セミダイブ!   作:小沼高希

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偶像は踊る、されど舞台は回らない 4

人間が目を通すのは困難なほどの量のログを流れるように表示させていく。起動させたのはチーフに選んでもらったログ解析システムと補助AI。こういう時に頼れる人がいるとアドバイスを貰いやすい。

 

「つまりはこの時点でたぶん不同期が起きて」

 

わたしが示すのは分散トレーシング用の画面。このワールドを直接的に管理しているのはイベント運営を行っている会社の施設だが、複数のコピーがConligoのサーバーで同時に稼働している。これがあるから、地球の裏から参加してもそこまで遅延がないように感じられるのだ。一方でそれだけ不具合が起こる可能性も生まれていく。

 

「あー、なるほどね。問題はこれが切れると負荷が増大することの方だったか」

 

音響の人が納得してくれた。そして他の人たちも何があったんだろうかと来てくれている。ちょっと説明しやすいように画面表示を調整するか。

 

「そうです、トラブルを抑えるために複数の情報のやり取りを区分して行っていた。それはすべての場所で問題を起こる可能性を潰しますけど、各ラインが詰まりやすくはなってしまうわけで」

 

「ソニドリさん、質問よろしいか?」

 

ダンスモーション管理の担当の人が言う。こういうふうに名前を見るだけでその人についていろいろな情報が目に入ってくるのは本当に便利だよな。現実の大学でも全員頭の上に学科と名前を浮かばせていてほしい。

 

「何でしょうか」

 

「具体的にこちら側で対応できるものはあるか?類似例の存在を考えると、場合によってはシステム全体を見直す必要があるかもしれないように思うのだが」

 

ああなるほど。確かに根幹システム特有の問題ではあるからそう思われるのも仕方がないな。

 

「そこまでではないですよ、ライン割り当ての設定を調整しておけばいいだけです。必要に応じて通信量増大の警告をここに出せばいいわけで」

 

「了解した、となると技術監督の役割か?」

 

「んじゃぁ管理者権限でこっちでやっておくよ、さすがに基幹なので自分で触る」

 

そう言って画面を開いて操作を始めた童女アバターの手は素早く動いて設定をちゃかちゃかと書き換えていく。ありがたいことにグラフィカルに作業風景を出してくれるモードで進捗を見せてくれているので隣から見ていて把握がしやすい。

 

「流石だねぇニーミさんは」

 

「だろう?」

 

技術監督の馴染みらしい人が声をかけている。少し技術的会話をしていたがちょっと僕の専門と外れていたのでわからなかった。ただ、見る限りきちんとやりたかったところに修正が入っているというか、想定以上のところまでやってくれていた。ああそうか、どうせライン枠が余っているから場合によっては自動切替させてもいいのか。

 

「それにしてもよくこんなモノ見つけたな」

 

「音響の人が教えてくれたんですよ、黙っていても良かったのに」

 

わたしがそう言ってその人の方を見る。

 

「ここで隠して本番で問題があるより、今ここで見つかったほうがいいじゃないですか。もちろんソニドリさんや他の人には迷惑をかけることにはなりますが」

 

「いや、黙っていたほうが迷惑だな」

 

設定を終えたらしい技術監督は負荷試験を開始する。ラインを示す表のマスが緑から黄色、橙色へと変化するが遅延が致命的になる前に組みかわりが起こって少しだけ時間を稼ぐとともに警告が出る。これだけの余裕があれば、応急処置を少しするぐらいの余裕はあるだろう。

 

「よし、ちゃんと原因箇所まで特定できているな」

 

「ここはAIに任せていいんですかね?」

 

わたしは技術監督に話しかける。

 

「別位相のバックアップに切り替えできるようにしながらならいいだろ、人間が気がつく前に今のシステムなら修理をしてくれる」

 

プログラムを修正したり改良したりするプログラムは今となってはありふれたものだが、作られた当時は色々と議論になったらしい。ファンタジアという古いアニメーション映画をもとにしたやつを見たこともある。つまりは自己改良を重ねて暴走するんじゃないかという話だ。

 

チーフみたいなレベルの人工知能は表向きには存在していないことを考えると、この考えはある意味では杞憂に終わったらしい。とはいえ制約はつけられており、この種のメタプログラミングAIサービスを提供する場合には一定以上のレベルのAIをその開発に用いることはできない、とかになっている。

 

一応建前上は人間がきちんと責任を持って開発をできるようにとのことだが、実際は人間のプログラマーの雇用を守るためだなんてジョークもある。実際、人工知能技術者はかなり求められている人材である。少なくとも今は。今後はどうかは知らない。

 

「ソニドリさん、よくやったな」

 

そう言って作業を終えた技術監督が手の甲でわたしの胸を叩く。

 

「……問題を見つけただけです。わたしでは解決までもう少しかかりました」

 

「そんなものだよ、だからチームを組むし、上手いやつがその中にいればいい。ガレーナさんには試験を突破したと言っておくよ」

 

「試験?」

 

何の話だろう。まあチーフのことだ。僕の知らないところでなにか計画を進めていてもおかしくはない。

 

「君を鍛えてくれって言われててな。もちろん給与を出す以上はしっかりとした働きを期待するし、常に仕事を紹介できるわけでもないが」

 

「いいんですか?この業界、他にも志望者は多いでしょう」

 

僕がまだ子供だった頃の──今でも子供かもしれないけどさ──VRブームというものに乗って多くの人がこの業界に入ってきた。そして、その難しさに諦めて去っていった。それでもこの分野には色々な人がいて、少ない席を求めて争っている。

 

「……次の世代ということだよ。もちろん職業としてこの世界に来てくれるのは嬉しいが、そうじゃない、中の世界を知っている人を外の世界に作ることも管理職の仕事だ」

 

技術監督の新美さんは、業界では有名なVRプロダクションのメンバーだ。資本関係をたどれば明星文化集団なんだけど、これは大抵のクリエイティブ業界があそこと繋がっているので当然といえば当然かもしれない。

 

「そこまで考えるんですね」

 

「安定した給料を貰えているからな。リスクを背負う義務みたいなものがあるんだよ」

 

その言葉にはちょっとだけ強がりのようなものがあったが、同じぐらいに矜持を感じさせるものだった。

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