セミダイブ!   作:小沼高希

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栩栩然として学生也 3

食堂はまだ空いていたので、ここで話をすることになった。

 

「……あの、僕、朝ご飯食べてないから買ってきてもいい?」

 

「わかった」

 

「いいよ、ウチはアキさんと話してるから」

 

恐る恐る聞いた僕に、二人は頷いてくれた。では手早くなにか買ってこよう。桜盃情報工科大学の学食は美味しいと有名らしく、千円あれば普通に量のあるランチが食べられる。そこまでは食べないので、九百円ぐらいのシーフードカレーにする。ゆで卵もついてきて嬉しいね。

 

さくっとリストバンドをかざして支払いをして、席に戻る。すると二人もなんか食事をしていた。サンドイッチ食べてるユミナさんと、銀色のパックに入った……何だろう、レーション的な棒状のものをもそもそ食べてるアキさん。

 

「カレー?いいじゃん」

 

ユミナさんは元気だ。こういう性格はたぶん大学でも役に立つのだろう。

 

「僕がいない間、何か話ってしてた?」

 

「少し。そもそも東亜・南海戦争の話からして彼女は認識が曖昧だった」

 

そう言うアキさんは少し悩ましげだ。そこからかよ、と一瞬思ったが確かに知る機会がない人はいるだろうな。

 

「ああ、もろにあれ政治だし学校じゃやらないから……」

 

僕はそう言いながらスプーンにカレーをすくう。正直、積極的には話したくない内容だ。先生はあくまで当時の問題として話していたけど、そういうふうに切り取らないと面倒なことになる。

 

「『紛争の十年』については聞いたことある?」

 

食べているサンドイッチごと首を振るユミナさん。

 

「……それじゃあ、今回の授業の話もわかりにくかったかもしれないわね」

 

そう言って、アキさんは鞄からXR端末を取り出した。なんだ、使ってなかったからそもそもないのかと思っていたけど持ってたんだ。ちょっと大きめの、眼鏡の上からつけられるタイプ。少し重量があるので後ろの部分がゴムバンドになってる。ええとこの機種は少し前のやつじゃないかな。僕が中学校卒業したか、高校入ったかという頃。

 

「メガネ、かけてもらえる?」

 

アキさんが言ったので、僕たちも端末を装着してアキさんとの連携設定を済ませる。「許可」のボタンに触れると手首のリストバンドが振動して、押した感覚を伝えてくれる。

 

「小学生の頃、ミサイルからの避難訓練とかなかった?」

 

ノートパソコンに何かを打ち込みながらアキさんはユミナさんに言った。

 

「あったあった、結局飛んでこなかったけどさ」

 

「あの頃に、中華人民共和国は周辺国に輿論(よろん)戦っていうのをやっていたの」

 

そう言うアキさんの前に動画が示される。日本から東南アジアまで、中華人民共和国と海を挟んで対立するような形の国々を描いた地図を背景として、画面左右の男女が話し合いをしているやつ。ああこれ鬼畜(MAD)にされているのを見たことがあるな。

 

「その時に使われた武器……って言えばいいのかな、方法の一つはニュースだった。テレビとか動画サイトのニュースは見る?」

 

「あんまり見ない」

 

「SNSは?」

 

「シュンドンやってる」

 

彼女の言葉にアキさんは息を吐いた。うん。確かにフェイクニュースが問題になった文字や画像、動画を主体としたSNSとそれ以降の生动(シュンドン)みたいなXR系SNSはコンセプトからして違う。価値観が根本的に当時と異なるせいで、うまく飲み込めないのだろう。

 

「……昔のSNSはね、例えばこういうのだったの」

 

ちょっと葛藤があった後にアキさんがノートパソコンの画面を見せた。寿命の長い古き悪しきSNS、ActivityPub系のやつだだ。今どきこんなんやってる大学生いないだろ、僕は一応アカウント持ってるけどさ。

 

ちなみに右下のアカウント部分は隠されていた。なるほどアキさんは方向性としてはユミナさんよりかは僕と同じ側らしいな。

 

「お父さんが使ってるやつだ」

 

「こういうものだと、例えば生成された文章とか作られた画面とかに嘘が込められていたらわからなくならない?」

 

「あーっそっか!そういうことだったんだ!」

 

ようやくユミナさんの中で何かが繋がったようだ。よかったよかった。

 

「よかったら、何がわかったか教えてくれる?」

 

「ええとさ、先生がAI合成のものを流して騙そうとしたって言ってたけどそんくらいすぐ見分けつかない?って思ってた。けど違うんだね、体験じゃなくて文字とかならウチもわかんないと思う」

 

XR系の録画とか体験共有と呼ばれるやつはAIによる合成がかなり難しいとされている。端末のカメラとかのみで作られるので、そこに下手に生成データを混ぜると独特の違和感が生まれるのだ、と。

 

「凄いのね。私はそういうの、よくわからなくて」

 

そう言うアキさん。確かにあの感覚は意識しないとわからないと思う。もちろんちゃんと空間設計すればVR並のやつをAIで作れるだろうけど、あれはその場の空気を楽しむものだし正直虚しくなりそうだ。

 

「アキさんは見ないの?」

 

「あまり」

 

「そうなんだ、ミドリさんは?」

 

傍観者のつもりだった僕がいきなり話に巻き込まれたので、思わずびっくりして少しむせてしまった。

 

「……僕も、あまりそういうのやらないかな」

 

「へえ、じゃあ何してるの?本とか?」

 

「VR、とか」

 

普通なら隠すところだが、空気に飲まれてというか悪意のない質問に思わず答えてしまった。やらかしたかな。

 

「持ってるの!?専用のやつを!?」

 

ちょっと身を乗り出すぐらいにして聞いてきたユミナさんに驚いてしまう。

 

「高桑さん、失礼よ」

 

「あっ、ごめんなさい」

 

「いいよ、僕が持ってるのもそこまでじゃないし」

 

嘘である。メインシステムは一世代前だけど脳機能計測のやつとか触覚(ハプト)デバイスとか結構最新の揃えちゃってます。

 

「あれってさ、実際のところどうなの?ウチはあまり触ったこと無くてさ。映画とか見るにはいいらしいけど、やっぱ高いし」

 

「……できれば私も聞きたい。持ってないから」

 

二人から視線を向けられてちょっと困ってしまう。バーチャル空間でならともかく現実でこうやって近づかれるのやっぱり怖いし距離感とかあるよな。

 

「……実物、見に来る?」

 

見栄を張ろうとして、また失言を重ねてしまった。こうして僕は、散らかった家にできたばかりの知り合いを招くような事になってしまったのである。

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