セミダイブ!   作:小沼高希

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偶像は踊る、されど舞台は回らない 9

恋。ああ素晴らしいものですとも。()には縁のない話ですし、()()()はそれを冷笑するような経験をしてしまっているとはいえ、それが持つ妖しい力については認めざるを得ない。

 

概念同化機構さんの中の人というべきか、その人はどうやらモテるそうだ。学校で。そういうのは、確かに場合によっては怖い。特に概念同化機構さんはそのあたりの感情をわかっていない──それが()()なのか、そもそも今後もわからないのかはわからない──ので、さらに辛いものとなるだろう。

 

「だって、どう言ったところで面倒なことになりますよね」

 

「……確かに」

 

告白というのはそれがされてしまった時点でもう関係者の取れる手はほとんどない、ということがよくある。もちろんそれを今までの付き合いを一区切りと置くものとするか、それまでの集大成にするか、あるいはただの意思表明であるとか、はたまたこれから関係を築きましょうというアプローチとみなすのかによって変わるけど、その微妙な機微を囃し立てたい学生が意識してくれるとは限らない。

 

そして、大抵はしてくれないのだ。他人の恋バナとか、楽しいですものね。わかりますよ。それを相手がいない場所でできるのは結構大人なんです。

 

「……その人は、人気者らしいんですよ、クラスの」

 

「うん」

 

「ただ、その人のことは……ただの同級生というか、正直なところ口先だけで何も実行していない人に見えてしまうんです」

 

「辛辣だ……」

 

「わかってますよ、誰かを動かせる人っていうのはすごい人ですし、その能力は評価されているわけです」

 

わたしは頷く。

 

「でも、何かやっている人のほうが好きなんです。あくまでこれは相対的な話で、じゃあ他に好きな人がいるのかっていったらそうじゃないですし、もしそう率直に言ったら責められるのはこっちになりそうですし」

 

「……そうだね」

 

あくまで受け身、とはいいつつできそうな範囲ではツッコミを入れていく。辛い時に誰かにそばにいてもらうという感覚はかなり重要だ。それがあるのとないとでは回復の速度が違う。

 

色々と口にすることで、今まで整理できなかった感情をまとめることができる。否定されないことで、自分で無意識に否定していたはずのことを考えることができるようになる。こういう行動は確かにチーフから紹介された本とかで読んだこともあるが、ある程度は実体験から学んでいる。

 

「……ごめんなさい、変な話を聞かせて」

 

「いいんだよ、辛いときにはわたしは聞いてあげるから」

 

別に下心があるわけではない。いろいろな人の見方を知れるのは楽しいと思うけど、それはそこまで下心ではないだろうし、この行為も偽善と言うほどでもないだろう。実際、たぶんだけど概念同化機構さんは落ち着けているのだし。

 

「話したら、眠くなってきました」

 

「寝る?」

 

そう言って私は立ち上がる。そうか、ちょうどいい頃だしわたしも寝ないとね。

 

「……VRつけたまま寝たこと、ないんですよ」

 

ふと思い出したような口ぶりで概念同化機構さんが言う。

 

「悪くないよ、もしできる環境ならだけど」

 

そういうことで、わたしは色々とアドバイスをしていく。エアコンを少し下げて除湿を入れるようにとか、ヘッドセットのバンドを緩めるようにとか、ケーブルを上手く回して寝返りが打てるようにするとか。このあたりは数十年の積み重ねがあるので色々なノウハウが溜まっているのだ。

 

「あとは、アバターを変えるのもいいかもね」

 

「変える、ですか」

 

「寝る時には身体の感覚が直接反映されるから、って言えばいいかな……」

 

横になれば、そこには背中に当たる感覚が生まれる。その時にアバターのサイズや形状との違和が少なければ、脳にかかる負担は減るはずだみたいな理論。どこまで正しいかは知らない。少なくともわたしの場合は普段から寝転がっているのでアバターによる違いは感じられない。

 

「……そうですね、ソニドリさんになら、あの姿でもいいかな」

 

おっと、なんか重めの感情を持たれてしまった気がするな。こういうのは確かソニドリ名義ではやってませんでしたからね。まあいいや、誰かに好かれる面倒さを知っている人ならあまり複雑なことにはならないでしょう、きっと。

 

わたしも少しアバターを変える。今使っている翡髪翠眼のアバターの亜種だけど、纏うものをもう少しゆったりとした黒のレースのネグリジェにするやつ。ちょっとだけ透けて身体の形が見えるのがいいよね。こういうところにデザイナーの趣味が出ると思う。

 

色っぽくないとまでは言わないけれども健全の範囲で、そして寝間着という事がわかるように機能性よりも着心地を優先したようなシルエット。いつもは普段のアバターのまま寝てしまうけど、たまにはちゃんと着替えよう。このふわふわした感じって何のパラメーターを調整しているのか、未だによくわかっていない。

 

「……行き、ますか?」

 

白髪赤目の少年が伏し目がちに言う。あっこれなにかよくないかもしれないな。自分で言い出しておいて何だがアウト寄りの気がしてきたぞ。でも合意の上だし相互に嫌がってないからセーフか?こういうときはイマジナリーチーフを呼び出して判定を頼もう。

 

呆れたように首を振ってため息を吐かれたが怒られなかったのでセーフ。よし。

 

「そんな緊張しないでいいよ。一緒に寝るだけなんだから」

 

「……誰かと寝るのって、たぶん子供の頃以来で」

 

「気分が楽になるから、たまにしてみるのもいいかもね」

 

ただし快適な睡眠が取れるかはまた別の問題だったりする。一応は異物を頭につけているわけですからね。技術が進んで軽量化と肌触りの改良があったとしても、まだ意識して集中すればつけている感覚が残るようなデバイスだ。もちろんXR端末にもそれはあるが、VRは特に光学系のサイズから来る制限とか重心の色々とかありますからね。

 

「こっちこっち」

 

二段ベッドの仮眠室みたいなエリア。BGMと部屋の明るさを切り替えて、初心者でも寝やすいようにする。音が精神に与える影響っていうのはかなり色々調べられていますからね。こういうところで有効活用もできるのだ。

 

「……その、来ないんですか?」

 

先に下の段に入っていた概念同化機構さんは、わたしを見てそう言った。

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