セミダイブ!   作:小沼高希

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We shall not cease from experiment 13

見渡す限りの白に、色とりどりの防寒服を着た人たち。太陽が雪に反射して眩しい。

 

「いやぁみんな元気だね!」

 

そう言うユミナさんはシックな黒いダウンベスト。遠目から見ると性別がわからない感じなのはいつものこと。

 

「……寒さ以上に楽しめるか不安になってきた」

 

アキさんは言葉も冷めている。たぶん着替えの時にごわごわした服と戦って体力奪われてしまったんだと思う。ちなみに彼女の服は僕と同じでレンタルのカラフルなやつです。というかユミナさんが自分のを持っているというか。

 

というわけでここは東京から自動車で少し行ったところのスキー場。暖冬じゃないかって話もあったけど案外きちんと雪が積もっている。よかった。

 

何でこういう事になったかを説明すると長くなるのですが、まあ簡単に言えば僕が少しVR系のシステムの構築で悩んで、アキさんに相談したら気分転換が必要なのではってなって、ユミナさんがそれならスキーに行こうって結論付けたからです。いやどうして?

 

確かにこういった体力を使う大きめのイベントは大学でないとやりにくいだろうな、と思う。ちなみに運転手をやってくださったのはアキさんだ。夏休みのうちに自動車免許を取っていたらしい。知らなかった。聞かれてないから言わなかったとのこと。そういうものなのかな。

 

ユミナさんが高校時代に友達と何度も行っているし大学入ってからも最近知り合いとかと行ったというので歩き方はと止まり方と転び方は教えてくれた。というわけでスキーリフトに揺られて上の方へ。うまく滑れるといいなぁ。

 

「……なんで二十一世紀も半ばになって、こんな危険なシステムが使われているのかしら」

 

そう語るのは僕の隣でぎゅっと手すりを掴んでいるアキさん。三人で座って、僕がちょうど挟まれている形になる。あの安全バーがあるとはいえ横に掴むところがないので僕が一番怖いんですが。

 

「ウチ前に落ちた人見たことあるけど普通に滑ってたよ?」

 

「いるんだ、いいのそれ」

 

僕の言葉にもユミナさんは平気な顔をして足をぶらつかせている。楽しそうだ。

 

そうして実際に滑ってみるとアキさんがそれなりに上手だった。僕はまあ、そこそこ。楽しくはあるよ。

 

一応VRでスキーをやったことがあるが、確かにこの体験は他の手段では再現がしにくいものだな、となる。眩しいゲレンデ。刺すように吹き抜ける風。身体の熱がすぐに抜けていって、滑り落ちて加速して行く時の身体から掛かる力が減るって体験は特別だ。

 

ゴーグルだって外せる。実際に転べば雪が舞うし、少し痛いはずなのに楽しくなってくる。いやちょっと辛い。別に足を捻ったとかではなさそうだけど。

 

「大丈夫?」

 

器用に止まったユミナさんが、てくてくと僕の高さに合わせて登ってくる。

 

「うん、立ち上がるのがうまくいくかわからないけど」

 

「大丈夫だよ。手を貸そうか?」

 

「おねがい」

 

そんな会話をしている横でアキさんが楽しそうにジグザグに滑っている。なんだあれ。さっきまで怯えていた大学生はどこに行ったんだ。たぶん身体が暖まってきたんだとおもう。

 

「……やっぱり、これを体験できるようにするのは難しいな」

 

「またくだらないこと考えてない?」

 

「くだらなくはないよ」

 

「ごめん、言い方が悪かった」

 

ちょっとユミナさんはしゅんとして、息を吸って引くように力を入れてくれる。引き上げてくれた手のおかげで、僕はちゃんとまた滑る姿勢に戻ることができた。太ももの力が思ったより必要なんだな、スキーって。

 

「ほら、スキーに集中しよ。そしてアキさんを追いかけるよ」

 

「よし」

 

というわけで滑り降りると、アキさんは下の方で待機していてゴーグル越しに退屈そうな目を僕たちに向けていた。なんだよ。

 

また上まで戻って滑って、ということを数回繰り返してお昼ご飯にする。タイミングは少し早めなのでそこまで混んでいない。

 

「それで、悩みはなんとかなった?」

 

ユミナさんが僕に言う。

 

「そもそもスキー自体は何も解決しない」

 

アキさんの冷静なツッコミ。

 

「……いや、考えすぎていたって感じだから今回は助かった。ありがとう」

 

人工知能がゆるやかに人間の思考を代替できるようになって十年ぐらいが経とうとしているが、人間の体験を機械が再現できるようにはなっていない。これは大規模世界モデルみたいな理解って側面でも、あるいはVRみたいな側面でも。

 

目をこする。HMD越しではできない行為だ。冷たい雪を握って投げるのも、まだ完全な感覚再現までは程遠いだろう。

 

それでも少しづつは進んでいるのだ。僕が貢献した平衡感覚を操作対象に加えたVR機体みたいに。

 

「……いつかはさ、家でスキーみたいな体験ができるようになるのかな」

 

感覚神経情報自体を改竄する技術があれば、あるいは人間の脳の違和感を認識させる部分を止める技術があれば、それはきっと不可能ではないのだろう。問題はそのどちらも実用化の目処が立っていないことだが。

 

「VRの話?」

 

ユミナさんが言う。頷く僕。

 

「できたとしても、ウチはまたみんなで遊びに行きたいな。もちろんVRで遊ぶのもいいんだけど、みんなでどこかに行く事自体が楽しいことだから」

 

「レンタカー代、あとでしっかり払ってもらうから」

 

アキさんが言う。

 

「それはウチとミドリちゃんで半分づつ出すから!」

 

「三分の一でいい」

 

「運転してくれた人はいいって」

 

「ほとんど自動運転だった」

 

「それでも免許持ってハンドル握るって大変なのわかってるから!」

 

ユミナさんが払うって言っているのにアキさんが不満げな表情をしているが、僕の完璧な推測によればこれは疲れてきたのが半分、また滑りたいのが半分ってところだろう。そして疲れているのはあまり自覚していないと見た。なんだこの子供は。一応成人済みだぞ。

 

「ミドリくんはさ、たぶんいろいろ考えちゃうんだよ。もっと今を楽しく生きるのも大事だよ?」

 

「そういう積極的な経験が生むものもあると思うから」

 

ユミナさんとアキさんに言われてしまった。確かに楽しそうな人と積極的に学んでいる人が言うと説得力が違うな。反論もできない。

 

やっぱり、色々と知らないことに飛び込んでみるのがいいのだろう。次はもう少しスピードを出してみよう。次は滑る時にもう少しスキー板を並行にしてみようかな。




活動報告にあとがきというか今まで書いて思ったこととかをメモみたいにしておいたので気になった方はどうぞ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=317606&uid=373609
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