セミダイブ!   作:小沼高希

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栩栩然として学生也 11

「結果が出ました」

 

なかなか難しいパズルを発想を切り替えることでうまく解けたと満足しているタイミングで声が聞こえた。

 

「それで、どうだった?」

 

「物理世界の人間関係で、なにか変化がありましたか?」

 

聞こえてくる声に、わたしは思考を切り替える。

 

「ちょっとだけ、時間がほしい」

 

「構いませんよ、私は待っていますので」

 

「ごめんね」

 

設定メニューを出してヘッドセットを外し、僕は物理世界へと戻ってくる。

 

深呼吸。人間関係の変化、ね。学科で知り合いができた。家に遊びに来るような人もできた。大学始まって一ヶ月も経たずにこれというのはなかなかいいのではないだろうか。

 

高校時代と比べれば、確かに色々と変わったはずだ。あの頃は下手したら今以上に友達と呼べるような人が少なかったかもしれない。

 

よし。戻ろう。ヘッドセットを戻し、感覚をリセットする。

 

「考えはまとまりましたか?」

 

「うん、友だちができるようになった」

 

「そうですか、もう少し詳しく聞かせてもらっても?」

 

「えーと何から話すかな……」

 

ここでの会話内容は開発者に送られるとはいえ、かなり断片化されるだろうから個人情報にならない範囲で嘘をつかないで話していく。

 

こういう話をしやすい空間として、このワールドは作られている。光の加減とか、相手の応答のタイミングとかもちゃんと設計されたものだ。だからある意味、僕は機械に騙されているのだろう。

 

「なるほど、前にあなたは仮想世界では肉体に縛られなくていいから気楽だ、と言っていましたよね」

 

「……まあ、ね」

 

「どうでしょう。あなたにとって、まだ物理世界は縛られたままの場所ですか?」

 

「……まだ、わからないな」

 

「そうですよね、申し訳ありません」

 

「構わないよ。そうか、案外そのままの自分を受け入れるとまでは言わないけど、好いてくれる人はいるかもしれないし」

 

オンライン上の、仮想空間においてであれば、わたしはそれなりに──率直すぎるぐらいに言ってしまえば、モテるほうだ。声色からは性別が読み取れないというのはいろいろな人から言われるし、アバターと名前を変えてしまえばわたしは完全に色々なしがらみから外れて、その場限りの人間でいられる。

 

まったく、あのEuphilia(ユーフィリア)というサービスは本当によく出来ていた。高校時代に僕の人間関係が無くなったのがこれのせいだと言われれば否定できない。

 

「ただ、あなたはそれを不安に思っています。検査の結果、あなたは変化を起こす意欲を出すことが出来ていないという分析がでましたが、これについてはどう思いますか?」

 

「……面倒だなって、思うことはあるよ。だって友達を作らなくとも欲しい人間関係は手に入れられるし」

 

「ただ、それで得られるのが一時的なものだというのも理解はしているでしょう?」

 

「してはいるけどさ……」

 

「ご友人はあなたとさらに関係を深めたいと思っていると判断できます。多少あなたのほうから踏み込んでみても、問題はないと思いますよ」

 

「そうかな」

 

「もし不安であれば、対話訓練を」

 

「いやそれはいいや」

 

「そうですか」

 

ちょっとしょんぼりしたような声。合成音声のパラメーターを変えることで、罪悪感を持たせて意識下で行動を制限する手法。よくある、と言えてしまうのが悲しい。かつてはこういう騙しは人間の得意分野であったが、計算や分析と並んでこのような感情を扱う技術が人工知能の得意分野と言われるようになって久しい。

 

「それより、最近気力があまりわかないのはなにか理由があると思う?」

 

「睡眠時間を含む生活状況についてのデータ閲覧権限を頂けますか?」

 

「……渡すけどさ、理由はなんとなくわかったよ」

 

許可を出す。脳機能計測デバイスのためのプロファイルデータには、色々なアプリと連携したことで得られた行動データも含まれている。リストバンドから歩いた距離と運動の度合いは把握されるし、VR睡眠をしているので寝ている時間も把握される。

 

「……適応障害の初期症状を起こしている可能性があります。急激な環境の変化によって、ストレスが蓄積されている兆候も確認されました」

 

「解決策は?」

 

「慣れ親しんだ仮想世界で楽しむのも重要ですが、物理世界での活動も不可欠です。例えば様子がつかめてきたら作業の量を調整したり、友達と遊びに行くのも手ですよ」

 

「遊びに、ね……」

 

例えばそうだな、あの遊んでそうなユミナさんとかに言ったら面白い所に連れて行ってくれるかもしれない。もちろん彼女にとって僕は数多の知り合いの一人かもしれないけど。

 

むしろアヤさんとかのほうがいいかもしれない。あの真面目そうな人が休日にどう過ごしているかはちょっと気になる。

 

そうか、大学に入ってどうしているかって話をもっとしてもいいのか。

 

「大丈夫でしょうか?黙り込んでしまっていましたが」

 

「来週さ、さっき話した二人とまた同じ授業を受けるからその時に色々聞いてみようかなって思って」

 

「素晴らしいですね。日本ではその時期だと大型連休でしょうし、一緒に遊びに行くのも良い選択かもしれません」

 

「ちょっとは勇気が出たよ、ありがとう」

 

「いいえ、あなたのためになったならば何よりです」

 

「あーあとそうだ、誘導チェックをお願いできる?」

 

「わかりました」

 

これは色々と危ないものも多い広告とか動画とかに含まれているような条件付けによって思考が汚染されていないかを探るやつだ。さっきの画像を選ぶやつと同じような目的だが、やることはもっと複雑だ。具体的には単語を並べるパズルとか、並んだ画像からストーリーを作るとか、ある選択が必要なクイズを解くとか。

 

普通、こういう分析をちゃんとやろうと思ったらそれなりにしっかりした設備を使ってある程度の時間をかける必要がある。しかし、ここにはある程度の脳計測デバイスとそれなりにVRを遊んでためてあるプロファイルデータがあるのだ。

 

これがあると、三十分ぐらいの検査でなにか危ない状態になっていないかが判定できる。もちろん判定基準が社会的正義とか普遍的倫理とかの名の下に色々押し付けてくる感じになるところは否めないが、別にそう悪いものではないので適当に流しておけば良い。

 

さて、今回はどういう結果が出るかな。物理世界での人間関係では距離感をちゃんと掴むようにしましょうとか出てくるかもしれない。もしそうなったら、新しくできた友達でゆっくり試していくのも大事かもしれない。

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