セミダイブ!   作:小沼高希

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Sky Net is rough, but nothing escapes it. 11

「伝言は『もう一度くたばれ』だそうです」

 

Bar Panoptica。今日は意外なことにそれなりに人が集まっていた。いつ誰が集まるかというのはかなり不定なので珍しい。

 

例えば跳華さんは抱えている依頼とか仕事の締切が近くなると作業スペースとしてここにくることが多い。かせくり氏は最近じっくりと腰を据えてゲームに取り組んでいたのでそこまでいるわけじゃないし、概念同化機構さんはSWARMにはまってかなりランクを上げていた。

 

「ははぁ、まあそうなるだろうね」

 

笑って言うのはチーフ。どうやら今日の夕方に会った宮教授という人と確執があるようで。

 

「結局何かあったんですか?」

 

ふわふわと浮かぶ球体状の概念同化機構さんが小さな群れを操りながら言っていた。いいよね。ただしあまりやりすぎると他の人の演算能力を食うのでほどほどに。

 

「どうせチーフが昔色々やった相手とやり取りしたんだろう。ソニドリさんも大変なことで」

 

呆れたようにグレーハウンドの目を閉じて言うのはかせくり氏。

 

「……ところでさ、昨日言ってた『ミヤさん』って人は(ミヤ)庄治?ミツハマの」

 

「耳が良いね、跳華」

 

チーフは少し強めの口調で言う。

 

「……ああ、なるほど」

 

「かせくり氏は何を納得したんですか?」

 

「いや、新生活が四月から始まったと言っていたがそういうことか、と」

 

たぶんその人のことを検索して、今勤めている大学を割り出したのだろう。なんか大学まで割れてしまいました。まあかせくり氏の職業も跳華さんの本名も概念同化機構さんの年齢層も知っているので多少それぐらいわかってもいいか。

 

「……どういう人なんですか?」

 

概念同化機構が聞く。

 

「今のVR界を作った日本人の一人、かな。よくも悪くも変な人しかいない場所になったのはXR系の技術とVR系の技術を切り分けるよう主張した彼の役割もあったと言うし」

 

「結局それって産業を潰してたのではないんですか?」

 

跳華さんの解説をひどい方法で概念同化機構さんはまとめた。確かにそのせいでVRの敷居は高くなって、XR分野と比べれば市場はどうしても小さいものになってしまった。もちろん共通技術は多いけれども、噛み合わないものも少なくない。

 

「いや、あたしから言わせれば封じ込めだね」

 

チーフは呟くように言った。

 

「チーフのですか?」

 

「そうさ」

 

さらっと言ったわたしのジョークは素直に肯定されてしまった。

 

「あたしはちょいと二昔ほど前にミヤのやつを含めて色々とあってね。まあかせくり氏は感づいていると思うが『魔王』の娘ってやつだよ」

 

その言葉を聞いて、かせくり氏は間違っていてほしかったとでもいいたげな表情で額を抑えた。

 

「……魔王、ですか」

 

わたしの口から言葉がこぼれる。少し前にかせくり氏から聞いた話が蘇ってきた。東亜・南海戦争の裏で暗躍した人工知能。輿論戦を支配した怪物。そして、どうにか多くの無名の人によって討たれたと言われる過去の存在。

 

もしそのようなものが今でも存在していたとしたら、AI条約と関連法規に基づけば相当面倒なことになる。自律性だった場合、最悪は計算資源を貸し出している会社が管理責任を問われることになる。このあたりは巨大企業にも責任を持ってもらうということで決められた妥協点か何かだったはずだ。

 

「なんですか、それ」

 

わかっていないらしい概念同化機構さんが言う。ああそうか、ついつい忘れてしまうが僕よりもVRというかインターネットにそこまで浸ってないんだよな。

 

「都市伝説。十年前の大規模なAIサービスの停止や中華人民共和国に対する壊滅的なサイバー攻撃を行った、当時最強と言われたハッカー集団」

 

宙に画面を浮かせながら跳華さんが言う。2038年の日付が入ったニュース記事やネット掲示板の記録。古いやつだが、ちゃんとアーカイブされていたらしい。

 

「わたしの知ってる話と違うんですが」

 

かせくり氏が以前していた話とは大きく違う。むしろこの事件自体は場合によっては討伐のための作戦のコラテラルダメージのようなやつでは。

 

「あの時代は本当に複雑でね、誰も全貌を掴んでいない。ある噂では魔王の正体は人工知能であり、そのバックアップは今も生き残ってどこかにいる、とか……」

 

そう言いながら、チーフは微笑みを浮かべた。

 

「チーフがAI……証明が難しい話ですね」

 

概念同化機構さんは、静かにそう言った。

 

「どうしてそう思うんだい?」

 

「オンライン上では、自分は行動と発言でAIを頼りにしています。もしそれがなければ、早口で耳障りな声の、痛いガキになっていたと思います」

 

確かにそういうサービスはある。神経多様性(ニューロダイバーシティ)社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)のためとかなんとかで使われているやつだ。これについては、色々な意見がある。

 

目の悪い人がつける眼鏡であるとか、足を折ったときの松葉杖みたいなある種の補助具にすぎないという意見もある。能力に欠けを持った人が、社会でなんとかやっていくための救いであると考える人もいる。人間の能力発達の可能性を奪う発明であると評する人もいた。

 

入社試験の心理分析でこのような補助AIを使って内定取り消しとなり、それを不服として裁判を起こした例が昔ある。判例では心理分析の際の規約違反であると捉えるべきとしつつ、そのような試験を採用に使うことには問題があるという玉虫色の結果が出ていたはずだ。

 

「だから、もしチーフがAIみたいな行動をしていたとしても、それは自分のように何か代理人がいるのかもしれないし、完全に独立しているのかもしれない。それには区別がつかない」

 

「いくつか方法はあるよ」

 

チーフはそう言って、空間に画面をいくつか表示させた。

 

「人間なら可能で、人工知能にはまだ難しい処理がある。その逆も。もしあたしを操る人間や、代理人がいないのならばこの判定を満たせない」

 

「……それに、そこまで自律状態のAIは禁止されている」

 

僕はチーフの言葉に補足した。とはいえ今まで僕はチーフが何であろうが正直どうでもいいと思っている。相手が男性か女性か言われないとあまり気にしないように、たとえどれだけ補助AIを使っていようが自分が受け取る印象が全てであるように、僕にとってチーフはお世話になった師匠であり、たまに雇用者になる存在であり、そしてこの空間の()()()だ。

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