セミダイブ!   作:小沼高希

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夕べが過ぎ、朝が来た 12

最終日。今日でこの世界は終わる。

 

「組み上がるのに、そう時間はかからない」

 

かせくり氏がわたしと跳華さんの隣で言う。巨大な蜘蛛かヤドカリのようになっていた「ノイマンの見果てぬ夢」は、半ば崩壊するような形で一つの構造物を作り上げていた。

 

高さ一キロメートル弱、億に届く部品からなるDominium Terraeの中で構築された史上最大級の構造物。周囲は立入禁止区域になっていて、いくつかある観覧場所の一つからわたし達を含めた参加者がわいわいと話しながら予定時刻を待っている。

 

ロケットと言うには荘厳で、大聖堂とかの様式のほうがどことなく近いなと感じる。加工の問題で、滑らかな表面を作るよりも小さなパーツを組み合わせて寄せ木細工みたいに作るほうがいいらしい。空気抵抗とかも原則考慮しなくていいので、そのあたりを作る時の効率に寄せているのだとか。

 

「採掘跡見てきたけど、凄いことになってるね」

 

跳華さんが嬉しそうに言う。確かにああいう物悲しいというか背筋がぞわりとするような、独特の空気を感じさせる空間というのはなかなか見れるものではない。そういうワールドもないわけじゃないけどどうしてもそういう空間を作ること自体が目的になってしまうとズレますからね。

 

「食料の生産であるとか、あるいは土壌の問題で起こる災害なんかがないからな。全てを搾り取っていくのが最適解になる」

 

「その最適解が人柱を詰めて宇宙へ向かうことですか」

 

かせくり氏に、わたしは少し呆れたように言う。いや色々と聞きましたけど、その発想はまず出てこないでしょうというようなものだった。このゲームのプレイヤーには技術者倫理というものを叩き込むべきかもしれない。

 

一応AIとかいう面倒なものを扱っているのでそのあたりには少し覚えがあるのですが、そういう観点を持って改めてやられていることを見ると酷すぎて逆に面白くなってくる。

 

「俺は志願したが外れたがな」

 

「……志願者、こんな近くにいたんですか」

 

「実際に体験できるということと名誉というのはなかなか重要だぞ」

 

かせくり氏が言うところはわからないでもない。名誉を軽視するとシステムが回らなくなるなんて言うのはよくあることだ。かわりに名誉だけで回そうとして何も上手く行かないなんて話も聞く。

 

きちんと同意があって、自分のアバターがどのような目に遭うかを把握した上で選ぶのなら一応いいのだろうか。普通ならそれだけの衝撃を受ければ窒息したときみたいにダメージで死んでしまうのだが、この機体ではそれを二つの方法で対策している。

 

一つは体力システムを利用して、できるだけダメージを減らすこと。防護とかみたいなものですね。かなり生存を強制するとも言います。もう一つについては大量のストックを用意しておくというもの。プレイヤーのライフは消耗品です。

 

「旅は片道、時間は半日。今回は月まで行けるかな」

 

そう言うかせくり氏が見上げる先にあるのは衛星……と言えばいいのだろうか。この平らな大地を飛び立って向かう目的地は、あの月みたいななにかだ。以前のアップデートで向こうの世界も作られたようだが、行く意味はないらしい。

 

「あそこになんだっけ、ノイマンのなんとか……」

 

ノイマンの見果てぬ夢(Neumann's Unfulfilled Dream)

 

いいかげんな跳華さんにかせくり氏が言う。

 

「そうそれ。あれを送り込めばいいんじゃないの?」

 

「考えられていないわけじゃないぞ」

 

かせくり氏はそう言いながら機体の中程を指差す。機体の先頭がここから見て四十五度ぐらいなので、実は一キロメートルぐらいしか離れていないことになる。

 

「あそこには小型ではあるが採掘と加工のための自律装置が積まれている。だから機体がこれだけ大型になるんだ」

 

「ああ、そういう理由もあったんですね」

 

前に宇宙に行った機体を見た時は、流石にここまでは大きくなかったはずだったのだがと思ったのだ。とはいえあまりいい具合にサイズの比較対象になるものがないからここからだとはっきりと大きさがわかりにくいというのはある。ハッチとかはしごとかつけるといいと思いますよ。そんな事をするメリットがないから効率の名のもとに切り捨てられたのかもしれない。

 

「間もなく打ち上げです」

 

アナウンスにどよめきが沸き起こる。

 

「チェックリスト開始。基幹論理系」

 

「ゴー」

 

「燃料圧力」

 

「ゴー」

 

「駆動人員」

 

「全員バイタル安定、ゴー」

 

何かちょっと危ないことが聞こえた気がするが、気のせいだと思おう。

 

「管制」

 

「ゴー」

 

「グリーン・エンジン」

 

「ゴー」

 

この確認は半ば儀礼的なもので、かせくり氏が語るところによれば実際のロケット打ち上げのときの手順を参考にしているらしい。ここまできて中止ということはあるのだろうか、なんて考えている間にも放送が進んでいく。

 

「誘導」

 

「ゴー」

 

「テレメトリ」

 

「通信チェック完了、ゴー」

 

そんな感じで、一つ一つの確認が行われる。ただ退屈ではあるな、なんて思っているとかせくり氏が進行状況のリストを出してくれた。ただ、この時には終盤になっていた。

 

「周辺地域封鎖」

 

「ゴー」

 

「最後。実況及び記録、ゴー」

 

リストがすべて埋まり、カウントダウンが開始される。

 

「総員発射に備えて。カウントダウン開始。タイマーを60秒にセット」

 

そう放送されると同時に機体の色が変わる。色というか、光の反射の様子だな。構成している鱗みたいなパーツ一つ一つの光学処理が機体を一体とみなす手続きによって統合されることによって起こるやつだ。わたしが触るようなVR空間でもグループ化の時によく見る。

 

「残り三十秒」

 

周囲でカウントダウンの管制が上がる。言語通訳が追いつかない。英語がメインだけど中国語とフランス語と……あとロシア語?かせくり氏が落ち着いて言っているのは日本語。うーん世界が一つになっている。もう少し実益的なものでまとまってもいい気はするんですけどね。

 

「ゼロ!」

 

打ち上げは実に奇妙なものだった。いきなり一定速度で飛び出して、一瞬だけ止まって、その後断続的に速度を上げながら上へと向かっていく。接触判定の設定が甘いオブジェクト同士が干渉するとだいたいこういう動きをするのだが、まさにそういう形で気持ち悪く機体は青空へと消えていった。

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