Dominium Terrae、あるいはドテラが始まって二日目。各地に散らばっていたクランは自動的な採掘と精錬の基本的な設備を整え、ある一か所を中心とするような物流網を構築していた。
「ようこそ、
輸送機──自動車みたいなものだが無人で動く──で荷物として運ばれたわたし達は、そこで巨大な設備を見た。
灰色の地面には白い線が引かれ、今後拡張されるであろう建築物の様子と資材搬入の経路を示していた。さっきまであった牧歌的なまでの自然な風景はこの付近では完全になくなっており、ここから見える海上には映像でしか見たことがないような石油掘削用の機械めいたものが生えていた。
「どうも、『ツワモノ』代表です。今回はこの計画に参加できて光栄だ」
わたし達のクランの代表が相手と握手をする。表示された相手のクラン名はMounana。
「あなたがたの活躍はフォーラムで見ているよ!今回は色々と忙しいが、頼む」
言語設定を音声変換から字幕式にちょっと切り替える。向こうの人が話しているのは英語かな。訛りはアジアっぽい匂いがするけど。
「わかった。専門家をグリーン・エンジンの補修に回したい。あとはそれ以外の人にパスをもらえるか?」
「もちろんだ、ニュービーさんには優しくしなきゃな」
そういって二人はハッハッハとステレオタイプな古いアメリカ映画とかそんな感じの会話をしている。
「……どうなってるの?」
詰め込まれていたコンテナから荷物を持って出つつ、わたしはかせくり氏に聞く。コンテナについているタグを見ればどこに運べばいいかわかるようになっているのは便利だ。こういった物流システムは昔運送系のバイトした時に似たようなものを見たことがある。
「ああ、説明していなかったか……。Mounanaは
「反応炉……」
この世界の物理学は現実世界とは異なるが、似たようなものがある。
ってことがWikiに書いてありました。その内容がかなり複雑で理論とかのあたりにちょっと大学レベルの数学だろとかいうものが混じっていましたが、暇な人はいっぱいいるのでしょうね。
「Mounanaは自然原子炉があった地域にあった村にちなんでいる。十分な濃度の
「へぇ」
情報量が一気に送られてきた。少なくとも現実に存在した天然原子炉と同じ感じの場所がゲーム中にあるからそれを利用するのね。なんだよ天然原子炉って。そんな物騒なものを自然は作るな。
「それじゃあ俺はこっちのほう行くから、二人は適当に観光していていいと思うぞ。邪魔はしないようにな」
そう言ってかせくり氏は去っていった。
「……それでソニドリくん、どうする?」
「跳華さんは見てみたいところありますか?」
「そうだね……」
わたし達は地図を表示させて言う。なんと素晴らしいことにこの区域のためにリアルタイム更新される地図があるのだ。設定を変えればクエストというかちょっとした依頼なんかも出てくる。依頼といっても物資が必要とかそういうやつで、人間とか自動ドローンとかがあっちこっち行ったり生産予定リストに追加されたりする形で処理されるんですけどね。
「あ、ここ面白そうじゃないですか?入れるみたいですし」
僕が指差すのはこの施設のおそらく中心部、海底の奥底に作られたエリア。ゲーム開始時点から作られてきた場所で、ここにはアクチネオン鉱脈がある。なおドテラのプレイヤーには
「えーと起動まで残り二十分……」
跳華さんが素早くいろいろな操作をして情報を出していく。どうしてこんな手際がいいのかと思ったが、生成系のソフト使っているからかもしれないな。ああいうのは実用重視でGUIはAIが自動でまとめてくれたやつを使うことが多いので、
「すごいねこれ、ルートも出るんだ」
「なにかのアセットなんですかね」
そんな会話を跳華さんとしながらわたし達はちょっと急いで移動する。
岩を彫り抜いたような洞窟。金属製の通路。オレンジ色の光の下で行き交うプレイヤーたち。
「フィクションとしての作業現場としてとても良くできている」
そう満足そうに言うのは跳華さん。
「リアリティはあるけどリアルじゃないと?」
「そうだね、例えば足場の下にパイプが走っているけどこれだと何かあった時に修理しにくい、普通は横を通したりすると聞いたことがある」
「詳しいですね」
「こういう工場系とかは作業量多いから念写師の出番だよ」
語りながら地図を見て進んでいく。ちょうど他の人も移動しているあたり、やはり反応炉を見ておきたい人は多いようだ。
とはいえ、実際の反応炉はそこまで面白いものではない。ちょっとした空間があって、そこを貫くようにパイプが上から何本も通っていて、パイプの端は地面に突き刺さってる。回る警告灯と各所のパイプ内の流量とか温度とかを示すパネルから色々なことが行われているのはわかるが、具体的にどういうものはかわからない。
「こちら第三班『
ふいに聞こえた放送とともに、地下の空間が歓声に包まれる。狭い空間の壁にぐるりと作られたような通路で騒ぐ人たち。どうやら起動には間に合ったらしい。
「こちら第八班『
「こちら第六班『
わざわざこういう事をするために全体向けボイスチャットではなく専用の情報通信線を引いてゲーム内のスピーカーから声を出しているのだろう。ゲーム開始から一日半経っているからそれぐらいはできるだろうけど、やはりみんなこういう無駄なことが好きなんだろうな。