概念同化機構さんはなかなか飲み込みが早く、そう時間をかけずに
「で、これをどうするんですか?」
「ちょっと待ってね、切り替えるよ」
わたしが指を鳴らす──実際に鳴らしてるわけではないけど──と、群れの色が二つに別れる。紅色と深緑色。
「どっちの色が好き?」
「それじゃあ赤っぽいほうで。あとソニドリさんって髪の色が緑ですし」
「確かに」
わたしは指で赤い集団を相手に送る。
「ルールは単純。それぞれの色の群れをぶつけて、最後まで残ったほうの勝ち。群れは例えばこうやって手を開くと」
そう言ってわたしは実演のために群れを少し動かして、折っていた残りの指を伸ばす。一気に広がった緑色の群れが固まった赤色を包もうとするが、火花が散って包みきれない状態になる。
「わかる?」
「……ある程度の塊でぶつけないと意味がない、ということですね」
「そう。ちなみに、わたしはかなり強いよ」
全体のランキングで上位1パーセントに入っている。ちょっと特殊な方法でプレイしているから胸を張って言えるランクではないけどね。
「胸を借りるつもりで頑張ります!」
「よろしい。ハンデを一応つけておくね」
初心者向けであれば、こちらの防御力を落としておけばいいだろう。数自体は同じでいい。
「それじゃあ、始めようか」
「はい!」
概念同化機構さんとわたしは向き合い、互いの色の群れをまとめていく。
「じゃあ、まずっ!」
相手は両手で赤い群れを二つに割り、一つをわたしに向けてきた。
「初手から対人攻撃。やっぱりセンスがあると思うよ」
移動しながらわたしは自分の群れを固めておく。直接アバターにダメージが入るみたいなシステムはないが、それでも視界を奪うことはできる。ただ、どこに来るかがわかっていればそこを狙うことはできるのだ。
「……なるほど、そうすれば小さな群れを活用できるのですか」
わたしの指の形を見た概念同化機構さんも理解したようだ。槍状にしておけば、広がってやってくる集団を効果的に削れる。
「やっぱり、あなたはこれに才能あると思う」
「ならハンデもらった以上はしっかりと勝ちきらないとですね!」
少しだけ息が粗くなっているな。このゲームは手を振り回すことが多く、移動もあるので結構体力を消耗する。対空戦をメインで仕掛けることで相手の腕に間接的なダメージをいれるという戦法まで確立されているほどなのだ。
「まだ素直だよ」
基本的な戦術はいくつかあるが、それらは互いに三すくみのような関係になっている。なので例えば群れを分割して二つの手で同時に攻めたり、相手が対抗策を固めたタイミングでそれに対して弱点となる手を出したりするといった駆け引きが面白くなってくるのだ。
ちなみにわたしは今のところ、反応速度が足りなくて徐々に削られている状態です。対応はだいたい成功しているのだが、時々起こすミスと防御力を下げているせいでちょうどいいぐらいになっている。
ただ、まだ奥の手はある。ここで使うのは大人げないからしないが。ただそうしないのであればトラッカーを使うように立った状態でプレイするべきだったな。そのほうが寝っ転がらずに手の動きと脳計測デバイスだけでやるよりは精度がいい。
「ようやくソニドリさんの群れが小さくなってきましたね」
見て分かる程度に大きさが変わってきた。こうするとあまり広げすぎた場合にはむこうが広げてきた場合に勝てないのでまとめて運用するしかない。ただ、そうしても決定打になるかどうかはまた別の話だ。
「ただ、このゲームが面白いのはまだ逆転の可能性があるってところなんだよ」
わたしは群れを分割し、一つをあまりまとまらないような状態にしてゆっくりと動かす。
「そんなわかりやすいと捕まえてしまいますよっと」
「どうかな」
別けていたもう一つのほうは、概念同化機構さんの視点を考慮しながら別方向へ回す。
「さっき、わたしにやっていた視界を奪うやつ。こういうふうに使うと効果的だよ」
概念同化機構さんの裏側から一気に群れを襲わせて目眩ましとし、制御が緩んだ群れを小さく食いちぎるように壊していく。正面からの一対一を繰り返すのではなく、分割して各個撃破していくのは基本だ。
「っ……」
アバター越しに悔しさと狼狽が伝わってくる。ポーカーフェイスという言葉があるが、慣れれば人間の状況というのは表情以外からでも読み取れるのだ。手や足の動きに力みが入ったり、とかね。
「さて、数の有利はなくなってきた。ここからは運だよ」
基本的に、わたしのやり方は序盤で差を作ってから一気に畳み込むというもの。これができるのは基本的には格下相手となるが、少なくとも今の状態では眼前の相手は格下ではない。とはいえ格上とも言い難いのよね。
「なら、速度で勝負です!」
小さくなった集団であるほど、手の指示に良い応答性を示す。終盤になるほど勝負が面白くなるというなかなか良くできたバランスだ。そもそも手を動かすという曖昧な操作でまるで思っていたかのように動かすというのもすごい技術なのだし、これだけの群れをきちんと描写し切るというのも作成者の高い技術力を示しているのだが。
概念同化機構さんは両手を使って三つぐらいの赤い群れを操り、わたしの眼前にいる緑色の群れへとぶつけてくる。一度に操れるのは二つでも、一度つけた群れの動きがしばらく維持することを利用してジャグリングのように連続して攻撃を続けてきているのだ。本当に初心者かな。
わたしの動きに合わせて群れをぶつけてきている。向こうのパターンに入ったようで、緑色の群れは火花を飛ばして減る一方だ。
ただ、それは相手も同じだ。操っていた群れの大きさが足りなくなって有効ではなくなったと判断したらしく、三つから二つに群れを減らした。ただ、これで常に両方の群れが相手の制御下にあるということはまだ警戒するには十分な理由になる。
最終盤の戦いは静かに終わった。自律的に動く数十の赤い小片は、わたしの手元に残る数個の緑を吹き飛ばした。
[Win: 概念同化機構]
勝利ログがわたしと相手の前に表示される。久しぶりにいい試合ができた。
「GG、でしたよ」
「……なんですか、それ」
「
そう言って私は概念同化機構さんと握手を交わす。ネットゲーム文化が生んだ古いスラングだ。邪悪なインターネットらしく大差をつけて勝った時の煽りとして使われることが主となってしまったので、今では死語となっているが。