セミダイブ!   作:小沼高希

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栩栩然として学生也 4

一旦現状を整理しよう。あの男装の軽薄っぽい人、ユミナさんとノートパソコンが大きい人、ええとアキさんが僕の家に来る。うん。やらなくちゃいけないことは多い。

 

ひとまず四時限目が早く終わったので、ひとまず部屋に行く。二人は五時限目に授業が入っているようなので、二時間弱の猶予が生まれた形だ。

 

まずは窓を開けて換気。見るからに重厚そうな装備については箱に入れてベッドの下に入れておく。よかった箱を捨てないでおいて。脳計測デバイスとか一旦動かしてしまうと誤差出やすいけど仕方がない。

 

干されていた洗濯物は取り込んで、クローゼットに突っ込んでおく。食器は洗っておく。ゴミはまだちゃんと出せている。冷蔵庫の中は見られても恥ずかしくない程度のものが入っている。卵とはんぺんとキャベツと味噌とかだけど。うーんお肉買ってきて今日の晩御飯は和風回鍋肉(ホイコーロー)。中国の知り合いから聞いたのだが、向こうのはもっと分厚い肉とニンニクの芽がしっかり入ったものらしい。

 

そんな事をやって何とか部屋を人が入ってもなんとかなるし、あまり派手なVR機材がない状態に持っていくことができた。カメラについてはトラッカーの補助ってことでいいか。

 

あらためて部屋を見渡す。基本的にVRで動く時用に部屋は綺麗にしていたので、そこまで大きな片付けをしないで済んだはずだ。部屋の隅に寄せられていた色々は見なかったことにする。

 

深呼吸をすると、夕方のチャイムが鳴った。午後五時三十分。五時限目が終わるまで一応はあと三十分のはずだが、もう授業が終わっていてもおかしくない。

 

作業の邪魔になると思って机に置いてあったリストバンドを確認すると、二人からメッセージが来ていた。読むだけならこれでも十分だが、送信となるとXR端末があったほうがいい。今でもスマートフォン──物理画面のついた携帯端末──を使っている人は多いが、僕を含めて若い子はたいていこのリストバンドとXR端末で済ませてしまう。

 

住所を送って来てもらうのはちょっと迷うかもしれないので、一応迎えに行くことにする。どれだけ技術が発達しようとも、こういうところは皆で歩いた方が楽しい。まあそれを知っているのはVRで実際に経験したからなのだが。

 


 

僕が集合場所にしていた門に着くと、既に二人は待っていた。

 

「ミドリくんの家に行くの、楽しみだな」

 

道すがらのユミナさんはわくわくしている。ノリがたぶん高校生男子なんだな。男女問わずこういう人はある程度の人気がある。僕だって彼女を嫌いじゃなくなってきている。

 

「ところでなぜユミナさんは河辺さんの事を『くん』付けで呼んでいるの?」

 

言われて初めて僕も気がついた。いや僕としてはどっちで呼ばれても特に違和感がないというか構わないのだけれども。

 

「うーん、なんとなく?それにアキさんだって名字で呼んでいるし」

 

「許可をもらっていないもの」

 

「……僕はなんて呼ばれようが構わないから、大丈夫」

 

「わかった、48SI071さん」

 

「なんで僕の学生番号知ってるの!?」

 

いやびっくりした!どういうルートで知ったんだ?

 

「学生ごとの担当教員の名簿は掲示されていたから、そこから確認しただけ」

 

「アキさんはよく見てるんだなぁ」

 

感心しているユミナさんであるが、僕からすれば自分の防衛できない範囲で情報が撒かれていると思うと怖くなる。

 

「冗談よ、ミドリさん」

 

そう言って微笑むが、正直怖く思えてきた。まあ大学というのは色々な人がいる場所なのだなと思おう。桜盃情報工科大学という変わり者の多い場所ならなおさらだ。

 

「ところでさ、VRってXRとどう違うの?」

 

結構基本的だけど、説明の難しい質問をユミナさんがしてきた。

 

「……僕の個人的な意見でよければ」

 

「もちろんいいよ」

 

「まず一つは、外側の世界と切り離された空間に入れるっていうこと。普通はXRって、外側の世界と重なるよね?」

 

「んー、重なるって言い方が正しいのかはわからないけど、なんとなくわかるよ。例えば地図とか、こっちに行けばいいよって矢印が出るやつみたいなやつのことでしょ?」

 

「そう。もちろん不透明度を上げたら自分が外側の世界と切り離されていく。僕はあまりやってないけど、生动(シュンドン)とかはそうやって使うはず」

 

僕がXR系SNSを例に出すと、ユミナさんは納得してくれたようだ。

 

「つまり完全に体験を再現するみたいな感じ?ゲームセンターでやるやつみたいな」

 

「というかゲームセンターにあるのがVRだよ」

 

「あの大きいやつが?」

 

たぶんユミナさんが想像しているのは天井からワイヤーで吊り下げたり足元にモーションプラットフォームやトレッドミルを組み込んだようなやつだろう。

 

「僕の家にあるのはもっと小さいけどね」

 

「よかった、あんなのが家にあるのはちょっと……」

 

「知り合いには持ってる人がいるけど」

 

「……世界って、広いんだね」

 

ユミナさんはまた一つ賢くなり、僕はまた一つミスをしたようだ。いやそれでもミスから学べば結局は僕もまた一つ賢くなったことにならないだろうか。

 

「ところで、少し専門的な話をしても?」

 

今まで黙っていたアキさんが後ろから声をかけてきた。

 

「なに?」

 

「使っている機材はスタンドアロンのやつ?それとも外部機材必要なやつ?」

 

Acumen(アキューメン)の第三世代って言ってわかる?」

 

「わかった」

 

なるほど、思った以上に知識があるのか。

 

「機種の名前?」

 

「そう。ライトフィールドディスプレイ搭載じゃなかったかしら」

 

ユミナさんの疑問に僕が答える前にアキさんが返してしまった。

 

「……そうだよ、だからかなり立体的に見えるし目に負荷がかかりにくい」

 

僕の追加解説に、ユミナさんはなんとなく頷いていた。たぶん完全には理解していないだろうが、仕方がない。

 

「アキさんも詳しいの?」

 

ユミナさんの質問に僕は思わず覚悟を決めようとしてしまう。VRは決してメジャーな趣味ではないし、そこで行われていることを考えるとそこまで表立って語るのも面倒な分野だ。

 

「ううん、量子情報をやっている私の知り合いにVRをしている人が多いだけ」

 

よかった。VRに微妙に詳しい人だと面倒なこともあるので助かった。

 

「難しそうなことしているんだね。ウチもちゃんと勉強しなきゃな……」

 

僕もあまり詳しくないので感心するしかない。

 

「っと、ここが僕のアパート。部屋は二階だからエレベーター使おうか」

 

階段のほうが移動距離が少ないのだが、来訪者に使わせるのは少し違う気がする。そういえば僕の部屋に誰かが入ってくるのって、業者さん以外だと初めてじゃないのかな。

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