セミダイブ!   作:小沼高希

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Party in May, rue the day. 9

時々僕でもちょっと何回か挑戦しないとうまく行かないようなアクション要素も入り、アキさんが手こずるようなやけに難しいパズルを解き、ユミナさんの明るさに応援されてここまで来た。

 

通路を抜けた先は、開けた巨大な地下空間だった。

 

「キレイな場所……」

 

あたりを見渡してくるりくるりとしながらユミナさんが言う。壁には張り巡らされたパイプと点滅するライト。プラントの夜景にも似た、印象的な光景だ。

 

「丁寧に、ここから帰れるようになっているのね」

 

アキさんが見上げるのは空間中央にあるぼんやりと光る塔。たぶんエレベーターになってになっているのだろうな。

 

「さて、次が多分最後か」

 

どういうエンディングをつけてくるのだろうか、と僕は塔まで伸びる空中の通路を歩きながら考える。序盤の蔦の絡んだ廃墟、中盤のある程度整理された状態の区画と来て、最後は広い空間だ。場面転換の演出としてはすごい。涼しい風が吹いてきているのはVR筐体の機能かな。

 

空間の中央に浮かぶようにある部屋には広い窓がついており、なかなか眺めは悪くない。外の光は星か、あるいは夜景のように見える。

 

そして中央にエレベーターがある部屋には机が一つ。乗せられているのは一冊の本。薄めの冊子といったほうが適切かもしれない。

 

「……罠を警戒していたのに、何も無い」

 

机の下まで確認した僕は、少し遠巻きに見ていた二人を呼ぶ。一応冒険の終わりに興ざめなことをしてくる事はないだろうと思っているが、警戒はしておいて損はない。

 

「さすがに、持って開くと感覚が狂うわね」

 

冊子を手に取ったアキさんがめくりながら言う。こういう小物の感覚というのはかなり難しく、今の時点での一番の解決策はそういうオブジェクトを作らないことだ、とまでされるほどだ。

 

例えば、今アキさんが持っているような冊子を考えよう。紙一枚、たぶん数グラムの力を、指や手の動きと正確に連動させて与える必要がある。それと同時に指に触れる感触──なめらかさ、あるいはざらざらさ──を調整しなくてはいけない。

 

もちろん、実験室レベルであればこれらの要素は個別ではあるが実用化されている。ではそれを、多様な素材でできた様々なオブジェクトに対して適用させることができるか、と言えばこれはまた別の問題になる。

 

これは大規模世界モデル(Large World Model)で解決できる問題ではない。むしろセンサーやアクチュエーター側の、ロボット工学の分野の問題だ。結果として2048年になってもなお人間の仕事はなくなっていないわけである。早くなくなって毎日自堕落に暮らせるようになってほしいものだ。

 

「……なるほどね、そういう物語なんだ」

 

とかなんとか考えていたら、アキさんが冊子を読み終えたらしい。

 

「何が書いてあったの?」

 

「この地下施設を未来の文明に渡すための試験だったみたい」

 

納得したように、アキさんは冊子の内容を口頭で短くまとめる。ここで採掘されていた資源は戦略的に重要なもので、それを敵国に使われたくはなかったそうだ。一方で、そういった国家がなくなったような時代が来てしまう場合、この施設が残された人たちの生存に役立つことは間違いない。

 

だから崩壊寸前までは隠匿して、今になって中身を明かしたというわけだ。パズルはあくまで相手が基礎的な知識を有しているかどうかの確認だから決して難しいものではなかった、と。

 

「へぇ……」

 

ユミナさんはちょっとだけ不満なようだ。ただ、今回のゲームはアキさん主役に作られたのだろうからそこは別にいい。僕だって楽しんだし、ユミナさんだってつまらなくはなかっただろう。

 


 

「楽しかったね」

 

ユミナさんはそう言って背伸びをする。ここはゲームが終わった後の待機場所みたいなものだ。没入系のゲームはしばらくこういう場所で待ってからゲームを抜けるようにする、という業界の自主規制的なもののせいだ。

 

いきなり物理世界に戻ると感覚が狂って転んだり怪我をしたり事故を起こしたり、というのもあるが他にも意味があるとされている。自分をもとに戻すためのものだ。もちろんフィクションは多かれ少なかれ人間に影響を与えるが、こういったなにかになり切って遊ぶような没入度の高いものは特にその影響が大きい。だからといって規制するのには僕は反対しますが。

 

「ところで、二人はあのゲームについて知っているはずだけど、内容は毎回変わるの?」

 

「あれ、アキさんほんとに知らなかったんだ」

 

少し驚いたようにユミナさんが言う。

 

「何が?」

 

「あれ、生成ものだよ。プレイヤーの様子とか見ながらAIが調整してくれるの」

 

アイデア自体は昔からあったらしいが、VR空間全体をリアルタイムで作れるようになったのは本当にここ最近のことだ。それまでは例えば一部を作ったり、全体のバランスを整える程度でしかなかったのだが、この技術発展によってまだ問題は多いもののゲームとかも変わりつつある。

 

「もともとはそういうのを人間がやっていたゲームが元なんだけどね」

 

僕も追加で補足しておく。VR空間でTPRGはいくつかやったことがあるが、完全生成ものと比べるとどうしても抽象的で、想像力が要求されるところはあった。ただ生成コストが高かったり、VR機材では体験が難しいものとかのリアリティラインを変えずに出せるのはいいところだと思う。

 

「へぇ……」

 

「だからアキさんが最初のほうのパズルとかを一瞬で解いたから、どんどん難しくなっていったんだよ」

 

「……確かに、問題の出され方が電子ドリルっぽかった」

 

練習問題を片っ端から解いて、一定以上正解しないと終わりにならないやつだ。僕も含めてたぶんほとんどの人は裏で電卓を起動したりしてただろうけど、中学校で使っていたのはそういう不正を禁止するために色々制限がかかっていたから辛かったな。

 

「もちろん話の大まかな流れはあるんだけど、細かいところは本当に遊ぶ人によっても変わるよ、ウチが前見た動画ではもっとバトルしてたし」

 

「それを想定してたからユミナさんは回復とかできるようにしたり、僕も準備してたんだけど……」

 

「ごめん」

 

「アキさんが謝ることないって!それにこういうのもあるんだって楽しめたから!」

 

アキさんにフォローを入れるユミナさん。

 

「それで、午後はどうします?ひとまずお昼ご飯を食べたいと思いますけど」

 

僕がそう言うと、二人は頷いた。ちょうどVRの待機空間にいる時間も終わったし、物理世界に戻るとしよう。

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