セミダイブ!   作:小沼高希

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素人は兵站を語り、玄人は思想を論ず 5

知らなかったことを知ることのできる授業は好きだが、そのためには大抵の場合時間とかきちんと考える手間だとか、そういう対価が必要になる。

 

そういう意味では大変だし、正直つらい時もある。今がそうだ。

 

「何っで動かないんだ……」

 

パソコン室でディスプレイを前に頭を抱えている僕。いや、別に何もかもがわからないってほどではないんですよ。こういうパソコンは家にもあるし、VRでは長文書くのが難しいので生成しにくい場合とかあとは心を込めた文章を作りたい場合なんかはそういうのを使います。

 

そしてプログラミングとかもなんとなくはわかります。そういうのをテーマにしたゲームは色々ありますからね。サンドボックスゲームには論理回路がつきものです。それをどこまで使いこなせるかは別ですが。

 

ちなみに一般的な水準としてDOOMを動かせるゲームは良作という基準があるそうです。DOOMというのは半世紀前のシューティングゲームでソースコードが公開されているので改造とか移植とかのノウハウがかなり蓄積されているといいます。一度遊んだことがありましたが、正直なところ難しい割には面白くないなと思いました。古すぎるゲームなので仕方がないとは思うけどね。

 

「あー、困ってる?」

 

隣から声をかけてきたのはワイシャツにネクタイという姿の人。ええと何だっけ、TA、ティーチング・アシスタントだっけ。先生の手伝いをしている人。

 

「……ええ、うまく動かなくて」

 

「ちょい貸してみて」

 

僕が書いているコードはクイックソートというものだ。文字通り素早い並べ替え手順で、この原理だけ説明されて実際に書いてみるのが今回の授業の課題。

 

ただ、うまく答えを出してくれない。何かが理由でうまく処理されていないらしいのだが、自分で書いていてどこが問題なのかわからなくなってしまった。

 

「というかすごいね、テストケース作って判定まで自動化しているんだ」

 

「見てわかるんですか?」

 

「これぐらいなら人力でもね」

 

ソースコードの解析というのは、今ではAIが得意とする分野になっている。だからこそそういうふうに処理されることを前提として変数名やコメントをしっかり書いておきましょうという不思議なことになっているが。ただ、これについては人間も人工知能も関係なしに必要だと思うので積極的に書くようにしている。

 

「実装の流れも再帰は……ええと、ちょっと書き加えていい?」

 

「どうするんですか?」

 

「途中経過を出力させる。並べ替えてる最中のをprintするだけだからそう難しいものじゃないよ」

 

「ああそっか、そういうふうにしていいんだ……」

 

最低限の入力と出力以外はやっちゃいけないと考えていたが、後で消すならそういうこともしていい、と。むしろ積極的にこういうのをしていったほうがいいのかもしれないな。

 

「で、実行。……交換されてない場合があるな。ってことは」

 

そう言ってTAの人はある場所をハイライトする。不等号がある部分だ。

 

「ここにイコールが必要」

 

「……そんな事で?」

 

改めて時計を見ると悩み始めてからかなりの時間が経過していた。

 

「まあ、見つかったから良かった。今度からは自分で見つけられるといいね」

 

「ありがとうございます」

 

「仕事なんで」

 

そう言ってTAの人は去っていった。なおこの人は先生が変なダサいシャツを着ている横で真面目にスーツなのだ。

 

「よっ河辺、どうしたんだ?」

 

隣を見ると鞄を持った北尾のやつがいた。

 

「しょうもないミスで時間を取られた。とっとと提出して今日は終わりだよ」

 

この授業では提出すると数秒でそのコードがちゃんと正しいかどうかを判定してくれるシステムを使っている。先生が言うにはズルもできるらしいが、ズルをするにはもとの問題を解く以上の知識が必要だというので結局はちゃんと実力を見るためには使えているということらしい。

 

というわけで不正解と言われてしまった。どうして?改めて出力結果を確認するとさっきTAの人に入れられたログ出力用のコードのせいで誤答とされたらしい。許せねぇぜTAの人。

 

「いやまさか、河辺がここまで苦しむとはな、こういうの得意だと勝手に思ってたが」

 

「苦手ではないよ、共通テストも八割ちょっと取れてたはずだし」

 

「すっげぇじゃん、そんななら桜盃以外でもどこだって行けたんじゃないか?」

 

「そこまでじゃないよ」

 

あとここを選んだ理由にはおすすめしてくれた人への義理みたいなのもあるんですけどね。チーフなんですけど。あの人が桜盃情報工科大学はいいぞと言ってくれたから志望校の候補に入れることができたのはある。結局はそれより上のところには届かなかったとも言うが。

 

そんな話をしながらパソコン室を出て、階段を降りていく。そういえば北尾は僕以外にちゃんと友達いるんだよな。なんでわざわざ僕に付き合っているのかは不思議なところであるが、そこはあまり詳しく悩んでも仕方がないことだとは思う。たとえ大学の課題を手伝ってもらうことが目当てだとしても僕の方も色々話を聞いてもらったり情報をもらったりしているのでおあいこだ。

 

「そういえばさ、前に綾部さんのこと話しただろ?」

 

「アキさんね」

 

「ほうほう、もう名前で呼び合う仲だと」

 

「名字とはいえ呼び捨てにしてくるお前はどうなんだよ」

 

「いや河辺先生にはいつもレポートの添削とかお世話になっています」

 

「今更変えたって意味はないぞ」

 

「それで綾部さんの事だったが、どうやら高校時代になんか量子アルゴリズムで有名になったらしいんだと」

 

「そういう噂が好きだね、本当に」

 

僕だって嫌いなわけではないんですがね。互いにニヤリとした悪い表情を浮かべ合う。

 

「……で、どういうふうに有名になったんだ?」

 

「どうやら難しい問題を解いたらしい。見せてもらった論文に名前が乗っていた」

 

「すごいな、高校生で論文書いたのか……」

 

「いや書いたのかな……」

 

いきなり発言が弱々しくなってしまった。どうしたんだよ北尾。

 

「どういうこと?名前はあったんでしょ?」

 

「そうなんだが、確か論文って上の方にタイトルと著者があるだろ?」

 

「まあ普通はそうだろうな、あまり見たことないけど」

 

「そうじゃなくて、文中にAyabe Akiってあったんだよ」

 

「……なるほど、それだけわかれば色々と調べられる」

 

ちょっと図書館に行って検索してみよう。確か論文とかはあそこのパソコンからなら色々調べられるってガイダンスで言ってたよな。

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