セミダイブ!   作:小沼高希

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We shall not cease from experiment 4

「という形で、本来VRで体験できるような感覚をXRで再現することを目的とします」

 

まばらな拍手が飛んでくる。後ろの方に座った人たちはろくに僕のスライドも見ていなかったくせに、と思うがそこまで興味を引ける内容ではなかったんだな、と頭を切り替える。

 

「それでは、質問してもいいかね?」

 

宮先生が手を挙げて言う。さっきから僕と宮先生しか質問していないんですけどね。

 

「はい、どうぞ」

 

「スライド四枚目、周辺機材の構成についてだが」

 

よかった、コンセプトについては指摘されなかった。このあたりは別に否定できるところはないからな。内容としてもきちんと全体で筋の通った一貫したものにするのを心がけたし。

 

「実際の演算コストは?速度足りる?」

 

「今のやつですと1 Gbps出せれば問題ないかと思っています、とはいえ通信環境の調整は必要なわけで、そうするとどこかに強めの無線LANを……」

 

そんなあたりの議論をしながら、頭の中でプランを高速で書き換えていく。一応XR端末の録音回しているから後で確認もできるけど、こういうひりついた緊張感の中で生まれるものもありますからね。

 

「……さて、では次の班」

 

詰問にも近い時間が終わって、僕は椅子に倒れ込むように座る。いや本当に疲れた。なにせ先生は手加減してきませんからね。

 

一方次の人たちのやつはなんていうか甘いところがいっぱい見られた。コンセプト自体はまあ悪くないのかも知れないけど使おうとしている方法がかなり古いし、もっと簡単で高速なものはいっぱいある。このあたりは授業でやっていないとはいえ、VR専門の僕でも知っているんだから多少アンテナを伸ばしていればわかりそうなものだが。

 

あとそうですね、スライドのデザインが悪い。一応は情報芸術学部ですよねあなたたち。何か形を伝わるようにデザインするのが専門ですよね。それなのになんですかこのダサいフォントは。空白を作って変な画像をおいていますけどそれたぶん生成ものでスライドが切り替わると微妙にタッチ変わっているせいで統一感無くなってるじゃないですか。

 

なんてことを考えながらちょっと退屈さを感じる。別に自惚れるわけではないが、自分の能力はそれなりのものなんだな。就職とかももう少し楽に考えてもいいかもしれない。ここの人たちがクリエイターとして社会でやっていけるのだ。僕でもなんとかなるだろう。

 

「うん、いいアイデアだね。ただちょっと気になるところがあるんだが」

 

僕のときとは違ってちゃんと学生に配慮した優しい声色を先生は使っている。別に本気になるとそのあたりを取り繕うのが難しくなるのはわかるし、慣れてはいるんだけどできればコミュニケーションのコストは双方で負担したいんですよね。

 

ちなみに先生の指摘は結構妥当だが、ちゃんと考えれば解決できるぐらいの範囲だった。よかったね、こっちは演出から組み直しだよ。

 

「なぁ、河辺さんだったっけ?」

 

後ろからつつかれたので後ろを向くと髪の長い青年がいた。一応他の班が発表中なんだけどね。小さく頷く。

 

「いやぁ大変だね宮せんせに目ぇつけられて」

 

そう言って小さく彼は笑うように息を吐く。

 

「……宮先生をご存知で?」

 

「ああ俺四年生でさ、ミヤ研にいるの」

 

「なるほど」

 

学生番号は僕のスライドの最初に出ていたから、観察されていれば一年生だとなるな。まあ別にいいけど。

 

「なら、椎葉さんを知っています?」

 

「椎葉の(あね)さん?そりゃもうミヤ研で知らないやつはモグリよ」

 

「そうですか」

 

「退屈そうだな」

 

「いいえ、他の人から学ぶことはそれなりにありますよ」

 

きちんと授業で学んだような内容をしっかりと押さえている発表もあるし、アイデアが先行して僕でもさすがにこれをあと数ヶ月で実装するとなったら百万円ぐらいほしいなってものもある。

 

「……あなたは、発表しないんですか?」

 

「いや俺履修してないから」

 

「はぁ」

 

別に履修しなくても教室にいることに問題はない。特に暇な時間の多い美術系ならこうやって積極的に他の人のアイデアを見に来るのも重要なのかもしれない。あくまで仮説であって実際にそうであると確認したわけでは無いが。

 

「期待してるぜ」

 

「何にですか?」

 

「ミヤ研はいいところだぞ」

 

「他学部の人に言っても意味ないと思いますけどね」

 

「えっ」

 

ちょっと固まったので僕はため息をつく。なんだよこいつも観察してないんだな。いや確かにあまり見た記憶のない顔だから今回の授業だけ来た感じだろうし、別に学生番号まで見る人はまずいないし、僕もたぶん見ないけど。

 

「スライドのデータ送りますよ、表紙確認してください」

 

そう言って僕はXR端末をかけて最近使ったファイルの中からさっきプロジェクターに送信したやつを掴んでエンティティとして後ろの机に置く。

 

「なるほど、人工知能学科か。だからあのアプローチなのか」

 

「そういうのもありますけどね、ある程度は椎葉さんの作品のマネですよ」

 

あの作品はよかった。「Realities」は見ている現実みたいなものを仮想世界じゃないかと疑わせるって方向で揺さぶってきたのだが、僕はその逆を試そうとしている。

 

「なるほど、椎葉さんの発表だけでも見に来る価値はあるな」

 

「いやあなた、一月とかって卒研発表とかあるんじゃないですか?」

 

「卒()な、ああいやそっか論文書くやつも普通にいるわ、すまん。あと俺はもう自分の分は去年この授業でやった時のやつをほぼそのまま出すつもりなんで」

 

「素晴らしいコスト節約ですね」

 

ちゃんと作り直せよ、とも思うので皮肉を吐くが確かに考えてみると新しく何かを作ろうと努力してもかこの作品をブラッシュアップさせたほうがよっぽどできが良いなんてことは普通にありそうだ。

 

「まあ適度に力抜いてやってこうってことだ、全部を全力でやる必要もないからな」

 

そんな会話をしていたら発表が終わっていた。また拍手だけどさっきにも増して少ないな。

 

「……それじゃあ河辺、コメントはあるか?」

 

ついには先生から直接振られるようになってしまったよ。面倒なことで。

 

「えーとそうですね、少し気になったのが目標である環境問題についてなんですけど、そこを軸に置くなら演出が少し噛み合ってない気がして……」

 

なんとなく後ろからも視線が刺さっている気がする。ああもう面倒だな。でもこういうことをすれば、少なくとも成長した気分にはなれるのだ。

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