セミダイブ!   作:小沼高希

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Who stole the fire? 2

「それはねー、もう古いやつなんだよね」

 

日が沈む頃になって、やっと部屋の主である梶本(カジモト)さんと連絡が取れた。バスローブ姿だがなんていうかこの時点でだらしなさが漂ってくる気がする。ノートパソコンの3Dカメラで通話している形だ。撮影範囲の隅にアルコール飲料の缶が写っている。それもちょっと味が駄な感じで度数の高いやつ。

 

背景からしてそれなりの高級そうなホテルに居ることはわかるのだが、そんな人がそんなダメなお酒を飲むなよ、と思うが楽しそうなのでいいか。いや良くないか。でもなんか引き込まれるような人だ。美人さんというのも少し違う気もする。

 

部屋の中はかなり片付けることができていて、これについては通話の向こうの梶本さんも満足げであった。それにしても残念なところのある美人さんだな。一部の層からは人気が出そうだ。そう考えるとユミナさんとの組み合わせはとてもいいのかもしれない。なにせユミナさん、かっこいい人ですからね。

 

「これ捨てていいですか?」

 

ユミナさんは遠慮なしに聞いてくる。いやどうだろ、ユミナさんの尻に敷かれるとかそういう感じになるのかな。現実の人間でそういうの考えるのはあまり良くないと思う。ただこう、このお姉さんが拾われるのはわかるなとなんとなく考えてしまうのは仕方がないと思う。

 

「んー、あーでももう最近見てないし……でも思い出だしな……」

 

悩ましげに言う梶本さん。ぽやぽやしている。こういう分野って給料は良いのだろうか。専門性が高いからAIに代替させるのは難しいと思うけど、そもそも職場が少ないだろうし。いやでもこのマンションの部屋も一人暮らしには十分だししっかり高そうだよな。食べてたのはカップ麺だけど。

 

「ファイルに整理してもいいですが」

 

「そこまでじゃないんだよ……」

 

難しい問題だ。たしかに僕だって捨てられないものはある。物理的なものじゃなくて電子的なものだけど。無駄に作ったワールドのかけらとか、撮影したビジョンショット、つまりは全周画像とか、そういうものがファイルの中に整理されない状態でいっぱいある。たまに見返すと面白いものがあるのだが、正直なところほとんどはゴミだと思う。でも捨てられない。

 

「それで、これは何なんですか?」

 

横からずいっと入ってきたアキさんが方程式の部分を見せて言う。この通話は僕が持ってきた3DカメラとアキさんのノートパソコンとかでXR通信環境を整えてやっている。もちろんXR端末だけでも似たようなことはできるけど、ああいうのは部屋の様子を共有するには向いていなかったりするので調整が必要なのだ。

 

「ZND理論、って言えばわかる?」

 

首を振るアキさん。知らないんだ。

 

「原子爆弾の爆縮過程で使われた物理学モデルだよ」

 

「ああ、なるほど」

 

一体アキさんが何を納得したのかわからなかったので、一旦説明を求めるべく僕は手を挙げる。

 

「それがなんでここに書かれているんですか?」

 

「Alternate Reality Game、交錯現実ゲームって知ってるかい?」

 

梶本はあくまで質問をこちらに投げかけてくるだけだ。ちょっと腹が立つな。それでもこういうやり取りが必要なのだろう、と僕は頭を切り替える。

 

「物理世界と仮想世界をまたぐゲーム、というやつですか?」

 

一応僕が一番詳しいのかな、三人の中だと。残り二人はわかっていなさそうなので説明をするか。

 

「謎解きとか宝探しとか、そういうのを色々な情報を組み合わせながらやるある種のゲームだよ。SNSでヒントが出たり、実際の場所に行って何かを見つけたり」

 

「そうそう」

 

梶本さんが肯定してくれる。話しやすいな。

 

「今は広告とか懸賞パズルとか、そういう方面であるけど例えば政治的なものとか、犯罪絡みとか、宗教関連とかもあるし……マイナーな遊びではあると思う」

 

「そう。そのメモはええと、2045年だから三年ほど前にあった交差現実ゲームのときのメモだよ」

 

「原子爆弾の構成要素がですか?」

 

「まあね」

 

アキさんの質問に、XR端末越しに見える梶本さんはちょっと自慢げに返す。いやその、爆弾テロでもするつもりですか?個人で原子爆弾を作れたという話は知らないから難しいのだろうけど。

 

「ええと、あれってまだできるのかな……」

 

そう言って梶本さんはキーボードを叩いて何かを調べているようだ。こういうときにXR連携を前提としていないシステムだと共有が大変なんですよね。しかし三次元空間で動くアプリケーションの開発は大変だし実際のところそこまでの性能とか体験が必要ないことも多い。

 

「あ、できるっぽいね。直接どこかに行くとかのクエストについては調整されて完全オンラインで遊べるバージョンもあるのか、なるほど……」

 

梶本さんの目が、さっきまでの酔っていてダメそうなものから切り替わる。光が宿るというか、なにかに集中したときのような感じ。すこしだけ背筋が冷える。捕食者に狙われている感じ。狙われているのは僕たちじゃなくて問題なんだけど。

 

「思想的にはあれだけど、面白かったよ。でもみんな大学生でしょ?」

 

僕たちは顔を見合わせて頷く。

 

「大学生三人はちょっと辛いかな……」

 

「梶本さんのときはどれぐらいでやったんですか?」

 

そう聞くのはユミナさん。

 

「えーとね、百人ぐらい?」

 

「暇な人がいっぱいいたのね」

 

アキさんがぼそっと言う。いやその、梶本さんも参加していたわけだろうし。でも三年前となるとこの人も大学生とかだったのかな。今の年齢とかがわからない。ユミナさんに聞いてみるか。

 

「ねぇ、この人って今いくつだかわかる?」

 

「わかんない」

 

「そっかぁ」

 

なるほど。ちなみに画面の向こうでは梶本さんがちょっとうつらうつらしている状態だった。

 

「でも、最近大学院を卒業して就職したらしいよ」

 

「ああ、それですぐに転勤を……。あれ、じゃあ僕たちの先輩?」

 

「違うらしい。ここから都心に通ってたんだって」

 

「大変だね……」

 

ユミナさんもこの梶本さんという人についてはよくわかっていないらしい。とはいえそういうのは僕にとっては別におかしなことではない。だって相手の本名はおろか性別も人間かどうかさえもいいかげんな状態でも友情とかを作るのはできますからね。

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