大学生というのは暇なように見える。キャンパスを歩いている学生はいつもぼんやりしていて、どことなく浮かれている。でもそれは見かけだけだ。特に情報科学科の場合には。
「……やりたくねぇ」
ベンチに座って、僕はうめきながら木々の葉っぱを透かして見える夕暮れ空にうめき声をこぼしていた。
今積まれているのは各種レポートと課題の中間報告。スケジュール管理はアシスタントAIがだいたいやってくれるので、示された日付通りにこなせばいいだけです。
そしてその進捗は現在三日遅れ。一応アシスタントはそういう僕の怠惰をある程度織り込んでいるはずだが、これを信用しすぎても良くない気がする。
これから終わらせなければならないものを確認したところ、日付が変わるまでに二つ、明日の授業が始まる前までに一つ。徹夜かなぁ。
帰りたくない。帰ったらもう積まれているものをやるしかなくなってしまうじゃないですか。脳の片隅ではこうやってだらけている暇があったらやれよなんて考えているが、これと面倒くさい何もしたくないという思いが拮抗して動けない。
「あー……」
口から出るのは特に意味のないうめき声。足音からしてたぶんダメ人間を見るような視線が僕に飛ばされているのだろうがそんな事を気にする余裕もない。
「つらい……」
そろそろ秋も折り返しなので中間課題とかがなんか雑にいっぱい出ている。アキさんはこのあたりをさくっと済ませているし、ユミナさんは同じ学科の友達と協力していたりする。僕は同じ学科の友達があまりいないからね、仕方がない。
なんでこんなにいっぱい履修してしまったんだろう、と後悔しても遅い。今更取り消せないし、下手に単位を落とすと研究室配属の時に困るし。そしてここで堕落してしまうと、僕の残りの大学生活すべてがダメになりそうな気配がする。これはちょっとよろしくない。
「間に合いそうなのがな……」
これでもしどう考えても間に合わない分量とかであれば諦めてトリアージに入れるのだが、完璧に僕の堕落レベルを読んでいるシステムは可能だと言ってくれている。そしてこれはだいたい外れたことがない。
「帰るか」
ちょっとだけ何かが身体から去ったので、この隙に立ち上がる。身体にずしんとかかる重力に思わず声が出た。この体調不良というか辛さは異常じゃないかと思う一方で、最近VRやり過ぎだし寝てないしというのも頭に浮かんでくる。
だって仕方ないじゃないですか、面白いゲーム見つけてしまったし大学で学んだことをベースに
ちょっと考えてみよう。早ければ朝の九時から遅ければ夕方の六時まで授業。食事とか色々やっても自由時間は八時から。そこからちょっと作業したら深夜二時ぐらいになっていて、そこから寝ようってなるけどもう少しもう少しと時間が伸びて四時とかになっていて、さすがに辛くて目を閉じると次の瞬間には目覚ましがうるさく鳴っている。
おかしいですよね、ほとんど何もしていない状態で一日が終わるんですよ。そしてこれには大学の課題の時間が入っていないんです。やはり何かがおかしい。
あまり回らない頭で何が悪いのかを考えていく。まずなんかこう偉いやつって絶対裏で悪さしてるよな、間違いない。実は与党連合のなんかこう非合法というかなんか良くないことのせいで日本が悪くなっている気がする。やはりなんかよくない。こう、全てを破壊しないと。
疲れすぎていて具体的な言葉すら出てこなくなってくる。いやでも本当は政治って考えること多いんですよ、昔っから雑な陰謀論が出ては消えていますけど。そんなんだから今どきのかなり色々な党が国政に絡める絶好のチャンスを掴めない古参政党とかがあったりするんですよ。いやこれも一方的で雑な見方かもしれない。
うん、もう少し楽しいことを考えよう。何がいいかな。というか本格的に仮眠とかしたほうがいいかもしれない。そうだよな。こんな頭でなにか作業しても効率が上がるわけないし。そうと決まればなにか食べて早く寝てしまおう。効率のためだから仕方がない。決して逃げているわけではないですよ。
今は四時限目が終わってしばらくした四時半ぐらい。ちょっと今日は疲れているし、家で調理もしたくない。だから学食を夕ご飯にして、学内のコンビニでちょっと夜食を買って、それで仮眠取ってがんばろう。
今日中に終わらせなくちゃいけない課題は四時間もあれば余裕で終わるだろうから八時に目覚ましをセットすればいい。今からご飯食べて帰れば六時には間に合うから二時間身体を休められるわけだ。完璧な計算だな。
そうと決まればさくっと食べてしまおう。咀嚼も辛いのでそばにする。待ち時間も短いし。夜に体力を使うだろうからカロリー用に天かすを増やしておく。自由に取り放題なのは嬉しいね。
今日はちょっと風があると体温が持っていかれる感じなので、あったかい汁が身体に染みる。息を吐くと全身がぽわぽわと緩んでくるのを感じる。いい気分だ。本当はここでアルコールとか入れたら最高なのだろうがやめておく。
コンビニではおにぎりとアイスを買っておく。うん、素晴らしい一日だった。積まれている課題はおきた後の自分がやってくれるだろう。だから今の僕はそんな苦しまなくていいんだ。気楽に行こう。
疲れているせいか脳の中で余計なことすら考える余裕もなくなっていた。上着だけ脱いで硬めのベッドに身体を横たえる。ああ、この瞬間のために起きているまであるかもしれない。
VRヘッドセットをつけない睡眠のいいところは身体が自然になるように動かせることだ。寝返りをした時に一瞬だけ身体がこわばるが、頭に何もつけていないことを遅れて理解して力が抜ける。
ゆっくりと意識を落としていく。疲れていた脳と身体がぼんやりとしていく。
目覚ましをかけるのを忘れていて起きたときには夜中の十時だったのは内緒。ギリギリで課題はなんとかなりましたが本当に危なかったです。リストバンドのログを後で確認したら心拍数が危険域に入っていました。