セミダイブ!   作:小沼高希

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Captain of Robbers 3

「よぉ、初めましてか?」

 

そう言うのは青年という齢を一回り超えたような男性。髭はきちんと剃られていて、黒いズボンに半袖の襟付きシャツという格好。准教授と言われてもああ結構いるなという印象。

 

ただ纏っている空気からして理学か工学系といったところ。日に焼けているものの、スポーツをやっている感じではない。しかし細いわけでもないな。

 

「……もう少し、オンライン上の振る舞いを現実から離すことも考えるべきでは?」

 

オフ会の経験自体はないわけではないので仮想空間経由の知り合いと会うことは別にそこまで怖いものではなかったが、比較的想像通りの人たちがいたので思わずツッコんでしまった。

 

そして彼の後ろにいるのは白いワンピースを着た小柄でわたしよりも背の低い女性。整った化粧でも隠せない陰気な空気と目の中の光から、たぶん普通の社会とはなじまないだろうなという気配と何か尖った一芸があるのだろうなという雰囲気がある。

 

いや、こういう第一印象は相手の詳しい話を知っているからこそ生まれるある種のバイアスなのかもしれませんけどね。

 

「……ミドリさん」

 

黙っていたわたしに、後ろからつんつんと背中をつついてセキさんが声をかけた。

 

「ごめん、なんていうかそれっぽい人が来たなって思ってて」

 

「ミドリ……ああ、翠鳥(ソニドリ)だからか?」

 

かせくり氏はカワセミの古名がぱっと出てくるのか、あるいは名前の由来が気になって調べたか。まあわたしだってかせくり氏の名前の由来を知っていますからね。調べたらすぐ出てきました。なんかかっこいい構造をしていたのでズルいと思いました。

 

「まあそんなところです。念の為に確認ですが、かせくり氏と……そちらが跳華さん?」

 

わたしが言うと跳華さんはちらりとこちらを見て、小さく頷いてまた視線をそらした。相手の目を直視するのが苦手なタイプの人か。

 

「間違いない。跳華さん、スイッチ入ってない時の対人関係が苦手なんだとよ」

 

「意外でした、いつも私に絡む時みたいに元気かと」

 

概念同化機構さん……じゃなかった、セキさんが言う。これについてはわたしも同意見。いつもかなり元気というか面倒みの少しある雰囲気をまとっているので、本当に本人か心配になるぐらいだ。

 

「……物理では考えなくちゃいけないことが、多すぎるから」

 

「なるほど」

 

わたしは跳華さんの言葉に頷く。確かに僕だって大学入って積極的に絡んでくる人がいなかったらここまで人間関係が物理世界でできていたか怪しいし。読み取らなくちゃいけない情報が多くて、その上全てを言語化しようとしていたら頭がパンクしかねない。なまじ跳華さんは観察眼があるせいでそういうところも苦手な要因だったりしてもおかしくないな。全部想像だけど。

 

「それで、何の授業を聞いていたんだ?」

 

かせくり氏の質問に、セキさんは少しつっかかりながらもきちんと説明する。少なくとも聞き流していたわたしよりもきちんと全体の流れを理解しているのは間違いないな。

 

「……なるほど。まあそういう情報は今の御時世、どの仕事についても影響を与えてくるからな」

 

「かせくりさん……って呼んでいいですか?」

 

「構わないが」

 

あ、いいんだ。なんかいい感じの偽名を作れないかなと考えていたわたしは無駄な努力をしていたわけか。

 

「かせくりさんの仕事でも、そういうことって関連してくるんですか?」

 

「俺の仕事は国内だが世界を飛び回る同業の知り合いもいる。そうすると当然どこの地域が過去にどういうしがらみを他の地域と抱えていて、そして今どういう状況にあるかの正確な知識は不可欠だ」

 

「はい」

 

「あとは俺の仕事でも発注者だったり部品の仕入れ先が海外なんてことは珍しくない。大抵は日本の支社とかを通すんだが、必要に応じては直接話すこともあるぞ」

 

「あれ、かせくり氏は英語以外はできるんでしたっけ」

 

「大学時代に齧った中国語なら少しは話せるぞ、至少能说几句(zhìshǎo néng shuō jǐ jù)だが」

 

わたしの質問にかせくりさんはかなり流暢に返すが、どうせちょっとだけならとかそういう程度の意味だろう。至少(ジーシャオ)が少なくとも、って意味だったのは知っている。前にゲームで聞いた。翻訳システムに頼りすぎるのもこういう時にはよくないな。異文化との交流の機会があるのに、わたし達はそれを技術に埋めてもらいすぎているのかもしれない。

 

そんな感じで話しながら、色々な場所を巡っていく。大学祭ではないので別に屋台とかが出ているわけではないが、わたし以外に三人もいれば色々と面白い視点があるので飽きることはない。

 

「つまり特徴点抽出は古典的な画像処理でやっていると」

 

「そうですね、実際のところ派手なモデルを使うよりもこれが一番確実だったりします」

 

そんな中でかせくり氏はポスターを置いている修士の人っぽい学生と絡んでいた。

 

「具体的な評価してますか?」

 

「はい、修論ではそれについても一章割くつもりで……」

 

いやあの学生の表情見てくださいよ、ちょっと面倒な人が来ちゃったなぁって雰囲気があるじゃないですか。服装からすると下手すると大学内の知らない先生か外部の教員かなってなっちゃいますよ。

 

「いや、面白いお話が聞けました。普段はあまりこちらの分野に触れないのですが、良く見知った手法を用いていたもので」

 

そう言ってかせくり氏は名刺まで渡している。念入りだ。

 

「ああ、ご丁寧にありがとうございます……化学系の方なんですね、すみませんあまりそちらには詳しくなくて」

 

「いえいえ、基本的には流れを制御するという点では似通っていますから」

 

「……ミドリさん、ちょっと」

 

「なんですか」

 

わたしを盾にして後ろには質問してきたセキさんと跳華さんがいる形になる。なんだよわたしだって普通に初対面の人とそこまで話せるほどの人間じゃないんですよ。

 

「かせくりさんってどういう人なの?私あまり知らなくて」

 

「あれ、そうだっけ」

 

ある程度までは話してもいいのだろうが、本人に許可を取らないのもあれだしな。とはいえ今までセキさんの前で行われていた会話からある程度は特定することもできるだろうけど。

 

「俺は工場の設計と工事の時の現場監督みたいな仕事していると思ってくれればだいたい合ってる」

 

「……すごいですね」

 

「仕事だからやってるんだがな」

 

セキさんの感心するような声色が苦手だったのか、かせくり氏は少し照れを隠すようなぶっきらぼうな口調で言った。

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