セミダイブ!   作:小沼高希

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Party in May, rue the day. 7

待機空間でこの筐体でできるゲームの一覧を見ると、思った以上にラインナップが豊富だった。多人数向けのマーダーミステリーやパーティーゲームもあれば、一人向けのローグライクもある。中には家のVR機器で遊んだ事があるものも含まれている。

 

「ミドリさんは慣れてるのね」

 

「結構難しかったよ」

 

チュートリアルを終えたアキ(AA)さんに言う。僕からすれば実に無駄な機能だと思うのだが、普段のアキさんと見分けがつかないような姿がそこにはあった。

 

VRにおいて、技術の発達方向性は二つあった。一つは現実の代替として、もう一つは完全に新しい空間を作るものとして。僕は後者に馴染みがあるが、多くの人と市場は前者を選んだ。

 

かわいいアバターも、派手なエフェクトもいらない。現実のようなリアリティと、仕事に使えるだけのフォーマルな空間。ビジネス用のVR機材についてはあまり成功しなかったものの、その技術というか思想はAR側に受け継がれている。

 

そういう人たちは、アバターを必要としない。自分の肉体とは別のものを纏うという考えすらなかったりする。デフォルメされたアバターは不完全な肉体の代替物に過ぎない、というわけだ。だからDIVEAREA(ダイブエリア)では会員登録時に写真撮影をして生身のようなアバターを生成する。

 

「あっ二人とも!ウチを置いて楽しそうな話ししてる!」

 

最後に来たのはユミナ(TY)さんだ。慣れてなかったんだ。

 

「私はついさっき着いたところよ」

 

「で、どれをやるの?」

 

僕は手元の画面を指先でくるりと回そうとしてうまく行かなかったので手で掴んで裏返すようにする。

 

「色々あるわね……」

 

「ウチこれ知ってる!実況されてるの見たことあるよ」

 

アキさんが指差すのはAfter and Artifacts、通称A&A。もとになったのは確かそれなりに昔のTRPGじゃなかったかな。

 

「どういうものなの?」

 

「えっとね、未来の廃墟で宝探しをするゲーム」

 

アキさんの質問に、ユミナさんが答える。確かにその通りだし、これ以上説明するのも難しいが。

 

「トレーラー見たほうがわかりやすいと思うよ」

 

そう言って僕は画面の裏側からアイコンをタップする。こういうのにちゃんと対応しているシステムは素晴らしい。

 

蔦の絡まる、コンクリート製の廃墟。後末日(ポスト・アポカリプス)の雰囲気漂う構造物に、四人の一党(パーティー)が足を踏み入れる。

 

かつての文明が遺した遺物を探し、それを持ち帰ることが目標となっている。暴走した監視システムをハッキングで乗り越え、強化された脚で跳躍し、資料を集めて遺跡の真実を探れ。

 

「……面白そうだし、これにする?」

 

「ウチはいいけど、ミドリちゃんは?」

 

「僕も内容については知ってるから大丈夫だよ」

 

「あれ、知っているならやめたほうがいい?」

 

アキさんが僕に心配そうに言う。

 

「そういうゲームじゃないんだよね、コレ」

 

知っているユミナさんは自慢げに口角を上げている。これは実際にやってみればわかるようなことだ。

 

「プレイ時間をどのくらいに設定しておこうか?」

 

僕は既にセットアップを始めていた。何がいいってこのゲーム、ほとんど決まった時間で終われるのだ。中には二十四時間耐久シナリオとかやる人もいるけど。

 

「ひとまず一時間半でいいと思う。予約の時間もあるし」

 

ユミナさんの言葉に頷いて、僕は設定を終えた。

 

「たぶん暗転するから、気をつけてね」

 

僕が言うと、ほぼ同時に周囲が暗くなった。

 


 

濃い灰色の探索服を着込んだ僕たち三人は、かなり序盤から足踏みをしていた。

 

「ここを降りるの?」

 

回復役(トリーター)のユミナさんが穴を覗き込みながら言う。回復役と言っても他にも色々できる、便利な役職だ。そして穴の底には僕が折ったケミカルライト。初期装備で貰っていたので遠慮なく使ってしまおう。

 

「周囲にエレベーターみたいな機械があるのかも」

 

古技師(ギズモテッカー)のアキさんが返して、穴のある部屋の壁を確認していく。古代技術に精通しているというか、場合によってはこの役職がないと突破できないシナリオが出ることもある。

 

「……直接降りれないかな」

 

そう言う僕の役職は探求者(シーカー)。シナリオ的にはあまり戦闘は生まれないと考えられるから、そこまで役に立つこともないだろう。

 

「この高さを?」

 

「死にはしないはずだけど」

 

心配するようなアキさんに僕はそう返す。たいていこの手のシステムでは、致死高度というのがかなり高く調整されている。自殺へのハードルを下げるんじゃないかとかいう議論もあったらしいが、それよりもゲーマーの行動理念に沿ったほうがいいと判断された形になる。

 

「穴の内側の壁は掴めそうにないよな……」

 

ユミナさんの言う通り、僕たちのヘッドライトを反射する内壁は基本的に滑らかに見える。テクスチャ的にはヒビの入ったコンクリートのようだが、微妙なヒビに指を引っ掛けるのはまず無理だろう。

 

「エレベーターなら呼び出し装置があるはず、安全対策がないということは今の状態は想定されていないはずだから、動かなくてもおかしくはない」

 

呟きながらうろうろとするアキさん。

 

「なにか言う時はもう少し大きな声で言ったほうがいいよ」

 

僕は声をアキさんにかける。

 

「ごめん、独り言だった」

 

「それでも、だよ。もしかしたらそういう所からなにか生まれるかもしれないし」

 

アキさんは僕の言葉を飲み込めなかったようだが、ユミナさんは意図がわかったらしくニヤリとした表情を僕に向けていた。

 

「隠しボタンとかあるんじゃないの?」

 

「なんで隠すのかな……」

 

聞いている限り、アキさんはこの手のゲームのお約束をあまり理解していないのかもしれない。まあ、それはそれでいい。ここでアキさんがどういう方法で謎に立ち向かっていくのかをきちんとわかってもらうことのほうが重要だ。

 

「……ねえ、この壁にこんな溝ってさっきまであったっけ」

 

アキさんが言う。よし、ちゃんと誘導できたようだ。

 

「わかんない、ウチはそっちの方見てなかったから」

 

「……ならいいけど。デザインを勘案すると、ここを押せばいいのかな」

 

僕の立っているあたりから見るとわかりやすいが、溝が放射状になっている。その中央というか始点になっている円形の場所の溝は一段深くなっていて、他の溝とは区別されているように見える。

 

アキさんがそれを押すと、小さな揺れとともに天井にあった照明が点灯した。不気味なこういう雰囲気はリミナルスペースと言うんだっけな。ゆらゆらとしたアキさんの影が壁に映される。

 

「エレベーターじゃなくて、階段だったか」

 

アキさんが言う通り、さっきまで垂直な穴だった場所には足場が生えてきていた。階段みたいな段差があるものの上を仮想空間で慣れない人が歩くのはかなり怖いけど、こういうふうに出てくるならたぶん問題ないのだろう。

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