セミダイブ!   作:小沼高希

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Who stole the fire?
Who stole the fire? 1


「……ここだよな」

 

ちょっと暑くなってきた時期。休日に呼び出された僕はXR端末に表示される地図と現在地を見比べて呟く。見上げるのはちょっとしたマンションだ。大学からそう遠くはない場所だし、交通の便も悪くない。

 

このあたりはちょっと高めの住宅街になっていて、このマンションにも駐車場がついている。いきなり呼び出されて何か、と思いながら警戒しつつインターホンを鳴らす。セキュリティはかなりしっかりしていて、許可された階以外は行けないようになっている。宅配便とかはちょっと大変そうだな、と思う。今どきはロッカー使うことがほとんどだけど。

 

どこまで意味があるかわからないが、監視カメラに軽く手を振りつつ目的の場所についた。扉のロックもしっかりしている。ノックをすると、すぐに中からユミナさんが出てきた。

 

「迷った?」

 

「少しだけ」

 

そんな会話をしながら入った部屋は、なんというか生活感にあふれていた。もう少し率直に言えば、ゴミがあちこちに散らばっていた。

 

カップ麺の容器とか、空の段ボールとか。狭くはない部屋なのだが、色々と大変な状態になっている。足の踏み場はなんとかある、といったところ。

 

「これを全部片付ければいいんだよね」

 

「そう。アキさんには袋買いに行ってもらってる」

 

ため息を吐く僕。さて、現状について説明しよう。

 

始まりはユミナさんからのメッセージだ。ご飯を奢るからちょっとした手伝いをしてほしいと。なのでこの場所に来てほしいって流れ。地図と部屋番号を添付していたので伝わりはするが、具体的な情報は何一つなかった。

 

ええ、まずは疑いますよね。こういうふうに友達を呼び出して沼に引きずり込むというのはどんな内容であってもよくある手だ。そして弱みを握られるとかになって思考が止まってしまったら相手の思うつぼだ。いえ、ユミナさんがそういうことするタイプには個人的には思えないんですけどね、警戒は大事なので。

 

アキさんがそれについてちゃんと質問をしたので僕も納得はできたのだが、単身赴任というか長期出張が入ったユミナさんの知り合いの部屋の片付けとか色々な処分とかをお願いされた、ということらしい。

 

「はい、これでいい?」

 

アキさんが買ってきたゴミ袋をユミナさんに渡す。いつの間にいたんだ。

 

「ありがとね」

 

そんな感じで作業が始まっていく。そしてどうやら、ユミナさんはこの部屋の合鍵どころか使用権までもらっているらしい。なんていうかすごいな。それだけ信頼をされているのか、あるいはそこまで信頼してしまうほど家主が危ないか。

 

散らばっているものから部屋の主について少しづつ推測をしていく。下着からして女性だが、かなりがさつというか色々無頓着な気がする。そうでなければこんな雑に散らかしたりはしないだろう。

 

本棚には色々な本があるが、内容からしてどうやら遺跡の発掘とかそういう方面らしい。なので今回の長期出張もこれ関連かな。それなりの量が床から積み上げられているので、本棚に移しつつ入り切らないものは別の箱にまとめておく。

 

冷蔵庫の中身については、アキさんが追加で買ったものも含めてお昼ご飯として作ってくれた。焼きそばめいたなにかである。おいしいけどね、何か知らない食べ物である。

 

「アキさん、料理上手だね」

 

ユミナさんはそういいながらぱくぱくと食べている。はんぺんとかが入っているので海鮮焼きそばと言っていいかもしれない。ただこれだけのものを残してすぐに出かけなければならないっていうのは大変だろうな。

 

「味付けは割合さえ間違えなければそう失敗するものじゃないから」

 

アキさんはそう淡々と言うが、一人暮らしをしている僕はそもそも割合を考えて味付けをしない。全体の0.9%ぐらいの塩分濃度が適量だと言われてもそんなすぐ計算できませんって。

 

改めて台所を見ると、ちゃんとした生活をしようと努力した気配が垣間見える。買ったけど殆ど使われていない調味料。あまり手入れされていない包丁。雑多なものが詰まった冷蔵庫と、食べかけのアイスが残っていたりする冷凍庫。ちなみにアイスはユミナさんが美味しそうに食べてました。よく食べれるな。

 

「ところで、ユミナさんはここの家主さんとどうして知り合ったの?」

 

お皿を洗いながら僕は聞く。後ろでユミナさんは明らかなゴミについてはゴミ袋に入れて、そうでないものは整理して棚に入れて、みたいなことをしている。

 

「駅前で倒れていたのを拾った」

 

「そんな猫じゃないんだから……」

 

アキさんの声がする。本の整理をしているとのことだが、僕には読書しているようにしか見えないのは目の錯覚とか多分そういう類のものだろう。本棚に入り切らなかったものを内容ごとにまとめるためだから読まないといけないらしい。

 

「でもさ、ああいう人って思い込んだりとかしちゃうけどそこを支えてあげればちゃんとできるから」

 

「そういうもの?」

 

僕とはまた違った方面でユミナさんが人誑しなんだろうな、とわかる。ただそれに僕たちを巻き込むのは少し微妙かもしれない。お昼ご飯おいしかったからいいけどさ。

 

「そうだよ、ウチだって困っている人がいたら助けるから」

 

そう言うユミナさんはかっこよかった。この顔で精神が危ない時に声かけられたら持ち帰られてしまうな。眩しすぎて浄化されそうだ。下心を感じさせないのも恐ろしい。たぶんそこまでないのだろうけど。

 

「……ミドリさん、これ何かわかる?」

 

アキさんが広げているのは紙袋に入ったコピー用紙だった。たぶんシャープペンシルで色々なものが書かれている。印刷されているものもある。

 

「……地図?あとこっちは文字みたいだし」

 

メモの内容は雑多に見える。年表みたいなものもあれば、なにかアイデアを書き連ねたようなものも。

 

「……化学反応を含む物質微分方程式?」

 

「アキさん何言ってるの?」

 

気になったらしいユミナさんも近づいてきた。

 

「……何かの問題らしいけど、一貫性がない」

 

ぱらぱらと見たアキさんが結論づける。個人的にはこういうメモってけっこう危ないものとか入っているからあまり見るべきじゃないんじゃないかって今更ながら思うんですけどね。もう遅いか。

 

「聞いてみようか?」

 

さらっと言うな。まあでもそうか、処分に困ったものが出てきたら聞くのは妥当だもんね。

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