セミダイブ!   作:小沼高希

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回転、反転、逆回転 12

「ここか……」

 

住宅街の中、ガレージのあるちょっとした整備工場とか作業所みたいな雰囲気の場所。

 

「いや本当にここか?」

 

XR端末を起動する。地図の場所は間違いない。時間は五分前で間に合っている。

 

電車に揺られてここまで来たんだ、日程間違っていないよなと送られたメールまで確認するが問題ないはずだ。

 

「うーん」

 

データを色々確認したり別サービスの地図とも照合するがここだ。というか表札に会社名があったわ。最初にちゃんと確認すればよかった。

 

というわけでチャイムを鳴らす。気の抜けた音が扉の向こうから聞こえてくる。

 

「あれ今日だっけ」

 

顔を出すのは若い女性。少し油で汚れたらしい作業着を着ている。

 

「……たぶん」

 

「えーと河辺(カワベ)ミドリさんだよね、入って」

 

というわけで案内されて奥に向かう。狭い廊下には段ボール箱とか部品とかが置かれていた。たぶんもともと何かの作業所とかだったのを居抜きで手に入れたのかな。

 

「これが今から試してもらうモーションプラットフォームなんだけど、VRは詳しいんだっけ?」

 

「それなりには」

 

「ならいいや、ひとまずつけて色々やってほしいから」

 

なんか全体的に雑というか軽いな。セットアップしている最中に話を聞いたがこの人は荒巻教授のもとで学んで東京総合大学で博士号を取ったポスドクの人。専門はVRと人間の相互作用。

 

「OSは何使ってます?」

 

「Mirageだよ」

 

「あれ、一応はXR用のシステムですよね?」

 

「VRのほうは各社がバラバラに出しているから、自主開発するならこっちのほうがいいってなった」

 

「なるほど……」

 

とはいえ結局はConligoに繋げられれば動くのであまり大きな問題になることはなさそうだ。そう思いたい。

 

モーションプラットフォームは資料で見たときのような白い背景と高い天井の部屋ではなく、もっと狭い空間に詰め込むように入れられていた。というかあれ今思うと合成画像だよな。

 

「問題なさそう?」

 

「ちょっと腰辺りがきつめです」

 

ベルトをぺちぺちと触りながら言う。多少は調整できるのだが、勝手に緩めていいものなのだろうか。

 

「ごめんね、そこはしっかりやらないといけなくて」

 

「それならいいんですけど」

 

靴、脛、腿、と細いケーブルが何本か伸びたパッドのようなものを貼っていく。圧力は加えられそうだけど電気刺激とまでは行かないか。そしてそれに添えるようにアクチュエーターのついた上の方から伸びるアームをくっつけたりする。やることが多い。

 

「一人でやるのはきついですよね」

 

装備の装着は上半身に入ってきていて、研究員のお姉さんにある程度任せる形になってきていた。背中のあたりとかかなり色々ケーブルが上に伸びているから一人でやるのは難しいよな。このあたりに改善可能な問題がありそうっていうのはまだ開発途上の機械だからってことにしておこう。

 

「慣れればいけますよ、背中のあたりが難しいですけど。あと最初の一回は体格合わせのために少し時間かかるのは仕方ないところはあるかも」

 

「そういうものですか」

 

装着だけで十分ぐらいかかってしまった。ちなみに外すのは一瞬だそうです。トイレに行くときに困るからというもっともな理由だった。

 

「良いメーカーのやつですね」

 

僕が普段使いしているものよりも一つ上のグレードの触覚(ハプト)グローブをつけながら言う。通気性が良くてつけている感じがあまりしない。

 

「しっかりしたもの選んだおかげでこれ作るだけで相当の金がかかっているからね、とはいえ単純にパーツ組み合わせただけじゃないから」

 

「それはわかりますよ」

 

VRの周辺機器には相性が存在するみたいな話があるが、僕が思うに純粋な連携のしやすさとか開発時に想定されていた組み合わせだといいとかいう話とは別にもっとこう、半ばオカルトめいたものはある気がする。

 

実際にはそれらの機器から受ける心理的印象の不協和だったりってオチなのだろうが、こういうのは個人差が大きいし定量化もしにくい。

 

「この機体ってどのぐらい前から開発されているんですか?」

 

「計画自体は五年ぐらい前、ベースのアクチュエーターとかは三年前かな。今はテスターを大学の研究扱いで募集してデータ集めしている感じ」

 

「だからポスターがあったのか」

 

「そうそう、あと研究ということにすると大学側の予算を使えるのでお金のないベンチャー企業には嬉しいのよ」

 

そういう裏話なんかを聞いて、最後にヘッドセットをつける。

 

「脳計測デバイスも付いているんですね」

 

「そっか君は普段から使っているんだっけ、あれどうなの?」

 

研究員の人は使い捨てのトゲトゲをシートから剥がしながら言う。いやこれトゲトゲとしか呼べないんですって。半透明の青色をした電極シートで、トゲトゲしているので髪の隙間から頭皮の電位を直接計測できるやつ。

 

それとは別に用意されているのは三半規管刺激用の電極かな。少し前にやった健康診断を思い出すが、医療とか研究でないと払えない手間だなとは思う。

 

趣味に耐えうるかどうかについては、これから試してみるとしよう。

 

ヘッドセットのメインになっている機種はAcumen(アキュメーン)の第四世代。いいものを探すとなるとこれぐらいになるよな、という視点からは納得の選択。アタッチメントのカメラとかLIDARセンサーは少し古いかもしれないが性能は十分だろう。

 

脳計測デバイスは知らないものだったが、メーカーからすると本物の医療用の可能性がある。確かこのあたりは法律の縛りとかあるので面倒なんだよな。

 

頭皮を撫でるような感覚に背筋をぞわりとさせ、ヘッドセットを下ろす。静かだが自動で動くあたりサーボモーターとか仕込んであるのかな。ゲーミングブランドだとそういうのあるけど、研究用のやつにも必要なのだろうか。

 

ヘッドセットから見えるのは特に歪みもない外の景色。外部カメラの映像を比較的そのまま映し出しているだけのようだ。

 

「見えますか?」

 

「問題ないです」

 

ちょっと身体を動かしてみるが、少しだけ重いというか抵抗があるな。水の中にいるような感じ。アクチュエーターにエネルギーが供給されていないからその分運動エネルギーが吸われるとかかな、などと想像する。

 

「わかりました、それじゃあ初期設定始めていきますね」

 

そう言って研究員は近くの机の上にあったキーボードを軽く叩き、僕の視野の隅にタスクリストを表示させた。

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