セミダイブ!   作:小沼高希

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素人は兵站を語り、玄人は思想を論ず 11

「……いくつか、質問してもいいですか?」

 

かせくり氏の話を頭の中で整理して、疑問がいくつか浮かんだ。例えばそういったAIを──かせくり氏の言うところの「魔王」と合わせるなら討伐とでも言うべきだろうか、あるいは無力化できたというのは少し変な気がする。

 

「ああ、俺に答えられる範囲内ならな」

 

「仮に『魔王』が実在したとします。2030年には確か人間の標準的な知性は超えてたんでしたっけ」

 

「ああ、もちろん俺が生まれる前からチェスでは人間は勝てなかったし、それ以降も知性の定義を変えながら逃げ続けたが、大半の分野で人間が降参したのはそのぐらいだろうな」

 

「つまり、2030年頃にはもう人工知能が人間になり済ませるような技術はあったと?」

 

「ニュースになる程度には、な。実際は詐欺とかの応対用に犯罪組織が専用の対話AI作ったとかの話題が出ていたはずだ」

 

「なら、そこまで賢い存在がわざわざ見つかるような真似をするのでしょうか?」

 

「……いい質問だな、それにはいくつかの側面から答えることができる」

 

そう言ってかせくり氏は僕に肉球を向けた。

 

「一つ。行動があからさますぎた。もちろん一つ一つはきちんと隠されていたが、全体の流れを誘導している何者かがいるっていうのは明白だった。なにせそいつは、闇のインターネットに精通していなかったからな」

 

「ほとんどの人がそうだと思います。僕だって『語録』はほとんど知りませんし」

 

「特に『魔王』で使われたシステムはそのあたりのインプットにフィルターを噛ませていたという分析がある。おもちゃにされるのを嫌ったんだろうな」

 

「……ありそうな話ですね」

 

AI技術の発展期に試行錯誤を繰り返した開拓者の中には、こういった闇のインターネットに精通していた人も少なくない。そういった人たちの作るコンテンツは才能の無駄遣いとして苦笑と共に迎えられていた。いや、一部の界隈ではそういうものを作ることが称賛されてすらいたが。

 

だからもし、そういう層がネットから学習するAIなんかを見つけたら価値の高そうなデータをミームをたっぷりと仕込ませて罠にかけただろう。そうして楽しむのは人間の悪いところだし、それは昔から変わっていない。

 

「ただ、そこまでの操作能力のある団体か組織かが、そういう用語を一切使わないようにさせるというのはほぼ不可能だと考えられた。だから注意を惹かれたし、それについての調査が始まった」

 

「具体的にはどうやってそれがAIだと?」

 

「まず一つは起動時間の問題だ。ある程度ばらつかせていたんだろうが、操作しているアカウントの生活リズムが不鮮明だった。それとアカウントが投稿している写真で場所を特定できたものがなかった、というのも一つだな」

 

「……特定って、例えば背景に写った地形とか時間と影で割り出したり、とかですか?」

 

「それもあるが、もっといろいろな手段が行われた。そういうアカウントは動画を投稿していることもあったが、それを分析して録音ブースでやられたようなデータが見つかったりな」

 

「色々なものが生成されていたと?」

 

「そうだ。で、それができるようなAIサービスの会社に勤めている人がいた。サーバーに送られてくるリクエストを分析して、さらにそれを犯罪の可能性があるとして各国の警察の内通者が調べて……そうして、あるクラウドサービスを契約しているアカウントが確認されたわけだ」

 

「それが、『魔王』だったと」

 

「厳密にはその一部だがな。それは単一のシステムではなく、複合的なネットワークに近かった。例えばあるモジュールは学習を行い、あるモジュールは写真を合成する。もちろんAPIみたいなものを使って他のAIサービスを活用もしていた」

 

「人間がやってるみたいですね」

 

「むしろ、最初はそう思われていた。腕の良いプログラマーがある程度の仕事を自動化しているんじゃないか、ってな。ただ、調べていくうちに面白いことが判明してきた」

 

「……と言いますと?」

 

「その前に一つ。ここから俺がする話はどこまで真実かわからないし、もし全てが真実なら重大な職務違反であったり犯罪となる内容が含まれている」

 

「……あくまで、噂話でしかないし、本当かどうかもわからない、と」

 

答えるかわりにかせくり氏は僕にウインクをした。確かに、そういう話をするならこういう閉じた場所というのはなかなかいい。わかりやすい公的ログが残らないということは、後からとやかく言われる可能性を減らすことができる。

 

「クラウドサービスというのは、どういうプログラムを走らせているのかを運営側から確認できる。そのコードの内容は、知られていたプログラムとよく似ていた」

 

「何です?」

 

「一つはアメリカ合衆国のIAO、情報認知局時代に開発され、2003年以降も極秘裏に改良を繰り返されて国民監視に使われていたプログラムだ。その存在自体はエドワード・スノーデンという告発者によって知られるようになったし、詳しい内部文書とソースコードも一部が流出していた。GENeral Information SYSstem、略してGenisys(ジェニシス)と呼ばれていたものだ」

 

「名前からして、情報を統合するためのものですか?」

 

「そうだ。本来はいくつかのデータベースの情報を組み合わせて危険人物を割り出すためのものだったが、別にテロリストでなかろうが対象には取れる」

 

「それで、他には?」

 

「中華人民共和国の開発した治安維持のためという名目の監視システム、天網(チェンワン)。本来のシステムでは国家全体に設置された監視カメラを活用したものだが、これを組み込んだモジュールがあったらしい」

 

「……当時の超大国二つの機密を組み込んでいるんですか。アメリカ合衆国のほうは流出していたからいいとして、だとしたら作成者は中華人民共和国の方ですか?」

 

「わからん、としか言えない。そこまで詰めることのできる証拠もなかったしな」

 

「詰めなかったのではなく?」

 

今までの説明を聞くに、調査は大陸の方の内通者と協働で行って行っていたのだろう。公開されていないプログラムのコードを見れるのは開発者であるとか、あるいは内部に深く潜り込んだ人間だ。あくまで輿論戦のための攻撃という名目で情報を流していたのであれば、その協力者の祖国を責めるような結論は出しにくい。

 

「……さあ、な」

 

かせくり氏はそう言ったが、その口ぶりは可能性を否定はしていないように聞こえた。

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