打ち上げ以降の詳細な流れについては、有志が
幸いなことに簡略版もあったし、わたしはそれなりに打ち上げ後の色々も見れたので少しだけその後の話をしよう。
なんか本能的な危なさを感じるような飛び方で打ち上がった機体は、百名近くのプレイヤーを犠牲にして目標である月へと激突した。重力と気圧の変化でプレイヤーの挙動が変わることを完全には把握しきれていなかったのもあって、想定の倍以上の速度で月面に降り立った形になる。
途中で切り離されたプレイヤーが死ぬ直前に撮影した映像は、多少の破損はあるもののおおむね無事な到達を報告していた。
この画像によってコミュニティは大盛りあがりとなり、撮影者は一躍有名となった。このゲームでは死んだプレイヤーが
そして同時に、瞬時に月へと行く方法も確立された。すなわち誰か一人でも到達して、そこを復活地点に設定すれば他の人は自殺することで月に向かうことができるのだ。遥か遠くの地へ行くための集団自殺とか普通に危ないネタだと思うのですがね。
というわけで行ってみました、月。いや
「あ、音がしないんだ」
地上で死んで一拍置いて、周囲に広がる広がる無音の空間。真っ暗な空に瞬かない星、そして天頂に見えるは丸い大地。たぶん平面。重力が小さいかどうかはちょっとわからないな。
「そうか地球は球体じゃなかったんだ……」
この呟きも誰かに届くことなく、周囲に見えるやってきた人たちと同様にわたしも継続的なダメージを受け続ける。そう思っていると視界の中に入っていた一人が消えた。またどこか近場で復活して死に続けるのだろう。
「……さて、帰れるのかなこれ」
結論から言うと無理です。クランの移籍は別クランの参加者が十分近くにいないといけないので、こうなってしまっては詰みです。一応どうしようもなくなった時のためのサポートもあるのですが、ついさっきこの種のワープには非対応って書かれたそうで。
なんて酷い運営なんだ、人の命を何だと思ってやがる。しかしプレイヤーが言ってはいけないなこれ。なにせここにたどり着くまでに効率の名のもとに費やした人の命は相当なものである。
「……そういえば、あれは起動しているのかな」
グリーン・エンジン。動力さえあればちょっとの整備で自分と同じ機械を作り出せる装置。定期的に自傷行為で復活地点移動までの時間を短縮しつつ、なんとか目的のグリーン・エンジンのあたりまで到着する。
もともとあれだけ大きかった機体も今は小さく……なってないな。高いレベル、すなわちプレイヤーの手を借りずに生産可能なものが多ければ多いほどグリーンエンジンは大きくなる。結果として、機体のサイズは三分の一ぐらいになっただけのように見える。フラクタル模様のせいで正確な大きさはわかりにくいけど。
死ぬ前に一番近くで見れた時には、地面を採掘して部品を組み立てているところだった。あと一日ぐらいであればメンテナンスなしでも効率が落ちる程度で問題なく動くだろう。というわけでこれ以上遊べなくなったのでログアウトした。
「いやぁ、死んだ死んだ……」
そう言ってやってくるはBar Panoptica。ここはいつでも懐かしいような感じがあって、先程までのなにもない冷たい場所とは違う。
「なかなか楽しかったみたいじゃないか、ソニドリ」
「どれの話です?」
ここしばらく、ちょっと色々なことがあった。特に思い出に残っているのはユミナさんの熱だったりするけどさすがにチーフがそこまで知るよしはないだろう。僕のXR端末にロガーでも仕掛けて動きと通信を全部監視してでもいない限りは。いないよね?
「もちろんDominium Terraeの話さ。ソニドリの個人的な浮ついた事情までアタシが知るはずがないだろう?」
落ち着け、ただのカマかけだ。こういうことをチーフは良くしてくる。ならそれなりにお返ししてやろう。
「おや、びっくりしましたよ。どうやらわたしの私生活まで探られているようで。いやぁ美人さんと過ごした一夜がバレていましたか」
わたしの言葉にチーフが返してきたのは憐れみ混じりの一杯だった。なんだよ。嘘じゃないもん。ユミナさんはとっても綺麗でかっこいい人なんですって。
そうしてゲームの感想とか、ちょっとした世間話とか。今週はDominium Terraeの方にメインで行っていてあまりこっちに顔を出していませんでしたからね、積もる話もありますよ。
「……そういえば、概念同化機構さんが東京に来るのでみんなで集まろうってなっているんですよ」
前に跳華さんから聞いた話題を振ってみる。
「いいじゃないか、ソニドリの大学は東京だろう?」
「東京と言っても多摩のほうですけどね、東総大のキャンパスは外国語学域と社会科学域はこっちのほうですけど工学域と医歯学域は都心寄りですし」
横方向の移動は鉄道があるので難しくはないのだが、それはそれとして移動の手間はある。
「それで、概念同化機構のやつはどこ志望だって?」
「社会科学域ですよ、なので近場です」
桜盃情報工科大学からみて西側なので東西に東京都を突っ切る鉄道で少し行けばいいだけだ、そう遠くない。暑い夏に歩きたい距離ではないが、みんなでわいわいと行くなら楽しめるだろう。もしそこに進学したなら、概念同化機構が住むであろうエリアはギリギリ行動圏内になるかな。
「いいじゃないか。夏らしく、楽しんでくるといい」
「チーフも来たらどうですか?」
ちょっとだけ気になった。チーフのことだ、誰かを雇って本人のふりをさせるぐらいのことはしてきかねない。
「いや、遠慮しておくよ。そういうのは若者の特権だ。老人が入るべきものじゃない」
「とはいえかせくり氏も跳華さんもそれなりの年齢ですよ」
「誰が妙齢のお姉さんだって?」
ベルの音と同時に後ろから声がした。おや、ということは跳華さんとかせくり氏が帰ってきたのか。それじゃあちょっと色々会話をした後に今度のオフ会について詰めるとしよう。