セミダイブ!   作:小沼高希

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回転、反転、逆回転 4

大学構内の掲示板には雑多なものが貼られている。そしてXR端末を通してみると、もっと雑多な情報が溢れている。

 

今度行われる学生主催のたぶん政治的なセミナーの案内。ジャズサークルのライブ案内。大学構内猫マップ。位置依存型のエンティティはこういうふうに扱われることもある。一般的には空間所有者が申請しないと使えないのだが、桜盃情報工科大学ではけっこうこういう利用可能なスペースがある。

 

「色々あるものだな……」

 

こういうのはどんな学部や学科が周囲にあるかによって変わるので、たまにはこうやって色々なところを巡ってみるのも楽しい。特に涼しくなってきたので歩き回っても疲れなくなるのは助かる。

 

とはいえちょっとエンティティがうるさいので切断。網膜に映る景色から余計なものが消えて、静かな大学のキャンパスとあまり貼られているものがない掲示板が視界に入ってくる。

 

基本的な通知は大学のシステムから電子的に送られるので紙で貼られることはあまりないとは言え、逆説的にこういうところにはかなり内々っぽい匂いの漂う連絡が張り出されていたりする。大学院進学への誘いとか、薬物防止とか、なんかのシンポジウムのポスターとか。

 

あとは除籍者の学生番号とか。何やらかしたんだろうな、と思って学生番号を見たら最初の数字が39だった。この学籍番号は最初の数字が入学年度で、その次のアルファベット二つが学科を示します。例えば僕であれば48SI071、2048年度入学。SIというのはScienceのIntelligenceということです。

 

いや()()科学部の()()知能学科じゃないのかというのももっともなのですが、()()芸術学部と被ってしまうので情報科学部をS、情報芸術学部をAにするということになっています。もちろんAはArtのA。このあたりは正直あまり綺麗じゃないなと思うところがあります。

 

そしてArtificial IntelligenceのAは応用情報学科の応用情報科学のAppliedに取られています。だからSIなんですね。こんな感じで学生番号を見ればそれなりに情報が手に入るのです。

 

いや問題はそこじゃないよ。2040年度といったら八年前じゃないですか。というかそんなに大学って居続けていいものなのか?少し調べてみよう。

 

「通信速度」

 

XR端末のこめかみの部分を触って状態を確認する。幸いにも良好。部屋にある解析システムとの接続を確認。両手を広げ、作業空間を展開する。

 

「桜盃情報工科大学の学則にアクセス。最大でどれだけ大学にいられるかを知りたい」

 

クローラーがPDFファイルから重要そうな場所をまとめて提示してくるまでは数秒。これがなかった時代にはいちいち検索しなくちゃいけなかったわけだし、インターネットがないとなると図書館でどのページにあるかもわからない文書を探すことになっていたわけだ。文明万歳。

 

「……八年と半年はいられるんだ」

 

卒業の基準が四年。その倍まではいていいので八年。そして何かあった時のために半年間までの休学は無条件で可能。そうでない休学については原則それとは別で一年を上限とし、要相談って形らしい。もし留学とかあるならこういう制度を使ってもいいかもな。

 

なんて馬鹿なことを調べ終わったので接続を切る。大学の回線を経由して暗号通信をしている以上もし調べられたら特定されかねないんですよね。もちろん端末辿られる可能性とかまで考えるとそこまで大きくはないんですが、ログインの時に学生ID使ってしまっているからなぁ。

 

というちょっとしたことをやっていた時に、ふと色褪せていない新しめのポスターが目に入った。

 

VR用のモーションプラットフォームの調査への募集。責任者になっているのは環境生命学部情報生命学科の先生、情報芸術学部拡張現実学科の宮先生、あと東京総合大学医歯学域医学群の先生。宮先生以外は知らない人だな。デザインがしょぼいところを見るとかなり雑に作ったポスターらしい。こういうところで上手く創造的人工知能(CAI)使えればいいんだけどあれもかなり設定とかが大変ですからね。

 

というか他の大学の先生まで出てくるんだ。あまりこういうのは見ないから気になってしまった。というわけでコードを読み取って申込画面を開く。応募フォームは氏名と学生番号と連絡先と空いている期間と特に伝えておきたいこと、みたいな基本的な構成だ。

 

さすがに歩きながら手続きをするのは危ないのでちょっと日陰のベンチに座る。まだ直射日光に長くあたりすぎると少し危ない時期ですからね。帰りに食堂でサーバーから出てくるつめたいほうじ茶でも飲もうかな。

 

内容を見ていく。試すのはかなり大型のモーションプラットフォーム。この規模のは初めて見た。宇宙開発の分野で似たようなことやってるのはあるけどさ、あれは確か水中に入れて負荷減らすやつだったか。

 

ちょっと気になったのでもう一度解析システムに働いてもらおう。関係者の名前を入れると、結構いろいろな情報が出てくる。

 

去年に東京総合大学医歯学域医学群の先生が出していた論文。三半規管に電流を流して擬似的に平衡感覚を外部から操作する技術について。このあたりは後遺症があるみたいな話をどこかで聞いた気がしたけどどうだったかな、今では問題ないんだろうか。論文では大学生の耳のところに電極が貼られてレーシングゲームを遊んでいる映像がついてきていた。見たってわかりませんよ。

 

環境生命学部情報生命学科の先生の方は動物とかのVR体験について研究していた。なるほどね、盲導犬の訓練とか、あるいは地雷探知とかの方面で色々使えるわけか。

 

情報芸術学部拡張現実学科の宮先生については前に調べた時みたいな情報だった。あまり面白くない。

 

大型のモーションプラットフォーム自体は日本のベンチャー企業が開発していて、その責任者になっているのが東京総合大学医歯学域医学群の先生だ。もともとリハビリとかの方面の研究からVRに入り、医師免許はないものの博士(医学)だそうで。へぇ、そんなこともあるんだ。

 

申し込みの締め切りはまだ先だが、気になったのでちょっと登録しておこう。ああいうのに乗る機会ってなかなかありませんからね。あとちょっとした謝礼も出るらしい。よかった。

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