セミダイブ!   作:小沼高希

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Captain of Robbers 9

「つまりは現代の環境がですねぇ……」

 

わたしは疲れたのもあってか、チーフに絡むように政治談義をしてしまっていた。よくないね。

 

「とはいえ行政側も動いてないわけじゃないだろう」

 

「市場が根本的に悪いんですよ、何でもAIに任せようとするくせにAIをまともに使える人材を養成しやがらなくって……」

 

ちなみに学部一年生がこんなこと言えるほど業界に精通しているかと言われると微妙なところがある。いいじゃないですか将来設計しようにもあまりいい話題がないってことを愚痴ったって。

 

ちなみに概念同化機構さんのほうはすでに仮眠室に行っています。 良い子は早く寝ようね。

 

「久しぶりだね、ソニドリがこんなになるのは」

 

「おひやください……」

 

別に酔ってもいないし水をもらっても喉を潤せるわけではないのだが、わたしは雰囲気で二日酔いをすることもあるぐらい脳が騙されやすいのだ。そうでなければVRにこんなにのめりこめるものかい。

 

「まあ、たまには吐き出さないと身体には毒だろうね」

 

「チーフにはそういうこと、ないんですか……?」

 

カウンターから顔を上げて、わたしは眼の前の相手に言う。

 

「……昔の話なら、少しだけできるさ」

 

そう言って、チーフは洗っていたグラスを置いた。

 

「人工知能関連の条約には、穴があるのを知っているかい?」

 

「研究開発とか個人使用の用途ってやつですか?」

 

そのあたりを制限しすぎると逆に問題があるってことで、私的範囲の利用であればこのあたりは多少は緩くなっている。

 

「そう。それと人工知能の定義からして、それらを分割したシステムとして運用すれば合法の範囲内だ」

 

「ああ、ありましたねそういうの」

 

応募者の経歴から仕事でのパフォーマンスを分析して採用に関連する情報を出す人工知能をきちんと運用しようとすると手続きとかが面倒だし、大抵の場合はどこかで引っかかって駄目になる。わたしの知る限りでもこれを社外にサービスとして提供できているのは一つか二つぐらいだ。

 

ちなみにその企業は国のAI開発プロジェクトとかとがっちり組んでいます。つまりはこう、気心の知れた仲というか政官財の癒着というか。いえ別にそれでちゃんと仕事してくれるならいいのですけどね、実態としてはもう少しよくなくて。

 

「そういうやり方をやっている反社会組織があるのさ」

 

「噂は聞きますよ、犯罪コンサルタントAIとか」

 

確か「PROF」だったかな。何の略称だったかは忘れてしまったが、ロゴマークが逆さまになって踏み潰されている鹿撃ち帽だったのでモリアーティ教授が元ネタだろう。

 

「厳密に言えばあれは倫理制限をオーバーライドした代物だがな、ソニドリも似たようなものは持っているだろう?」

 

「使用用途はかなり制限していますよ、まったく人間がやっても似たようなことはできるでしょうに」

 

「人間が振るう刃物と自律駆動で無差別に飛び回る刃物を同じように縛るのは無意味だよ」

 

そんな会話を続けていきながら、最近のAI問題をわたし達は表示させていく。

 

「チーフからみて、これはどう思いますか?」

 

表示させるのは数年前の記事。国連警察と国際刑事警察機構が共同で行ったメキシコの麻薬カルテルが使っていた違法AIの摘発関連のものだ。

 

「あたしは別に犯罪捜査の専門家じゃないんだがね」

 

「気になってちょっと調べていた時期があるんですよ、このあたりでその手の動きが激しくなったみたいな話を見て」

 

「なら、このニュースは知っているかい?」

 

表示されるのは2034年のもの。今から十四年前になる。「紛争の十年」に起こった数多の紛争の一つ、メキシコ内戦に関連したものだ。スペイン語らしきものが高速で日本語に翻訳されて注記もいくつかつけられていく。

 

「概念同化機構さんあたりは得意なんでしょうけど……わたしはあまり国際政治とか歴史は専門じゃなくって」

 

政府と左翼ゲリラの衝突。その背景の情報はかなり複雑だが、興味深いのは左翼ゲリラが高度な情報戦を行っていること。

 

「さて、じゃあなぜ彼らはそれだけの活動ができたと思う?」

 

「……『魔王』、みたいなものがいたのでしょうか?」

 

東亜・南海戦争で輿論戦を繰り広げた人工知能。あるいは終戦直前の大混乱を引き起こしたハッカー。チーフが起源だと自称している存在。

 

「正確にはその前身の一つ、と言うべきだな。このあたりの政治が不安定になると嬉しい勢力がいくつかあってね、技術提供がされたわけだ」

 

「……酷い時代ですね」

 

「今だってそうさ。国家というのは自分の手の届く範囲を守るためなら自分以外の世界が滅んだって仕方がないと言うかのように振る舞う」

 

「それを作っているのがわたし達、ってあたりですか」

 

「そうだな、しかし今では人工知能というアクターもいる」

 

「たかだか情報にすぎない存在でしょう、物理世界にどこまで干渉できますかね」

 

インターネットは広まって、多くの人がXR端末越しに世界と触れる経験をしている。それでも仮想世界に浸る人は少数派だし、インフラとしてのインターネットを意識する人はほとんどいない。

 

かつて「紛争の十年」の時にあった大規模なインターネット遮断の中でも、多くのシステムはなんとか回った。物理世界というのはかなり複雑で、様々な要素から成り立っている。それに比べれば仮想世界はそこまでしっかりしたものではない。

 

「あたしだって別にデジタルのこっちがわが表の世界を代替できるとは思ってはいないさ、だが揺さぶるぐらいなら容易だろう?」

 

「それは、事実ですけど」

 

考えると嫌な気分になってくる。世界を捉えるには考えるべきことが多すぎて、それは一介の大学生の手には負えない。

 

だからといって面倒なことを考えないで眠りに逃げるのも卑怯とまでは言わないけれども誠実ではない気がする。

 

「……もう少しだけ、話してもいいですか」

 

「構わないさ、あたしに夜はないからね」

 

「それはいいなぁ……」

 

もしチーフが人工知能なら、この世界をどう捉えているのかは気になる。もちろん聞けばそれらしいことは答えてくれるんだろうけれども、それはあくまで言葉という人間が理解できる形に落とし込んだうえでの説明だ。

 

人工知能みたいな考え方は人間にはできないし、その逆も然り。似たようなことはできるけど、あくまでそれは同じじゃない。

 

わたし達と違う何かが、一緒の世界にいて、なんとかやっている。そう考えると、世界というのはよくまあ動いているなぁと思わなくもない。

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