セミダイブ!   作:小沼高希

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夕べが過ぎ、朝が来た 6

夜の街。昼間の太陽が出ている時間に比べるとマシとはいっても、まだ暑い。でも日差しがない分マシだし、特にこのエリアは比較的簡単に入って涼める建物を見つけることができる。

 

「ごめんねミドリくん、付き添いお願いしちゃって」

 

「……別にいいですけどね」

 

ユミナさんはシンプルな半袖シャツにジーンズという格好だった。やっぱり骨格は女性的なのだが背の高さとファッションからくる雰囲気でかなり中性的な方向に寄せている気はする。このあたりはアドバイスしてくれる人がいるのか自分で頑張っているのか。

 

「それでウチはあまりこっちのほうの知識ないからさ、一緒に回ろうって思って」

 

「僕だってないですけど?」

 

ユミナさんがレポートのために行けそうな場所を色々と調べてアドバイスした結果、なんかアキさんにも有識者だと保証されてしまった。もしそうなら有識者はAIですよ。実際今どき世の中の有識者って言われている人の後ろには十中八九人工知能がいるので間違ってはいませんが。

 

「それで、ビジョンショットとメモって形にしようと思うんだけどどうやって言葉にすればいいかわからなくて、そこでミドリちゃんの知識を借りたくて」

 

「……いいよ」

 

僕はそう言うとユミナさんは嬉しそうな顔をしてくれた。正直安易にそう言う事するの個人的には控えたほうがいいと思うんですけどね。勘違いする人が出ますよ。僕とか。

 

というわけで二人連れ立って夜の東京の一角、なんかいい感じの雰囲気のする区域をぐるぐるとする。オフィス街から少し行けば広場があるし、ブランドが照る看板を過ぎれば何かを焼いている匂いがする。

 

「たとえばここから見ると、向こう側が額縁で切り取ったようになるのってわかる?」

 

僕は指をカギ括弧みたいな方に広げて、たぶんユミナさんから見たらいい感じに重なるように後ろから伸ばす。高低差のある場所に作られた、実用性がない構造物。

 

「……わかる」

 

「額縁のかわりになるのは窓とか鳥居とかかな。僕がよく使うのは扉だけど」

 

入った時に半開きの扉を用意してそこに誘導しつつ、扉を開けるにつれて目に入ってくる情報量が増えるというバランスを取る。一度に驚かせるんじゃなくて、徐々に慣らしていくような。このためには扉の向こうの小物の配置とかを計算しないといけないので、実験と失敗の繰り返しが肝心になる。

 

「あとは色とかライトアップとかも計算されている。この地区のモニュメントとして作られてるわけでから、たぶん周囲の建物との関係もあるんだろうね。調べればでてくると思うけど……」

 

「……今は大丈夫。もう少し他のところも見ていい?」

 

「いいよ」

 

大学生二人が夜に歩いていても特に問題はない。高校の頃はまだ条例とかの兼ね合いがあったしおそもそも夜遅くに物理世界に出歩くことがほとんどなかったからいいのだけれども、やはり特別な気分だ。

 

「……ユミナさんは、この時間まで出歩くことが多いの?」

 

レポートの提出は日付が変わるまで。書くのに一時間としてそこから終電を考えると、残り時間は一時間ってところだ。

 

「そうだね、泊まったりっていうのは相手によりけりだけど」

 

「ふぅん」

 

その意味ぐらいはわかる。まだ大学一年生なのに馴染んでいるな、と思う反面別にそういうことを知るのはもっと前からでも行けるだろうね、というのもある。

 

「そうするとアキさんとか、あまり夜に出歩かなさそうだよね」

 

「なんとなくわかる」

 

そういって決めつけるのは良くないとわかっていますし、前のAlgoritmi-Q World Gameでアキさんと関わったときに学びはしました。

 

「……ここって、どういう感じなの?」

 

足をアキさんが止めたのは夜の公園。照らすのは街頭一つ。

 

「ビジョンショットを取るなら、場所を考えたほうがいいかな」

 

そう言って僕はすこし頭を上下に動かしながら前後左右に動く。絶対外部から見ると気持ち悪い動作になっているよな。

 

「一つはアイレベル。消失点ってやった?」

 

「やった。目の高さにあるもの全てが横一直線に並ぶってことでしょ、それで消失点はその直線の上にある」

 

「お詳しい」

 

「絵を描いていたからね!」

 

自慢気にユミナさんは言う。

 

「アイレベルが高いと、俯瞰するようになって客観的みたいな印象を与えられる。逆に下げれば子ども目線の主観性が強く出る、って言えばいいかな」

 

VR世界ではアバターのサイズの幅が大きいのでアイラインは低め前提で作ったりするのだが、このあたりは今回のユミナさんの課題には関係ないだろう。

 

「公園は基本的に昼に低めの目線で見られることを考えている。そうすると、夜に高めの視点で見ると変わって見えるようになる」

 

特にユミナさんの背は高いから、子供の頃に見た公園とはかなり違って感じられるだろう。そういうよく知るものとの違和感を活用するのが、いわゆる不思議の国のアリス手法ってやつだ。とはいえ自分が小さくなる方は特に東アジアのVRユーザーだと自分の身長よりアバターの身長を低くすることが一般的なのであまり効果がないが。

 

「……ここにしてみる。撮るからちょっとどいてもらえる?」

 

「いいよ、じゃあ少し歩いてくるね」

 

僕はユミナさんに手を振って、のんびりと足を進める。この区域を一周すれば良い時間になるだろうか。

 

XR端末で作るビジョンショットは、例えば生动(シュンドン)みたいなSNSに投稿されるものの基礎になるものだ。カメラは前の方にしかないが、くるりと一周すれば周囲のデータを取ることができる。身体のある部分も、普通の場所なら少し動いてさっきまで立っていた場所を覗き込めばデータを集めることができる。

 

こうやって作られるビジョンショットは基本的に静止画だが、動きの情報を入れたければ専用のカメラを使うなり、複数のXR端末を連携させるなり、記録にない部分を生成させるなりすればいい。最後のやつはあまりやりすぎると気持ち悪いものができてしまいますがね。

 

情報芸術学部の拡張現実学科なら、採点をする先生がビジョンショットを展開できないなんてことはないだろう。それなりに歴史ある一般的な規格だし、大抵のビューアーにはメモを閲覧する機能が備わっている。VR系で使う最低限の機能しかない組み込みのやつにはないこともありますけど。

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