セミダイブ!   作:小沼高希

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Sky Net is rough, but nothing escapes it. 5

「……で、何してるの?」

 

僕の展開しているそれなりの量のブラウザを見てユミナさんが聞いてくる。

 

「さっき見た作品を作った人」

 

椎葉もとか。辿れた経歴を見る限りでは桜盃情報工科大学情報芸術学部拡張現実学科卒、同大学院情報芸術学専攻博士課程。いくつかのXRおよびVR系のコンクールで入賞。

 

「すごいね、こういうの得意なの?」

 

「補助AIに頼ってるからあまり自慢できるものではないけど」

 

これ自体もAI条約ギリギリの代物だ。あくまで個人用のシステムで動かしているのでセーフなだけで、これをサービスとして提供したら場合によっては国連警察と国際刑事警察機構が一緒に遊びに来る。少なくとも僕の知る限りではこの種のサービスをやって国際的な捜査のもとで検挙された例が三件ほどあるので常に合法かどうかを確認するのは大事だ。

 

「それで、わかったことは?」

 

「この人は……腕がいいんだけど、なんとなく違和感がある。技術にアイデアが追いついていないというか……」

 

帰ったらこの分野のプロの人に見て貰うつもりだが、それなりの対価を求められるかもしれない。ただ、それでもこの人のテクニックを分析してみたくはある。

 

「聞きに行けば?この人は大学に来てるわけだし」

 

「……そうだけどさ」

 

「なにか問題があるの?」

 

不思議そうに言うユミナさん。こういう行動力の塊みたいな人にはわからないかもしれないが、僕はこういうので結構怖気づいてしまうのだ。もちろんユミナさんが恐怖を感じないわけじゃないだろうけど。

 

「例えば……ユミナさんって、絵が上手だよね」

 

「上手じゃないよ」

 

「僕よりは、例えば物の形を捉えたり、あるいは影の向きを考えたり、そういう経験があるでしょ?」

 

「それはある」

 

「もしさ、その努力は大したものじゃなくてただの真似だとか、ズルをして手に入れたんだとか言われたら腹が立たない?」

 

「ウチはそんなこと、あまりないかな」

 

少し強めの例を出したのに、ユミナさんには効かなかったようだ。

 

「ウチは楽しいから描いているし、結果として努力をしたけど、努力のためにしたわけじゃないから。もちろん大学入るために勉強したりしたけど、それは楽しかったし」

 

「……いいね」

 

苛ついている自分がいる。なんで僕はあんなに苦しんだのに、こいつは楽をして、怠けて、そんな技能を手に入れているんだって思ってしまう。そんなことはないのに。理屈ではわかっていても、裏で回っている感情的な処理をちゃんと上書きするためには意識しないといけない。

 

改めて眼の前に浮かぶ情報を整理していく。椎葉さんという人はかなり色々な方面に手を出しているが、基本的にはXRとVRが専門だと言えるだろう。詳しく作品を見てみたいが、公開されているものはあまりなさそうだ。

 

特にXRとかは物理世界での準備と合わさって初めて意味を持つものも多いので再現することができないことも多い。ワールドをひとまとまりのファイルとして扱えるConligoでさえ、外部サーバーとやり取りをすることを前提にしていたり、バージョンアップによって失われたちょっとしたトリックを使っていたりすれば過去のワールドを体験できなくなるのはよくあることだ。

 

「それで、この人に今度一緒に会いに行かない?」

 

頭の中で断る理由が三つぐらい浮かんだところで、やっと断らないという選択肢に気がつけた。もしもう少し遅かったら、僕はまず否定の言葉を口にしていたに違いない。

 

「……そうだね、行こうか」

 

勇気がないなら行動力のある人の隣にいよう。失敗が怖いのなら、思い出して一緒に笑える友達とやればいい。こういうことを素直に考えられるようになったのは、大学に入ってから人間関係に失敗していないからだと思う。そんな友達が多いというわけではないだろうけど。

 

「じゃあ来週、アキさんとも予定合わせとくね」

 

「アキさんも?」

 

正直こういうことに対してそこまで興味を持ちそうなタイプに思えない。もちろん強く誘ったら断りはしないだろうけど。

 

「だってさ、アキさんは誘ってほしそうじゃない?」

 

「……そうなのかな」

 

ああいう人は孤独を孤独と思わずに、それを楽しんでいることもある人だ。人間づきあいが嫌いというわけではないのだけど、別に必要とはしていないタイプ。あくまでこれは僕からの偏見だし、僕の判断は過去に会ってきた人間のせいで偏っているのは間違いないが。

 

「ウチはそう思う。それにデートに誘ってほしそうだったし」

 

「……そういえば、すっかり自然だったから忘れていたけどデート扱いだったね」

 

僕にとって現実世界でのデートは初めてかもしれないが、仮想世界では幾度もやっている。疑似恋愛と本当の恋愛の違いはあまりないと思う。だからこそちゃんと割り切る事ができない人は多くて、苦しんだりすることも多いのだけど。

 

「そう。ミドリちゃんは経験ある?」

 

「あるよ」

 

「どういうところとか行ったの?」

 

記憶が出てくる頭の中でこの場所でユミナさんに話せる内容だけフィルタリングしていく。

 

「……そうだね、お花見とか、あと一緒に博物館とかも行ったね」

 

そういう仮想世界のワールドだ。お花見に行ったのは冬だったし、博物館とは言ってもネットミームの殿堂に近い。

 

「いいなー。ミドリくんはやっぱり経験豊富なんだ……」

 

「ユミナさんはどうなの?」

 

「あまり。今まで付き合ってきた人もそんないないし、すぐ別れちゃうことも多いし……」

 

純粋に相性の問題なのかな、と思う。価値観が色々出てきた現代でも、ユミナさんみたいな考え方はたぶん主流派ではない。軽率と思われるほどに変なことを言うとみなされるかもしれない。僕はそうは思わないが。

 

たぶんデートというのはそういうふうに表現するのが一番適切だから選んでいるに過ぎないのだ。好きな人と出かけることはデートと言うべきだろうし、好きの定義は人それぞれだ。恋愛とか親愛とか友愛とかという分類ができるほど別れている人ばかりとは限らない。

 

「……そう。難しいよね」

 

「ミドリちゃんもそういうこと、あったの?」

 

「……まあ」

 

すぐ別れるという意味では、たぶんユミナさんよりも経験豊富かもしれない。でも、僕の薄っぺらな言葉に比べればユミナさんは本気なんだろうな、と思ってしまった。

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