セミダイブ!   作:小沼高希

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Captain of Robbers 10

楽しい夏休みは少しづつ削れていって、気がつけばもう終盤戦に入ろうとしていた。

 

「……何か、してたっけ」

 

ヘッドセットを外し、天井を見上げ、ぼんやりとした頭で考えていく。

 

さっきまで夢を見ていた。高校と大学が混ざったような教室で、課題を出し忘れて焦る夢。

 

小学生の頃の夢を、少し前に見たのを思い出す。たぶん課題を出し忘れるような夢は、一生付き合っていくことになるのだろう。

 

もっと面白いことも人生にはあるだろうし、あるいはもっと大変なこともあると思う。でも今の青春を塗りつぶすにはきっと、僕の未来は不十分なのだ。

 

そんな事を考えて、またもう一度目を閉じるかどうかを悩む。眠くはあるが同じぐらい空腹だ。昨日は色々とやったのでエネルギー切れになっている。

 

少しづつ記憶を取り戻す。あれ、寝た記憶がないな。記憶が途切れた瞬間を探っていくが、どうやらBar Panopticaのカウンターのあたりで意識が途切れている。

 

「やらかしたかな……」

 

寝落ちというのは外部から明確にわからないので強制切断も難しいという問題もある。別に動き回っている状態でもなければいきなり切断されても大きな問題は起こらないのだが、それでもあまりいいものではない。

 

ただ身体を起こすと空腹感が強くなったので何かを食べることにしよう。冷凍庫を漁るとでてきたのは鯖の竜田揚げとチャーハン。頭の中で調理する手間と空腹を考えて、今日は手抜きしてそのまま電子レンジで温めるだけにする。

 

ブーンという音の中でXR端末をつける。視界の端に映るのは色々なニュース。そうかアメリカ合衆国大統領選の時期ってやつか。今の世界情勢は正直に言って落ち着いているとはいい難い。

 

国連は色々と手を加えて延命させようとしているけど「紛争の十年」を止められなかったという問題は大きくのしかかっている。常任理事国拡大、準常任理事国追加、国連常設軍創設なんかをやったはいいものの、じゃあ誰がそれをやるんですかということで大揉めだ。

 

不幸にして我が国は外交的にはちょくちょく失策をしてしまっているが経済的には他の国に比べて落ち着いているので難しいところである。未だ「紛争の十年」の影響は大きいし、中東やアフリカではまだ不安定な情勢が続いている。

 

「あーあ、もう少し平和なニュースがないものかね」

 

そう呟いてはみるが、実際のところこういうニュースを流すように設定したのは僕自身だ。必要とあれば心が暖かくなったりその日一日をわくわくして過ごせるような話題だけを提供してもらうこともできる。そうなった時に自分がどれだけ世間と乖離してしまうかを気にしなければ、という問題があるが。

 

それはたぶん、良くないのだろう。今の技術があればそれなりにだらだらとして、あまり働くことなく若い時期を過ごすことはできる。でもそうしていると老後の問題になるんですよね。なんだかんだで年金は削られているし。

 

平均幸福だけを考えるならリタイアをして四十代か五十代で死ぬとかがちょうどよくなりかねない。ただ、僕はどうせ惰性のまま行きていくんだろうななんて面倒なことを考える。こうなっているのはたぶんお腹が空いているからです。

 

というわけで電子レンジから取り出した袋を開けてそのまま箸で食べる。食器を洗うのも手間がかかるのだ。というかこれができるから今食べているメーカーの冷凍食品を選んでいる間である。

 

カリカリになっている衣に息を吹きかけながら冷まして食べる。おいしい。正直なところ今の時代に下手に料理を頑張るよりも業務用の冷凍食品のほうがよっぽど味だの食感だの栄養バランスだのについて考えられているので自炊というのはそこまでメリットがない気がする。

 

というわけでしっかりと食べてお腹も満たされたので運動がてらVRをする。というわけでヘッドセットをつけて、と。

 

今日のタスクは展示会用のワールドの作成。即売会から見本市まで、かつて巨大なホールとかを使って行われていた活動の一部はVR世界で行われている。何がいいってその場に巨大なものを搬入できたりすることですね。

 

例えばこの前参考にするために行った宇宙開発系の展示会では普通にロケットとか人工衛星とかがそこらへんに置いてありましたもの。あれを現実でやろうとすれば膨大な金額になる。もちろんそういうものをモデリングしたりきちんと動くよう調整したりするのにはAIを駆使しても専門家の手助けが必要になるのですけれどもね。

 

「えーと、あとはポスターの配置か……」

 

今回僕が受けている依頼はチーフ経由でやってきたもので、一部の業界の人には名が知れている光学部品メーカーのための展示スペースを作るものだ。ちなみに僕は依頼を受けるまで知らなかった。核融合のあたりをやっている人は知っているかもしれない。

 

具体的な業務は超高出力レーザーの開発と製造、そして設備点検と修理。世界でもこの種の装置を扱える会社が少ないので、研究機関とかではよく見るらしい、とヒアリングさせてもらった。お盆休みの時期なのにと思ったが担当してくれたのはカリフォルニア州リバモアで働いている人だった。時差については僕の生活リズムが壊れているので問題なかったです。

 

やってほしいと依頼されたのはレーザーが核融合を起こすあたりのイメージシミュレーションの作成。いくつか案を出してそのうちの一つを実装することになっている。といっても基本的にやることはAIがリストアップしてくれているのでその方針を崩さないように色々試してみる感じだ。

 

あとは仮想空間内で占めることのできる面積は限られているからその中にうまい具合に配置しつつ光とか動線とかを考えてレイアウトを決めていく。ポスターとか機材とかの展示もしたいと言われていてそのデータももらっているので問題はない。

 

一応今回の依頼は一回きりで、必要になったら他の人がメンテナンスできるようにという前提での話だ。正直助かるところがある。今は大学生で時間があるからなんとかなるけど、今後修士や博士課程に進んだり、あるいは就職して副業が難しくなったらメンテナンスができなくなる。

 

そうすると古いものを使い回すことになって脆弱性を突かれて、なんていうのはよくあることだ。一技術者としてはそういう形で不利益を被る人が生まれるのは良くないということはわかっている。ちゃんとお金もしっかりもらえているので僕の後任がいれば色々わかりやすいようにコメントとかエンティティのグループ化とかもしておく。多少容量と手間は増えるが、全体に比べたら微々たるものだ。

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