セミダイブ!   作:小沼高希

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Who stole the fire? 3

「さてと」

 

作業用に整備されている個人用ワールドに入る。ここは一人でレポートとかをしたい時に入る場所だ。気をそらすようなものがなく、色々な情報を整理したりするのに向いている。なによりブラウザをいっぱい開いても重くならない。そういう作業のために配慮された設計がされているのだ。

 

基本的には無機質の、コンクリートでできた部屋みたいな感じ。窓は天井の近くについている。この場所では身体を動かして作業したいので今は寝ている状態ではなく、立ってVR端末をつけている。手の触覚(ハプト)デバイスはXR端末のカメラと連携させて高精度モードに切り替え済み。

 

眼の前にある箱は、交錯現実ゲームのための情報パッケージだ。このゲームの作成者はなんとも親切なことに、プレイ期間終了後でも体験できるようにしてくれていたのだ。リアルタイムでやれたらそれはそれは楽しいのだろうけれども、こういう心遣いは結構嬉しい。

 

箱、というのも実はあまり適切ではない。ゲームに必要なデータは、ほとんどが古典的な方法で整理されていた。たぶん幅広いプレイヤーに遊んでほしいからだろう。なんなら、たぶん20年前のパソコンでも扱えるはずだ。それをイメージしやすいように自動で処理して箱に詰めている、というわけである。人工知能がユーモアを持つ時代に生きていて本当に良かった。

 

「最初のパズルがこれね……」

 

シンプルな地図に点として表示されたいくつかの場所。カリブ海の島、モスクワの赤の広場、あとはフランスとかイギリスとか中国とか中東とか。拡大すると粗くなるので、ただの画像ファイルだとわかる。

 

そして同時に表示されるのが文字の入力画面。少し分析させてみると、これを解けば次のステップの情報をまとめている暗号化処理が解けるようになっているそうだ。暗号形式は聞き慣れないものだったが、調べてみると相当強い特別なやつらしい。計算量が少し多いので一般的には使われないが、ちょっとやそっとでは不正に解けないということのようで。

 

「普通に考えたら地図にあるのは核保有国とかだろうけど、じゃあなんでこんな場所に……?」

 

地図を拡大し、カリブ海の島を拡大する。別ウィンドウで表示させた地図と比較すると、そこがアメリカ領ヴァージン諸島のセント・ジョン島だということがわかる。この場所は観光で有名らしい。それぐらいしか無いのかもしれない。

 

少し検索をしていく。核実験とかかな。百年前の第二次世界大戦について、わたしは正直そこまで詳しいとは言えない。そりゃ日本とアメリカが戦争したこととか、その結果核爆弾が落とされたとか、そのくらいの知識はありますよ。

 

だからといって、たとえばヨーロッパの方ではどうだったのとか、そういう知識はかなり怪しい。ドイツが独裁政権で、ロシアが共産主義で、とかそんな感じ。

 

そしてこのパズルにかなりしっかり取り組んで、百近いようなタブを広げて、解けないと諦めました。はい。核実験が昔は太平洋のあたりで行われていたらしいとはわかったのですが、それでもカリブ海との関連がわかりませんでした。キューバ危機という世界史で聴いたことあるような事件と関連があるかとも思ったけど、島の場所が一致しないのでダメだ。

 

核爆弾というヒントがあってこれなので、最初の人は一体どうやって始めたのかすらわからない。ちょっとズルをして検索システムのリミッターを外してみる。サブスクリプションを起動。一時間以内なら百円程度で検索がターボモードになる。個人で使う分には十分な速度だ。

 

一般的に、検索システムは人間が処理できるように調整されたものを出してくる。ただ、その検索対象に含まれるデータは様々で、例えば膨大な統計上のものだったり、あるいは一つ一つが意味をなさないようなものだったりと言ったものも含まれる。そういうものはあまり検索結果として出てこない。

 

ただ、その制限を外すことはできる。人間の思考を先行するように、膨大な情報を芋づる式に探っていくようにすれば、そういったデータも有効活用できる。検索結果として出てきた100のサイトから新しいワードを選んでまた再検索して、そこから10000の文献を集めて概要を整理、なんていうのを人間がやれば下手すれば年単位の時間が必要だ。一方でそのために開発されたシステムであれば数分でやってのける。結局は人間が最終確認をする必要がある以上、責任を取らなくちゃいけないような調査や分析には使えないが。

 

そして見つけてしまいました。ええ。SNS上で行われていたこのゲームについての考察のログです。なんていうか、ちょっと興ざめになってしまった。ロシア語だったけど、翻訳システムのお陰で一瞬で変換される。でも微妙なジョークとかミームまでは訳せないので、外国語を学ぶというのは非常に重要なことだ。とはいえわたしだって英語と中国語がちょっとわかるぐらいだけど。大学では言語といえばプログラミング言語ですしね。

 

「イーゴリ・ヴァシリエヴィチ・クルチャトフ……」

 

今のロシアの前身の前身、ソビエト連邦時代の物理学者。核開発の第一人者。その埋葬地にこのゲームへの招待状の一つが置かれていたらしい。そういう投稿がされた日付は2045年7月16日。

 

同様の報告がアメリカ領ヴァージン諸島からもあがってきていた。これはジュリアス・ロバート・オッペンハイマーの遺灰が撒かれた地。この人もまた、アメリカ合衆国の原子爆弾開発計画の第一人者だ。それ以外の場所も、核開発関連の研究者の墓地だった。

 

「なるほど……」

 

少し気になったので調べてみる。投稿のちょうど100年前、1945年7月16日。調べたらすぐに出た。アメリカ合衆国ニューメキシコ州。世界最初の核爆弾が起爆された日だった。

 

改めて、文字の入力画面を見る。入るのは六文字の大文字アルファベット。ヒントになっているのは「The Name」、つまりは名前ということだ。

 

わたしの視界を読み取った検索システムが、自動的に候補を出してくる。GADGET。人類が最初に手に入れた原子爆弾につけられた、さえないコードネームだった。

 

決定ボタンを押すと、箱が一気に膨れ上がる。内部データの解凍が済み、かなり色々なデータが出てきていることをワールドの管理画面が示していた。

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