セミダイブ!   作:小沼高希

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Sky Net is rough, but nothing escapes it. 12

今日の身体運動科学実習もとい体育は球技。ボールを正確に、かつ早く投げるコツみたいなものをかなりしっかり学べる授業だ。体育とは本来こうあるべきではなかろうか?

 

「河辺って案外器用なんだな」

 

僕の投げた結果を見て同期の北尾のやつが言う。

 

「なんでだろうね、僕はそんな運動神経ある方だとは思わないけど」

 

VR系のものをやっていると確かに身体を動かすものはあるし、ある種のVRゲームでは小手先のテクニック以上に筋力と持久力が必要になるので攻略サイトでは適切なトレーニングが紹介されているなんてものもあったりするが、僕がやるものはそうじゃない。

 

「まあ人間変なところで取り柄があるものさ」

 

「そんなもんかね」

 

北尾とは馬鹿話ができるので、たまに話すぐらいならちょうどいいと思っている。ただしあまり関わりすぎるとうざったいという難しいところだ。これは純粋に相性の問題で、こいつが悪いとかそういう話ではない。

 

「……そういえばさ」

 

他の人が測定をするので待機していたタイミングで、僕はちょっと昨日悩んでいた事を第三者に共有してみることにした。

 

「なんだよ」

 

「昔からお世話になってた人が、実は知らない一面があったなんてこと、あるか?」

 

「まあ……俺はぱっとは思いつかないが、人間生きていればそういうことは珍しいもんじゃないだろ」

 

僕も北尾も人だの人間だの言っているが、この話をするときの僕が念頭に置いていたのは我らがチーフである。

 

「……そうか」

 

「具体的に何があったんだ?」

 

「AIチャットで騙されたとかそういう感じだよ、あまり気にしないでくれ」

 

「似た話は聞いたことがあるな、俺の彼女の昔話なんだが」

 

「彼女がいたのか」

 

「そりゃ大学生だからな、一人や二人いてもおかしくないだろ」

 

二人いるのはまずいんじゃないかと思ったが、直後に別に合意さえあれば関係ないのではという政治的正しさの方面からの脳内コメントが入ったのでさらりと流しておくことにしよう。

 

「で、どういう事があったの?」

 

「昔付き合ってた相手とメッセージやり取りしてたときにやけに返信が早くて、問い詰めたらそういうAIに代理でやらせてて、結局別れることになったって話」

 

「そういうのがあるんだな……」

 

「河辺も似たような感じだろ?」

 

「否定はしない」

 

難しいところである。チーフの口ぶりだと代理ではなくて自律型のようだが、それを実現させるためには人間の協力者が必要になる場合が多い。人間が一人で生きていけないように、人工知能も人間から離れるのは難しいのだ。

 

「まあ、別に俺はそういう相手でもいいとは思うがな」

 

「そういう、って?」

 

「別にAIだろうが人間だろうが、恋だのなんだのはできるってことよ」

 

恋の話はしていないんだが、そういう素振りをすると一番楽そうだなとおもったので話を合わせておこう。

 

「……人間同士でしかできないことも多いが」

 

「AIとでしかできないこともある。それは別に相手の性別とか住んでる場所とか趣味とかでもできるできないはあるだろ?」

 

なんか想像以上に真剣に北尾は恋について考えているようだ。すごいな。僕の方はそもそも恋なんていうのはいい感じの精神状態になったときの幻覚的心理作用の産物だと思っているのでそこまで興味はない。それ以前に物理世界での人間関係が少なかったので北尾がかなり親しい友人枠に入っている始末だ。

 

「なるほど、そういう考えはなかった」

 

「恋なんていうのは楽しむためにあるもんだからな、取り返しのつかない事も楽しめるんならそれが一番だよ」

 

なんか振られたのを変な形で慰められているような雰囲気になっている。別に僕はチーフと普通に今後も過ごすつもりなんだけどな。

 

とか考えて、実際そうなったら自分はどういう顔をすればいいのだろうとか考えてしまう。もちろん表情トラッキングは色々補正かけられるし、口調とかその場の雰囲気を反映させたり、あるいは負の感情に起因しそうなものをシャットアウトしたりといった設定もできる。

 

それで覆い隠そうにも、少なくとも話している側からはわかる違和感というのが残るのだ。受け取る側であってもたまにそうじゃないかなと思う瞬間はあるし。

 

「……なるほど」

 

「で、どういう相手だったんだ?その人は」

 

「今の流れで人じゃないってなってるだろ」

 

「……なんて言えばいいんだ?存在?」

 

「変な呼び方にしかならないな」

 

「その存在は、河辺にとってどういう相手だったんだ?」

 

言い直されて、僕は少し考え込む。

 

会ったのは中学時代になるか?Bar Panopticaができる前だからそのくらいか。それ以降はちょっと闇というか負の感情に浸ってた時期もあるし、それは今思うとチーフがけしかけたことなのである意味ではひどい人である。

 

とはいえ別に恨んでいるというわけではない。僕に色々とVR関連の技術を教えてくれた人でもある。もしこれを大学とか専門学校で学ぶとしたら数百万かかってもおかしくない。だからといってこの技能で就職できるかと言われると怪しくなるが。

 

「……先輩とか、先生とか、そういうのに近い人かな」

 

「家庭教師か」

 

「違うが?」

 

確かに要素だけを抜き出すとそうなるかもしれないけどそうじゃないんだよ。

 

「まあでも、そういう関係だと案外対等に立つのって難しいよな。自分にとってはたった一人の先生でも、相手から見れば生徒の一人にしか過ぎないんだから」

 

別に僕はチーフと対等になるつもりはないんだがな。そもそも人工知能が既に人間の上位互換になりつつあるので、ニッチな分野でなんとか食い扶持を維持していくので精一杯というところだ。

 

「あるある。配信者と視聴者でよく聞く話だ」

 

配信者に対して思い詰めてしまう話は珍しくはない。もちろんそこから本当にくっつくみたいな話も聞くが、それは稀だからこそ物語となるのだ。あとはそうだね、やはりそういう相手との恋愛話は王道のシチュエーションとなっている。

 

「そういうのもあるのか」

 

「ある。とてもよくある」

 

そしてアバターを纏うようなタイプの配信者はそのアバターをコピーされて、それを相手につけてもらって……なんていうのもある。経験したから知っているが、あれは結構見ていて無様で正直面白い。まあ向こうは真剣なので茶化すのもほどほどにしないといけないが。

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