セミダイブ!   作:小沼高希

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Sky Net is rough, but nothing escapes it. 7

火曜の午前中に駄弁る会は定例行事になりつつある。XR端末をつけた大学生がわちゃわちゃと会話をするのは決して珍しくない光景ではあるが。

 

「それで、結局学会の方は市場の話がメイン。理論よりもそちらのほうが金になるのはわかるけどね……」

 

ふてくされて水を飲んでいるアキさん。週末に行った量子コンピュータの学会が思っていたのとは微妙に違う方向だったようでご機嫌斜めである。

 

「わかるんだよ、やっぱりそういうのは需要と供給あってこそだし、私だって使い道のないアルゴリズムの改善だなんてのはあまり好きじゃないし。だからといって、才能ある人たちを雑にいつバブルが弾けるかわからない界隈につれていくのはちょっと……」

 

「うんうん、そうだね」

 

聞き上手のユミナさんはそう言って頷いている。僕の方は朝ご飯兼昼ご飯を食べているところだ。

 

「やっぱり会場の問題かな……」

 

「どういうこと?」

 

僕は唐揚げを飲み込んで言う。

 

「会場が人文科学や社会科学メインの学部が集まってるキャンパスだったの。行ってから調べて気がついたけど」

 

「そういうのって普通は、ええとなんて学会だっけ」

 

「日本量子計算機学会」

 

名前からすると理論っぽい感じがするが、そうではなかったのか、たまたま今回がそうだったのか。

 

「もっと理学部とか工学部とか、あるいは情報学部とかでやりそうだけど、なんでそこでやったの?」

 

「基調講演とかから察するにそういうことをしたい人が特集というか……テーマを合わせていたらしいの。調べなかった私が悪いと言えばそうだし、ちゃんとアルゴリズムとかの話をしっかりしている人もいたから全体としては満足だったけど」

 

なるほど。色々あるものだ。学会というのはたぶん僕でも出なければいけないやつだよな。今どきは学部生で就職するのは決して容易ではない。修士ですらそうだ。とはいえ博士まで行くと就職より先に研究ができなくて駄目になってしまうらしい。ここはネットの聞きかじりだし、分野もよくわからないので他の人には言わないが。

 

「で、そっちのデートはどうだったの?」

 

「すごかったよ!」

 

元気に言うユミナさん。心なしかアキさんの目は冷たい。確かに自分を仲間外れみたいにして二人で楽しんでいたとなればあまりいい気はしませんよね。ごめんなさい。

 

「……そう」

 

「でさ、一緒に見た作品を作った人に今日会いに行こうって思って、メールしちゃった」

 

「……そう」

 

情報量が多くてアキさんの返答のパターンが重複してしまっている。確かに混乱するよね。というわけでしばらく情報交換。僕の方からもチーフ経由で仕入れた内容を少し話しておく。

 

「……ミドリさんって、そういう知識や人脈をどこから作ってくるの?」

 

言われてみれば、確かにデータを解析してそこから作成者と作成者に影響を与えた人まで読むのはちょっと怖いかもしれないが、チーフ以外にもそういうのができそうな人がいるのはちゃんと考えるともっと怖いことかもしれない。

 

「普通にVRをやってるとなんかできている」

 

「なるほどね」

 

納得するアキさん。それだと仮想空間には変な知識を持っている人がはびこっているみたいじゃないですか。事実でしかないな。

 

「ところでユミナさんはどうやって連絡取ったの?」

 

「メール書いただけだよ?」

 

今の御時世、メールというのはそれなりに公式の通信手段というのがたぶん大学生にとっての認識である。その上手紙と違ってこれが正しいというマナーがなかなかない。そもそも相手のメールアドレス以外知らない知り合いなんてことはまずないのだ。

 

とはいえお作法とかなんかは基本的に生成させてしまえばいい。昔はAI文章の癖を読み取ることもできたのだが、利用者の文体をしっかりと覚えた上で丁寧にやるみたいなものだとまず見分けがつかない。こうやって自分が書いたのか、それとも書かせたのかわからないような文章が世に氾濫していく。

 

なのでメールを書いて送って、ということはかなりのことなのだ。少なくとも僕にとっては。仮想空間のConligoで相手に暇かどうかメッセージを送るのでさえけっこう大変だったりするのだ。仲のいい相手だった場合は大抵どこたむろしてるかわかるから直接そこに顔を出すことが多いが。

 

「……そう」

 

アキさんがなんか僕とユミナさんが変な人だな、と思っているらしいのが伝わってくる。僕だってアキさんもユミナさんも変な人だな、と思っていますよ。たぶんユミナさんもそう。というか形に残っている実績という側面だとどう考えてもユミナさんが一番なんですよね。

 

僕の名前は、それがたとえ仮想世界であってもあまり残っているものではない。もちろん匿名というか変名を多く持って夜行性の渡り鳥みたいなことをしていたので残ってもらっては困るんだけどね。

 

「で、来ていいって」

 

「……一緒に行っていい?」

 

「というかウチはミドリちゃんもアキちゃんも誘うつもりだったけど」

 

ちょっと意外だ。いや確かに一緒に行動する事自体はおかしくないんだけど、まずアキさんが乗るっていうのが一つ。そしてユミナさんがアキさんを誘うつもりだったのが二つ。正直、この話は僕とユミナさんだけの、そして場合によっては僕が抜かれて進むものだとばかり思っていた。

 

「どうして私も?」

 

「……予定入ってた?」

 

「いいえ、ただの質問。責めるつもりはない。そう聞こえたなら申し訳ない」

 

「ええと、アキさんが頑張って学会行ってて、それでもあまりうまく行ってなかったらしくて、そういうことばかりじゃないよ、踏み出したら楽しいことあるよって誘いたかったというか……」

 

「……理解できた。ありがとう」

 

言いたいことは僕でも理解できた。余計なお世話だ、となるかもしれないがアキさんはそれをちゃんと受け止めた。いい関係なんだよな。この二人。

 

「じゃあ六時ぐらいに南4号棟でいい?」

 

そう言ってユミナさんは地図を僕たちの前に出した。こういう時にXRは便利だよな。

 

「今いるのがここの食堂で……こういうふうに行けばいいのね」

 

三次元の建物の隙間を縫って、アキさんの細めの指が旅をしていく。こうやってキャンパスを見るとなんか変な形の建物があるよな。空中の歩道とかが見た感じ無作為に張られているし、アーケードみたいな感じで屋根のある通路もあちこちにある。

 

その上地下でつながっている建物もあったりするので、もしかしたら構内の端から端まで雨に濡れずに歩けるのかもしれない。確かにそう思うとあまり大学の中で傘をさした記憶がないな。

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