セミダイブ!   作:小沼高希

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We shall not cease from experiment 2

目を開ける。眠気はないかわりに、ぐっすり寝れたという感覚もない。

 

最近はVR端末を外して寝ている。どうにも上手く色々なものが回らなくて、与えられたタスクをこなすだけでその一歩先に踏み出せないような状態になっている。

 

やらなくちゃいけないことが多い。週に一回電車に乗って都心の方まで行って人体実験に参加し、締め切りに一日か二日だけの余裕を持ってレポートや課題を提出して、それと年明けのタスクが緩やかに近づいているけどそれに本格的に手を付けるほどの気力が起きなくて、あとは何だっけ、チーフからの依頼はまだもう少し先が締め切りだっけ。

 

やることが多いというか、あっちこっちでやらなくちゃいけないことがあってその忙しさにかまけているというか。あまりいいことではないな。

 

ただ昨日は久しぶりに早く寝て、今日はちょっと日が出る前に起きることができた。時間は四時過ぎ。今日は二時間目から授業なので、それなりに色々とできる時間がある。

 

二度寝しようかな、という思いをねじ伏せて少し着替えてメイクもなしにまだ夜の残る街へ踏み出す。秋らしい涼しい風が僕の頬を撫でて、ちょっと薄着過ぎたかなと後悔させてくる。まあしばらくすればもう少し温度も上がるでしょう。

 

「どうしようかな」

 

駅前に行って、朝からやっているご飯屋さんとかに行ってもいい。あるいはコンビニでもう少しなにか買ってちょっとごきげんな朝ご飯にするのもいいね。

 

卵とベーコンにトースト。悪くない。あとは冷凍のほうれん草とか温めてもいいな。キッシュみたいなものも作れるかも。

 

少し歩いて、公園みたいな場所についたのでベンチに座る。XR端末は暗い場所だとちょっと見えにくくなるが、街灯ぐらいの照明があれば十分使える。

 

「タスクを展開」

 

改めて、今抱えているものを確認していく。こういう朝のすっきりした頭でなければ、見ようともしないような面倒なものの数々。

 

「ええと、これは今やっちゃうか……」

 

中には簡単なものものもある。四百字の感想文みたいなやつを作るのにはちょっとしたコツがありましてね。というわけで眼の前に半透明のディスプレイを複数展開。アクセス確立。通信速度問題なし。

 

生成をそのまま出しただけでは違和感を持たれてしまうことも多いし、なによりいつもの僕の文体とは異なってくる。提出された課題とかは一通り向こうの方でまとめられていて、僕の口調というか使う単語とか文章の癖みたいなものは把握されているのだ。

 

ではどうするか。まず授業内容をまとめたスライドから適当に重要な単語をリストアップしていく。ある程度はサジェストされるものの、少しだけ隠し味として相対的に重要ではなさそうだけど入れてもまあいいかなぐらいのものを混ぜていく。

 

そうしてできたメモと元の資料と課題の文章を組み合わせて二千字ほどを生成させる。課題の五倍だ。このときには範囲外の分野の資料とか論文とか色々なものを引用したりしているので、正直授業の課題としてはオーバーすぎる。ただ、これを一通り読んでおくと今後の方針はだいたい決まるのだ。ここまでで十五分。

 

あとはこの二千字を適当に要約していく。ここはあくまで僕の言葉で、だ。もとの文量がそれなりにあるので、用語の定義とか前後の情報とかを適宜削りながら調整していく。基本的にちょっと超えるぐらいなら問題ない。

 

噂によれば先生側の採点は文字数が一定量を超えていれば最低合格ライン、あとは内容をAIに読ませて矛盾があれば加点なし、きちんとしているほど点数が高くなっていって、といった形になっているようだ。

 

一応教員が採点補助にAIを使う場合にはその際の設定とかを開示する必要があるのだが、このあたりは少し難読化されていると解析に一苦労してしまう。後で検証する時には専門家がやるので問題ない、ということだろうか。

 

一昔前は教員に見えないような形で隠し文章としてこういう設定をオーバーライドさせて最高評価を叩き出させるようなこともできたらしいが、今はそういう方式はかなり難しくなっている。AIを騙すのは人間を騙すより難しくなっているという悲しい事実があるのだ。

 

そして大抵セキュリティにおいて一番脆弱な点は人間なので、あえてAIを騙すための技術を開発するよりもAIと手を組んで人間を狙ったほうがいい、となっているのだ。おかげで各種セーフティだの倫理ロックだのを外した違法人工知能は裏マーケットで人気だ。ドラッグとか武器よりも実態がない分足がつきにくいので犯罪組織の資金源になってるとか。

 

そんな暗いことをぼんやりと考えていると無駄に時間が経過していた。はい。文字数のほうは二百字弱。まだ半分終わっていないのか。元にしている文章のほうを消費しているペース的には問題なさそうだけど。

 

書き終わったものの内容を大学のAIサービスで確認してから送信。これはほとんどアリバイ作りみたいなものだ。そして自宅のシステムのログを消しておく。

 

通信は暗号化されていているので、完全なログがあってもまず解読は不能。こういうシステムは通信の自由を保証したい明星文化集団のロビー活動とかのせいでかなり野放しになっている。かわりに断片的な情報から犯罪者を追い詰めるシステムがあるようだが、これも開発に明星文化集団が入っているようなので結局市場は独占されている状態だ。

 

ベンチを立って、こちらをじっと見ていた監視カメラに小さくピースサイン。こういうことをしておくと、データ分析システムが僕をいい人だと認識してくれてAIが反乱した時に生きることを許可された人間のリストの上位に乗せてくれるかもしれない。

 

そうでなくともこの映像を見ている人もいるかもしれない。ここでの学習データが、どこかで使われるかもしれない。そういう時に世界をちょっと平和にするような行動をしておくことは、きっと将来的に悪い結末をもたらすことはないだろう。

 

まだ日が昇るには時間がありそうだ。朝ご飯を家で食べて、ちょっと重めの課題をやって、そこから授業に行こう。きっと今日はいい日になるし、明日も、そしてそれから先も悪いことにはならないはずだ。やはり生活リズムをちょっと無理にでも前倒しにするのはいいな。三文以上の得にはなっていると思う。

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