セミダイブ!   作:小沼高希

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夕べが過ぎ、朝が来た 10

「この時間にご飯食べるの、相当久しぶりかも」

 

チェーンの牛丼屋で並盛を食べながら僕は言う。こういうところで食べる薄切りのお肉ってお店で買ったやつとも冷凍のやつともまた違った旨さがあるんですよね。なんなんだろう。

 

「そうだね、ウチも夏になってからは経験してない」

 

ユミナさんは卵と味噌汁をつけている。朝から元気だ。僕はべつにいっぱい食べる方ではないので朝にこれだけ食べれば十分である。

 

「それ以前はあるんだ」

 

「朝食べないと元気でないからね」

 

そういえばいつもは朝は抜いてしまうか寝ているかなのだが、案外食べ始めると食欲が湧いてくる。やはりこういうのが健康的な生活というやつなのかもしれない。でも惰眠への誘惑は強い。長期的な健康というのは目標にするには弱すぎるのです。

 

「ユミナさんは夏休み、何かやることあるの?」

 

「あるよー、高校の頃の友だちと遊んだり、映画見に行ったり、レジャーランド行ったり」

 

「大学生の夏休みらしいな……」

 

「ミドリちゃんは?」

 

昨日の夜とは違った元気な調子でユミナさんが聞いてくる。ユミナさんのああいう一面を見るとこう、虜になってしまう人が出るのも仕方がないと思う。だっていい人なんですもん、ユミナさんって。これは僕が騙されやすいとかそういうことじゃないですよね。

 

「VRにこもりきりかな……」

 

「ちゃんと運動しなよ?細いんだから」

 

「……がんばる」

 

直前にしっかり運動した記憶をたぐるが、下手すると前に行ったプールとかになってしまうな。本当にいいのだろうかこんな生活で。どうしようもなく健康という概念に喧嘩を売っている気がする。

 

「必要なら誘おうか?」

 

「……ほどほどにね。アキさんが帰ってきたらまた何かしてもいいけど」

 

「あのねミドリくん、ふたりきりで食事している時に他の人の話題出すの、場合によっては喧嘩だよ?」

 

「僕とアキさんってそういう関係だっけ?」

 

半ば冗談だとはわかっているのだが、少し拗ねたような、ちょっとだけかわいらしいところのあるユミナさんの口調からだともしかしたらなんて思ってしまう。

 

「……ウチより先に一緒に寝た相手でしょ」

 

「語弊がありすぎる……いやあまりないかも……」

 

そんな話をユミナさんとして、のんびりと目覚めつつある街を歩いて、駅で解散。もう夏至からは一ヶ月ぐらい経っているので、そろそろ日が短くなる実感が湧いてくる頃なのかな。

 

「それじゃあ、ウチは色々行くところがあるので」

 

駅の改札をくぐった先で、ユミナさんが言う。

 

「じゃあ僕は戻ります」

 

「じゃーねー、ありがとね昨日と今日は付き合ってもらっちゃって」

 

「また何かあったら言ってくださいね」

 

ちなみにお財布の中はちょっとだけ冷たい。脳の悪いところがそれだけの金銭的価値のある夜だったのかとか言ってくるが切り捨てておく。なんでも人生をそういう価値で分析すると最終的には自分が切り捨てられるのだ。

 

夏休みの課題を終わらせたのは偉いので、しっかりと夏を満喫して欲しい。そんな事を考えながらこんな暑い中でも真面目に通勤や通学をしているらしい人たちを見ると尊敬の念を覚えてしまう。

 

そんな感じでしばらく電車に乗って歩いて僕が自分のアパートに戻る頃には日が高くなりつつあって、気温もちょっと汗ばむぐらいになっていた。日傘持ってくればよかったな。

 

名残惜しさを感じながらもシャワーを浴びて、そしてベッドへ。いえ眠いのもあるんですが、ちょっとまだ身体がだるいのと睡眠時間がそこまで取れていないのと、Dominium Terraeもといドテラに入りたいっていうのがあったので。

 

ヘッドセットを下げて、ゆっくり息を吐く。意識を()()()の方に切り替えていく。なんとなく昨日のユミナさんといた時は()じゃなかった気がするな。どうしてだろう。

 

「んー、シャンプー変えたからかな……」

 

ちょっとだけ脳計測デバイスの調子が良くない。キャリブレーションを一通りやって、多少マシにはなったがSWARMで遊ぶのはやめたほうがいいだろうな。

 

「……っと、到着」

 

見渡す限りの荒野。数日前まで緑豊かな自然だった空間は、試掘用の穴があちこちに散らばる荒涼とした空間になっている。

 

地図を開くと、環境系の分析を行うプレイヤー用に残されている一部の自然保護区を除いて、ほとんどが濁ったような色で塗りつぶされている。

 

「あそこが今のメイン作業空間かな」

 

灰色の大地に伸びる白い線は鉄道みたいな輸送ラインとすると、それらが交わる点に行くのがいいだろう。そう思って少し調べると、やはりこの点は輸送路だったようだ。

 

しかし眼の前で見ると、それは思っていた鉄道とは少し違った。ベルトコンベアに近いかもしれない。人間も運べるが、速度がちょっと物理世界であれば近寄るのも嫌厭したくなるほどだ。遠目で見ていてかなり速いなと思っていて、近づくとかなり大きいなとなって、二つの前提を組み合わせてわたしはちょっとため息を吐く。

 

幸いにも、これに乗れば自動的に目的の場所に行くことはできる。指示書もきちんと公開されている。シンプルなピクトグラムで「飛び込め(DIVE)」とあるので、やるしかない。もし死んでも大丈夫です。触覚(ハプト)デバイス越しには骨が折れるほどの力が加わったりはしません。

 

もちろんトラウマが残るぐらいの演出をすることもできますが、ほとんどのシステムではそういうことが起こらないようにある程度のセーフティーがある。てんかんとかを引き起こさないようにするシステムって枠組みですけどね。

 

諦めて足を輸送路に入れると身体全体が無理に引っ張られる。地図の上で自分の現在位置を示すアイコンが高速で流れていく間、ちょっとだけ適当な計算をしてみると時速150キロメートルぐらい出ていることになった。恐ろしい。

 

それであっても数分間の時間があるので、目指す場所について確認しておこう。

 

Dominium Terraeの中で行われていた挑戦の一つ、宇宙開発のために作られた超巨大自己複製能搭載の自律稼動の可動工場。マップ上のアイコンをタップすると「Neumann's Unfulfilled Dream」という表示が現れ、一瞬後には「ノイマンの見果てぬ夢」という翻訳がなされていた。

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