ぎましょう! 無数のエージェントが司令室に向かう反応がします」
端末から警告が伝わった。まだ見ていないところは……そうだな、あえて扉近くを見てみようか。
「ありました! 教授、さっさと鍵をかけないと! ああもう、引っ張りがうざったいですね」
折角鍵を見つけたが、また扉から離れないとまずい。教授と離れすぎているのだ。私は回れ右して教授に近づこうと――。
かかとが何か硬いものを踏んづけた。認識したときには、すでに両足は空を蹴っていて、体はすっかり傾いてしまっていた。前に倒れる勢いと縮む力が合わさり、私はボールを投げるように宙を飛ぶ。
「アントニーナ!」
正直、怪我の心配をしていなかった。きっと、こうなると、教授が支えてくれると確信していたから。
瞬間、感じたのは強烈な恥ずかしさと、幸福感。それはあまりに刺激的で、そして中毒的だった。優しく体を抱きかかえられて、包み込むように頭を撫でまわされる。カチリと手錠が外れる音が鳴ったのは、ちょうどそのころだった。
「むふふふ~今話題のグッズは、なんとキスもできる! 証拠もあるし、今度の記事は絶対人気でますよー!」
ウィロウは宿舎で、今日のことを振り返っているようだ。確かに、実体験を交えた記事というのは、単純に娯楽としても面白いし、グッズへの期待を煽るのには最適だろう。
あのあと、司令室は人形で溢れて急に騒がしくなった。眠らせて手錠をかけようとする人、力ずくの人、両手用に二つ持ちこんできた人もいた。
案の定、司令室は大混乱に陥り、人形一人がいなくなっても誰も気づかない程度にはみんな、特に教授は自身のことで手一杯になっていた。
ウィロウはあの後もその場に残って撮影を続けたらしく、現像された写真の数々がそれを証明している。
「いよーし! これで出来上がり……あれ!?」
だけど、その苦労を報わせるのは難しい。いくら誰が体験したのかをぼかしていたとしても、分かる人には分かってしまうだろう。
ウィロウが触っていた端末は、突然画面が砂煙に変わるはずだ。画面が元に戻ったころには、書いていた記事はすっかり別物に変わっているはずだ。
「ちょっとちょっとぉ!! 今からが大事なんですよ! ああ良かった、無事に元に戻って――」
そして、ウィロウはそこに書いた『お願い』を受け入れる。まあ、折角撮った写真を捨てるのは心苦しいだろうから、それぐらいは私がしてやるつもりだ。
一応確認してみたが、あのときの感触も、味覚も、感情もやっぱり記事には書かれていなかった。つまり、二人の秘密だ。
正直、悪い気分はしなかった。