セミダイブ!   作:小沼高希

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栩栩然として学生也 5

「……大学生の部屋だね」

 

呟くユミナさん。

 

「あまり期待したものはないと思うよ、麦茶でも飲む?」

 

「あ、もらう」

 

そう言うユミナさんには来客用のグラスとペットボトルを渡す。もてなしとまではいかないまでも最低限の小道具として用意しておいたものだ。

 

「……ユミナさんって、ここらへん無邪気というか積極的に踏み込んでいくところがあるわよね」

 

「アキさんだってそうでしょ、普通は今日であったばかりの人にそこまで言わないよ」

 

「そうかもしれない」

 

そんな二人の会話を聞きながら、僕は機材のセットアップをしていく。ええとConligoはログアウトしてゲストモードに切り替えてあるから、見ている映像をXR端末の方に飛ばせるようリンクを開始。動き回るから空間解析システムをワークステーションに片足突っ込んでいるパソコンで処理できるようにしておけばいいかな。特にVR系は微妙なラグが違和感に直結するので、近場の計算資源で回せる部分は回したほうがいい体験ができる。

 

だから一定以上の体験がしたければ初期投資が相当かかるし、良くない環境構築だとゲームセンターとかでの体験より劣るとかが普通に起こる。今はレンタルVR施設とかもあるし、軽く遊ぶぐらいならそういうのを活用するほうがいいと思う。

 

「ちょっとこれ、かけてみて?」

 

「はーい」

 

ユミナさんにVR用のヘッドセットを渡す。脳血流センサー付きのやつだが、プロファイルデータがなければあまり精度は高くない。今回は体験メインってことで。

 

「おお、真っ暗だ」

 

「危ないからそこに立っててね、今起動するから」

 

僕の方から外部操作ができるようにしてあるので、システムを起動。着用者がゲストだと起動に時間がかかるのでのんびりと放置。

 

「ねえ、ミドリさん」

 

「なに?」

 

二重の、いや僕がかけているのを含めれば三重のレンズ越しにアキさんと目が合う。

 

「私の方の端末にもリンクってできる?」

 

「……ちょっと待って」

 

たぶん技術的なものを見せたほうがいいよな。どこまで理解できるかわからないし、僕もちゃんと触っているわけではないから詳しくは説明できないが。

 

「空間処理のやつの閲覧権限ってどこだっけ」

 

XRデバイスを押さえながら聞くと、コンシェルジュシステムが必要な設定画面を出してくれる。このソフト、設定が無駄に多いんだよな。それがいいところだって人も多いけど。

 

「ええと、たぶんアキさんのやつに申請飛ばしたから承認して」

 

「わーすごい!なにこれ!」

 

僕の言葉に黙って頷くアキさんの横で、ユミナさんがじたばたしている。ややこしいな。 ユミナさんが見ているのは入った時のデフォルトにしている後末日(ポスト・アポカリプス)モードだ。部屋の人間以外を風化させ、壁に蔦を絡ませ、窓外の風景に生成フィルターをかけるやつ。既にしっかりとデータが揃っている部屋内部だけであれば、これぐらいのことは造作もない。

 

ちなみにこの光景は僕もアキさんもある程度は共有している。アキさんのほうは設定画面から色々どういうふうにこの処理が行われているか見ているようだ。僕だってそこまでちゃんと触ったわけじゃなくて貰ったアセット使ってるだけだけど。

 

「あのさ、ちょっと物を持ってみてもいい?」

 

「気をつけてなら、いいよ」

 

そう言うとユミナさんは頷いて、ペットボトルを持ち上げた。フィルター越しにはガラス瓶に入ったウイスキーみたいな感じになっているようだ。

 

この処理一つ取っても、内部では複雑なことが行われている。例えば今であればユミナさんが持ったものがペットボトルであり、中に液体が入っていることがカメラから確認されて、それにふさわしいバーチャル空間上の代替物が作成されている。今回は「容器に入った液体」「時代によって劣化しにくいもの」「飲むことができるもの」あたりが参考に処理されたのだろう。

 

「ちょっとグラスに注いでみる?」

 

「いいの?でも怖いな……」

 

「いつも触っているXRと同じだと思えばいいよ、重ねているだけだからちゃんと手の感覚を持てば大丈夫」

 

「……わかった」

 

ユミナさんがペットボトルを傾けると、それに合わせてバーチャル空間内の瓶に入った液体も波を立てる。あ、今グラスの形状が再生成されたな。持たれることを想定して、現実のものと似た形と物理特性を持たせたのだろう。

 

「今のVRってここまでできるのね」

 

アキさんが現実世界と仮想世界を切り替えて見ながら言う。あまりチカチカされると僕の視界に入る情報も変わるからちょっとびっくりするが、別にそこまで困らないから大丈夫だ。

 

「といっても、この部屋をちゃんと学習しているからだよ。来客が少ないから人間の動きの推測モデルはデフォルトのやつと、僕のデータを混ぜたものが使われているからいきなり意外な行動をユミナさんがしたら世界が崩れると思う」

 

「怖っ」

 

僕とアキさんの話をユミナさんが聞いていたらしく怯えさせてしまった。崩れると言っても、人間の違和感を感じる部分に引っかからないように基本的には巧妙にやられるから意識するのは難しいんだけれどもね。

 

ユミナさんはグラスを窓の光に透かしている。本当にこういう光をリアルタイムで計算するのは今の技術でもまず無理だ。なので、ユミナさんが「こうなるだろうな」と予測したものと近くなるように生成される。

 

違和感があると脳の血流が変化するのでそれに合わせてバーチャル空間上の設定が変更されて……というのが理想だが、人ごとにどのような刺激でどう脳が動くかは異なる。今ユミナさんがかけてるAcumenの第三世代にデフォルトで付随している血流センサーではそこまではできないだろうが、こういったVR体験が初めての人にはたぶん気がつかれない。

 

ちなみにこの後末日(ポスト・アポカリプス)モードは文章を読んだりする時に使うと気分がいいです。照明を調整してこういう環境で読書をすると捗るんですよね。

 

「他にこのVRでどういう事ができるの?」

 

「色々。バーチャル博物館みたいなところもあるし、ゲームとかも色々ある。サークルみたいなところで話せるし、あとは仕事とかでCGとかイラストとか作っている人が使うこともあるね」

 

「へぇ……ねえ、ゲームとかってどういうのがあるの?」

 

僕が買ったやつのラインナップを脳裏に浮かべて、VR初心者が短時間で楽しめるものがないことに気がつく。いや一プレイ三十分ぐらいのローグライク系の設定があるやつは遊べなくはないだろうけど、ああいうのって自分のプレイ経験を他の人に触られたくないじゃないですか。少なくとも僕はそうです。

 

「そうだね、じゃあ……」

 

仕方がないのでConligo上の適当なパズルゲームにアクセスさせてみよう。一時期かなり流行ったやつだし、知っているかもしれないがそうしたら他のにすればいいか。

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