セミダイブ!   作:小沼高希

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Party in May, rue the day. 10

「疲れた……」

 

しっかり楽しんで僕は帰ってきた。本当です。ただまた明日も同じように動き回るって言ったらちょっと遠慮させてもらいたいです。

 

もぞもぞと身体を動かして頭を脳計測ヘッドセットに突っ込み、ディスプレイを下げて起動準備をしている横で触覚(ハプト)デバイスとかをつけていく。

 

「さて、ここからは()()()の時間」

 

目を開けて、扉を押す。いつものように入るBar Panopticaは騒がしい。

 

「おっソニドリくん、元気?」

 

少し回っていない呂律で言うのはセーラー服に身を包む跳華(トビハナ)さん。

 

「飲んでるんですか?」

 

「ちょっとだけだよちょっとだけ!」

 

「……わたしはちょっと疲れているので、奥で寝てます」

 

「なーんだせっかく来てくれたのに……」

 

そう言ってわたしが仮眠室に行こうとすると、跳華さんも後ろからついてきていた。

 

「……なんですか」

 

「いや、寝顔でも見ようかなって」

 

「確かにこのモデルは目を閉じた時の造形もいいですけど」

 

そういう方面で信用できる人の作品だから使っているというのもある。少しだけ唇を開いた時の顔とか、近くで見た時のバランスとか、そういう点まで気を配ることはかなり難しい。色々なノウハウが蓄積された今日でも、この微調整をAIが学習できたという話はあまり聞かない。

 

「そんな疲れたことがあったんだ」

 

「……ええ、そうなんですよ」

 

身体を横たえ、身体の感覚を仮想世界ではなく物理世界のものに近づける。背中がマットレスについているという感覚。さっきまでアバターが立っていることを前提に操作していたので、少しだけギャップがある。ギャップというのであれば、午前中に遊んでいたVRはいつもとかなり感じが違ったな、と思い出す。

 

「ソニドリくんがそこまで疲れるとなると、相当だね」

 

「……友達と遊びに行ったんですよ」

 

スイーツを堪能したり、服を買ったり、他愛もないおしゃべりをしたり、そうして今日一日が終わった。アキさんは終盤少し大変そうだったかもしれない。ユミナさんは元気だった。僕ですか?今ここで動けてないところから察してもらえれば幸いです。

 

こういう体験は、高校の頃はあまりしていなかった。大学になっていきなりそこまでのことをするような友達ができたのは驚くべきことだが、これで四年分の幸運を使い切ってしまったと言われても納得してしまう。

 

「お姉さんはね、ソニドリくんがそういう人あまりできないんじゃないかって思っていたから、それを聞いて安心したよ」

 

脇腹の感覚で薄目を開けると、わたしの腰のあたりをしゃがんだ跳華さんがぺちぺちと叩いていた。

 

「……もう少し頭の方、お願いできますか?」

 

「ソニドリくんは甘えん坊だなぁ」

 

反論する気力もないので撫でられるがままにしておく。頭に伝わるかすかな振動のおかげで撫でられているような気分になる。

 

「……あと、お姉さんムーヴはほどほどにしておかないと気持ち悪がられますよ」

 

嫌いではないのだが、そういうのは時間と場所を選んでほしい。少なくとも、他の人が来るかもしれない状態ではもう少し加減してほしい。

 

「……ソニドリくんは、私のこと嫌いにならないよね?」

 

「お世話にはなっていますし尊敬もしますが好悪で言うとちょっと……」

 

少し横になっていたので、体力が回復してきた。もともと寝ながらやるタイプのVRは体力を消耗しにくいのだ。一方でトラッカーとかを駆使すると本当に体力を消費する。仮想世界で一日中動き回っている人とか、エネルギー保存の法則を逸脱しているんじゃないかとすら感じるときさえある。

 

「ふーんそういうこと言うんだ」

 

「疲れているんですから休ませてください……」

 

そう言ってしばらく、わたしは意識を失っていたらしい。しばらくして目を覚まし、時計を見ると二時間ほどが経過していた。

 

「……おはよう」

 

「おや、起きたのかいソニドリ」

 

チーフの声に頷いて、わたしは椅子に座る。座ると言っても肉体は寝ているのだが。見た感じ、跳華さんはいないようだ。

 

「今日遊びに行って疲れまして。何か面白いことでもありました?」

 

「ニュースでも見るかい?」

 

そう言ってチーフは手の上に画面を表示させる。見たところ海外のテレビ番組のようだ。

 

「いえ、そういう気分ではちょっと……」

 

「なんだい、情報を仕入れておかないと困ることになるよ?」

 

「その情報が信じられない世代なんですよ」

 

僕にとっては子供の頃にあった、「紛争の十年」。その中で多くのフェイクニュースが作られ、あらゆるメディアを汚染し、その信用を破壊した。

 

だからといって、わたしはあらゆるニュースが嘘だとか、あるいはマスコミ関係者がみんな無能だとか言うつもりはない。ただ、きちんと疑った上で内容を評価し、そしてそれを行動に結びつけるという過程が億劫なだけだ。

 

それをしないと、すぐに今の世の中に氾濫しているような情報に感情を揺さぶられてしまう。今ではAIフィルターをかけることも珍しくなくなったが、このフィルター自体が信用できるかは別の話だ。

 

「ま、仕方のないことか」

 

「ただでさえ疲れているんです、完全に嘘だとわかる物語とかを楽しみたいんですよ」

 

「それはそれでどうかと思うけどね、物語にはリアリティがあるからこそ面白いんだよ」

 

「そうですけど……」

 

不満そうな僕に、チーフは小さく笑った。

 

「ところで、食事は大丈夫なのかい?」

 

「……食べてませんでした」

 

「それはいけない、もう遅い時間だ」

 

「……冷凍のを焼いてどうにかしますよ」

 

「そうと決まれば、早くここを去るんだね。そして寝てしまいな」

 

チーフの軽口はどこまで本気なのかよくわからないが、言われたとおりにするのが正しいのだと僕だって理解はできる。

 

改めて外の世界に戻ってきた。

 

「電気つけて」

 

僕が言うと、薄暗くオレンジ色になっていた部屋の電気が白く明るいものに切り替わる。身体はまだ重いが、それでも食事ぐらいは作れるだろう。

 

フライパンを取り出して、冷凍庫の中からパウチ食品を出す。副菜は少し解凍してからレンジで温めるとして、メインディッシュは焼いたほうがおいしい。

 

温まったフライパンに油を引いて、パウチの中の鶏肉に火を入れる。食欲をそそるトマトとにんにくの香り。アキさんがしょっちゅう食べてるような補完食品に比べたら圧倒的に手間はかかるけど、僕はこういう時間が好きだ。

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