セミダイブ!   作:小沼高希

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Party in May, rue the day. 8

「何かを守るためじゃなくて、解かれるための謎?」

 

そう呟くアキさんと共に、僕たちは遺構の奥へと進んでいく。アキさんの思考を助けるためのヒントとかを僕とユミナさんで探している形だ。これはこれで楽しいので満足である。

 

この階層は何らかの事務スペースだったらしいが、紙の書類は残されておらず古いパソコンらしい機械はうんともすんとも言わない。紙が残っていたら全部探さなくちゃいけないので大変だったかもしれない。そういう中から探す能力をプレイヤーの誰かが持っていた場合は、それを活かした謎も出てくるのかな。

 

「不気味だよね……」

 

ユミナさんが僕の側に半歩寄りながら言った。確かに無機質な通路と薄暗い空間は背筋を冷やすがちょっと待て。肩が触れた気がする。

 

さっきのは幻感(ファントムセンス)かもしれないが、それにしてはいつもと違う感じがあった。慣れていればアバター同士の触れ合いを専用のデバイスなしに錯覚することもできるし、僕もその域にいる。

 

ただ、今はどうだろう。アバター同士の接触を演算しているのか、ちょっと気になったので確認してみるか。

 

「ユミナさん、僕の手を叩いてもらえる?」

 

「いいけど」

 

そう言ってハイタッチの準備をしていたのだが、僕の手の平ではなく手の甲のほうが叩かれた。

 

「ちゃんと触った感じがある」

 

手を握ったり開いたりしながら言うユミナさん。

 

「やっぱり計算されているんだ」

 

ハプティクス(触覚技術)の応用だ。身近なものではXR端末を使う時にボタンを押したりする感覚をリストバンドの振動からフィードバックさせるみたいな感じだけど、この筐体では衝撃の向きまでかなりしっかり再現されている。もちろん、痛みまでは感じない。電極を貼り付けてそこまでやるマニアもいるけど、そのためのデバイスは市販されてはいないはず。

 

つまりは誰かの背中を押したり、落ちそうな相手の手を掴むとかもできるわけだ。どのくらいの力までかかるかはわからないけど、せいぜい10キログラム重といったところだろう。あまり重すぎると筋肉を痛めたりするので、こういうところは色々と規制がかかっている。

 

「で、この先が通路だろうけど」

 

僕が見る扉は見るからに頑丈で、ちょっとやそっとの攻撃では壊れそうにない。殴ったりするのもさっき確認した通りに衝撃が計算されているなら手を痛めかねないのでしたくない。

 

「二人とも、こっちに来て」

 

アキさんに呼ばれて向かうと、一つだけ点灯しているひび割れたディスプレイがあった。黒の背景に緑色の、相当古いコンピュータみたいな画面。点と点とが線で繋がれて幾何学的模様を描いているというか、何だこれ。

 

「アキさんはこれ、何かわかる?」

 

僕が聞いたが、首を振られたところを見るとわからないようだ。

 

「あ、色が変わった」

 

「何やってるの!」

 

横から指を出してディスプレイに触るユミナさんと、驚いたような怒ったような声を出すアキさん。

 

「えっと、ごめん、その……」

 

「私が言い過ぎた、驚かせて謝らなくてはならないのは私の方」

 

二人が謝罪し合う横で、僕は画面を触ってみる。なるほど、ある点を押すとその点とそこから線で繋がった点の色が変わるのか。

 

点の色は二種類、黒と緑。同じ場所を二回触ると、変換を二回挟んでもとに戻る形になる。

 

「……なら、私はしばらく考えているから二人で触ってみて」

 

今のところ確認できたルールを言うと、アキさんはそう返して画面をじっと見つめた。

 

「いいの?」

 

少し不安そうなアキさん。

 

「やり直せるなら、色々と触るべき。少し私は計算するから」

 

「……そう」

 

というわけでじっと見ているアキさんの隣で僕たちはディスプレイをぺちぺち触る。パズルを解いたりするような古技師(ギズモテッカー)らしく、持ち物の中にメモ帳があったのでそれに色々とアキさんは数式を書いてる形だ。

 

「たぶん色を揃えればいいんだよね」

 

「全部点灯か全部消灯かはわからないけど」

 

そんな事を僕とユミナさんで話していろいろ試していくが、あまり上手く行かない。おそらくアキさんが変なことばっかり言ってるから難易度が高いやつが出てきたんじゃないだろうか。

 

「なに考えているの?」

 

ちょっと飽きたらしいユミナさんがアキさんの手元を覗き込んだ。

 

「パリティで場合分けしてる」

 

「パリティ?」

 

「偶数か奇数か、ってこと。例えば2回触れればもとに戻るってことは、奇数回触らないと変化しないってわかる?」

 

アキさんの言葉に、ユミナさんは少し指を触るようにして考える。

 

「ええと1回の場合は変わる、2回で戻る、3回なら……そうだね、でも0は?」

 

「0は偶数」

 

「なるほど、すごいね」

 

「……よくある着眼点。で、全部消すのはできると思う」

 

そう言ってユミナさんは点を押していく。端のほうに緑色に光る点が追い詰められていくように集められ、そしてその全てに繋がっている点が押されて一網打尽にされた。

 

「……何も起こらないけど」

 

たっぷり待ってから、ユミナさんは言った。

 

「全部点灯させるのは無理だと思う……」

 

うろたえたように点を触っていくアキさん。先ほどと逆に消えた点が追い詰められていくが、最後には逃げ切ってしまう。

 

「ほらこことかさ、できないの?」

 

見かねたらしくユミナさんが指を出して画面を触った。

 

「だからダメって……」

 

「2ヶ所同時に触れない?」

 

否定しようとしたアキさんに僕が言う。二人の押した点から繋がっていた場所が最初光っていたのに消えていたのだ。もし二人の指が処理されていれば光るはずなのに。

 

「……なにそれ」

 

苛立ったような声で言ったあと、アキさんは笑い出した。

 

「大丈夫かなこれ」

 

「さぁ……」

 

不安視する僕とユミナさんを脇に、アキさんは手早く指を器用に複数の点に乗せて全ての点を緑へと変えた。

 

「そっか、解けないことに固執しすぎていた。実装に穴があるのはよくあることだけど、これはそれ込みのパズルだったのか……」

 

アキさんはそう言っているが、実際のところはどうかわからない。単にプログラムの生成時にミスが複数重なったのかもしれないし、あるいはアキさんを引っ掛けるためにこういう形になったのかも。

 

「あ、何かが動く音がする」

 

そう言うユミナさんを置いて僕は部屋の外に出る。先程まで硬く閉ざしていた金庫のような扉が、ゆっくりと空いていくところが目に入った。

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