セミダイブ!   作:小沼高希

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We shall not cease from experiment 11

年明け最初の授業で、僕の発表は三番目であった。

 

いつもの教室ではなく南4号棟の一階にあるホールが舞台となる。上を見上げるとプロジェクターが照らすモビールがある。

 

デモンストレーション用のソフトウェアは事前に配備済みだ。とはいえ起動した人からは何も出てこないのか訝しむような視線が飛んでいる。そりゃそうだよね。

 

「それでは僕、河辺(ミドリ)が発表させていただきます」

 

この練習はそれなりにやった。Bar Panoptica(バー・パノプティカ)で何度も身振り手振りまで見てもらって、ある程度はなんとかなるようにした。ちなみにスライドの内容はXR端末で映しているので後ろを振り向かなくてもいい。

 

ふと視線を向けると静かに頷く宮先生。怖いんですよね。ちなみに僕の前の二つのグループはまあうん、大学生ってこのくらいでいいんだよねと思わせてくれるような内容でした。でもアイデアが面白かったのでいいと思う。

 

実装自体はテクニックの問題ですが、根幹となるアイデアはなかなか練習では得にくいものです。観察だったり、あるいは体験だったりといったものからその糸口を探るしかない。そういう意味では、今回の僕の作品は微妙かもしれないな。

 

「こちら、落とすと割れる可能性のあるガラス球になっているので注意して持ってください」

 

そう言ってうまくできた三つを前の人に回す。一応ある程度遠くからでも確認できるはずなので大丈夫だと思おう。赤外線の受像自体は今どきのXR端末ならまず持っているだろうし、もし何かあった時に送られるエラーメッセージ画面はいまのところ静かだ。

 

「この球体、振ってみるとわかるのですが少しだけ奇妙な感覚があります」

 

といって振らせてみる。うん、なんか変な顔するよね。球体は透明で何も変わっていないはずなのに、手からは揺れが伝わってくる。

 

仲の良いらしい女性のチームが球体を回して不思議そうな顔を見合わせている。本当はスライドの方を見てほしいんだが今はいいか。

 

「具体的な説明はあとにしましょう」

 

そう言って僕が指を鳴らすと筋肉の動きと衝撃を検知したリストバンドがXR端末越しに通信を送ってアプリケーションを目覚めさせる。

 

球体の中に、薄い水色の液体が入っているような形で投影された色が表示される。

 

しばらくすると、球体を触っている人たちは納得したような顔になった。ああなるほど、これがそういうものなのか、と。

 

「皆さん触り終わりましたか?」

 

一通り確認して大丈夫そうだったのでアプリケーションを切る。

 

少し待って見たが、まだ球体を揺らしている人はいる。それでもさっきまでのような困惑の表情はなく、むしろ最初っからそうだったかのように揺れを楽しんでいる感じだ。なんとも調子のいい人たちだ。

 

というわけでスライドを切り替え、技術的説明。デモンストレーションと説明と質疑応答合わせて一グループ十五分なので、早めに終わらせないといけない。

 

「つまり透明に見えているのですが、中には二種類の液体が入っていたのです」

 

物理の話なのでどこまで通じるかな、と思ったが頷いている人の割合を見るにそれなりに話が通ったようだ。

 

「あとはマーカーで球体を検知し、処理を行っています。流体の挙動についてのアルゴリズムですが近年研究が進んだ粒子法を中心としたものを……」

 

このあたりは本来工学部の流体力学とかシミュレーションとかをやる人たちが専門なので、半分ぐらいはAIに作ってもらったものになる。もちろん裏取りは人間の手でもしましたとも。大変でしたよ年始に大学図書館の本頑張って読み解くのは。もっとデジタル化して公開するべきですよああいうのは。ただそうすると市場が成り立たないのもわかるので難しいところだ。

 

「というわけでご質問をどうぞ」

 

ちょっと見渡すと、なんか見たことあるような髪の長い人が手を挙げていた。あれだっけ、四年生の見学者。

 

進行役の宮先生がなんか明らかに面倒くさそうな顔をして彼と僕とを見ている。いや別にいいですよ。あとこの人別に前の班の人に質問したとかもなかったので僕を狙いに来ているのかな。

 

「いやぁいいもの見せてもらいました、ところで質問なんですけど処理自体のフレームワークがMirageではあまり上手く動かないやつ使っていませんでした?バージョンアップか何かのパッチしました?」

 

なんで初っ端から全力を出すんだよ、というかそれアプリケーションの解析しないと出にくい質問では?

 

「ええと、これにはConligoベースの開発環境を使いました。なので直接Mirageの上で動くのではなく、もう少し下のレイヤーからになってますね」

 

「Conligoというと……VRのワールドを作るやつでしたっけ、すみません不勉強で」

 

「その通りです、単純に重ねるのではなくもう一つの現実を作るとなるとConligoのほうが適切だと……」

 

そんな感じで表面上は軽いやり取りが続いていく。一応答えきれたはずだ。

 

「ああ、それでは質問いいかね?」

 

そうしてやってくるのは宮先生。なんださっきまでのは前哨戦か。

 

「もう一つの現実を使って今の現実を鮮明にするというコンセプトは面白かった」

 

「……ありがとうございます」

 

「それと全体的に静かでミニマルな作品なのも興味深い点だ。他の班はエフェクトを用いた視線誘導などを活用したものもあったが、このような現実の実態と組み合わせることでも延展現実は効果を持つ」

 

「……はい」

 

「だからこそ、もっとできそうじゃないかとも思ってしまう。たとえばもっと複雑な系ではできなかったのかね?」

 

「この球体一つ作るだけでも、それなりのコストがかかっています。手作りですので」

 

ちょっとだけざわめきが起こる。市販品でこういうのがあるって思われたのかな。それはまあ完成度への賛辞として受け取ろう。

 

「ふむ。ならそういった物理的実体の開発も今後は必要になってくるだろうな。事実、デバイスはXRにおいて非常に重要な役割を果たしているのは授業でやったとおりだ」

 

なんか僕を引き合いにして授業してますよこの人。まあいいですけど。

 

「それと、これは持っていた違和感に形を与え、そして投影が無くなった後も新しく生まれた理解を残すというアプローチでいいのかね?」

 

「……はい」

 

「違和感をきちんと与えられるかについては、少し疑問に思うね。もちろん今回のように実際に手に取らせて振らせればいいが、実際のサービスで利用者がそこまでしてくれるわけではない。もう少し誘導があっても良かったかもしれない」

 

言いたいことはわかるのですがそれをやるとコンセプトから全部ひっくり返さなくちゃいけないんですよといらついて怒鳴りたくなるのを我慢して僕は静かに頷く。

 

「まあいい、それではもう時間も過ぎていることだし次の班に行こう」

 

宮先生がそう言うと、少しまばらではあるが拍手が僕に送られた。うん、やっぱりこういう発表は嫌いじゃないな。

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